広岡達郎を老害呼ばわりする馬鹿がネットには多いが、プロ野球のレジェンドとはまさに広岡を言うのであって、ほとんどゼロの状態から西武というチームを鍛えて常勝球団にし、セリーグでもヤクルトを二連覇させたのは、他のどの監督にもできなかったことだ。まあ、三原監督という存在くらいが比較の対象になるくらいである。
昨年の日本シリーズで4連敗の屈辱を味わった巨人の原監督がソフトバンクへのリベンジに挑む(写真・黒田史夫)
いよいよ今日21日から京セラドームで巨人対ソフトバンクの日本シリーズが開幕する。昨年ソフトバンクに日本シリーズで屈辱の4連敗を喫した原巨人にとってはリベンジの舞台。だが、巨人の大物OBの広岡達朗氏は「巨人はソフトバンクに歯が立たない」と、辛辣な予想をした上で「ソフトバンクに勝ってこそ、リーグ優勝、原の野球が評価される」と激辛の応援メッセージを投げかけた。巨人は第1戦の先発に開幕13連勝のプロ野球記録を樹立した菅野智之を送り、一方のソフトバンクの先発として最高防御率&最多勝&最多奪三振の”投手3冠”の千賀滉大の名前が発表された。
工藤監督率いるSBにあるガッツ
異例の日本シリーズが幕を開ける。11月21日に開幕するのはプロ野球史上“最遅”で 開幕が3か月遅れた影響で巨人の本拠地、東京ドームには先約の都市対抗野球があって使えず、大阪の京セラドームが使用されることになった。巨人は、毎年、京セラドームで本拠地ゲームを開催しており関西には阪神ファンの陰で“隠れ巨人ファン”も多く存在している。だが、新型コロナの感染予防のため、制限の多いホテル暮らしとなり本拠地アドバンテージとしては弱い。 チームは18日より大阪入りしており7戦を戦えば29日までの11泊12日の長期ロードとなる。またソフトバンクの提案により「投手の肉的的な負担と故障リスクを減らす」という目的で全試合にDH制が導入されることになった。DH制の野球に慣れているソフトバンクの方が有利とも考えられる。原監督にとってリベンジに挑む条件は厳しい。 巨人OBで元ヤクルト、西武監督の広岡達朗氏は、「巨人はソフトバンクに歯が立たないだろう」との厳しい見解を持つ。 「巨人は昨年の日本選手権(日本シリーズ)でもソフトバンクにひとつも勝てなかった。今年も、ソフトバンクは走攻守が一致し、何しろ工藤が率いるチームにガッツがある。巨人がどこまでやれるか。10月の戦いを見る限り、歯が立たないだろう。下馬評を覆し、原巨人が日本選手権の座を取ったときに、はじめて原の野球というものを評価したいと思っている」
そして、広岡氏は、こう続けた。 「巨人が勝てるとすれば菅野だけ。2戦目、3戦目の先発投手の名前がすっと出てこない。初戦で菅野が負ければ、また4連敗もありえる。一方のソフトバンクは若い投手がどんどん出てきている。ブルペンも含め投手力が違う。クライマックスシリーズでは2試合ともにロッテに逆転勝利。粘り強さと共にポストシーズンの野球の経験値の差も見せた。試合勘という意味でも直前までCSを戦ってきたソフトバンクが有利だろう」 巨人は第1戦にエースの菅野、第2戦には、今季5勝2敗、防御率3.16の今村信貴、福岡に場所を移してからは8勝4敗、防御率3.08のサンチェス、新人王候補の戸郷翔征、4勝4敗、防御率2.88の畠世周を投入する予定。一方のソフトバンクは菅野にエースの千賀をぶつける。第2戦に予定していた東浜巨は右肩のアクシデントで登録を外れたが、最多勝の石川柊太、CSの第3戦で先発予定だった今季8勝1敗、防御率2.94のベテラン左腕、和田毅、6勝3敗、防御率.2.65のムーアと、防御率2点台の先発が4人もいて、東浜の代役にはバンデンハークを緊急昇格させた。 ブルペン陣も巨人はセットアッパーの中川皓太が脇腹痛の離脱からようやく間に合ったという状況で、今季17セーブのデラロサも絶対的な守護神ではない。一方のソフトバンクは、モイネロ、森唯斗の後ろの2枚は鉄壁だ。
