ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第二十四章 アスカルファンへの帰還
自軍の飲料水の大半が、夜の間に何者かに捨てられた事を知ったデロスは激怒した。
見張りの兵士はそれぞれ鞭打ち二十回ずつの処罰をしたが、失われた水は取り戻せない。
それよりもさらにデロスを怒らせたのは、自軍兵士の中に数日後、疫病が発生し、それが同じ夜に食料に何かを入れられたからだと知った事だった。
「なぜ、食料に異常がないか調べぬ。糧秣隊の班長は何と言っておるのだ」
「はっ、食料が水浸しになり、厭な臭いがしている事は分かってましたが、あまりにも大量の被害なので、捨てたらお叱りがあるかと思い、兵たちに食わせたそうです」
「わしたちの物も同じか」
「いえ、高級将校のお食事は、被害の無かった馬車の食料から作ったそうです」
「愚か者め。同じ物を出していたら、もっと早く異常に気付いて、被害を少なくできたものを」
デロスが調べさせると、疫病にかかった兵士の数は一万人以上で、まだ増えそうだという事であった。そして、水の残りは、あと十日の行程に対して、七日分しか無かった。
「疫病にかかった者は、皆、この近くで休養させるがよい。但し、異常の無い者は、全員このまま行軍する。看護は残った者同士でするがよい。水と食料は半分に分けて一つは病人どもに残す。先に行く連中は、三日ほどは飲まず食わずになるが、なあに、砂漠にも多少は水もあるし、草もある。草の根でも噛んで水分を補給すればよい。病気の者は、歩けるようになったらダンガルに向かい、そこでゆっくり休養しておけ。戦が長期戦になったら、その者たちにも出番はあるだろう」
一万人の病人を背後に残し、デロスたちはさらに西海岸に向かった。しかし、その後も患者の数は増え続け、ボワロン北西部の海岸に到着した時には、疫病による死者が三千人、重態の患者が二万人に上っており、軽い患者も五万人近くいた。
マルスたちは、自分たちのした事がこれほどの効果をもたらしたことは知らなかった。
グリセリード軍の水と食料を台無しにした後、夜警に発見されそうになった二人はロレンゾたちの所に逃げ戻り、そのまま大急ぎで出発したのであった。
病人などのせいで行軍の速度の落ちたグリセリード軍よりはるかに早い速度で進んだマルスたちは、それから四日後にはボワロンの北西海岸に着き、そこから小船でアスカルファンに向かっていた。
アスカルファンに着いた一行は、マルスはまずケインの家に、マチルダはロレンゾと共に自分の屋敷に行って、無事な顔を見せたが、ピエールとヤクシーはそのまま宿に残って、長旅の疲れを癒し、風呂の後は、思い切り贅沢な食事と高価な酒を楽しんだのであった。
「いやあ、とにかく無事でよかった。だが、お前、ずいぶん真っ黒になっちまったなあ」
オズモンドに言われたマチルダは、笑って言った。
「あら、これは変装よ。グリセリード人に化けてたの。ねえ」
マチルダは同意を求めて、自分の保護者然と構えているロレンゾを振り返ったが、ロレンゾは首を横に振って言った。
「あの塗料の効き目は数日間だけじゃよ。それは本物の日焼けじゃ」
マチルダは気を失った。
ロレンゾからグリセリード軍の侵攻の話を聞いたオズモンドは、翌日、国王にその報告をした。
オズモンドの報告で、宮廷は上を下への大騒ぎになったが、例によって、重臣たちは、自分こそが総大将になってグリセリード軍に立ち向かいましょう、王様は大船に乗った気持ちでいてください、と大言壮語したりしている。こうした口先の英雄が戦場でまともに働いた例は無いのだが、それでシャルル国王はすっかり安心したようである。
「レントへの救援の依頼は必要ありませんか?」
「まあ、その必要は無いと思うが、わが国への脅威はレントへの脅威でもあるから、レントも一緒に戦いたいであろう。唇滅べば歯が寒い、と言うでな」
対グリセリード軍の総大将に決まったジルベルト公爵が偉そうに言った。
すぐさま、国王からの親書を持って、オズモンドはレントに向かった。
ロレンゾは宮廷に旧友のカルーソーを訪ねていた。賢者の書の解読を依頼するためである。
懐かしげにロレンゾを迎えたカルーソーだが、賢者の書を見て眉をひそめた。
「古代パーリ語か。これはまた難しい物を持ってきたな」
「お主でも無理か」
「まあな。やはり、パーリの人間でないとな。その、ヤクシーという娘はパーリの人間なら、少しは読めるのではないか?」
「それが、その娘は学問嫌いで武術しかしなかったというのでな。パーリの文字もろくろく読めんのじゃよ」
「王家の娘といってもそんなものかの」
「女には教育などしないのが、やはり普通じゃろう」
「しかし、その娘は、自分でも気付かない力を持っているかもしれんぞ」
「なぜそう思う?」
「お主らが魔物の襲撃を受けなくなったのは、その娘が仲間に加わってからじゃろう?」
あっとロレンゾは思った。灯台下暗しとはこの事か。
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