ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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P R
カウンター
第二十章 宝物室
マチルダは、向こう側とこちら側の鉄輪に結び付けられたロープに手を掛け、横壁の石組みの僅かな出っ張りに足先を載せた。穴の上に一歩を踏み出すと、ロープはマチルダの体重が掛かって、大きく撓んだ。
「きゃああっ」
マチルダは悲鳴を上げた。
マチルダの体は反り返り、ほとんど穴の上に落ちかかっている。
「大丈夫か?」
マルスが声を掛ける。
「だ、大丈夫よ」
そう答えたものの、声はほとんど裏返っている。
しかし、勇気を奮い起こして、マチルダは一歩ずつ向こう側ににじり寄っていった。
ようやく、反対側の床まで、あと五十センチというところまで来た時には、一同安堵の吐息をついたものである。
その時、ロープを結び付けていた矢が、音を立てて折れた。
「きゃっ!」
マチルダは落ちながら咄嗟に手を伸ばして、反対側の床を掴んだ。
床にぶら下がったマチルダが、何とか自力で上に上ったのを見て、真っ青になっていたマルスは胸を撫で下ろした。
手元に手繰り寄せたロープを二重にして補強した後、重石をつけて、もう一度マチルダのところに投げて輪に結びつけ、残りの連中も渡り終える。
「こんな苦労をして、何の収穫も無かったなんて言ったら、承知しないわよ。大体、こんな所に入ろうなんて言ったのはあんたなんですからね」
先ほど命を失いかけた憤懣を、マチルダはピエールにぶつけている。
「大丈夫だって。なにせ王の墓だぜ」
ピエールの頭はもはや目の前の宝の事で一杯である。
穴を越えた所には、深い暗がりが広がっていた。
黴臭い匂いと、妙な薬の匂いが混ざり、冷気が漂っている。
「まだ先があるのかな?」
ピエールは首を捻った。
その時、闇の中から無気味な声が響いてきた。
人間の言葉だが、聞いた事の無い言葉である。それは明らかに何かを警告していた。
こんな墓の中で人の声がした事に、一同は震え上がった。
闇の中に一つの姿が現れた。
燐光に包まれたその姿は、体中を白布でぐるぐる巻いた、ミイラの姿であった。
両手を上に上げ、ゆっくりとした足取りで、それはマルスたちのところに近づいてくる。
あの奇妙な薬の匂いが一層強くなった。
ミイラが両手をさらに上に振り上げた時、それが彼らを襲う意思を持っている事がはっきりした。
ピエールは後ろに飛びすさって、ミイラの手の一撃を避けた。
ゆっくりとした動作に見えるが、思ったより威力のありそうな一撃である。
マルスは、腰の剣を抜いてミイラに切りかかった。闇の中でもなお青く輝くガーディアンは、ミイラの体を斜めに断ち切った。
床に崩れ落ちたミイラは、体を巻いた布以外は、ほとんど灰のような物質に変わった。
「見かけは凄いが、案外弱い奴だな」
ピエールが言った。
「魔法の剣、ガーディアンの威力じゃよ」
剣の作成者、ロレンゾが自慢気に注釈する。
広間の先には、石壁にはめ込まれた一つの鉄の扉があった。
扉には鍵がかかっていたが、ピエールが、持っていた太い針金で少し探ると、簡単に開いた。
扉を開けると、そこが宝物室だった。
頭上には小さな明り取りの穴があるらしく、ぼんやりとした光が差し込んでいる。その光の中に、眩いばかりの黄金の装飾品が所狭しと並べられ、中央の台座には王のものらしい黄金の棺が安置されていた。
「やった、やった。お宝だぜ!」
ピエールが歓声を上げた。
「これだけあれば、一つの国を買い取ることだってできるぜ」
はしゃぐピエールをロレンゾがたしなめた。
「いくら金があっても、この世が悪魔に支配されたら、使い道はないぞ」
「なあに、悪魔だって金で買収してやるさ。地獄の沙汰も金次第ってな。はは」
しかし、たった五人で持ち出せる金には限度があるので、五人はそれぞれかさばらないが高価そうな装飾品を二、三個ずつだけ持って、外に出ることにした。
「魔法の書や道具などはなさそうじゃな」
ロレンゾは残念そうに言った。
「これはどうですか」
マルスが差し出したのは、一本の金属の杖だった。黄金の握りがついていることと、奇妙な文字が掘り込まれていることが、目に付いたのである。
「ほう、よく見つけたな」
ロレンゾは言って、その杖を調べ、首を捻って言った。
「よく分からんが、只の杖ではなさそうだ。持って行こう」
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