ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第三章 旅の商人
(俺は何て愚か者なんだ。見知らぬ他人の前でぐっすりと眠りこけるなんて。ギル父さんの形見の弓だけじゃなく、ジルベール父さんの形見のペンダントも無くしてしまったんでは、父さんに会えても、本当の息子だと証明することもできないじゃないか)
マルスは自分の頭を殴りつけたくなったが、いつまでもこうしてはいられないので、出発することにした。幸い、男たちが盗んだのは、弓とペンダントだけだったので、マルスは男たちの食べ残しのハムやパンやチーズを袋に目一杯詰め込んで、その家を出た。
家を出ようとした時、マルスの耳に、何かの鳴き声が聞こえた。
家の裏側の方だ。
マルスは家の裏側に回った。
そこには家畜小屋があり、そこに一頭の馬が繋がれていた。病気らしく、痩せこけた馬である。
マルスは飼い葉桶を見たが、桶には飼い葉は入ってなかった。病気ではなく、飢えているだけかも知れない。
マルスはその馬を連れて行くことにした。誰の馬かは知らないが、ここに置いていても飢え死にさせるだけだろう。
元気の無い馬の歩調に合わせて、マルスはぶらぶらと歩いていった。馬は途中で何度も立ち止まり、道端の草を食べたが、マルスはその度に馬が食べ終わるまで辛抱強く待った。
馬は特に手綱を付けなくても、逃げる様子は無かった。というより、逃げる気力も無かったのかもしれない。
マルスは、灰色のこのみすぼらしい馬にグレイと名づけた。
グレイは自分の新しい名を理解しているらしく、半日も旅するうちに、呼ばれるとゆっくりとマルスのところにやってくるようになった。
バルミアまであとどのくらいなのか、マルスには分からなかったが、少なくともあと二、三日では着くだろうと思われた。街道を通る人の数が増えてきたことからそう考えたのである。とはいっても、半日に一人か二人、あるいは何人かで連れ立って旅する集団に出会うだけだが。そのほとんどは行商人かジプシーである。すれ違う人々は、馬を連れながら、馬に乗らず、荷物も自分で持って歩いているマルスを珍しげに見て、
「そんなに馬が可愛けりゃあ、いっそ、馬を背中におぶっちゃあどうだい」
などと、嘲笑の声をかけたりした。
街道は、ある森の中を通っていた。マルスは道から離れて、弓を作るのに都合のいい木を探した。硬くて折れにくく、弾力性のある木の枝が理想的である。
しばらく探すと、マルスの希望にぴったりの木が見つかった。マルスはその木の一番いい枝をナイフで切り取った。硬くて、切るのに難渋したが、これくらいでないと、いい弓はできない。まずは、無駄な小枝を払い落とし、一本の棒にする。
その時、誰かの悲鳴が聞こえた。女の声のようだが、助けを求めているらしい。
マルスは枝を手にしたまま、声のした方に走った。
街道に戻ると、そこが騒ぎの場所だった。五人の盗賊が、三人の旅人を脅しているところらしい。
盗賊たちはそれぞれ剣を手にして、それを旅人たちにつきつけている。旅人たちは家族らしい。中年の男と、その妻らしい中年の女、それに娘らしい若い女が、すっかり怯えて竦んでいた。
盗賊は、旅人たちの服まで奪うつもりらしく、服を脱げと言われたのに娘が従わないので、脅されている、といったところのようだ。
「おい、盗賊ども。俺が相手だ」
突然林の中から現れたマルスに盗賊たちは一瞬慌てたが、相手が一人と知って、大した事は無いと判断したようだった。
「若いの、いい度胸だが、俺達の邪魔をする奴は生かしちゃおけねえ」
髭面の盗賊たちは、剣を振り上げて、マルスに向かってきた。
マルスの手にしているのは、先ほど切り取った木の枝である。長さはおよそ四尺、長さだけなら盗賊たちの三尺の剣より有利である。
向かってきた盗賊の頭や肩に、マルスは手にした棒を叩きつけた。盗賊のうち二人は地面に倒れて気絶し、残る三人はさすがに慎重になった。
だが、いかに喧嘩慣れした盗賊とはいえ、狼や猪などの野生の獣を相手にしてきたマルスの目からは、のんびりした動作でしかない。殺到する三人の剣を余裕をもってかわしながら、その腕や頭を棒で打ち据える。盗賊たちはマルスの足元にうずくまり、あるいは横たわった。マルスは、彼らの体の側に近づいて生死を確かめた。
五人の盗賊のうち二人は既に死んでいたので、穴を掘って道のそばに埋め、残る三人は、息を吹き返した後で、両手の親指と小指をへし折って釈放した。残酷に思える処置だが、今後、武器を手にして悪事を働くことができないようにするためである。これは凶悪な人間への、マルスたちの仲間の裁き方であった。
「なんとお強い若者だろう。このお礼はなんと申してよいか」
マルスに助けられた旅人はしきりに頭を下げた。
「どうかお名前をお教えください」
娘に言われて、マルスは名を名乗った。
「バルミアまで行かれるのですか? それなら私たちもご一緒させてください。バルミアには私たちの家がありますから、そこでゆっくりとお礼を申し上げたいと思います」
懇切な申し出にマルスは断りきれず、この旅の家族と一緒にバルミアまで行くことにした。
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