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ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第八章 バグロムの攻撃

 大神官ミーズ・ミシュタルの熱心な勧めで大神殿に一泊した真、藤沢、アレーレの三人は、翌日、名残惜しげなミーズに別れを告げた。
「ぜひ、またいらしてくださいね。ここの暮らしときたら、本当に退屈で、お客様は大歓迎ですわ」
 ミーズは藤沢の手を固く握って言った。
(大神官が、そんな事言ってええのかな?)
 真は心の中で思ったが、ミーズの心は藤沢に集中していて、その考えが読まれることは無かったようだ。

「藤沢先生。ミーズさん、先生に相当気があったみたいやけど、あのままでええの?」
 神殿を振り返りながら、真が言った。
「な、何を言ってる。あの方は、我々を客としてもてなしただけだ」
「鈍いなあ、藤沢様って。女からあんな目で見られて、まだ気がつかないんですか?」
 アレーレも真に援軍を送る。
「い、いや、しかし、あの方は大神官という大事な仕事があるし、俺は早く元の世界に戻らないと、学校を首になっちまうかもしれないし、これは最初から無理な話だよ」
「ああん、もう、煮え切らないなあ」
「とにかく、俺は結婚なんて考えられないんだよ。結婚なんてしたら、休みごとに山に行くこともできんしな」
 山登りは、藤沢の一番の楽しみであり、結婚生活と山登りは確かに両立は難しそうだ。彼が女に積極的でない一番の理由はそこにあった。
「あっ」
 突然、アレーレが言って立ち止まった。
「バグロムの声がする」
「何っ?」
「神殿の方向だわ」
 三人は神殿の方を振り返った。
 確かに、耳を澄ますと、ざわざわという音が遠くから聞こえてくる。
「ミーズさんたちが危ない!」
 三人は神殿に向かって駆け出したが、中でも藤沢のスピードは異常に速く、他の二人をあっというまに置いてけぼりにした。
「すごい速さ。愛の力かしら」
「前に言ったやろ。あれが藤沢先生の本当の力なんや。でも、この前は何で駄目やったんやろ」
 神殿に到着した藤沢が見たのは、百匹近いバグロムの群れであった。
「さあ、者どもかかれい! まずはこの水の神殿を血祭りにあげ、それから首都ロシュタルへ侵攻するのだ」
 神殿のバルコニーからバグロムたちに命令を下している学生服姿の男に藤沢は見覚えがあった。
「じ、陣内! お前、何をしているのだ」
「おや? 誰かと思えば、藤沢ではないか。今の私は陣内などと呼び捨てにできる人間ではない! 恐れ多くも、バグロム軍司令官、陣内克彦である。おい、お前たち、かまわんからあいつもやっつけてしまえ」
「藤沢様、助けにいらしてくださったんですね」
 陣内の後ろで、バグロムの一人に捕まっているのは、ミーズ・ミシュタルである。藤沢を見て嬉しそうな声を上げている。
「あっ、ミーズさん! おいっ、陣内、お前ミーズさんになんてことをするんだ」
「ミーズ? このおばさんのことか?」
「お、おばさんですってえ?」
ミーズの形相が変わった。
「私は、まだ二十八よ。それを、おばさん呼ばわりするとは、許せない!」
「ふん、おばさんをおばさんと呼んで何が悪い」
 ミーズは、怒りの顔で、何やら呪文を唱え始めた。
 その間に、藤沢は近くのバグロムたちと戦いながら、ミーズを救うためにバルコニーに駆け上ってきていた。
「ミーズさん、助けにきました!」
 その瞬間、神殿を取り巻く湖の水が竜巻に吸い上げられたように盛り上がり、バルコニー目掛けて襲ってきた。
「うわーっ! な、何だ、こりゃあ」
 陣内も藤沢も、二階にいたバグロムたちも、その水に飲み込まれ、流された。
