第五章 オズモンド
「いざと言う時に弓が折れては命に関わる。もっといい弓を売るんだな」
マルスは言い置いて、その場を離れた。
「おい、ちょっと待ってくれ」
後からマルスを追いかけてきたのは、先ほど弓を買おうとした若者である。
「さっきは有難う。おかげで、インチキな弓を買わずに済んだ」
マルスは足を止めた。
「あの商人には悪い事をした。向こうも商売なんだから、あんな物を売るのも仕方が無い。買う方が、気をつけるべきだ」
「ううむ。確かに、こっちに見る目が無かったのは問題だが、僕はあまり武術はやったことがないんだ。ところで、僕の名はオズモンド。君は?」
「マルスだ」
「そうか。マルス、友達になろうじゃないか。どうやら、君は弓にかけてはなかなかの腕の持ち主のようだ。僕は、いずれ王室付きの武官になるはずだが、武術にはまったく自信がない。どうか僕に弓を教えてくれ」
マルスは若者の率直な話し振りが気に入った。
「いいとも。だが、僕は平民だ。君は貴族だろう?」
「大丈夫だ。僕の家では、僕がイエスといったら、何でもそれで通るんだ。僕の家は、セントリーナのローラン家だ。明日にでも訪ねてきたまえ」
「分かった。訪ねよう」
マルスは、オズモンドがマルスに話し掛けながらも、絶えずジーナを意識していることに気づいていた。
オズモンドが去った後で、マルスはジーナにその事を言った。
「彼はジーナが好きなようだよ」
「嘘よ。だって、あの人、一度も私の方を見なかったわ」
「だからおかしいのさ。ジーナみたいなきれいな子がそばにいるのに一度も見ないなんて不自然だよ」
「私はきれいじゃないわ。この町には私なんかより何倍もきれいなひとはたくさんいるわよ。そのうちマルスにもわかるわ」
ジーナは笑ってうち消したが、マルスには、ジーナほどきれいな子はいないだろうと思われた。
翌日、マルスは町の中心地、セントリーナに、オズモンドを訪ねた。
セントリーナは、王宮に至るなだらかな斜面に貴族たちの邸宅が立ち並んだ一帯である。
オズモンドのローラン家は、その中でも特に広大な邸宅で、塀に囲まれた敷地の、森に見まがうような林を抜けると、広く明るい庭があり、庭には一面に芝草が生え、庭の中央には池がある。池の周りは神々や怪獣の石像で囲まれ、池には中央の石像の口から水が絶えず流れ出ている。
「オズモンドに、マルスが会いに来たと伝えてくれ」
長い顔に長い鼻をした召使に告げると、召使の男は、オズモンドから聞いていたのか、すぐにオズモンドに取り次いでくれた。
「やあ、マルスか。よく来てくれた」
二階から急ぎ足に下りてきたオズモンドは、笑顔でマルスを迎えた。
マルスはオズモンドに、手にしていた弓を渡した。
「これをあんたにやろう。この弓なら、どんなに強く引いても折れることはない。これが矢だ。今はこれだけしかやれないが、そのうちもっと作ってやる」
弓と矢は、昨日ケインの家に帰ってから、近くの林で取ってきた木材で作ったものだ。
二人は庭に出た。
マルスはオズモンドに手本を見せた。マルス自身は誰に教わったわけでもなく、父親のやり方をみようみまねで覚えたものだが。
マルスは無造作に、二十歩ほど先の木の幹を射た。
ヒュッと矢は飛んで、木の幹の中心に刺さった。
オズモンドの目には、一条の光の筋が走ったように見えた。
近づいて刺さった矢を確かめると、三尺ほどの矢の五分の一近くが、木にめり込んでいた。オズモンドの力ではその矢を抜くことはどうしても出来なかった。
マルスがオズモンドに代わって、矢を引き抜いた。
「失敗した。矢尻が木の中に埋まって抜けてしまった。後で別の矢尻をつけよう」
オズモンドは感嘆の目でマルスを見た。
「君の弓は神業だ。どうしたら、そんなになれるんだ?」
「長くやっていたら誰でもそうなるさ」
弓の練習の後、オズモンドはマルスを昼食に招待した。
ちょうど腹もすいていたので、マルスはその招待を受けることにした。
