ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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タイガー! タイガー! 8章(1) 2017/10/11 (Wed)
第八章 森の中(1)
グエンたちの一行がキダムの村を出てから三日が経った。キダムの村で荷車を買い、それを農耕馬に引かせて子供たちはそれに載せることにしたので旅ははかどるようになり、キダムからは100ピロほど東に来ていた。ここから先は森林地帯になり、民家はほとんど無くなるが、途中の村で食料を仕入れていたので特に食い物の心配は無い。ただ、国境をどこから越えるかが問題だが、それはその場の様子を見て決めればいいとフォックスは考えていた。
「ずいぶんはかどりましたね。あと少しで大森林です。大森林を抜ければエーデル川があり、その先がタイラス、その南がトゥーランです」
「タイラスの王妃さまが、私たちの叔母様ね?」
「そうです。エメラルド様とおっしゃって、とてもおきれいな方ですよ。まだ、とてもお若くて、おそらく22,3歳くらいだと思います。嫁がれたのがおととしですから、今頃は可愛い赤ちゃんをお産みになっているかも」
「赤ちゃん、見てみたいわ。可愛いでしょうね」
荷車の上のソフィにフォックスが馬上から話しかけると、さすがに女同士で話がはずむが、男の子のダンはすっかり退屈している。
「あーあ、早くタイラスにつかないかな。ぼく、車に乗るのはすっかり飽きちゃったよ」
宮廷を脱出した時の緊迫感も今は無い。それに、グエンという強い味方ができたもので、誰もが安心しきっていた。
大森林が目の前に見えた。樅の木がほとんどで、その森がどこまで続くのか、低い位置からではその範囲もわからない。その途中にエーデル川が流れる峡谷があるはずで、そこがサントネージュと他国の国境になっている。
針葉樹の爽やかな匂いがする。頭上を覆う木陰からは絶えず小鳥の声がする。木の葉を通して太陽の光が下に落ち、下を行く一行の顔をまだらにする。
彼らが通っているのは、古い街道である。今でも通商のために使われていて、馬車が通れる程度の幅はあるが、道の上には枯れ葉が深く積もっている。
グエンは馬を歩ませながら、物思いにふけっていた。ある思いが頭の中をぐるぐると回っている。それは、なぜ自分の頭はこのようになっているのか、ということと、なぜ自分の記憶は無いのか、ということ。一言で言えば、「自分は何者か」ということである。考えても答えの出ない問題を考えるのは空しいことだと分かってはいる。しかし、考えずにはいられない。
(俺の体は、通常の男より相当にたくましいらしい。また、体力も人並み以上で、剣をふるう技能もかなりある。ということは、やはり俺はこの世界のどこかで生れ、育ったが、ある時に記憶を失って、あの野原に倒れていたのだろうか。あの野原は、しかし、まったく見覚えは無かった。どこか別の場所で記憶を失わされて、あそこまで運ばれたのか。誰が、何のために? 俺は剣を扱うのに何一つ苦労はしなかった。考える前に体が動いていたという感じだ。そういう面での記憶、つまり体の記憶はあるようだ。それに、言葉を話すのは難しいが、他人の言葉は苦もなく理解できる。ならば、やはり俺はこの国の人間なのか? しかし、こんな頭の人間はほかにはいるまい。なぜか、そういう確信のようなものが俺にはある。俺は自分のこの頭に気づいた時、恐ろしい気持ちになった。それは、これが本来の自分の頭ではないと知っているからだろう。しかし、これが仮面などでないのも確かだ。それは何度も確かめた。無理にこの顔を剝がしても、他の顔など出てこないだろう。俺はいったいどうすればいい。この頭のままでこの世界に生きていくしかないのか?)