 やっとのことで神殿の傍まできていた真とアレーレは、その光景を眺めるだけである。
「凄いなあ、あれが大神官の魔法か」
「ミーズ様は、特に水の魔法がお得意なのよ」
「でも、先生まで流してしもうたな」
「まあ、いいんじゃないですか。あとで拾えば」
 真とアレーレは、水に流されたバグロムたちの間から藤沢を見つけて助け出した。
「お、覚えておれよ。今はひとまず退却するが、この仕返しは必ずしてやるからな!」
 陣内の声に、真は驚いて振り返った。
「陣内君! やっぱり君もここに来ておったんか」
「お、お前は、我が永遠のライバル水原真。そうか、お前はまたしても私の邪魔をするためにここに現れたんだな」
「何を馬鹿なこと言うてるんや。陣内君、バグロムと友達になったんか。前から変な奴やと思っとったけど、虫の仲間になろうとは思わなかったな」
「仲間ではない。私はバグロム軍の司令官だ。いいか、真、我がバグロムは、必ずやお前たちを我々の足元にひれ伏させてみせる。それまで楽しみに待っているがいい。さらばだ」
 陣内の退却の合図に、バグロムたちは一斉に引き上げた。

「ミ、ミーズさん……」
ミーズの魔法の水に溺れた藤沢が気がつくと、目の前にはミーズの顔があった。
「気がつかれましたのね。ミーズ、感激ですわ。私のために藤沢様が戦ってくださるなんて」
「い、いやあ、ところで、私はどうしたんでしょう。何か知らんが、水に巻かれて気を失ったような」
「いいえ、藤沢様は私を助けてくださったんですわ。まるで、白馬に乗った王子様みたいでした」
 傍で聞いていた真とアレーレは顔を見合わせた。どこをどう見たら、この、顎に無精ひげを生やしたむさくるしい三十男が白馬の王子様に見えるのだ?
「ともかく、ミーズさんが御無事でよかった」
「先生、それより、陣内がバグロムの仲間になってましたよ」
「そうだったな。あいつは昔から変だったが、とうとう非行の道に入ったか」
「こういうのも非行と言うんですか?」
「これも、教育者である俺の責任だ。何とかしてあいつを真人間に返してやらなければな」
「まあ、さすがは教育者、素晴らしいですわ」
 ミーズが胸の前で手を組み合わせて感嘆する。
(そうかなあ。僕には陣内はまともにならんような気がするんやけど)
 真は心の中でそう考えるのであった。

第九章 最終兵器

「しかし、水原真がこの世界に来ていたとは……。まあいい、あいつを叩き潰すことが、この私が世界の支配者になる第一歩と考えていたのだから、ちょうど良い」
 バグロムの要塞に戻った陣内は、部屋に籠もって次の作戦を考えていた。
「陣内殿、良いかな」
 部屋の戸を開けて入って来たのはディーバである。この女の運動量は、部屋から部屋へと行く程度しかない。後は一日中お茶を飲み、化粧をし、菓子や飯を食っているだけである。しかし、権力欲だけはどこの王族の人間にも負けない。いったい、世界を征服して、何がしたいのか疑問だが、虫には虫なりの理由というか、本能でもあるのだろう。
「何だ、ディーバ」
「水の神殿を破壊する計画は失敗に終わったそうだな」
「うむ、まさか、大神官にあれほどの力があるとは知らなかった。お前が悪いんだぞ。何で、その事を教えてくれなかった」
「いや、陣内殿なら、人間の事は良く知っているかと思ったのだ」
「私は異世界から来た人間だ。いかに私が天才的な頭脳を持っていても、敵の力を知らないでは戦えん。敵を知り、己を知れば百戦百勝する、と孫子も言っておる」
「おお、素晴らしい言葉だ。しかし、知るだけでどうして戦に勝つのだ?」
「馬鹿な事を。知った上で、それを利用するのだ。たとえば、私の世界には原子爆弾という強力な武器があってな、それを独占している国が他の国を脅して支配しているのだ。つまり、お互いについての知識だけでも支配できるのだ。ここには、そんな武器はないのか」
