ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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P R
カウンター
その七 カザフ
「なかなか賢い小僧(こぞう)じゃねえか。よし、俺たちもいっしょに行ってやろう。こいつ一人じゃあ危ないからな」
若者が言うと、女の人は心配(しんぱい)げに聞きました。
「でも、マルスのところには?」
「どうせとちゅうでカザフは通るから、だいじょうぶさ。その後の予定はないんだし」
「そうね、パーリの独立のためにも、グリセリードのようすを見ておくのもいいかもしれないわね」
二人は、ハンスにはなんのことかわからない話をしていましたが、男がハンスの方を向いて言いました。
「坊主(ぼうず)、グリセリードにはおれたちがつれていってやろう。どうだ?」
人を小僧だの坊主だのと、失礼(しつれい)な言い方をする男ですが、悪い人間には見えません。大人がいっしょなら、なにより安心です。それに、もう一人の美人は、できるならこのままずっと一生ながめていたいくらいです。
「ありがとうございます。おねがいします。ぼくはハンスと言います」
「おれの名前はピエール、こいつはヤクシーだ」
「よろしく、ハンス」
ヤクシーとよばれた美女はハンスにほほえみました。やくしーなんて変な名前だな、と思いながら、ハンスは赤くなってうなずきました。
翌日、ハンスたちは宿屋を出て山脈のふもとの村カザフをめざしました。
ピエールとヤクシーは馬に乗ってます。その後ろから驢馬のグスタフにまたがったハンスがついて行き、犬のピントは彼らの前を走ったり、後ろからついてきたりします。
ハンスは、ピエールという男がよくわかりません。身なりは商人とも騎士とも貴族とも農民ともちがいます。貴族の平服を着ていますが、態度(たいど)や言葉づかいは貴族にはとても見えません。ところが、ヤクシーの方は、身なりは質素(しっそ)ですが、きれいなかっこうをさせたら、どこかの王女だと言ってもみんな信じるでしょう。どうもあやしげな二人ですが、悪い人間でだけはなさそうです。
やがてカザフの村が見えてきました。
山のふもとにあるその村は、民家の数はおよそ百くらいの小さな村です。
家と家の間はゆったりと広く、家の垣根の中では、暖(あたた)かな日ざしを受けて、山羊やニワトリやアヒルがえさを食べています。のんびりとした村です。
ピエールたちは、その村の一番高いところまで上っていきます。
すると、目の前に大きな百姓屋(ひゃくしょうや)があらわれました。
家の前で小さな子供を遊ばせていた女の人が、彼らを見て手をふりました。
その八 あたたかな家
ヤクシーはその女の人のところへかけよりました。二人は抱き合って、再会(さいかい)を喜び合っています。
ハンスは近づいてその女の人の顔を見てびっくりしました。なんと美しい人でしょう。ヤクシーを見た時、ハンスはこの人は世界で一番美しい人だろうと思いましたが、この女の人は、それに負けないくらい美しいのです。ヤクシーとはぜんぜんちがって、この女の人は白い肌にブロンドに近い亜麻色(あまいろ)の髪、透き通るような空色の目をしています。教会のステンドグラスの天使をハンスは思い出しました。
年はヤクシーより少し下みたいですが、そばに二人の子供がいますから、もうお母さんなのでしょう。
子供は、一人は三歳くらいの男の子、もう一人はまだ一歳くらいの赤ん坊です。こっちは女の子に見えますが、赤ん坊はくべつがつきません。とてもかわいい赤ちゃんです。
「やあ、マチルダ、おひさしぶり。元気そうだね。マルスは?」
ピエールが女の人に言いました。
「マルスは畑よ。ピエール、ヤクシー、会えてうれしいわ。この子は?」
マチルダと呼ばれた女の人は、二人のそばにいるハンスを不思議そうに見て言いました。
「新しい相棒(あいぼう)だよ。名前はハンス」
ハンスはぺこりと頭を下げました。
「相棒ですって? ピエール、あんたまさか、また泥棒を始めたんじゃないでしょうね」
マチルダは、ハンスにおじぎを返した後で、ピエールを問いつめるように言いました。
なんと、ピエールは泥棒だったのでしょうか? それにしても、なんで泥棒がこんな美人たちと知り合いなんでしょう。
「まさか。おれたちは大金持ちなんだぜ、今さら泥棒なんてするもんか」
ということは、元泥棒だということはたしかなようです。
「子供に悪い事を教えないでよ。うちのオズモンドにもね」
マチルダはピエールに釘(くぎ)をさして、家の中に招き入れました。
広広とした家の中は、きちんと清潔にかたづいています。大きな窓からはいっぱいに光がはいり、室内をあたたかに照らしだしています。本当に居心地のよさそうな家です。
「案外ちゃんと家庭(かてい)の主婦(しゅふ)をやっているようじゃねえか。女中はいないのか?」
ピエールの言葉に、マチルダが少しじまんそうに答えました。
「お掃除もお洗濯もぜんぶ私一人でやってるのよ」
その言葉に、ハンスはかえってびっくりしました。掃除や洗濯を主婦が一人でするのは当たり前です。この人はなにをいばっているのでしょう。美人だけど、ちょっとへんです。
マチルダは三人を歓迎して、たくさんのごちそうをテーブルにならべました。
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