<イースタンリーグ:日本ハム3-2楽天>◇10日◇鎌ケ谷


早朝からU18W杯の高校日本代表の試合をチェックし、昼からは2軍戦に足を運ぶ。精力的に取材する田村藤夫氏(62)は、日本ハムのドラフト1位・高卒ルーキー達孝太投手(18=天理)の突然乱れたピッチングに、驚きを隠せない。


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先発した達は素晴らしい立ち上がりだった。真っすぐは最速148キロ。力強さもあり、空振りも取れている。基本は真っすぐ。その真っすぐで空振りが取れるのは、本当に力がある証拠だ。そしてフォークは低めに決まり、これも空振りを奪える。真っすぐとフォークの腕の振りが同じで、これが空振りを取れる要因だと感じた。球威十分の真っすぐと、落差あるフォークの組み合わせ。194センチとスケールも大きい達によく映える。


1回、2回を3者凡退。これは5回くらいまでどんなピッチングが見られるかなと期待していた。それがもろくも3回に暗転していく。先頭の安田に四球を与える。それも初球真っすぐで空振り、2球目フォークで空振りと、申し分ない攻めのピッチングをしていながらだ。


3球目にインコース真っすぐのボール球で1-2。4球目のフォークを安田が見逃したところから雲行きが怪しくなってきた。マウンド上の達の顔色までははっきりと分からなかったが「アレッ」という雰囲気は伝わってきた。5球目のフォークもボール。フルカウントから6球目が外れて四球。


それでもまだまだここからだと見ていると、途端に腕が振れなくなってきた。走者一塁。クイックになると、真っすぐは142~43キロ。クイックでこうも変わってしまうのかと、驚きを禁じ得ない。1回、2回まではノーワインドアップから、ゆっくり足を上げ、自分のリズムで腕を振り、素晴らしいボールを投げていた。それが、走者を背負うと、ほんのわずかな部分に端を発し、次々と歯車が狂っていくようだ。


3回だけで3四球を与え、1点を失った。素晴らしかった真っすぐは影を潜め高めに浮き出し、低めに決まっていたフォークはワンバウンドになった。2回までに2球を投げていたスライダーは、達自身が制球に自信を持てないのか、捕手が要求しないのか、3回は1球も投げない。


クイックになっていろんなものがズレてしまったことが乱調の要因ではあるが、困った時のカウント球がない。これも何度も指摘してきたことだが、プロの投手は困った時のカウント球を変化球で2つ以上は持っていないと苦しい。


この試合で7回から登板したドラフト7位高卒ルーキー松浦慶斗投手(19=大阪桐蔭)も、最速150キロをマークしながら、フォーク、チェンジアップ、カットボールの精度が苦しく、真っすぐばかりの投球になって崩れた。変化球でのカウント球を持つことの重要性が、この有望な高卒ルーキー2人には現実的な課題として突きつけられている。


他球団の編成がいたのでいろいろ情報を教えてもらったが、達はここのところの登板では四球が絡むとピッチングが乱れる傾向にある。それは、この日のピッチングで分かったように、変化球でのカウント球がないことが挙げられ、さらにその根本的な課題としてセットポジション、クイック時のピッチングに本人が苦手意識を抱えていることが考えられる。


1軍の主力投手でもクイックになれば球威は若干落ちる。その差を少なくできる投手が1軍でも勝てる投手へと飛躍していく。ならば、クイックをせざるを得ない状況になってから苦しむのではなく、あえてクイックが必要ではない状況でも、自分の発案としてクイックを使い、克服へのひとつのやり方にするのも試行錯誤のうちだ。


本来、先発投手は立ち上がりに制球を乱し、苦しむケースが多い。達のように見事な立ち上がりができる投手は非常に有望だ。松浦も同じだが、何よりも力のある真っすぐを持っているという点で、投手としての太い幹を備えている。太い幹があれば、ここから枝葉を確実に広げていけば、大きく成長して行ける。


クイックへの苦手意識、カウント球がないことへの不安、これらは乗り越えていける試練だ。力のある真っすぐはひとつの才能で、それは選ばれた投手にしかない武器。その武器を持っていることをよく理解して、目の前のハードルをひとつずつ、いろんなやり方を試しながら、少しずつでいいから打開してもらいたい。(日刊スポーツ評論家)