「あるぞ。確か、人間が自由に操れる、イフリータという大魔人がいる。その力は、世界のすべてを滅ぼすこともできるくらいのものだという」
「おお、それこそ私のために作られた武器だ。それほどの武器を手にすれば、言うことを聞かない者などいないはずだ。待ってろよ、水原真、今にそのイフリータを手に入れてお前を私の前に膝まづかせてやる。キャーッハッハッハッ!」
 自信を取り戻した陣内は頭のてっぺんから出るような高笑いを上げた。

第十章 ナナミの野望

 真たちがロシュタル宮殿に戻った同じ頃、陣内ナナミは旅のキャラバンと別れて、ロシュタリアの首都ロシュタルに着いていた。結局、旅の間に稼いだ金は、その間の食事代と相殺されてわずかしか残らなかったが、それでも1万ロシュタル、日本の1万円くらいはあった。
「たとえ僅かなお金でも、これを元手にして稼いでみせるわ。そうよ、この商売の天才、ナナミにできないことはない!」
 自信とバイタリティに溢れたところは、兄にも似たところがあるが、この兄妹は非常に仲が悪く、ナナミは兄をこの世の誰よりも軽蔑していたのである。
「さあて、何をしようかな。商売のコツは、右の物を左に移すこと。地球にあって、このエル・ハザードに欠けているものは? テレビ、映画、新聞、雑誌、ゲーム、……。いろいろあるけど、私がそれを作るわけにもいかないし。まずは地道に行こう。やっぱり、人間、食べるのが最優先よね。エル・ハザードの食事はどうも薄味すぎてあんまりおいしくないから、このナナミ特製の弁当を作れば、きっとうけるはずだわ」
 幸い、エル・ハザードの野菜や穀物の中には、地球のトマトやタマネギや小麦に似たものがあったので、ナナミはそれを利用して、まずはケチャップを作り、それから、さらに工夫してピザソースを作った。
「これで、ピザ屋が開けるわ。見ていなさい。この世界の人が食べたことの無い、おいしいピザを作ってみせるからね。なにせ、ケチャップもマヨネーズも知らない連中だもん、あまりのおいしさに目を回すはずよ。おーっほっほっほっ」
 笑い方の似ているところはやはり兄妹である。

「アフラさん、シェーラ・シェーラさんを見ませんでしたか?」
真は、宮殿の廊下で幕僚長のアフラ・マーンを見て声を掛けた。
「さあ、見まへんなあ」
アフラ・マーンはロシュタリアの京都と言われる(誰が言うのだ?)イケーズの出身である。
「おおかた、町に買い食いにでも行ったんやろ。食い意地の張った子やからなあ」
「困った人やな。パトラ王女の捜索はどないなってます?」
「まだ、なんも分からしまへん。もしも幻影族が人間に化けていても、我々には見分けはつきまへんからなあ」
「僕、イフリータやら言う魔人の眠る、古代の遺跡を調べに行きたいんやけど、ルーン王女にそう言ったら、シェーラ・シェーラさんを連れていけ、言われまして」
「イフリータやて? やめとき。危険すぎますわ。その魔人が目覚めたら、世界が滅びると言われてますのに」
「ルーン王女は、ええ言うてました。もしかしたら、そこにパトラさんが隠されているかもしれん、言うて」
「パトラ王女が?」
 アフラ・マーンは考える顔になった。
「そうや、あそこは我々ロシュタリアの人間が近づかない場所や。ちと遠いが、王女を隠すなら絶好の場所やな。よろし、私も行きまひょ。兄さん方だけではこころもとないよってな」
 思いがけず、アフラ・マーンも同行することになったが、法力を持つという彼女の同行は、心強くもある。
 真、藤沢、アレーレ、アフラ・マーンの四人は、宮殿を出てロシュタルの街に入った。
 とある街角で、一軒の店の前に行列ができていた。
「あの行列は何やろ?」