私は昔からヘンリー・フォンダという俳優が好きだったのだが、この俳優は、どこか得体が知れない印象がある。しかし、どの役柄も、彼の個性に合っているので、それは彼を使う側、主に監督が、彼の個性を把握していたのだろう。それは言語化できない個性かもしれないが、それを今、言語化するなら、彼には「信念の人」という役柄がよく似合い、彼がそうでない役を演じた例を私は思い出せない。もちろん、その信念はその人物の独断であり、場合によっては狂信かもしれないが、彼はその信念を一歩も譲らない、そういう役が似合うのである。
そういう意味では悪役も似合うが、詐欺師は、あまり似合わなかった。むしろ、「テキサスの五人の仲間」は、彼の一般的印象を逆利用した作品だったが、実に似合わなかった。というより、まったく詐欺師に見えないのであるから、種明かしをされても「何だ、これは?」という感じになったのである。種明かし自体が嘘に見えるのだから、これは成功した作品なのか、失敗した作品なのか。
で、「信念の人」には女は似合わない、むしろ邪魔である。だから「荒野の決闘」のようなほのかな片思いは似合うが、はっきりと女性を相手にしたラブロマンスやラブコメは似合わないようだ。少なくとも私は彼のそういう役柄の作品を見たことがない。女性を相手にしたら、融通無碍、臨機応変性が求められるのであり、「信念の人」がいかに女性にとって厄介かは想像できる。まあ、昔の政治家の女房、夫唱婦随の封建社会の女性しか彼には合いそうもない。だから、彼は実生活では結婚に何度か失敗しているはずだ。人並みに女に惚れても、ハリウッドの女性が彼に合うはずがない。つまり、彼が演じた役柄と、彼本人の個性は非常に近い、と私は見ているのである。
(追記)三回まで見た感想だが、ネタバレになるので、少し間を空ける。
第三回まで見たが、なるほど、人によっては「衝撃的な展開、意外な展開」だろうが、それまでの主人公が死ぬ(殺される)というのは、「地動説の弾圧」を話の中心とするなら、さほど意外ではない。そもそも、そこまでの主人公にさほど魅力があるわけでもない。問題はむしろ、「合理性の塊で狡猾」な主人公が、「(地動説の)学問上の美しさに魅せられて」転向を拒否するという「話のためにキャラの軸がいい加減になっている」ことではないか。作者の構想自体が、「学問上の論理や真理の美しさ」にあって、物語やキャラ自体が関心の中心ではない、という印象だ。
私のように、理数系の美学(整合性の持つ美感)というのに無関心というか、それを熱く語ることをアホくさいと思っている人間には、無縁の話である。理数系は美術や美学ではない。真理探究の熱情も美学のためではない。真理や真実の弾圧との戦いは非常に素晴らしいことだが、まあ、当人の問題である。地動説によって世界がより改善されたとも思わない。まあ、飛行機やロケットの操縦の上では意味があるだろう、というだけだ。(もっとも、ロケットの存在自体、私は無意味だと思うし、飛行機の操縦に「地動説」的知識が必要かどうかは分からないが、別の考え方で十分操縦できる気がする。)欧州を支配したカソリックの権威が少し揺らいだのが最大の功績か。
原作において、「主人公交替」後に話が面白くなったという評判もネットでは見えないので、とりあえず、しばらくは傍観者になるだろう。私のように漫画やアニメや小説、つまり「脳内世界」が人生の中心という人間には、自分にとって価値の無い作品と付き合うのは「貴重な時間の無駄」になるからだ。制作者のかけた製作コスト(特に人的費用)には同情するが、まあ、「間違った方向の努力」には同情しない。
(以下引用)
「チ。」面白いのに全然アニメが話題にならない

これ
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あーあ、言っちゃったね
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サンガツ
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第四章 首都バルミア
「私の名はケイン、これは妻のマリアと娘のジーナです。私たちはバルミアで雑貨商を営んでおりますが、時々巡礼も兼ねて地方へ行商に参ります。今回は北の聖地グルネヴィアにお参りした帰り道で、あのような乱暴者たちに出会って危ういところをあなた様に救われた次第です」