「ねえ、グエン、何を考えているの?」
フォックスが言った。
「俺は、何者か、という、ことだ」
たどたどしい口調だが、やっと文章になる会話ができるようにはなっている。
「どこかの宮廷に仕えていたんだと思うわ。あなたのあの剣の腕は、超一流の剣士だった。そういう剣士がどこの宮廷にも仕えていないということはありえない、と思う」
「あのう……」
控え目にソフィが口をはさんだ。彼女にしては珍しい行動である。
「なに? ソフィ」
他人のいない所でも、なるべくサファイアとは言わずにソフィと呼ぶようにしている。
「宮廷のお抱え剣士や騎士ではなく、もしかしたら王様だったのかも」
「えっ?」
この言葉はフォックスには盲点だった。何しろ、まっぱだかで出現した、虎の頭の男である。それがどこかの王様だという想像はまったく思い浮かばなかったのだ。
「ま、まさか。……でも、言われてみれば、どことなく威厳があるような……。でも、まさか」
「グエンは王さまだったの?」
ダンが遠慮なく聞いた。
「分から、ない。覚えて、いない」
「そのうち、虎の頭をした人がどこかから失踪したという噂でもないか、尋ねてみましょう。でも、それは私たちがタイラスについてからね」
突然、馬が足を止め、後ずさりをした。不安そうな嘶きを上げる。
「何か、前の方にいるわ」
フォックスが言った。
「確かめて、来る」
グエンは馬の腹を軽く踵で蹴って歩ませた。
森の中は静まり返り、鳥の声も今はやんでいた。
タイガー! タイガー! 8章(2) 2017/10/11 (Wed)
第八章 森の中(2)
馬を走らせていたグエンは前方に黒い影を見つけて馬を止めた。その影は四体。
「お前らは、何者だ」
グエンは静かに聞いた。
「そういうお前の名を聞こう」
影のような黒衣の男たちの一人が低い声で言った。
「俺の名は、どうでも、いい。お前たちは、俺に、用が、あるのか」
「ああ、お前の連れている二人の子供を寄こしてもらおう」
「あれは、俺の、子供だ」
「嘘をつけ。あれがサントネージュの姫と王子だということは分かっている」
「馬鹿馬鹿しい。俺たちは、ただの、旅人だ」
「どこへ行く」
「お前らに、言う、必要など、ない」
「ならば、力づくであの子供たちをいただこう」
男の腕が鋭く動くと同時に、グエンの乗った馬の首に短刀が刺さった。
「くそっ」
鞍から跳躍すると、グエンは巨体を翻して地上に降り立った。馬がその背後で倒れる。
四人の男たちはそれぞれの手に鞭を持っている。その鞭の先端に小さな金属の輝きがあるのをグエンの鋭い目は見て取った。
(毒針付きの鞭か。少々厄介だ。)
グエンは腰の剣を抜いて油断無く4人に向かい合った。
その時、背後にかすかな叫び声がしたのを、グエンの常人離れした聴覚は聞きつけた。
(しまった!)
グエンは身を翻し、駈け出した。
(あの4人を相手にしている間に、他の連中がフォックスたちを襲ったのだ。うかつだった!)
グエンは疾走した。馬よりも速い。
あっと言う間に、背後に残してきたフォックスたちのところに着いた。フォックスは剣を抜いて、子供たちをかばいながら、敵らしい男たちに向っている。敵の身なりは通常の庶民の服装だが、それぞれに短剣を持っている。その数は5人。
「ああ、グエン、助けて!」
フォックスの言葉にうなずくと、グエンは敵に襲いかかった。
5人を倒すのに、数秒もかからない。
だが、その間に、道の前方にいた黒衣の男たちが馬を走らせてやってきた。
「下がっていろ! 危険な連中だ」
グエンはフォックスや子供たちに声をかけて、黒衣の男たちの方へ走り出した。
先頭にいた男が、馬上から鞭をふるう。その鞭を剣で切ろうとするが、鞭はただ剣に捲きつくだけだ。その間に他の男からの鞭がグエンを襲う。
「くそっ!」
グエンは身をかわしながら、その鞭を手でつかみ、相手を馬から引き落とす。
フォックスがこちらに駆けてくるのが見えた。
「来るな!」
グエンは叫んで、巨体を跳躍させ、2マートルほども飛び上がると、そのたくましい右足で馬上の敵を蹴り落とした。そして、同時にその馬に乗る。
相手と同じ高さにいれば、敵の武器の有利さもいくらかは無くなる。
残りの二人を剣で斬るのはあっという間だった。
地上には、引きずり落とされた男が立ち上がりながら呆然としている。蹴り落とされた方は、座りこんでいる。
「我々は、サントネージュ宮廷の者です。王女と王子をお守りするために追ってきたのです」