 ロシュタリアでは珍しい光景に、真はアレーレに聞いてみた。
「ああ、新しくできたお店ですよ。何でも、すっごくおいしい、珍しい食べ物なんですって。ねえ、私たちも食べていきましょうよ」
「あかん、あかん、僕たちはそれどころやないやろ」
「あれ? あの赤い髪は」
 藤沢が行列の前のほうにいる人間の頭を見て言った。
「シェーラ・シェーラやね。やっぱり、こんな所におったんか。あの馬鹿娘!」
 アフラ・マーンが吐き捨てるように言う。
 つかつかと行列の前に行き、赤毛の娘の腕をつかむ。
「お、何だ。アフラ・マーンじゃねえか。お前も評判のここのピザを食べに来たのか?」
「ピザだか膝だか知りまへん。あんた、こんな事してる場合やおまへんやろ」
 さすがに、周りの人間をはばかって、パトラ王女の事は口にしない。
「あ、ああ。しかし、腹が減っては戦はできねえしよ」
「あんたは食い物の事しか頭にないんか。私らは真さんらと古代の遺跡の捜索に行くところや。あんたは来ないのどすか? 来ないならそれでもええけど」
「真が? いや、行くよ。しかし、もうすぐ俺の順番だから、ピザを買ってから……」
「あきまへん。来ないなら置いて行きますよってな」
「行くよ。行くったら。あーあ、せっかく今まで待ったのに……」
 とぼとぼと行列を離れてシェーラ・シェーラは真たちの所に来た。
「よっ。また旅に出るんだって? お前たちも忙しいなあ」
「シェーラさんも一緒に行きますか?」
「まあ、お前たちだけじゃあ心配だからな。このシェーラ・シェーラ様が来たからにはもう大丈夫。ハッハッハッ」
「何を偉そうに」
 と呟いたのはアフラ・マーーンである。
 こうして一行は、ロシュタルの町を離れて、バグロムの森のさらに彼方にある大山脈に眠る魔人の墓に向かったのであった。

第十一章 魔人イフリータ

 ロシュタルを離れて一週間、真たち一行は、ロシュタリアとバグロム帝国との境界にある大河を前にしていた。ここを越えれば、バグロムたちがいつ出てくるかも分からない大森林が広がっている。
「さあ、いよいよだな」
 シェーラ・シェーラが、高い崖の端から遠くの大森林を眺めて言った。
「バグロムたちと戦うのは久しぶりだ。ちきしょう、血が燃えるぜ!」
「シェーラ・シェーラさんは、バグロムたちに勝てるんですか?」
「あったりめえだろう。国王親衛隊長は伊達じゃねえぜ」
「でも、バグロムには普通の武器は通用しないと聞きましたけど」
「ある程度以上の力があれば、奴らの甲殻を貫くこともできるさ。それに、俺の剣は普通の剣じゃない。炎の法術を併用した、俺にしか使えない剣だ」
「良く言うわ。なまくらな法術しか使えないから、剣など使ってる人が」
「何だと!」
 アフラ・マーンの言葉に、シェーラが怒り出した。
「まあまあ、お二人とも、喧嘩せんと」
 真が二人をなだめる。
「とにかく、ここから先は危険が一杯というわけだ。気をつけんとな」
 藤沢が言う。
 しかし、大河を越えて森の中に入っても、バグロムたちは中々出てこなかった。
「どうしたんでしょうね、先生。バグロムたち出てけえへんけど」
「産卵期とか、冬眠期とか、そんな時期かな」
 大森林の中を進むのは大変な作業だったが、それでも、それからさらに一週間ほど進むと、北の果ての大山脈の麓に着いた。短い時間なら、風の法術を得意とするアフラ・マーンは飛翔の術が使えたが、他に三人の連れがいては、自分一人飛んでいくわけにもいかず、歩いて森の中を横断したので、それだけの時間がかかったのである。
「普通の人間が連れだと、手間がかかるわ。もっとも、法術士のくせに飛翔の術も使えない落ちこぼれよりはましやけど」
「何だと、アフラ・マーン、今の言葉だけは聞き捨てならねえ。お前とは、いつか決着をつけようと思っていたんだ。やるか!」