道々、男はそのように自己紹介した。家族は荷物を驢馬に積んでおり、自分たちは徒歩で旅していたらしい。その驢馬は道から少し離れたところで草を食べているのが見つかった。命が助かっただけでなく、荷物も無事だと知って、ケインは大喜びだった。
マルスはグレイを供にこの家族と旅を続けた。
「バルミアまでは、あとどのくらいですか?」
「そうですな。この調子ですと、あと三日ですかな。なんとか、聖フランシスコの祭りには間に合いそうです。なにしろ、商人には稼ぎ時ですから、祭りの三日前くらいには帰りたいものです。ところで、あなたはどのような御用でバルミアに行かれるのですか? さしつかえなければお聞かせねがえますか」
マルスは彼らに、父ジルベールの事を語った。
「何と! あなたはオルランド家の若君ですか。いや、おっしゃられれば気品が並みではない」
「しかし、私の身を明かすものは無いのです。たった一つ持っていたペンダントは、この旅の途中で、二人組みの悪者に盗まれまして」
「二人組みの悪者?」
「はい、ピエールとジャンと名乗ってましたが」
「ほう、そのピエールは年の頃は二十七、八、ジャンはまだ十九くらいの若者ですか?」
マルスは商人があの二人を知っているのに驚いた。
「その通りです。御存知ですか?」
「有名な盗賊です。いつも二人だけとは限りませんが、この二人で組むことが多いようです。普通は金持ちしか狙わず、滅多に人を殺めないので妙に人気があるのですが、お話を聞けば、ただのこそ泥ですな。まあ、もともと商人にとっては収税人と盗賊は、不倶戴天の敵ですがね」
三日後、一行はアスカルファンの首都、バルミアに着いた。
バルミアは人口約三万人の大都市であり、アスカルファンの南の海に面した海岸に開けた港町でもある。もっとも、この頃は造船技術は未発達なので、国と国との貿易はそれほど行われていない。大きな帆船でも最大乗員は二百人くらいである。従って、海から他の国が攻めてきたことはほとんど無い。
バルミアの北の小高くなった丘に王宮があり、その西にこの国の神を祭る神殿がある。家の多くは白い石造りだが、納屋は木造のものが多い。
さすがにこの国第一の都会とあって、町の賑わいは大変なものである。
大通りには小商人が露店を出し、青果や小間物、道具類を売っている。人通りが多く、狭い場所では肩がぶつかったとかいう理由で、あちこちで喧嘩も起こっている。中には、連れている馬や牛や羊が暴れ出し、大騒ぎになっている所もある。
マルスはケインの家に泊めて貰うことにした。
ケインの家は石造りの二階家で、一階の表は雑貨の店、裏に台所があり、裏庭には納屋と家畜小屋があり、鶏数羽と驢馬二頭が飼われていた。二階が居間や寝室である。
「狭いところですが、ここにご滞在の間は気兼ねなく使ってください」
マルスは与えられた部屋に荷物を下ろし、何日かぶりに身軽になった。
一眠りした後、台所で湯を求めて、布に浸して体を拭い、旅の汚れを落とすと、マルスはさっそく、バルミア見物にでかけた。
ジーナが案内役を買って出たので、二人は一緒に家を出た。
午後の日に照らされたバルミアの町並みは、来た時に比べると、何となく寂しげな感じがある。市場の雑踏も一段落ついた様子で、そろそろ荷物を片付け始めている者もいる。
マルスは、ある露店の前で足を止めた。
雑貨の店だが、その中には武具の類も幾つかある。
その中で、マルスの目を引いたのは、弓であった。
彼の目からは、ほとんど使用に耐えない貧弱な弓に十五リムもの値段が付けられていて、それに驚いたのだが、もっと驚いたのは、その弓を買おうとしている男がいたことだ。
まだ二十代前半の、身なりの良い、可愛らしい顔の男で、貴族の子弟らしい。
「弓が欲しいんだが、この弓はいいものかな」
商人はここぞとばかりに売りつけようとする。
「ええ、上物も上物、聖ロマーナ様が竜を退治した弓にも引けはとりませんぜ。もっとも、並みの腕では、なかなか扱えないんだが、あんたのような立派な武士なら大丈夫」
思わず、マルスは口を出してしまっていた。
「その弓は駄目だ。木がヤワだし、節もある。せいぜい二十歩くらいしか飛ばせないし、強く引いたら折れてしまう」
「何だと、俺の品物にケチをつける気か!」
商人は息巻いた。
マルスはその弓を手に取った。
