元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。23回目は「クライマックスシリーズ(CS)について考える(上)~CS導入は是か非か~」です。



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 CSの時期になると必ず浮上するのが、CSは必要か、否かという議論だ。


 広島は今季25年ぶりのリーグ制覇となったが、万が一、CSファイナルステージで敗退した場合、当然日本シリーズには出場できずCSの是非を問う問題が浮上する。選手、ファンの目線で言えば、1年間、死力を尽くして勝ち取ったリーグ優勝なのに…と、CS制度に怒りをぶつけたくなる気持ちは分からないでもない。


 ただ個人的に言うと、消化試合減少による経済効果、野球の持つ真剣勝負の醍醐味(だいごみ)を最後まで味わえることなど、CSはある程度成功していると思う。


 CSがある場合とない場合、野球界でのメリット、デメリットを考えてみた。


【CSのない場合】


 ◆メリット リーグ優勝したチームはそのまま日本シリーズへ進出できる。


 ◆デメリット 消化試合が多くなる。消化試合はメディアが取り上げない。


 広島は9月10日にリーグ優勝を決めたが、それ以降、広島よりCS報道にメディアの注目が移った。CSなしならペナントの4分の1ほどが消化試合になってもおかしくない。


【CSのある場合】


 ◆メリット 消化試合が少なくなる。今季のセで言えばDeNA、阪神、ヤクルトの3位争いから始まり、巨人、DeNAの2位争いはシーズン終盤まで目が離せなかった。メディアの露出が増える。


 ◆デメリット リーグ優勝したチームが日本シリーズに出場できないケースがある。


 CSは今年でちょうど10回目。成り立ちを振り返ると、日本野球機構(NPB)が07年からセ、パで導入したポストシーズン。04年から3年間、パでリーグ優勝決定後の消化試合を減らすために上位3球団のプレーオフを実施したところ成功、セ・リーグでも導入となった。


 私はCS導入前と導入後のいずれも体験した。Bクラス時代のロッテは8月ごろから消化試合だった。


 もしCSがなかった場合、今季CS進出が厳しい状況にあったパの西武、楽天、オリックス、セの阪神、ヤクルト、中日は8月ごろから消化試合となっていただろう。


 Bクラスがほぼ決まってしまえば、本音の部分で、選手はチームが勝つために試合をしない。進塁打など打率が下がる打撃はしない。自分の成績を上げるためにプレーをする。


 そんな目を覆いたくなる出来事が過去にあった。


 82年、打率2位で猛追する中日田尾が3割5分1毛、首位打者の大洋長崎は3割5分1厘と両者はわずか9毛差だった。大洋は中日との直接対決で、田尾を5打席連続敬遠。長崎は首位打者を獲得したが消化試合で物議をかもした。


 98年のシーズン終盤、西武松井稼とロッテ小坂の盗塁王争いが激化。すでに西武のリーグ優勝、ロッテ最下位が決まっており、消化試合だった。ここで小坂に盗塁のチャンスが出た際、盗塁させないため西武の投手は一塁けん制で悪送球。小坂は盗塁機会を失うため一塁に止まっていたが、今度は同投手がボークを犯して小坂を二塁へいかせた。けん制悪送球とボークを犯した西武の行為と悪送球で二塁へ走らなかった小坂に批判の目が向けられた。


 真剣勝負では考えられない行為はいずれも消化試合だった。タイトルしか目標がなく、ファン度外視のプレーだった。


 また、チームは来季の編成を見据えて若手に実戦の場を与えるケースも増える。人気選手が出場しない試合を見てファンは楽しいものかと考えてしまう。


 かつてパ・リーグが73~82年に前期、後期、プレーオフで争っていた時代をどう見るのか。前期1位のチームが後期は1位が厳しくなってプレーオフに備え6位。ファン不在の行為ではないのだろうか。今季のCSは最後の最後まで真剣勝負で野球の面白さをファンは味わったはずだ。


 消化試合の弊害は、メディアの露出が減るなど球団にとってはいいことはない。スポンサー収入が下がる→放映権料が下がる→球場に足を運ぶファンも減る→チケット収入、グッズ収入もダウン、といったデフレスパイラルに陥る。


 DeNAは好例だった。CS3位争いでカウントダウン企画Tシャツを発売、その後、2位争いから番長の引退グッズまで。最後の最後まで商魂もたくましかった。こういった取り組みは、オーナー企業としても球団保有のメリットが出てくるのではないかと思う。CSがなければ、消化試合の経費がかさむばかりだった。


 リーグ優勝したチームが日本シリーズに出場できないデメリットを差し引いても、CSはプロ野球を成り立たせている好材料となっている可能性は大きい。


 広島の優勝が少し早かった? おかげで個人的にもメディア関係の仕事が3本減るという想定外の出来事もあった。消化試合はメディアが取り上げないということを体感した。引退後、野球に関わる選手にとってはセカンドキャリアにも影響が出ると思う。


 消化試合が増えて球団経営に悪影響が出ると04年に起きた球界再編の呼び水ともなりうる。


 再編問題に端を発し、球団経営にプラスの一手が、CS導入となったのではという気もする。再編騒動がまた起きてからでは遅い。


 リオ五輪でメダル獲得のバドミントン、競泳なども人気が出た。テニス、サッカー、Bリーグなどスポーツを楽しむ人の選択肢も広がっており、将来に向けて野球人気を、今よりさらに上げていくにはメディアに継続的に取り上げてもらう努力も必要だ。


 もしも私が今後チームに携わり、シーズン1位でCS敗退の憂き目にあうことがあっても、文句を言うことはない。


 野球人気あってのプロ野球。球団あってこそのプロ野球。野球界を盛り上げていく方法を絶えず模索していかねばならないと思う。


 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。


(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)