 シェーラ・シェーラがぱっと飛びすさり、戦いのポーズをした。
「あんた、私に勝てるなんて思うてるの? 神官学校でも一度も勝ったことがないくせに」
「てやんでえ。べらぼうめ。あの頃と今の俺とは違うんでえ」
 二人は真剣な顔で睨み合った。もはや、二人の衝突は必至という勢いである。
「二人とも、旅の疲れでいらいらしてるんですよねえ」
 アレーレが真に小さい声で言った。この子は調子が良すぎるところもあるが、他の二人に比べて我慢強く、献身的でもある。
「しかし、こんなとこで二人が戦ったら、どうなるんや?」
 シェーラ・シェーラが「ハァーッ!」と気合をかけると、その体の周りに炎のオーラが立ち上った。
 同じく、アフラ・マーンも「ハッ」と気合をかけ、周りに風を呼んだ。
「ヤーッ!」
 シェーラ・シェーラが手を振ると、その指先から炎が発せられ、その炎は生き物のようにアフラ・マーンに向かう。同時に、アフラ・マーンも相手に向かって腕を振った。
 アフラ・マーンの体を襲った炎は、アフラ・マーンの手刀で作られた真空で消し去られた。
「畜生!」
「やっぱり、あんたの技はこの程度やな。次はうちの番やで」
 アフラ・マーンの言葉に、シェーラ・シェーラは攻撃への防御の姿勢を取った。しかし、アフラ・マーンが攻撃をかける前に、異変が起こった。
「あっ、あれは何や!」
 空をさした真の指の先には、編隊飛行をする、百匹近い虫の姿があった。地上からは小さく見えるが、実際にはそれぞれが巨大な羽虫だろう。
「大変、バグロムですわ!」
 アレーレが叫んだ。
「はっはっはっ、真、最終兵器イフリータはこの私が貰うぞ」
 蜂型のバグロムの上に乗った陣内が、空中から真たちを見下ろして高笑いの声を上げた。
「まずい。あいつらにイフリータを手に入れられたらおしまいだ!」
「ここは休戦どすな」
 争っていた二人の女は、顔を見合わせて頷いた。
「早く、魔人の棺のある洞穴に急ぎましょう」
 真は叫んだ。
「よし、取りあえず、シェーラ・シェーラさんとアレーレは俺が連れて登る。真、お前はアフラ・マーンさんと一緒に山頂に飛べ!」
 藤沢の言葉に、真は頷いた。彼には、なぜか知らないが、自分こそが山頂に行かねばならないという確信があった。
「すみません、アフラ・マーンさん。僕を抱えて、山頂まで飛んでください」
「よろしゅうおす。私の背中にしっかりつかまっているんでっせ」
 真を背中にしがみつかせて、アフラ・マーンは空中に浮かんだ。
 こんな危急の折だが、若い女性の体に後ろからしがみついているというのは、まだ十七歳の真には刺激の強すぎる経験である。
「あんさん、変なこと考えてはいけまへんえ」
アフラ・マーンも、その気配を感じて、顔を赤らめて言った。
「す、すみません」
「あっ、腕を動かしてはいけまへん。そこは……」
「し、しかし、腕が痺れて」
精神の集中を失ったアフラ・マーンは、山頂を目の前にして墜落した。
 幸い、そこは頂上に近い尾根で、二人には怪我は無かったが、下の方から今しもバグロムに乗った陣内がこちらの方に向かう姿が見えた。
「いてて……。あっ、アフラさん、大丈夫ですか?」
「うちは大丈夫や。うちがあいつらを食い止めているさかい、あんさんは早くあの洞窟を探してみてや。イフリータは、最初に動かした人間を主人にすると言われていますさかいにな」
「分かりました。アフラさん、死なんといてや」
「いいから、早く!」
アフラ・マーンは、呪文を唱えて、竜巻を巻き起こした。空中のバグロムたちは、その竜巻のために、地上に降りられずにいる。
真は元陸上部のダッシュ力で、洞窟に向かった。
洞窟の中には、入ってすぐに金属の扉があった。分厚く、重そうな金属で、普通の力では動かせそうにない。