「引いていいかね。引いて、折れなかったら謝る」
「おう、引いてみろ。ただし、折れなかったら只じゃあ済まねえぞ」
マルスは弓を手にとって引いた。
一杯に引き絞るまでもなく、半分引いたところで、弓は二つに折れた。
商人は呆然と折れた弓を見ていた。
ところで、「バームクーヘンエンド」って何だ? 気になる。
(以下引用)
ここで話は全く変わるのですが、私は女児歴30年以上の大ベテランでありながら「セーラームーン」を全く通っていません。
最近ネットで「美少女戦士セーラームーン『月野うさぎは人生の同志』」という見出しを見て「なんて激シブな劇場版タイトルなんだ、俺もセーラームーンの事を『月野同志!』と呼べるならセーラームーンを履修しておけば良かった」と激しく後悔しました。
その後、そういうタイトルではなく、声優さんがインタビューで答えたコメントの引用ということが判明したのですが、それにしても強い文字列なので、ぜひ次のタイトル候補にしてもらいたいです。
私の記憶では「推しに重い設定をつけたり生と死の境を彷徨わせたり、果てはバームクーヘンエンドを食らわせてしまう創作オタ」に向けて発せられた言葉だった気がします。
推しや推しカプのことが好きなはずなのに、気づいたら推しカプに死体を埋めさせ、何だったら推しを埋めてしまう。何故好きな相手にこんなことをしてしまうのか、と悩む創作オタに対し、セーラーメリバが「だきしめてキスをするだけが愛してる証拠じゃないわ、せっかく平和なギャグ時空に生まれた推しにバトロワパロ(アラフォーオタが即死)をさせて、カップリング相手に撃ち殺させる愛のかたちもあるの」と、言ったような幻覚をいま見ました。
実際、推しに対する愛情表現というのは人それぞれであり、エグすぎるR-18G二次創作を描く人に「そのキャラが嫌いだからそんなヒドいことをするのか」と聞いたところ「嫌いな相手の内臓なんか描きたいわけないだろう」という言葉が返って来たそうです。
あなたも「好きでも嫌いでもないキャラに重い設定を見いだし生死の境を彷徨わせろ」と言われても「桃に入れられて川に流された」とか、どこかで聞いたような設定しか思いつかないと思います。
先ほど、「まったくもってホタテ貝」という言葉がどのようにして生まれたか、心理分析をするつもりで、かなり考えて、
まったく→ほっとく
→ほったて→掘っ立て小屋→ホタテ貝
という、無意識の連想の結果だろうという結論になったが、一応確認すると
「まったくもって」ではなく「ますますもって」が原語のようだ。
つまり、私は山本直樹と同じ覚え間違いをしたのだが、そこには「ますます」より「まったく」のほうが音韻的に「ホタテ貝」につながるという無意識の計算があったのではないか。
まあ、ナンセンスとしては、「つながらないからナンセンスになる」わけだが、こういう絶妙な造語には、何となく心理分析をしたくなるのである。で、分析の常として「理に落ちる」という失敗になりがちなわけだ。私には分析が趣味なのだから、広い意味では「失敗も成功のうち」。
なお、この言葉は天才的な造語として当時のSF作家たちの流行語となったらしいが、その際に「まったくもって」に変形したのではないか、という推測もできる。その理由は「ますますもって」よりも「まったくもって」のほうが、促音(っ)の押韻になるからだ。リズムが良くなる。
(以下引用)
山本直樹『明日また電話するよ』
comics
明日また電話するよ
明日また電話するよ
作者: 山本直樹
出版社/メーカー: イースト・プレス
発売日: 2008/07/17
メディア: コミック
ほとんど既読だが、それは織り込み済み。
しかし作者がセレクトした短編集というだけあって、さすがに粒ぞろい。また、各作品に作者のコメントがつけられているのもよい。
巻末には「山本直樹の歴代ハマリモノ集成」という付録がある。世代がほぼ同じなので活字や漫画の傾向は似ているが、音楽の好みは全く異なる。
「まったくもってホタテガイ」というのは間違いで「ますますもって」が正しいはず、と思って調べたが、やはり正しくは「ますますもって帆たて貝」だった。
