ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第二十八章 海賊
やがて海賊船は、マルスらの乗っている船の数百メートル先まで近づいた。
今では、海賊船の甲板で手ぐすね引いてこちらに乗り移ろうと待ち構えている海賊どもの凶悪な顔までもはっきり見える。船の舳先で腕組みしている、素肌に毛皮を着て、頭に角のついた兜をかぶっているのが海賊の頭目だろう。北方系の端正な顔に美しい金髪も、顎まで垂らした口髭のために、動物的で野蛮な印象である。
「インゲモルだ……」
水夫の一人が呟いた言葉に、
「インゲモルとは?」
マルスは尋ねた。
「この海でもっとも有名な海賊だ。『肝食いインゲモル』と言われている。襲った船の乗組員を殺して、その肝を食うんだ」
マルスはもう一度その「肝食いインゲモル」を眺めた。
美男と言ってもいい、三十代の偉丈夫だが、青い目が、ガラス球みたいで奇妙である。見かけよりはずっと野蛮な奴らしい。
マルスは弓を構えた。
こういう場合は、まず大将を倒すに限る。
マルスの放った矢は、しかし海上の風に流されて、僅かに逸れ、インゲモルには当たらなかった。矢はインゲモルの肩をかすめ、後ろのマストに突き刺さった。
だが、通常は届かない距離からマルスの放った矢は相手をあわてさせ、向こうもどんどん矢を射始めた。そのほとんどは、もちろん海上に落ちるだけである。
マルスは二本ある弓のうち、大弓を使っているのだが、その弓は男三人がかりで弦を張った強力なものである。普通の人間では、ぴんと張った弦は一寸も引けない。
矢も特製の長矢を使っている。これだと、遠く、正確に届く。
マルスのその後の矢は、次々に海賊どもを甲板に縫い付ける。時には、同じ矢が二人を同時に刺し貫いたりしている。
「船を相手に近づけるな。この距離なら、マルスの矢は届くが、向こうには手が出せない。常にこの距離を保つんだ」
アンドレが船長に命じた。
そして、一本の矢の先端近くに布を縛り、油を染み込ませたものをマルスに渡した。
「マルス、これであの船の帆を射るんだ」
マルスは彼の意図を了解した。
近くの松明から、その火矢に火を移し、マルスはそれを高々と打ち上げた。布が巻き付いている分の重さを計算し、それだけ上方を狙う。たとえ帆に当たらなくても、甲板には落ちるはずだ。
矢は狙いどおり、敵船のメインマストの帆と帆柱の間に刺さり、やがて帆に火が燃え移った。
敵はしばらくは、自分の船の帆が燃え出したのに気がついていないようだったが、やがて大慌てしだした。帆を張った綱を切り、帆を下ろして火を消そうとするが、マルスは二本、三本と火矢を放った。やがて、帆柱そのものに火がついたらしく、敵は消化活動に大童になって、こちらの船を攻撃するどころではなくなった。
海賊船はとうとうこちらの船をあきらめ、海岸に進路を向けた。海岸に船を停泊させて、避難するか、消火をするのだろう。
「どうする、追おうか」
アンドレが船長に聞いたが、船長は滅相も無い、という顔で首を横に振った。
「そいつは残念だな。今ならあいつらをやっつけることも出来るんだがな」
そうは言ったが、アンドレも強くは主張しなかった。こちらに少しも被害がないのだから、無理に戦闘に持ち込んで、一人でも傷つけたくはない。
宵闇の中を、炎を上げながら岸に進んでいく海賊船は、面白い眺めである。
ワグナー船長は、自分の船の進路を沖に向け、海賊船から遠ざけていった。
やがて、海賊船の火は後方に小さくなって闇に消え、見えなくなった。
マルスたちに対する船長の態度は一変した。
「あんたは我々の命の恩人だ」
彼は何度もマルスに頭を下げ、礼を言った。
船長が自分用に取ってある最上のワインを十本、礼として貰ったマルスは、それを仲間たちと楽しく味わった。
海賊船との遭遇から六日後、マルスたちの乗った船の前方にレントが姿を現した。
真っ白く切り立った崖が特徴的な、レントの海岸線は、美しい風景である。
「とうとう来ましたね。生きてもう一度レントがみられようとは思わなかった」
ジョンは目を潤ませて、懐かしい故郷の海岸を眺めている。
レントへの上陸は、大きな河の河口に広がった平野にある町の船着場で行った。
「レントは一人の国王で全土が治められているのですよ。今の国王は二年前に即位したばかりの若者ですが、なかなか優れた王様だという話です。ジュリアスという王様です」
ジョンがレントの知識をひけらかす。
目の前に広がるレントの風景は、緑の丘と平野が多い、好ましいものであった。
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