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ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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ふろむだ氏の記事の一節で、氏が古代ローマのグラディウス(一般には「短剣」とされている)の長さを調べた時の話である。
私は軍事知識が好きなので、面白かった。

(以下引用)

ただし、カエサルが書いていないからと言って、それがウソだということにはならない。
むしろ、ChatGPT、塩野七生、Wikipedia、BingAIの厳密モード、『ガリア戦記』の解説文の5つの情報ソースが矛盾なく同じことを言っているのに、それを疑うのは、どうかしている。
しかし、僕はどうかしている人なので、まだ完全に信用する気になれない。

そこで、「一番信用できる情報ソースは何か?」と考えた。

古代ローマの研究者は?

古代ローマの研究者はいっぱいいる。
その中で一番信用できるのは誰か?

研究者にはそれぞれ、得意不得意があるので、
「古代ローマの軍事」を得意分野とする研究者の書いた本が良さそうだ。

そこで、「古代ローマの軍事」の専門家でエイドリアン・ゴールズワーシーという人が書いた本を調べてみた。
その人の書いた『カエサル』という本を読んでみたが、塩野七生さんの書いたカエサルの本と、ぜんぜん違う。
たとえば、「カエサルが海賊に捕まって、身代金を支払って解放された後、自分で私兵を募って、その海賊を捕らえて、身代金を取り返しただけでなく、その海賊を全員縛り首にした」というエピソードがあるが、塩野七生さんの本では、それを事実であるように書いてあるのに対し、ゴールズワーシー氏の本では、そのエピソードには、たしかに元となる話はあるのだろうが、人から人へと語り継がれるうちに、尾ひれ背びれがたくさんついているだろうから、それをそのまま真に受けない方がいい、というスタンスだ。

それだけでなく、ゴールズワーシー氏は、カエサルの『ガリア戦記』の記述に対する他の研究者の解釈にも批判的検討を加えていて、めちゃくちゃ丁寧に検証している。

そんなゴールズワーシー氏の『カエサル』という本の上巻の282ページには、以下のような記述がある。

紀元後一世紀には、ローマの軍団兵によって用いられたグラディウスは短く、刃渡りは通常二フィート以下であった。しかし、カエサルの時代にはもっと長い刃ーーー少なくとも長さ二フィート六インチで、さらに長いこともあったーーーが用いられていた。鋼鉄製で重たい刃は斬るにも突くにも適しており、その長い刃先は鎧や肉を貫通するのに向いていた。
(太字引用者)

エイドリアン・ゴールズワーシー『カエサル』上巻 282ページ
あれ?
言ってることが違うぞ。

ゴールズワーシー氏は紀元後一世紀のグラディウスの刃渡りは2フィート(61cm)以下だと言っているが、これは、ChatGPT、塩野七生、Wikipedia、BingAIの厳密モード、『ガリア戦記』の解説者の五者の主張するガリア戦争当時のグラディウスの刃渡りの長さと一致する。
しかし、カエサルがガリア戦争をやったのは、紀元前58~50年だ。ゴールズワーシー氏は、その時の刃渡りは2フィート6インチ(76cm)以上だったと言っている。

長いじゃん。
「短めの剣」じゃないじゃん。
ChatGPT、塩野七生、Wikipedia、BingAIの厳密モード、『ガリア戦記』の解説者の五者の主張と違うじゃん。

ゴールズワーシー氏とこの五者のどっちが正しいのだろうか?

多数決で決めるなら、五対一でゴールズワーシー氏の負けである。
しかし、事実って、多数決で決めるのが正しいんだろうか?
「相対性理論は間違っている」という主張が、国民投票で過半数に支持されたら、相対性理論は間違っていることになるんだろうか?

そもそも、ChatGPT、塩野七生、Wikipedia、BingAI、解説者は、研究者のように、一次資料を念入りに吟味して書いたわけじゃない。
しかも、ゴールズワーシー氏は、古代ローマの軍事を専門とする研究者で、この分野では世界的な権威である。

もちろん、権威が間違うこともある。
しかし、ゴールズワーシー氏の本を読めば分るが、学会というのは、めちゃくちゃ厳しいところだ。
研究者たちは、エビデンスベースでお互いの研究を懐疑し合い、検証し合い、批判し合っている。
それも、膨大な時間を使って、念入りにそれをやってる。
その厳しい批判と検証のプロセスを経て、ゴールズワーシー氏は本を書いている。
ChatGPT、塩野七生、Wikipedia、BingAI、解説者の主張は、どれも、この厳しい検証のプロセスを経ていない。

実は、ここでやって見せた調査方法は、ほんの一部でしかない。
これらの調査(AI、Wikipedia、作家の本など)を全部英語でやってみたり、グラディウスの剣の長さの時代ごとの変遷をAIに聞いたりネットで調べたりするという切り口に変えても、まるで蟻地獄のように、ある一つの誤った結論に引きずり込まれていってしまって、それが真実だとしか思えないようになってしまう。
まるで伊藤潤二のホラー漫画の主人公になったような気分になる。
その蟻地獄から抜け出すには、その分野の一番レベルの高い研究者たちの書いた文献を調べるしかなかった。

しかも、この奇妙な蟻地獄現象が起きるのは、剣の長さだけではない。
甲冑にしろ、軍団の編成人数にしろ、戦争が引き起こされた原因にしろ、たくさんの情報ソースが指し示す答えが矛盾なく一致しているのに、その一致した回答が、専門家たちが念入りに吟味して出した結論と異なることは珍しくない。

それは一見、当たり前のことのように思えるが、現実には、そんなに当たり前だとは思われていない。
ChatGPTに「ガリア戦争に従軍したローマ兵の剣の長さを推定するための手がかりとなる考古学的資料もしくは文献は存在しますか?」と聞いたときの回答は、めちゃくちゃ本当っぽくて、説得力があって、つい信じちゃう人は多いだろう。
さらに、BingAIの厳密モード、Wikipedia、ベストセラー作家、一次資料の解説者まで、一貫して同じ事を主張しているとなれば、ほとんどの人間は、めちゃくちゃそれを信じたくなる。人間には、複数の情報ソースから得られた情報が矛盾なく整合するとき、それが真実だと信じたくなるバイアスがあるからだ。

しかしながら、ChatGPTに騙されないようにするには、信じたくなる誘惑に全力で抵抗して、その分野を念入りに吟味しながら批判的な議論を積み重ねてきている専門家の書いた本で裏取りするしかない。
もちろん、ほとんどの人にとって、それはコスト的に現実的ではないので、「このChatGPTの回答、めちゃくちゃ本当っぽいけど、ChatGPTはめちゃくちゃ本当っぽいウソをつくのが得意だから、これがウソの可能性も十分あるんだな」と思いながら、ChatGPTを使い続けるしかないということになる。

一見、それは憂鬱な結論にも思えるが、少なくともそれは、「このChatGPTの回答、めちゃくちゃ本当っぽいから、たぶん本当だろう」と思いながらChatGPTを使い続けるより、はるかにマシな生き方ではないだろうか。
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