で、手元になかったので筒井康隆の「カメロイド文部省」が収録されている本を本屋で探したわけだが、『農協月へ行く』も『日本列島七曲がり』も置いてない。これじゃあいくら大御所でもラノベやケータイ小説でも書こうかという気にはなるわな。
第三章 旅の商人
(俺は何て愚か者なんだ。見知らぬ他人の前でぐっすりと眠りこけるなんて。ギル父さんの形見の弓だけじゃなく、ジルベール父さんの形見のペンダントも無くしてしまったんでは、父さんに会えても、本当の息子だと証明することもできないじゃないか)
マルスは自分の頭を殴りつけたくなったが、いつまでもこうしてはいられないので、出発することにした。幸い、男たちが盗んだのは、弓とペンダントだけだったので、マルスは男たちの食べ残しのハムやパンやチーズを袋に目一杯詰め込んで、その家を出た。
家を出ようとした時、マルスの耳に、何かの鳴き声が聞こえた。
家の裏側の方だ。
マルスは家の裏側に回った。
そこには家畜小屋があり、そこに一頭の馬が繋がれていた。病気らしく、痩せこけた馬である。
マルスは飼い葉桶を見たが、桶には飼い葉は入ってなかった。病気ではなく、飢えているだけかも知れない。
マルスはその馬を連れて行くことにした。誰の馬かは知らないが、ここに置いていても飢え死にさせるだけだろう。
元気の無い馬の歩調に合わせて、マルスはぶらぶらと歩いていった。馬は途中で何度も立ち止まり、道端の草を食べたが、マルスはその度に馬が食べ終わるまで辛抱強く待った。
馬は特に手綱を付けなくても、逃げる様子は無かった。というより、逃げる気力も無かったのかもしれない。
マルスは、灰色のこのみすぼらしい馬にグレイと名づけた。
グレイは自分の新しい名を理解しているらしく、半日も旅するうちに、呼ばれるとゆっくりとマルスのところにやってくるようになった。
バルミアまであとどのくらいなのか、マルスには分からなかったが、少なくともあと二、三日では着くだろうと思われた。街道を通る人の数が増えてきたことからそう考えたのである。とはいっても、半日に一人か二人、あるいは何人かで連れ立って旅する集団に出会うだけだが。そのほとんどは行商人かジプシーである。すれ違う人々は、馬を連れながら、馬に乗らず、荷物も自分で持って歩いているマルスを珍しげに見て、
「そんなに馬が可愛けりゃあ、いっそ、馬を背中におぶっちゃあどうだい」
などと、嘲笑の声をかけたりした。
街道は、ある森の中を通っていた。マルスは道から離れて、弓を作るのに都合のいい木を探した。硬くて折れにくく、弾力性のある木の枝が理想的である。
しばらく探すと、マルスの希望にぴったりの木が見つかった。マルスはその木の一番いい枝をナイフで切り取った。硬くて、切るのに難渋したが、これくらいでないと、いい弓はできない。まずは、無駄な小枝を払い落とし、一本の棒にする。
その時、誰かの悲鳴が聞こえた。女の声のようだが、助けを求めているらしい。
マルスは枝を手にしたまま、声のした方に走った。
街道に戻ると、そこが騒ぎの場所だった。五人の盗賊が、三人の旅人を脅しているところらしい。
盗賊たちはそれぞれ剣を手にして、それを旅人たちにつきつけている。旅人たちは家族らしい。中年の男と、その妻らしい中年の女、それに娘らしい若い女が、すっかり怯えて竦んでいた。
盗賊は、旅人たちの服まで奪うつもりらしく、服を脱げと言われたのに娘が従わないので、脅されている、といったところのようだ。
「おい、盗賊ども。俺が相手だ」
突然林の中から現れたマルスに盗賊たちは一瞬慌てたが、相手が一人と知って、大した事は無いと判断したようだった。
「若いの、いい度胸だが、俺達の邪魔をする奴は生かしちゃおけねえ」
髭面の盗賊たちは、剣を振り上げて、マルスに向かってきた。
マルスの手にしているのは、先ほど切り取った木の枝である。長さはおよそ四尺、長さだけなら盗賊たちの三尺の剣より有利である。
向かってきた盗賊の頭や肩に、マルスは手にした棒を叩きつけた。盗賊のうち二人は地面に倒れて気絶し、残る三人はさすがに慎重になった。
だが、いかに喧嘩慣れした盗賊とはいえ、狼や猪などの野生の獣を相手にしてきたマルスの目からは、のんびりした動作でしかない。殺到する三人の剣を余裕をもってかわしながら、その腕や頭を棒で打ち据える。盗賊たちはマルスの足元にうずくまり、あるいは横たわった。マルスは、彼らの体の側に近づいて生死を確かめた。
