ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第二十九章 ジルベールの行方
さわやかな初夏の風が頬を撫でて吹いていく。
「これこそレントですよ。一年のうちでも今の季節のレントは最高ですな。どうです、この風の気持ちいいこと」
ジョンが、馬車を御しながらまるでレントが自分の持ち物ででもあるかのように自慢する。
マルスたちは、ここでも馬に荷馬車をつけて、旅をしていた。貴族の乗るような馬車だと目の玉が飛び出るほど高い値段を吹っかけられるし、急に手に入るものでもないが、荷馬車ならたいていすぐに入手できる。その値段はおそらく相場の二倍くらい請求されていると思われるが、オズモンドの懐にはさほどの痛手でもない。
さすがに、総勢七人ともなると、荷馬車に乗るのも、あまりゆったりとはしていないが、それは辛抱しなければならないだろう。
マルスだけは例によってグレイに乗っているので、その窮屈さを免れている。他の者で馬に乗れるのはオズモンドとマチルダくらいだが、マチルダも乗馬よりは馬車の荷台の方が楽なのである。
「何でもいいから、早くエーデルシアにやってくれ。それともどこかの町の宿屋を早く見つけてくれ」
オズモンドがぼやく。
アンドレは馬車の荷台から、並んで馬を歩ませるマルスに声を掛けた。
「君の父上のことだが、一体何でレントなどへ向かったんだろう。アルカードに君の母上がいないと分かったら、アスカルファンに戻りそうなものだが」
彼はマルスの身の上を聞いて、興味を持っているのである。
「そのことは僕も不思議に思ったんだが、多分、山脈を越えてアスカルファンに戻るよりも、船でレントに行き、そこからアスカルファンに向かおうと思ったんじゃないだろうか」
「山越えの大変さを考えれば、十分うなずける考えだ。だが、それなら、君の父上は実はアスカルファンに戻っているという可能性もあるわけだ」
「それは無いと思うぜ。あんな名家の嫡男が、アスカルファンに戻っていたなら、誰にも気づかれないはずはない」
オズモンドが、マルスに代わって答えた。
「では、レントに来て、ここで恋人の捜索をあきらめて、そのままここに住み着いたとでも?」
アンドレの言葉に、オズモンドは黙り、マルスは考え込んだ。
「気を悪くさせたのなら謝るが、考えられる可能性としては大きく三つある」
アンドレは自分の考えを口にする事で、考えを進めるいつもの癖で、独り言のように呟く。
「第一は、今言ったように、ジルベールがそのままここに住み着いたということ。この場合、ここで結婚までしている可能性もある」
マチルダが非難するような目でアンドレを見たが、アンドレはそれに気づかず、続ける。
「二番目は、ジルベールはアスカルファンに戻ったが、何らかの理由で人目につかないように帰国し、そのままどこかに隠れている、もしくは幽閉されている」
「たとえば、どんな理由だ?」
オズモンドがずばりと聞いた。
「それは分からん。というより、僕にはある想像があるが、言いたくない」
他の者は、アンドレの言葉で、それ以上追求する気を失った。追求すると、マルスを傷つけることになりそうだったからである。
「三つ目は、これはマルスには残酷な言葉だが、一番ありそうな場合だ。……レントでジルベールが死んだということだ。船上でということも考えられるが」
「そんな!」
マチルダが、たまりかねて声を上げた。
「もちろん、これは只の仮定の話だから、そのどれでもない場合もある。だが、行き当たりばったりで行動するよりは、これらの場合を想定して行動したほうが、何かにぶつかる可能性は高いんじゃないかな」
「アンドレさんの言うとおりよ。私自身、マルスが現れるまでは、ジルベールは死んだものと思って疑わなかったもの、ジルベールがやっぱり死んでいたと聞いても驚かないわ」
思いがけず、トリスターナがアンドレの弁護をした。
マルスはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「アンドレがさっき言った二番目の場合だが、人目を避けて帰国し、そのまま姿を隠すというのは、どんな場合だ? 言ってくれないか」
「……聞かない方がいい」
「いや、ここまで聞かされて後を聞かないわけにはいかない。お願いだから、言ってくれ」
「そうか。……では、言おう。……天刑病だ」
アンドレの言葉に、一同は凍りついたようになった。
天刑病とは、この頃最も恐れられた病気である。顔や手足に白斑ができ、やがてそこから体が膿み、腐ったように崩れていく病で、しばしば人間と思えない病相を示すため、迷信深いこの頃の人々はそれを何かの罪に対する神罰だと考え、天刑病と名づけたのである。
天刑病にかかった人間は、もはや一般の人間社会には戻れなかった。村や町の外れに彼らだけの集落を作り、道を歩く時には、自分に普通人が近づかないようにと、銅製の鈴を鳴らして歩かねばならなかった。
「そんな、ありえないわ」
マチルダが悲鳴のように言った。
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