さらに広岡氏は、「キャッチャーの力が違う。今年のソフトバンクを引っ張ったのは甲斐だ。盗塁阻止は言うまでもなく必死に取り組む姿勢を見せ、若い投手陣を正しいリードで引っ張り、信頼が厚い。巨人は、大城を使うのだろうが、打力優先の起用で、フィールド内のリーダーにはなり得ない。この差が短期決戦では如実に出るだろう」と捕手力の違いを指摘した。 甲斐拓也はロッテとのCSの初戦でも巧みなリードで千賀の粘投を引き出し、決勝のタイムリー内野安打を放ってヒーローになった。“甲斐キャノン”は、巨人の最終兵器である増田大輝の足を封じ込めるだろう。一方の巨人の捕手は大城卓三が主戦で場合によってはベテランの炭谷銀仁朗を使うだろうが、ソフトバンクの周東佑京の足に引っ掻き回されるかもしれない。 ソフトバンクのリーグ優勝は10月27日。一方の巨人の優勝は3日後の10月30日だった。マジックを先に点灯したのは巨人だったが、ゴール寸前に5連敗するなど足踏みし、対照的に12連勝の猛チャージをかけたソフトバンクに先を越された。 広岡氏は、そこに巨人の“甘さ”が秘められているという。 「シーズン終盤の戦い方を見てみなさい。ソフトバンクは一気に決めた。対して巨人はマジックを出しながらも足踏みした。ここに差がある。優勝を前にした連敗の理由は、コーチに知恵がなく、本当のチームリーダーがチームにいなかったということ。つまり、そこが他所から選手を取って勝っているチームの持つ弱さだ。本来なら坂本が引っ張らねばならないが、目立ったのは広島から来た丸だった。ずっと声を大にしているが、生え抜きを育てて勝たなければ、原に優勝監督としての評価はない」 2年連続のリーグ優勝を遂げた巨人のチーム防御率、得点、本塁打、盗塁はいずれもリーグトップだ。原監督は“GM監督”として積極的にシーズン中のトレードを仕掛け、楽天から加入した高梨雄平、ウィーラーらが活躍、“投手増田”など数々の戦術も繰り出した。だが、広岡氏は、丸佳浩や炭谷、中島宏之らの資金力にモノを言わせた補強が気にいらない。
またリーグ優勝に関しては巨人の強さというよりも他球団のふがいなさを嘆いた。 「他球団がふがいなかっただけだ。決して巨人が強いとは言えなかった。特に情けないのが阪神と横浜DeNA。今更、阪神の引き分けを挟んでの6連勝なんてまったく意味がない。むしろ、それだけの戦力があるのに矢野は何をやっていたのか、ということ。原と他の監督との力の差が歴然と出ただけ。原のやった野球を評価するのはまだ早い」 とはいえ投打に生え抜きの若手が出てきたことも事実としてある。野手では4番の岡本和真が本塁打&打点の2冠。脇役だが、吉川尚輝、松原聖弥の1、2番コンビも定着。若林晃弘や足のスペシャリストの増田らも躍動した。投手では2年目の戸郷が新人王争いをする9勝6敗の数字を残し、中継ぎでは5年目の中川が勝利方程式の一角を担い、4年目の変則左腕の大江竜聖もワンポイントとして43試合に登板して9ホールドをマークした。 その部分は広岡氏も認めている。 「吉川尚、若林、松原といった若手が出てきた。育成出身の松原はスピードがあっていい選手だ。こういう素材は、熱いうちにもっと叩かねばならない。古い話で恐縮だが、川上さんの時代には、王、長嶋というリーダーがいたが、一方で、柴田、土井、高田らのレギュラー陣を厳しい練習によって育てた。彼ら若手を後々、名前も記録も残すような選手に育ててこそ育成と言えるのだ」 原監督の通算9度目のリーグ制覇は、故・川上哲治氏の11度に次ぐ球団記録。9月11日のヤクルト戦では、川上氏の通算1066勝を超える1067勝目を挙げ、巨人監督として最多勝利監督になった。しかし、広岡氏は「生え抜きを育てる」という部分では、川上氏に追いついていないと言うのだ。 日本シリーズが原巨人の“真の強さ”を試される舞台となることは間違いない。11月の戦いを終えたあと、広岡氏の原巨人への評価は、どう変わっているのだろうか。 (文責・駒沢悟/スポーツライター)