関連画像

写真拡大


関連画像

勤務時間を終えたら、仕事の連絡は御法度――。ドイツで最大人口を誇るノルトライン=ヴェストファーレン州政府のシュナイダー労働相が、勤務時間外の労働者に仕事関連の電話やメールで連絡することを禁じる「反ストレス法」の制定を呼びかけ、論議を呼んでいる。



報道によると、シュナイダー・州労働相が所属する社会民主党は国政でも与党とあって、同法の提案は、全国的に注目を浴びた。中央政界の与党政治家らは「法律ができれば、健康被害防止に重要な役割を果たす」と歓迎。一方で、ドイツ経営者連盟は「心身の負担を、職場の上下関係だけのせいにするのは不当」と反発しているという。



日本はドイツ以上に「働き過ぎ」が問題になりそうだが、日本でもこういった法律は必要だろうか。労働問題にくわしい土井浩之弁護士に聞いた。



●日本では「時間外の業務連絡」は違法


「実は、日本では、このような行為は、すでに労働基準法によって禁止されています。しかも、違反した場合、使用者への罰則規定もあります」



すでに日本の労働者は「反ストレス法」と同じ趣旨で守られていたのか。しかし、夜間や休日を問わず上司などからかかってくる「職務の電話」は、多くの会社で日常茶飯事ではないか。



「いいえ。もし、労働者が、就業時間外の電話やメールに対応しなければならないとすると、それは『手待ち時間』ということになり、すべての時間が賃金の対象となる労働時間になるのです。



午後10時から翌朝5時までは深夜労働時間帯ということになり、割増賃金を支払う義務が定められています。これらを支払わない場合は、罰則が課せられます」



そうすると多くの企業は、労働基準法に違反しているということにならないか。



「はい。そもそも、一日8時間を超えた労働をさせること自体が、罰則付きで禁止されています。しかし、例外があるため、現実的には法律の趣旨は無視されています」



例外のある企業とはどんな企業なのだろう。



「例外とは、『36協定』と呼ばれる労使間の協定がある場合です。労働時間を延長して残業や休日の労働も可能にする協定ですが、行政官庁に届ける必要があります。ただ、それがあっても、勤務時間外の職務連絡は、賃金や割増賃金を支払わなければ、使用者が刑罰の対象となります」



自分の勤務する会社で、36協定があるかどうか確認しておいたほうがいいだろう。では、無条件での休日や夜間の職務連絡は、違法ということになってしまうのだろうか。



●過労死事件でも「時間外のメールや電話」の影響が大きい


「はい。過労死事件では、ほとんどの事例で、勤務時間外のメールや電話を受けています。こうした時間帯の連絡は、上司からの叱責や、取引相手からのクレームなど、ストレスの大きいものが多いようです」



携帯電話やメールのおかげで、仕事も便利になったが、ストレスも多い時代になった。



「そうですね。携帯電話やメールは便利な道具ですが、歴史が浅く、その使い方のモラルや弊害についての検討や研究がほとんどされていないと感じています。



携帯やメールの労働者への悪影響について調査・研究を行い、これをもとに、国民的な議論がなされるべきではないでしょうか」



土井弁護士の提案するように、政治家も経営者も労働者も、携帯電話やメールの功罪をもっと深刻にとらえ、考えていくべきなのかもしれない。


(弁護士ドットコム トピックス)


【取材協力弁護士】
土井 浩之(どい・ひろゆき)弁護士
過労死弁護団に所属し、過労死等労災事件に注力。現在は、さらに自死問題や、離婚に伴う子どもの権利の問題にも、裁判所の内外で取り組む。東北学院大学法科大学院非常勤講師(労働法特論ほか)。
事務所名:土井法律事務所
事務所URL:http://heartland.geocities.jp/doi709/