しかし、その扉の中央の青い石に真が手を触れると、その扉はかすかな音を立てて、自分から開いたのである。
十メートルほどの間隔でもう一つの扉があったが、そこも同じである。
「なんや。これやったら、扉の役目を果たさんがな」
 不思議に思いながら、真は目の前に開けた部屋の中に入って行った。
 その部屋は、周り全体が奇妙な機械で埋め尽くされていた。そして、部屋の中央には、ガラスともクリスタルともつかない透明な棺に入った人体らしきものの姿があった。
 青い光を放っているその棺の前に進み出た真は、思わず息を呑んだ。
「こ、これがイフリータやて?」
 そこに眠るように横たわっていたのは、エル・ハザードに真が来る直前に夜の学校で出会った、あの不思議な、絶世の美女であった。
「これが、世界を滅ぼす大魔人イフリータ? まさか」
 真は、とにかく棺を開けようと思って、棺の周りを探した。
 棺の傍に大きな金属の杖、いや、鍵のようなものがあった。
 真がそれに手を触れると、棺を覆っていた透明の蓋が開き、同時に、眠れる女性は、目を閉じたまま、上体を起こした。
「イフリータ? 君がイフリータなんやろ? 目を覚ましてや」
 しかし、彼女は目を開けない。
 その時、真の後ろから、聞きなれた甲高い声がした。
「水原真。またしても私を出し抜こうとしたな。しかし、無駄なことだ。私がここに来たからにはお前の好きなようにはさせん」
 陣内の合図で、バグロムの一人(一匹か?)が真を捕らえ、体の自由を奪った。
「よせ、陣内、イフリータに手を出すな!」
「黙れ、お前だってこれを動かそうとしていたくせに。お前もやはり私同様、世界を支配する野望を持っていたのだな? しかし、こいつを動かすにはどうする。おお、そうか、お前が手にしている、その棒が鍵だな」
 陣内は真の持っていた棒を奪い取った。
「はて、これをどうするのか……。おお、そうか、これはきっとゼンマイで動くに違いない。これがゼンマイを動かす鍵だな」
「ゼンマイやて? まさか、そんな原始的な」
 しかし、陣内がイフリータの後ろに回り、その背中に見つけた穴に棒をさしこんで回すと、イフリータの体に生命が甦り、彼女は目を開いたのであった。
「見ろ、真、天才の発想は凡人には分からぬものよ」
 勝ち誇った陣内は高笑いの声を上げた。
 イフリータの体は完全に生命を取り戻した。しかし、その表情は、真が覚えている、あの優しい、愛情に満ちた表情ではなく、むしろ恐ろしいまでに冷酷な表情だった。
「お前が私を動かしたのだな?」
 表情と同様に冷たい声で、イフリータは陣内に顔を向けて言った。
「そうだ」
「では、あなたが私の主人だ」
「そうか、そうか。では、イフリータ、まずお前の力を見せてみろ」
「命令が具体的でない。何をすれば良い」
「お前は何ができる」
「お望みなら、何でも」
「よし、それでは空は飛べるか」
「簡単なことだ」
「では、私を乗せて洞窟の外に出ろ」
「了解」
 イフリータは、陣内を抱えてふわりと空中に浮き、滑るようななめらかな飛行で洞窟の外まで飛んだ。
 バグロムたちはその後を追い、真もその一匹の小脇に抱えられて外に出た。
 真が洞窟の外に出ると、そこでは丁度、アフラ・マーンが、やっとここまで登ってきた藤沢やシェーラ・シェーラの助太刀で、外にいたバグロムたちを全滅させたところだった。
「あっ、真」
 シェーラ・シェーラが真を見て声を上げた。アレーレも叫んだ。
「大変よ。今、男の人を抱えた女の人が飛んで行ったけど、もしかして、あれがイフリータ? 」
「そうや。あれを逃がしたら大変や」
 バグロムに捕まったまま、真は叫んだ。
 アフラ・マーンはイフリータを追って空に飛び上がった。
