この季節、各球団の「組閣」が話題になっている。この言葉、大嫌いだ。国政をつかさどる内閣と、たかがプロ野球のコーチ人事を一緒くたにするのが気持ち悪い。ただ、同じくらい「いい加減な」人事のように見える。
巨人のコーチ陣に、宮本和知(投手総合コーチ)、水野雄仁(投手コーチ)、元木大介(内野守備兼走塁コーチ)、杉内俊哉(ファーム投手コーチ)、村田修一(ファーム打撃コーチ)と、引退したばかりの元選手や、これまでほとんど指導者の経験がない人が選ばれていることが話題になっている。

ロッテは、大隣憲司(2軍投手コーチ)、根元俊一(1軍内野守備走塁コーチ)、金澤岳(2軍バッテリーコーチ)と、今年引退した元選手3人をコーチにした。

中日も荒木雅博(2軍内野守備走塁コーチ)、浅尾拓也(2軍投手コーチ)、工藤隆人(1軍外野守備走塁コーチ)と3人の元選手をすぐにコーチにした。




こういう人事を見ていると、日本のプロ野球のコーチは「仕事」ではなく「ポスト」だということがわかる。監督が代わると、新監督は自分の部下に気心の知れた「手下」をもってきたがるのだ。
あるいは、前監督の息がかかった人間を排除するために、別の人間を連れてくるということもあろう。
また功労のある選手を、引退してからも食わせるためにコーチという役職を与えるケースも多いようだ。

本当であればコーチには「選手を指導する能力」「技術」「知識」などが求められると思うが、このコーチ人事にはそうした気配は感じられない。「誰かと親しい」とか「有名人だった」とか、そういうことだけでコーチを選んでいる。
そういうところは、日本の政治の「組閣」とよく似てはいる。




そもそも、日本の会社の人事も「能力」だけで決まるわけではない。派閥や、年功、学歴など、本来の人間の「価値」とは別個の基準で出世が決まることはよくある。

実はアメリカでもそうだ。MLBのコーチ陣も監督やGMの息のかかった人物が選ばれることが多い。人事とは洋の東西を問わず、そういうものなのだろう。

しかし、MLBではコーチの仕事は、かなり明確だ。コーチは「使える選手」を監督に進言するのが仕事だ。監督に判断残量を提供するのだ。作戦コーチは試合の作戦を立てる。そのためにコーチは専門知識を学ぶ。選手を育成するコーチは、マイナーにしかいない。彼らは技術論やコーチングを専門的に学んでいる。「プロのコーチ」であることが前提になっている点が日本とは違っている。

これに対し、NPBのコーチは「何をするのか」がはっきりしていない。投手や打者のフォームの指導をするコーチもいれば、ノッカーとして選手を鍛えるコーチもいる。選手の生活指導をするコーチさえいる。監督を「担任」とすれば、コーチは「副担任」みたいなものか。

日本のコーチには明確な「評価基準」がないから、監督やフロント人事に伴って首を切られたり、雇い入れられたりする。
それは仕方がないが、中に「本当に優秀なコーチ」もいるのだ。いろいろなチームでコーチを務める野球人の中には専門知識や技術を持っている優秀な人材もいる。教えるのがうまい指導者もいる。
今年の巨人、川相三軍監督もその一人だったと思う。

残念なことに、そういう優秀なコーチも十把一絡げで解任されたりするのだ。何もしていないコーチも有能なコーチもお構いなしに動かしてしまうのだ。

日本の野球界も「プロのコーチ」のステイタスを確立すべき時が来ていると思う。