男は必死の表情でそう言った。
「どう、思う?」
グエンはフォックスの方を振り返って聞いた。
「嘘だと思います。先ほど、彼らは私の名を尋ねようともせず、子供たちを奪い取ろうとしました。それに、宮廷でこの者たちの顔を見たことはありません」
「い、いや、確かに我々は宮廷の者ではなく、臣下のそのまた家臣ですから、フェードラ様が我々の顔をお知りにならないのは当然です。我々は実は、アルト・ナルシス様の家臣でございます」
「アルト・ナルシス様の?」
「はい。ナルシス様は、お考えがあって、今はユラリアの二人の王子に仕えておりますが、実は、機を見てサントネージュを再興するお考えなのです。そして、もちろん、王位にはご自分がではなく、サファイア様かダイヤ様をおつけになろうとお考えなので、お二方をご自分の元で隠しながら保護なさるおつもりなのです」
フォックスは考え込んだ。
「アルト・ナルシス、は……第三、王位継承者、だったな?」
グエンが言った。
「はい」
「どう、する? お前たちが、望むなら、……俺は、ここで、別れても、いいが」
「いやだ! ぼくはグエンとタイラスに行く。アルト・ナルシスなんてウソつきだ! あいつはお父様を守りもせずに敵に降参しちゃったじゃないか」
ダンが目に涙を溜めて叫んだ。
「そうね。アルトには何かの考えがあるのかもしれないけど、敵に占領されている都に戻るのは危険すぎると私も思います」
ソフィの言葉に、フォックスもうなずく。
「いきなり子供たちを連れ去ろうとしたあなたたちのやり方を見ても、あなたたちの言葉が真実のようには思えません。しかし、それが真実ならば、あなた方を殺すわけにもいかないでしょうから、あなたたちの命は助けてあげます。アルト・ナルシス様には、サントネージュを再興してからお二方を迎えに来るようにお伝えください」
黒衣の男たちは顔を見合せて、仕方なさそうにうなずく。
「はっ。すべてを信じていただけなかったのは、私たちの手落ちです。そのうちお迎えにあがります」
男たちが去ると、ソフィとダンは再び馬車の上に戻った。
グエンの馬は先ほど殺されたが、黒衣の男たちの乗っていた馬がまだ近くにいたので、そのうち2頭は馬車につけ、1頭にグエンが乗る。これまで馬車を引かせてきた農耕馬は解放した。
しかし、思わぬ手間で、すぐに野宿の準備をしなければならない時間帯になっている。
少し広い場所まで進んで、一行は野宿の用意をし、夕食を食べた。あたりはすっかり闇に包まれ、森の木々の上には宝石を撒き散らしたような星空が広がっている。
第八章 森の中(1)
グエンたちの一行がキダムの村を出てから三日が経った。キダムの村で荷車を買い、それを農耕馬に引かせて子供たちはそれに載せることにしたので旅ははかどるようになり、キダムからは100ピロほど東に来ていた。ここから先は森林地帯になり、民家はほとんど無くなるが、途中の村で食料を仕入れていたので特に食い物の心配は無い。ただ、国境をどこから越えるかが問題だが、それはその場の様子を見て決めればいいとフォックスは考えていた。
「ずいぶんはかどりましたね。あと少しで大森林です。大森林を抜ければエーデル川があり、その先がタイラス、その南がトゥーランです」
「タイラスの王妃さまが、私たちの叔母様ね?」
「そうです。エメラルド様とおっしゃって、とてもおきれいな方ですよ。まだ、とてもお若くて、おそらく22,3歳くらいだと思います。嫁がれたのがおととしですから、今頃は可愛い赤ちゃんをお産みになっているかも」
「赤ちゃん、見てみたいわ。可愛いでしょうね」
荷車の上のソフィにフォックスが馬上から話しかけると、さすがに女同士で話がはずむが、男の子のダンはすっかり退屈している。
「あーあ、早くタイラスにつかないかな。ぼく、車に乗るのはすっかり飽きちゃったよ」
宮廷を脱出した時の緊迫感も今は無い。それに、グエンという強い味方ができたもので、誰もが安心しきっていた。
大森林が目の前に見えた。樅の木がほとんどで、その森がどこまで続くのか、低い位置からではその範囲もわからない。その途中にエーデル川が流れる峡谷があるはずで、そこがサントネージュと他国の国境になっている。
針葉樹の爽やかな匂いがする。頭上を覆う木陰からは絶えず小鳥の声がする。木の葉を通して太陽の光が下に落ち、下を行く一行の顔をまだらにする。