「真、今助けてやるぜ」
「ちょ、ちょっと、シェーラさん。炎の魔法はいかん。真まで丸焼けになってしまう」
 藤沢は叫んで、真を抱えたバグロムの懐に飛び込んだ。
 パンチ一発、バグロムはノックアウトされ、真は無事救出された。
 空中のイフリータを追ってきたアフラ・マーンを見て、イフリータは陣内に聞いた。
「私たちを追ってくる女がいるが、どうする?」
「あいつは敵だ。やっつけてしまえ」
「待ちなはれ! このまま逃がさへんで」
 アフラ・マーンは、飛びながら鋭い真空波を送って、イフリータを攻撃した。
 イフリータは手にしていた例の金属の杖を一振りした。すると、アフラの真空波はそのまま、アフラの方へ逆進したのであった。
「あっ! 」
 自らの真空波に打たれて、アフラ・マーンは墜落した。
「まずまずの力だな。しかし、お前の力はこの程度ではあるまい。そうだ、あの山を一つ消してみろ。できるか? 」
「簡単だ」
 イフリータは杖を地上に向かって一振りした。
 杖の先端から閃光が発し、その先にあった山は一瞬に消滅した。
「ハハハハハハ! こいつは凄い。これで私はこの世界の支配者だ!」
 高笑いと共に飛び去った陣内たちを、山頂の真たちは呆然とただ見送るしかなかった。

第十二章 ナナミとの再会

 地上に激突する寸前にやっとの事で体勢を立て直し、真たちのところに戻ってきたアフラ・マーンは、目の前で見たイフリータの力を真や藤沢に話した。
「悔しいけど、うちらの力ではイフリータには勝てまへん。この国はもう終わりかもしれまへんな」
「何を言ってやがる。むざむざとあんな奴らに降参するつもりか」
 シェーラ・シェーラが怒鳴った。
「そうしなければ皆殺しやろな。とにかく、うちはこのまま飛んでロシュタルに戻り、イフリータがバグロムの手に入ったことを伝えてくるさかい、あんたらもできるだけ早く戻ってや」
 頷く真たちに軽く手を上げて、アフラ・マーンは再び空中に飛び上がり、南の空に消えて行った。
「あいつ、今の戦いで傷ついて、疲れ果てているだろうに……」
 シェーラ・シェーラが呟き、意外そうに見ている他の三人に気づいて、少し顔を赤くし、えへんと咳払いをした。
「まあ、人に弱みを見せるのが嫌いな奴だからな。いいさ、ほっとけば。我々もさっさと戻ろうぜ」
 それから十日ほどかかって真たちは首都ロシュタルに戻ったが、その頃ロシュタルにはエル・ハザード全土から国王や領主たちがエル・ハザードの危機について話し合うために集まってきていた。
「明日、会議が開かれるそうだ。ついては、真殿にもう一度、パトラ王女に変装して会議に出席して貰いたい」
 侍従長のロンズが真に申し出た。彼は、パトラ王女の失踪について知っている数少ない人間のうちの一人である。
「ええーっ。またですかあ。勘弁してくださいよ」
「いや、今回の会議にパトラ王女がいないと、非常にまずいことになりそうなのだ。おそらく、諸侯たち、諸国王たちは、エル・ハザードの危機に際して、神の目を作動させることを要求してくるだろう。バグロムは、今日届けられた降伏要求に対して三日以内に返事が無いと、イフリータにエル・ハザード全土を破壊させると言ってきている。かつては、バグロムとは戦うだけだったが、人間の言葉で要求を出してきたのは初めてだ。どうやら、あちらに人間の参謀がついているらしい。……それで、神の目を作動させるには王家直系の二人の人間が必要だが、パトラ王女が失踪していることを他の国王たちが知ったら、会議がどういう結果になるのか予想もつかんのだ」
 ロンズの言葉に、真は頷くしかなかった。
「陣内の奴め。とんでもないことをしているなあ」
 ロンズが去った後、真は呟いた。