五人の盗賊のうち二人は既に死んでいたので、穴を掘って道のそばに埋め、残る三人は、息を吹き返した後で、両手の親指と小指をへし折って釈放した。残酷に思える処置だが、今後、武器を手にして悪事を働くことができないようにするためである。これは凶悪な人間への、マルスたちの仲間の裁き方であった。
「なんとお強い若者だろう。このお礼はなんと申してよいか」
マルスに助けられた旅人はしきりに頭を下げた。
「どうかお名前をお教えください」
娘に言われて、マルスは名を名乗った。
「バルミアまで行かれるのですか? それなら私たちもご一緒させてください。バルミアには私たちの家がありますから、そこでゆっくりとお礼を申し上げたいと思います」
懇切な申し出にマルスは断りきれず、この旅の家族と一緒にバルミアまで行くことにした。
私は「王様ランキング」は人から貰ったので読んだが、第一巻で挫折した口だ。かなり売れた作品のようで、なぜそれが売れたかのほうが興味がある。これは、たとえば「キン肉マン」などにも言えることで、あの種の「幼稚な絵柄」を好む層が確実に大きなパーセンテージを占めており、逆に彼らは、「端正な絵柄」を嫌悪し、憎悪するようだ。まあ、前者は自分の不細工さを肯定してくれるからかww
もちろん、「幼稚な絵柄」とは言っても、同じキャラの顔や姿を一貫性を持って描けるのは、プロのレベルには達しているわけだ。問題は、話が面白いかどうかだが、私は、幼稚な絵柄の漫画はたいてい話もつまらない、という印象を持っている。たまには、絵だけは上手いが話を作る能力がない、という漫画家もいるが、一流漫画家は絵も上手く、話も面白いのが当たり前だ。そして、一流漫画家は、ほとんどが上質なユーモアセンスがある。これは、人間を見る時に基本になることで、つまり、人間を客観視できるということだろう。幼児的笑いとは別のものだ。
まあ、世の中のほとんどの人間に鑑賞力が無いなら、優れた作者は評価されない(売れない)というのは自然なことである。逆に、売れた一流作者とは、一種の奇跡かもしれない。
(以下「はてな匿名ダイアリー」から転載)
王様ランキングの作者は漫画家を目指すも何度も挫折し、40代になってから始めたweb連載でヒットして売れっ子になった
しかし家族が早くに死んで天涯孤独なことやブラック企業経験、また生来のものもあるかもしれないが、非常にネガティブで愚痴が多かった
そんな彼はやがて炎上する
王様ランキング内での民族対立描写が「朝鮮人への風刺」とされたからだ
作中に登場する貧乏国は、豊かな魔法国に支援されて窮状を脱した
しかし、魔法国が神国と戦争して負けると、貧乏国は神国の味方になり、「我々はずっと魔法国に搾取され虐げられていた」と言い出した
「貧乏国は韓国で、魔法国は日本」そう主張する人が右にも左にも多く出た
作者は韓国叩きの格好の材料を与えてくれる存在として右翼の神輿にされ、またネトウヨだと左翼から叩かれた
アニメの実況も「これ韓国じゃんwww」「かの国じゃんwww」と盛り上がっていた
作者は実在の国は関係なくフィクションだと何度も主張したが、「これ韓国www」も「作者はネトウヨ!」も止まらなかった
貧乏国の風景が昔の韓国の風景と似てたり、実際に類似は多く感じたが真実はわからん
作者の載せている部屋の写真が汚いことを理由に精神病認定、性的なニュアンスはないが子供が多く登場することで小児性愛者認定もあった
病んで連載は2021年で止まり、作者はとうとう中傷者の一人である女性を訴えた
訴訟中でも他の人による中傷は止まらず、またネットに強い有名弁護士を雇ったが弁護士とも対立していくようになった
中傷書き込みをできるだけ見たくなかったのに、証拠集めや反論文書などに目を通さなければいけず、ますます病んでいく
一人だけが叩いているのではなく、集団で悪口言って盛り上がっているので、書き込みを読みながら泣いていたという
相手女性は「いいねですら3件しかつかずRTは0なので作者の名誉は低下していない」と反論