彼らが通っているのは、古い街道である。今でも通商のために使われていて、馬車が通れる程度の幅はあるが、道の上には枯れ葉が深く積もっている。
グエンは馬を歩ませながら、物思いにふけっていた。ある思いが頭の中をぐるぐると回っている。それは、なぜ自分の頭はこのようになっているのか、ということと、なぜ自分の記憶は無いのか、ということ。一言で言えば、「自分は何者か」ということである。考えても答えの出ない問題を考えるのは空しいことだと分かってはいる。しかし、考えずにはいられない。
(俺の体は、通常の男より相当にたくましいらしい。また、体力も人並み以上で、剣をふるう技能もかなりある。ということは、やはり俺はこの世界のどこかで生れ、育ったが、ある時に記憶を失って、あの野原に倒れていたのだろうか。あの野原は、しかし、まったく見覚えは無かった。どこか別の場所で記憶を失わされて、あそこまで運ばれたのか。誰が、何のために? 俺は剣を扱うのに何一つ苦労はしなかった。考える前に体が動いていたという感じだ。そういう面での記憶、つまり体の記憶はあるようだ。それに、言葉を話すのは難しいが、他人の言葉は苦もなく理解できる。ならば、やはり俺はこの国の人間なのか? しかし、こんな頭の人間はほかにはいるまい。なぜか、そういう確信のようなものが俺にはある。俺は自分のこの頭に気づいた時、恐ろしい気持ちになった。それは、これが本来の自分の頭ではないと知っているからだろう。しかし、これが仮面などでないのも確かだ。それは何度も確かめた。無理にこの顔を剝がしても、他の顔など出てこないだろう。俺はいったいどうすればいい。この頭のままでこの世界に生きていくしかないのか?)
「ねえ、グエン、何を考えているの?」
フォックスが言った。
「俺は、何者か、という、ことだ」
たどたどしい口調だが、やっと文章になる会話ができるようにはなっている。
「どこかの宮廷に仕えていたんだと思うわ。あなたのあの剣の腕は、超一流の剣士だった。そういう剣士がどこの宮廷にも仕えていないということはありえない、と思う」
「あのう……」
控え目にソフィが口をはさんだ。彼女にしては珍しい行動である。
「なに? ソフィ」
他人のいない所でも、なるべくサファイアとは言わずにソフィと呼ぶようにしている。
「宮廷のお抱え剣士や騎士ではなく、もしかしたら王様だったのかも」
「えっ?」
この言葉はフォックスには盲点だった。何しろ、まっぱだかで出現した、虎の頭の男である。それがどこかの王様だという想像はまったく思い浮かばなかったのだ。
「ま、まさか。……でも、言われてみれば、どことなく威厳があるような……。でも、まさか」
「グエンは王さまだったの?」
ダンが遠慮なく聞いた。
「分から、ない。覚えて、いない」
「そのうち、虎の頭をした人がどこかから失踪したという噂でもないか、尋ねてみましょう。でも、それは私たちがタイラスについてからね」
突然、馬が足を止め、後ずさりをした。不安そうな嘶きを上げる。
「何か、前の方にいるわ」
フォックスが言った。
「確かめて、来る」
グエンは馬の腹を軽く踵で蹴って歩ませた。
森の中は静まり返り、鳥の声も今はやんでいた。
タイガー! タイガー! 8章(2) 2017/10/11 (Wed)
第八章 森の中(2)
馬を走らせていたグエンは前方に黒い影を見つけて馬を止めた。その影は四体。
「お前らは、何者だ」
グエンは静かに聞いた。
「そういうお前の名を聞こう」
影のような黒衣の男たちの一人が低い声で言った。
「俺の名は、どうでも、いい。お前たちは、俺に、用が、あるのか」
「ああ、お前の連れている二人の子供を寄こしてもらおう」
「あれは、俺の、子供だ」
「嘘をつけ。あれがサントネージュの姫と王子だということは分かっている」
「馬鹿馬鹿しい。俺たちは、ただの、旅人だ」
「どこへ行く」
「お前らに、言う、必要など、ない」
「ならば、力づくであの子供たちをいただこう」
男の腕が鋭く動くと同時に、グエンの乗った馬の首に短刀が刺さった。
「くそっ」
鞍から跳躍すると、グエンは巨体を翻して地上に降り立った。馬がその背後で倒れる。
四人の男たちはそれぞれの手に鞭を持っている。その鞭の先端に小さな金属の輝きがあるのをグエンの鋭い目は見て取った。
(毒針付きの鞭か。少々厄介だ。)
グエンは腰の剣を抜いて油断無く4人に向かい合った。
その時、背後にかすかな叫び声がしたのを、グエンの常人離れした聴覚は聞きつけた。
(しまった!)
