近鉄、日本ハム、楽天で監督を務めた梨田昌孝氏(67=日刊スポーツ評論家)が29日、新型コロナウイルス感染から1年が経過した心境を明かした。


昨年3月31日に緊急入院し、5月20日に退院。50日間に及んだ闘病生活から完全復調した同氏は、観客動員の段階的緩和、巨人が提案するセ・リーグの「DH制」導入案に賛同するなど改革案を示した。【取材・構成=寺尾博和編集委員】


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寺尾 新型コロナウイルス感染から1年が経過しました。


梨田氏 昨年は入院していたので桜をめでることができなかったが、今年はつぼみから花が咲くまで見ることができました。大相撲春場所、サッカー日本代表戦が行われ、センバツ、プロ野球も開幕した。続々イベント中止だった1年前を思うと、少しずつ前に進んでるのかなとは思います。


寺尾 退院後は「内閣官房コロナ対策サポーター」として注意喚起に務めてきた。現在の体調は? 


梨田氏 おかげですっかり元気です。ゴルフもするし、バイクをこいで、腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワット、バーベルをもって歩行トレーニングもします。でも緊急事態宣言の全面解除後のニュースで各地の人出をみると「わーっ、密だ!」と感じます。春に新芽が出るのと一緒で気持ちが緩むんでしょうね。ちょっと心配です。


寺尾 昨年は37・5度の発熱は4日間の自宅待機が求められたが、今はすぐ検査です。当時は専門家も実態をつかめていなかった。


梨田氏 37度を超えても我慢していたら、急に容体が急変した。早くPCR検査を受けていたら軽くて済んだのかもしれない。今は4日間我慢しろと言われたら死ねと言われるようなもの。九死に一生を得た。今も大変な医療従事者には本当に感謝です。


寺尾 変異株の出現で「第4波」に突入したとの見方が強い。PCR検査もゼロリスクではありません。


梨田氏 でも現状の対応は頻繁にPCR検査を受けるしかない。検査キットは唾液より鼻からのほうが精度が高いようです。コロナのカスをほじくり出すのか、鼻から目に届くのではと思うほどつらい。陰性、陽性、陰性、陽性、陽性、陽性、陰性、陰性と2回続けて陰性判定が出たときはほっとしました。またリハビリ開始のタイミングも大切で、何日か遅れたらここまで筋力回復していなかったかもしれません。


寺尾 変異株は重症化の可能性が指摘され、実際リバウンドが起きている。退院基準も症状の有無で区別され、いろいろな対応が変わってきた。でもワクチンの接種実績をみると収束に効果が出るのは先のように感じますね。


梨田氏 コロナの新種が出てくると簡単に収束しない。今はいたちごっこのような感じです。自分は抗体を持っていてもワクチンを打つのか打たなくていいのか何も言われていません。知り合いの医者に聞いたら必要ないのではと言われたりもする。このへんもちゃんと教えてほしいです。


寺尾 今年2月は沖縄、宮崎キャンプ取材も不自由でした。


梨田氏 現地入りする前、滞在中もPCR検査を義務づけられ、グラウンドをはじめ立ち入り禁止区域ができていた。その状況でも原監督は「そのためのPCR検査ですから」と間近で取材に応じたのはさすがと思いましたね。栗山監督も同じです。


寺尾 選手もストレスを感じていたと思います。


梨田氏 宿舎では知り合いの焼き肉屋さんに来てもらって焼き肉パーティーをしている雰囲気をだすなど工夫した球団もあったようです。Vパレード、握手会、サイン会などファンサービス、名産品のPR、グッズ販売も中止で経済効果にも大きく響きました。


寺尾 各球団が置かれた状況、立場によって取材ルールもまちまちでした。


梨田氏 ここはNPBがルールを統一すべきだと思いました。キャンプで感染者が出なかったのは各球団の努力の成果でしょう。


寺尾 昨年は3カ月遅れの無観客で開幕したが、今季も入場制限が続きます。


梨田氏 昨年を思えば1万人超でもありがたい。でも「試合数」「期間」などでラインを決めて徐々に緩和していくべきです。感染者ゼロが何試合続けば何万人まで入場者を拡大するとかね。太鼓、トランペットの鳴り物で一体感のある応援が懐かしい。あれで選手も高揚するのに、音響でやってるのとはちょっと感じ方が違うでしょうね。


寺尾 コロナ禍に巨人が「DH制」の導入案を提唱しています。


梨田氏 大賛成です。パ・リーグとセ・リーグの実力差は「DH」の有無が間違いなく大きい。パ・リーグ出身だからよく分かるんです。セ・リーグの投手は早い回に失点すると途中で代打を出され、チャンスがなくなった末に落とされる。パ・リーグは立ち直りをみせると、もう1、2回投げられる。経験を積むから伸びるんです。


寺尾 コロナで投手の負担軽減、外国人の来日遅れによる戦力均衡化、レベルアップを導入の理由としてますが。


梨田氏 セ・リーグの伝統とかプライドがあるのかもしれないが、コロナ禍であってもなくてもやってみたらいいと思います。投げた後にすぐ打席立たなあかんとかあって負担がかかります。特に若い投手が育って、打者も含めて全体的レベルアップにつながっていくでしょう。


寺尾 また今季は延長なしの「9回打ち切り」が採用されています。


梨田氏 楽天監督のときは東日本大震災で「3時間半ルール」を経験してますが、考える時間が短いのは楽だと思うね。延長12回はなかなか逆算できないものです。どこも仕掛けが早くなってくるはずです。


寺尾 野球を伝えるメディアも読者、視聴者に伝える難しさがあります。


梨田氏 それぞれが野球に興味を持ってもらう努力を怠ると人気は低下するでしょう。報道するほうも取材制限が解除されたら、ぜひ勝負の裏にある野球の奥深さ、本質を取材してもらって、ファンに伝えてほしいですね。


寺尾 コロナ禍が長期化すると赤字球団も出てくる。野球人気の低迷を食い止めたいものです。


梨田氏 このままだと球場への出足は鈍るでしょうね。コロナだけが原因ではないと思うが、テレビ、ネットで見て終わりという風潮に流れるのは怖い。クラスターは避けたいし、1人1人の自覚も大事になってきます。みんなで知恵を絞って、支え合いながら生き残っていかないと。中身の濃い、奥深い、面白いプロ野球であってほしいです。


 


◆梨田氏の新型コロナウイルス感染後の経過


20年3月25日 倦怠(けんたい)感で自宅静養


28日 発熱


30日 呼吸困難 病院を受診


31日 別の病院を診察 重度の肺炎 そのまま大阪府内の病院に搬送されて入院 PCR検査


4月1日 陽性反応 集中治療室(ICU)入り


14日 人工呼吸器外れる


17日 一般病棟へ リハビリ開始


5月6日 PCR検査で2度の陰性判定も不整脈の症状が出て治療


20日 退院


6月11日 2度目の精密検査で完全回復の診断 外出許可


10月4日 オリックス-楽天18回戦(京セラドーム大阪)のNHK解説で社会復帰


21年2月 沖縄、宮崎キャンプ取材