 藤沢の方は、自分たちの部屋で酒を飲んでいて、まったく頼りにならない。まあ、イフリータのあの力を前にしては、たかだか人間数十人分の力の藤沢では何の役にも立たないだろうが。
 廊下の向こう側から、シェーラ・シェーラが歩いてきた。右手に何かを持って、もぐもぐ食いながら歩いているようだ。しかも左手には大きな箱を抱えている。
「おっ、真。いいところで遭ったな。どうだい、お前も食わねえか」
「それどころやないですよ。世界の終わりだってのに、まったく暢気な。あれ? その食べ物」
「ピザってんだ。ナナミの店と言ってな、最近できた店だけど、大人気でさ。行列をしても中々買えなかったんだが、最近の騒ぎで客がいなくなったんで、一っ走り行って買ってきたんだ。これを食わないままで死んだら、この世に恨みを残しそうだからな」
「ナナミの店? ナナミちゃんだ! 」
「おい、真、どうした! 」
 後ろで叫んでいるシェーラ・シェーラを残して、真は王宮から外に走り出た。
 ナナミの店には、確かに行列が無くなっていたが、それでも二、三人の客はいた。
「いらっしゃあい。今、空いてますよお」
 入って来た真に、キッチンから声が掛けられた。その声は真の聞き覚えのある声である。
「ナナミちゃん! やっぱりここに来てたんか」
「あれ? 真ちゃんじゃない。真ちゃんもエル・ハザードに来ていたの? 嬉しい!」
 二人は再会を祝って、抱き合った。
「おい、おめえら、どういう関係だ? 」
 二人の背後から声がした。
 真が振り返ると、シェーラ・シェーラが二人をジト目で睨んでいる。
「ああ、シェーラ・シェーラさん。この子は僕の同級生の、ナナミちゃんや。僕たちと同じ時に、このエル・ハザードに飛ばされたみたいなんや」
「そうかい。じゃあ、仕方ねえな」
 シェーラ・シェーラは、ぷいと去って行った。
「あの人、真ちゃんのこと好きなの?」
「まさか。友達やけどね」
「真ちゃんは、女の子の気持ちには鈍いからねえ。それより、エル・ハザードが滅びるって本当なの?」
「ああ、そうなるかもしれん」
「ええーっ。折角、ここまで稼いできたのにい」
「残念やけど、お店どころやないな。まあ、ナナミちゃんも王宮に来たらええ。その方が安心やろ」
「そうね。真ちゃんのことも心配だし、店はたたむことにするわ」
 ナナミは店の前に「当分休業します」と張り紙をして、真と一緒に王宮に向かった。
 道々、真の語った話で、今回の騒動に自分の兄の克彦が大きくからんでいることを知って、ナナミは怒り狂った。
「あの、馬鹿兄貴! 前からおかしい奴だったけど、完全にイっちゃったのね」
「まるで、子供に爆弾を持たせたようなもんや。イフリータも可哀相に。あんな奴を主人にしたせいで、自分の意志でもないのに、人殺しをさせられるなんて」
「真ちゃん、そのイフリータってのが好きなんじゃない?」
「ま、まさか!」
「真ちゃんって、気持ちがすぐ顔にでちゃうのよね。でも、相手はロボットなんでしょう? 可哀相も何もないんじゃない?」
「いや、それが、イフリータには感情があるらしいんや」
 最初に遭った時のイフリータの涙を思い出しながら、真は小さく言った。
「感情があると見えるようにプログラムされたロボットなんじゃないの? それに、感情があったところで、ロボットとは結婚できないしね」
 真は自分の胸に顔を埋めた時のイフリータの感触を覚えていた。あれは、どうしても人間としか思えない温かで柔らかな感触である。
 仮に、あのイフリータと、自分と陣内が目覚めさせたイフリータが同じなら、自分が初めて出会った時のイフリータは、なぜあのような目で自分を見て、「後は任せたよ」と言ったのだろう。わからない……。
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