優勝の一番の立役者は、花咲徳栄の捕手、須永のリードだろう。準決勝の試合を見ていたら、綱脇があそこまで広陵打線と中村を抑えるとはほとんど誰も予想しなかっただろう。しかし、綱脇は、低めへのコントロールという点では今大会有数の投手であり、この結果はそれほど不思議ではない。逆に、広陵の中村のリードは花咲徳栄のようにコツコツ当ててくる打線には合っていなかったと思う。中村の心に、スター扱いされたことで自惚れが生まれたのか、リードがどことなく不自然で、これまでのようにストライク先行の配球ではなく、平元が首を振る場面も多かった。それに、ランナーが出ると盗塁を刺すことばかりに気が行って、ボール球を要求し、投手不利のカウントにしてしまう場面も数回あった。
なお、広陵の一番の敗因は監督采配にあると思う。「地味だが試合を作るのが上手い軟投派」の山本を先発させず、速球派の平元を先発させたために、試合前半でその球に慣れた花咲徳栄打線は救援の山本の球も容易に打ち込めたわけだ。そして、ここまで一番打率が低い選手を4番で先発させたこと。そのために1回裏の1死2,3塁の好機(追いつき追い越すチャンス)が無得点に終わり、最初から大きなハンディ付の試合になってしまった。先発で出した選手の中で守備のミスをした選手が多かったのも起用ミスではないかと思う。後から出てきた選手たちが打撃でも守備でもいいプレーをしたのだから、私の意見が結果論に見えても、先発メンバーの人選ミスだろうと私は思う。
一度流れが相手側に大きく傾いた試合をひっくり返すのは難しい。前半で平元があれほど失点してしまったのでは、浮足立った高校生たちがエラーをし、打撃でもあせって好結果を残せないのは当然である。その中で3安打した中村はさすがであるが、「捕手としての仕事はダメだった」「守備の要の捕手としては、須永に負けた」ということである。
なお、私が中村の「スター意識」「自惚れ」を感じたのは、試合前の彼の談話の内容からだが、まあ、彼のような立場に立った高校生なら無理からぬことである。あれほどの活躍をし、マスコミに取り上げられた若者が舞い上がるのは当然だが、野球は一人ではできない。広陵の他の選手たちが「俺も俺も」という気分になり、地に足がつかないプレーをしたのは、中村の華々しい活躍のせいであり、中村に集まった注目が広陵というチーム自体の足を引っ張ったわけだ。これは江川の作新学院でも起こったことである。
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- 宿舎でリラックスしたポーズを見せ優勝を祝う花咲徳栄ナイン(撮影・加藤哉)
<全国高校野球選手権:花咲徳栄14-4広陵>◇23日◇決勝
花咲徳栄は初の決勝で参加3839校の頂点に立った。初戦から全6試合2桁安打の16安打14得点の猛攻で、埼玉県勢としても悲願の初優勝となった。
選手のおもなコメントは以下の通り。
花咲徳栄・綱脇(全6試合に先発)「今までやってきたことを信じて投げた。ピンチでも1点に食い止められたことがよかった」
花咲徳栄・清水(5回途中から好救援)「一生記憶に残る忘れられない大会になった。真っすぐ中心に力で押せた」
花咲徳栄・須永(中村に3安打も2三振を奪うリード)「日本一しか目指していなかった。(広陵の中村は)緩急に弱いと感じたのでスライダーを多めに使った」
花咲徳栄・千丸主将(3回戦敗退の昨夏も主力)「先輩たちの悔しい思いを見てきたので、自分たちこそは日本一と思ってやってきた。優勝できて、ほっとした」
花咲徳栄・岩瀬「つないで、つないでという野球が貫けた」
花咲徳栄・西川(4打点の活躍)「目標としていた日本一になれてうれしい。全員でつかんだ優勝だと思う」
花咲徳栄・太刀岡中堅手(1番で1回に先制点につながる中前打)「1回に(塁に)出て得点になった形が多い。何としても出るという気持ちだった」
花咲徳栄・小川右翼手「常にプレッシャーとの戦いで苦しい場面もあったが、それを乗り越えられた。最高にうれしい」