だが、弁護士に依頼して証拠提出した段階では確かに3件だったが、開示請求して削除される寸前の時にはもっといいねが多かったしRTもあった
作者は「相手女性が嘘をついている」としていいね数の多いスクショを更に証拠として提出したがったが、
弁護士は「次回期日も迫っており、主張立証はすでにし尽くしているので更に証拠提出する必要はない」と返答
相手女性は泡沫アカウントなので、いいねやRTが多少増えたところで影響がないと弁護士は判断したようだが、作者は納得がいかない
メールで言い合いを続けた末に、弁護士は「信頼関係が損なわれた」として代理人から降りた
他の弁護士に変わり、出したがっていたいいねが多い証拠スクショも提出
結局最初の弁護士から通算して2年かけたのに、200万円の請求に対しわずかな額の支払い命令しか出なかった
途中で相手女性は50万円での和解を求めてきたが、それで折れたほうがまだマシなぐらいに安かった
最初の弁護士がダメなせいだったのではと作者は途中から女性よりも弁護士の方に怒り、
弁護士の実名を挙げて「最悪の弁護士」「無能」と批判する漫画を掲載
個人叩き漫画は危ういと判断され運営側に削除された
そんで今回の刑事告訴、書類送検へ
たとえば、デイジー、トム、ギャッツビーその他が車で分乗して都会に遊びに行く話の中で、ギャッツビーと同乗しているデイジーが、夫のトムに向かって、こんな冗談を言う。(自己戯画化という、かなり高度な冗談だ。)
We'll meet you on some corner. I'll be the man smoking two cigarettes.
私の持っている翻訳では、このジョークは、こう訳されている。
「じゃあ、街角でお会いしましょう。シガレットを二本くわえて待ってます」
もちろん、シガレットを二本くわえて、というのは「目印に」の意味で、いかにも喜劇的である。だが、夫のトムは、その冗談にいらだつだけである。この、ユーモア感覚の無さは、実はギャッツビーも同じで、おそらく下層階級出身の彼と上流階級出身のデイジーは、まともな会話が成り立たないと思う。トムも上流階級だが、趣味低劣の筋肉脳男である。つまり、デイジーは、夫とも、彼女を愛する男とも、知的に釣り合わないのである。この物語で一番不幸なのは、彼女だろう。
話の最初のあたりで、子供(娘)を産んだ時の話をデイジーがニック(話の語り手)に、こう言う。明らかに、彼女は不幸なのである。
「あのね、ニック、あの子が生まれて、私が何を言ったかというとーーーそんな話、聞きたい?」
「そりゃあ、もう」
「もし言ったら、私がどんなにひねくれたか、わかると思う。ーーー産後、一時間もたっていなかった。トムはどこかに行ったきり。私は麻酔から醒めて、投げやりな気分で、そばにいた看護婦に男の子か女の子か聞いたの。そしたら女の子ですって言われたから、横を向いて泣いたわ。それから、まあいいわ、と言った。女の子でいいわ。せいぜいバカな子になってほしい。女の子はバカがいいのよ。きれいなおバカさんが最高だわーーー」(小川高義訳)
ここで、デイジーが泣いたのは、「男の子がほしかった」からだと錯覚する読者がいると思うが、本当は、生まれた女の子の不幸な人生を予測したからなのである。だから、「女の子はバカがいいのよ」と言っているのである。それは、頭のいい女の子である自分の不幸を暗黙に語っている。
言うまでもないが、先の英文は「シガレットを二本口にくわえている『男』が私よ」と訳するのがより正確だろう。二重の自己戯画化だ。先の翻訳の「待ってます」は意訳(補足的訳)だが、それ自体は悪くない。
第二章 魔法使いロレンゾ
やがてその影はマルスの前で人の姿になった。
これまでマルスが見た事の無い、異様な身なりの男である。
年のころは六十過ぎと見えたが、長い髭は白いものの、血色の良い顔に逞しい体をしていて、並みの若者には負けない体力がありそうに見えた。
全身をすっぽり包むフード付きのマントで身を覆っており、顔以外はほとんど見えないのだが、杖を持った腕の太さから、その腕力の強さは分かる。
男は鋭い目つきで、じろりとマルスを見た。
「猟師のギルの息子、いや、オルランド家のジルベールの息子、マルスじゃな。そうか、お前がこの国を救う者となるのか」