グエンは身を翻し、駈け出した。
(あの4人を相手にしている間に、他の連中がフォックスたちを襲ったのだ。うかつだった!)
グエンは疾走した。馬よりも速い。
あっと言う間に、背後に残してきたフォックスたちのところに着いた。フォックスは剣を抜いて、子供たちをかばいながら、敵らしい男たちに向っている。敵の身なりは通常の庶民の服装だが、それぞれに短剣を持っている。その数は5人。
「ああ、グエン、助けて!」
フォックスの言葉にうなずくと、グエンは敵に襲いかかった。
5人を倒すのに、数秒もかからない。
だが、その間に、道の前方にいた黒衣の男たちが馬を走らせてやってきた。
「下がっていろ! 危険な連中だ」
グエンはフォックスや子供たちに声をかけて、黒衣の男たちの方へ走り出した。
先頭にいた男が、馬上から鞭をふるう。その鞭を剣で切ろうとするが、鞭はただ剣に捲きつくだけだ。その間に他の男からの鞭がグエンを襲う。
「くそっ!」
グエンは身をかわしながら、その鞭を手でつかみ、相手を馬から引き落とす。
フォックスがこちらに駆けてくるのが見えた。
「来るな!」
グエンは叫んで、巨体を跳躍させ、2マートルほども飛び上がると、そのたくましい右足で馬上の敵を蹴り落とした。そして、同時にその馬に乗る。
相手と同じ高さにいれば、敵の武器の有利さもいくらかは無くなる。
残りの二人を剣で斬るのはあっという間だった。
地上には、引きずり落とされた男が立ち上がりながら呆然としている。蹴り落とされた方は、座りこんでいる。
「我々は、サントネージュ宮廷の者です。王女と王子をお守りするために追ってきたのです」
男は必死の表情でそう言った。
「どう、思う?」
グエンはフォックスの方を振り返って聞いた。
「嘘だと思います。先ほど、彼らは私の名を尋ねようともせず、子供たちを奪い取ろうとしました。それに、宮廷でこの者たちの顔を見たことはありません」
「い、いや、確かに我々は宮廷の者ではなく、臣下のそのまた家臣ですから、フェードラ様が我々の顔をお知りにならないのは当然です。我々は実は、アルト・ナルシス様の家臣でございます」
「アルト・ナルシス様の?」
「はい。ナルシス様は、お考えがあって、今はユラリアの二人の王子に仕えておりますが、実は、機を見てサントネージュを再興するお考えなのです。そして、もちろん、王位にはご自分がではなく、サファイア様かダイヤ様をおつけになろうとお考えなので、お二方をご自分の元で隠しながら保護なさるおつもりなのです」
フォックスは考え込んだ。
「アルト・ナルシス、は……第三、王位継承者、だったな?」
グエンが言った。
「はい」
「どう、する? お前たちが、望むなら、……俺は、ここで、別れても、いいが」
「いやだ! ぼくはグエンとタイラスに行く。アルト・ナルシスなんてウソつきだ! あいつはお父様を守りもせずに敵に降参しちゃったじゃないか」
ダンが目に涙を溜めて叫んだ。
「そうね。アルトには何かの考えがあるのかもしれないけど、敵に占領されている都に戻るのは危険すぎると私も思います」
ソフィの言葉に、フォックスもうなずく。
「いきなり子供たちを連れ去ろうとしたあなたたちのやり方を見ても、あなたたちの言葉が真実のようには思えません。しかし、それが真実ならば、あなた方を殺すわけにもいかないでしょうから、あなたたちの命は助けてあげます。アルト・ナルシス様には、サントネージュを再興してからお二方を迎えに来るようにお伝えください」
黒衣の男たちは顔を見合せて、仕方なさそうにうなずく。
「はっ。すべてを信じていただけなかったのは、私たちの手落ちです。そのうちお迎えにあがります」
男たちが去ると、ソフィとダンは再び馬車の上に戻った。
グエンの馬は先ほど殺されたが、黒衣の男たちの乗っていた馬がまだ近くにいたので、そのうち2頭は馬車につけ、1頭にグエンが乗る。これまで馬車を引かせてきた農耕馬は解放した。
しかし、思わぬ手間で、すぐに野宿の準備をしなければならない時間帯になっている。
少し広い場所まで進んで、一行は野宿の用意をし、夕食を食べた。あたりはすっかり闇に包まれ、森の木々の上には宝石を撒き散らしたような星空が広がっている。
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