男の言葉はマルスには何の事かさっぱり分からなかった。
「それはどういう事です? あなたは何者ですか? どうして僕のことを知ってるんですか?」
「お前には大事な使命がある。いずれその使命をお前は知るだろう。オルランド家に行くまでもない。あそこはすでにジルベールの弟のアンリが継いでおる。ジルベールはまだ生きておるが、お前と出会うのはずっと先だ。お前が自分の使命を果たしたら、ジルベールにも会えるだろう。わしの名はロレンゾ、いずれわしともまた会うはずだ。王宮に行くがよい。王室付きの占い師、カルーソーにわしの名を出せば、カルーソーが面倒を見てくれるだろう。この護符をお前にやろう。魔物の力が及ばなくなる護符だ。さあ、行け。今はこれ以上話すことはない」
そういうなり、ロレンゾと名乗った男の姿はマルスの前からふっと消えた。
マルスは男から渡された護符を見た。小さな羊皮紙に、青いインクで奇妙な模様と字が書いてあるが、文字を習ったことのないマルスには、何と書いてあるのか分からない。
マルスはその護符をペンダントの裏に収めて首に掛けた。
マルスは魔法使いを見たのは初めてだったが、そういう者がいることは知っていた。カザフの村にもいたが、幼稚な手品や、当てにならない占いをやる男で、魔法使いとはそういうものだろうとマルスは思っていた。だが、先ほどの男はカザフの「魔法使い」とは違っていた。人間が空中を滑るように走ったり、姿を消すのは初めて見た。しかも、初めて会ったマルスの素性をぴたりと言い当てた。世の中には不思議な者がいるものだとマルスは少々怖くなったが、相手は自分の味方のようだったので、その点は心強かった。
歩いているうちに、日がだんだんと夕暮れに近づいてきた。
野宿を覚悟で歩いていると、小さな山の麓に一軒の荒れた様子の小家があり、窓から明かりが漏れていたので、マルスはそこに一夜の宿を乞うことにした。
戸を叩くと、「入れ」と言う声が中からする。
マルスは戸を開けて、中を覗き込んだ。
暖かく火の燃えた暖炉を前に、二人の男が酒盛りをしている様子である。テーブルの上には大きな肉の塊やパンやチーズがたっぷりとある。マルスは思わず、唾を飲み込んだ。
二人の男は都会風の身なりをしていた。まだ若い感じで、一人は二十代後半、もう一人は十代後半で、マルスより三つ四つ年上という感じだったが、背はマルスより低そうだ。もっとも、椅子に腰掛けているので、正味の所は分からない。年上の方は、マルスよりも僅かに背が高い感じで、椅子にだらしなくもたれかかって暢気な顔でグラスを傾けている。
「お前は旅の者か? まあ、ここに来て一緒に一杯やろう」
年上の方が、マルスに声を掛けた。
暖炉に近づくと、自分の体が凍えきっていたのが分かる。
マルスは勧められたワインを有難く飲んだ。甘いワインが腹に落ちると、体が中から温まっていく。
「お前さんまだ若いのに、たった一人で旅してるのかい。その棒がお前さんの武器なら、少々頼りないな」
年上の男は、マルスが傍に立てかけた槍の柄を見て言った。槍の穂先は布に巻いて、袋の中に入っているのだが、特にマルスは説明しなかった。
男はテーブルの上の食べ物も食べろと言ってくれたので、マルスは大きな鳥の腿肉の炙ったものを手に取った。
「ちょっと、その弓を見せてみな。こいつはなかなかの代物だな。町で売れば五十リムにはなる。お前さんの手作りかね?」
「父のです」
「ふむ、どうだい、俺のこの剣と取り替えないか。この剣は、飾りだけでも百リムはするぜ。俺は弓には目がなくてな」
「すみませんが、父の形見なので」
「そうか。じゃあ、仕方ないな。おっと、言い遅れたが、俺はピエール、こいつはジャンだ」
「マルスといいます。酒と食事をどうも有難うございました」
「いいってことよ。旅は道連れ、世は情けってこった」
ピエールは鷹揚に言って笑った。
マルスはワインのせいで眠気がさし、二人の男より先に寝ることにした。
眼が覚めた時、あたりはまだ暗かったが、周りに人の気配は無かった。はっとマルスは胸に手をやったが、そこにペンダントはなかった。そして、枕もとに置いて寝た父の形見の弓も無くなっていたのであった。