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ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第26章 見張り

だが、レイチェル号と遭ってから二日、三日と経っても、白鯨は姿を見せなかった。
エイハブはもはや自分の寝室で寝るのをやめ、甲板上で一日のすべてを過ごした。おそらく、立ったまままどろむ以外には、寝てすらいなかっただろう。彼はこのまま白鯨を見逃してしまうことを、それほど恐れていたのである。
彼の傍には、ずっとフェデラーが、その薄気味悪い姿を見せていた。彼もまた、白鯨へのエイハブの執念を我がものとしたかのように、寝ることもなくエイハブの影のように動いていたのであった。
エイハブは、とうとう見張り台の上に自ら立つことにした。彼はそのために独特な仕掛けを作らせた。メインマストの上の滑車から下ろした縄に大きな籠を結びつけ、それに乗ってマストの上に上がるのである。こうして、彼は昼の間中自ら見張りに立って、憎い白鯨を決して見逃すまいとしたのであった。


第27章 追跡・第一日

その夜、エイハブは、いつものように昇降口に寄りかかって僅かな休息を取っていたが、突然、ある匂いを嗅ぎ付けて、がばっと身を起こした。
「鯨の匂いがするぞ!」
たちまち、全員が叩き起こされ、三つのマストにはそれぞれ見張り番が上がった。メインマストには、もちろんエイハブ自身が上がったのである。
三人は、ほとんど同時に声を上げた。
「潮噴きだ、潮噴いとる、モゥビィ・ディックじゃあ! ついに出たぞ!」
はるか彼方の海に、今しも昇り始めた朝日に照らされながら、高々と潮を噴き上げているのが、かのモゥビィ・ディックであった。
甲板上の我々も、この名高い鯨を一目見ようと、我先にと舷側に集まった。
「スターバック、君は船に残れ。本船を守るんじゃ」
エイハブは、スターバックに命令した。スターバックは意表を突かれたような顔になった。
「しかし、船長……」
「これは命令じゃ。わしが貴奴めにやられたら、君が指揮を執って皆を無事に故郷に帰してやるんじゃぞ」
思いがけないエイハブの配慮に、スターバックは言葉を詰まらせた。
「短艇を下ろせ!」
すぐさま三つの短艇が下ろされ、エイハブの舟を先頭に、白鯨の追跡が始まった。しかし、スターバックの乗組員たる私は、この追跡の有様を、空しく本船の上から眺めているばかりであった。
従って、これから書くことは、後で本船に戻ってきた水夫たちの口から僅かに聞き取った事に、本船上から目撃した情景を加え、さらに幾分の想像を交えて書いたものと思って欲しい。
エイハブの舟は、猛然と白鯨を追っていったが、白鯨は追跡者の存在も知らぬげに悠然と泳いでいた。そして、頭をゆるやかに高く海面上に持ち上げたかと思うと、たちまち水中にその巨体を没したのであった。
三隻の舟は、白鯨が身を沈めた後の大きな渦の周りに集まり、白鯨が再び姿を現すのを待った。だが、ああ、何ということだろう! 白鯨が再び姿を現した時、それはまさしくエイハブの舟の真下だったのである。まるで、この舟こそが自分を狙う当の相手だと知っていたかのようではないか。
エイハブは、自らの舟の真下に、小さな白い点が現れ、それが急速に沸きのぼってくるのを見た。それが白鯨であることを知った時には、いかに豪胆なエイハブといえども、心臓を氷の手で掴まれたような気持ちであったに違いない。
エイハブは、舵を大きくひねって舟を旋回させ、この恐るべき敵の顎から逃れようと試みた。しかも、その手には、あの銛を握り、宿敵と刺し違えんと構えたのであった。
しかし、モゥビィ・ディックは、この舟の動きを知っていたかのように、機敏に方向を変え、舟を追いながら大きく口を開いた。
今や、海上に現れた白鯨の大顎は、エイハブの舟を両側から挟むように咥えていた。エイハブには、モゥビィ・ディックの真珠色の口蓋まで見えていただろう。
白鯨は、まるでわざとのように、二、三度口をもぐもぐと動かして、咀嚼した。小舟の舷側はみしみしと撓み、やがて二つに折れた。エイハブらは海に投げ出され、あるいは自ら飛び込んで、鯨の顎から逃れた。
白鯨は、短艇をへし折った事で満足したかのように、悠々と泳ぎ去った。
スタッブの舟に救助されたエイハブは、本船に戻るやいなや、白鯨の追跡を命じた。他の短艇も収容され、すぐさま船は白鯨の後を追ったが、もはや日はほとんど暮れ、白鯨の逃げた方向へと船を向かわせることで満足するしかなかったのである。


第28章 追跡・第二日


翌日、白鯨を再び発見するまでのエイハブの焦燥は、いかばかりのものだっただろう。もしかして、このまま白鯨を見失い、この一年の労苦が無駄になるとしたら?
しかし、神への、あるいは悪魔への祈りが通じたのか、白鯨はやがて我々の前に再びその純白の姿を現した。

今や、エイハブの執念を我が物としているピークォド号の乗組員たちは皆、歓声を上げた。
一マイルの彼方に姿を現した白鯨は、まるでその姿を我々にもっとよく見せてやろうとでもいうかのように、雄大な跳躍をしてみせた。あの巨体が、完全に海上十フィート以上の高さに離れ、その全身が見えたのである。
「よしよし、わしをからかっておるな。だが、貴様の悪ふざけもこれまでだ。今日こそは、貴様がこの世とおさらばする日だぞ」
忌々しげに、エイハブは呟いた。
エイハブの命令で、予備の短艇も含め、三つの短艇が下ろされた。
だが、ピークォド号の姿を認めた白鯨は、何と、自分からその三つの短艇に向かって進んできたのである。
三つの短艇からは、銛と槍が雨あられと投げられた。そして、その中の数本は、確かに白鯨の体に刺さった。しかし、モゥビィ・ディックは、何の痛痒も感じないかのように、自らに刺さった銛のロープを引っ張って、逆に三つの短艇を引きずり回したのである。
エイハブは、三つの小舟が衝突する危険を感じ、もつれにもつれたロープを咄嗟にナイフで切って難を逃れた。だが、残る二つの舟は、白鯨の巧みな動きによって、ぶつけ合わされたのであった。
スタッブもフラスクも、舟を木っ端みじんにされて、海に落ちた。
海に潜り込んだ白鯨は、海面に上昇しながら、残るエイハブの舟を突き上げ、これも転覆させた。
かくして、二度目の戦いも人間の完全な敗北に終わり、本船は海に漂う水夫たちを救助した。
本船に救い上げられたエイハブは、船の乗員全員を呼び集め、いない者がないかどうか確かめた。
「フェデラーがいません」
スターバックの言葉に、エイハブはうろたえた表情になった。
「何を? 馬鹿な、そんなはずはない。よく探してみろ!」
エイハブの命令で、船じゅうが捜索されたが、やはりフェデラーの姿は見当たらなかった。
「ねえ、船長。あんたの舟の索に絡まっちまって、奴が吹っ飛んでいくのを、俺、見たような気がするんですがね」
スタッブの言葉に、老人は黙り込んだ。
「奴が死んだだと? そうか、わしの地獄行きの水先案内をしようというのだな? よかろう、だが、少し待ってろ、お前に会う前に、わしは白鯨を倒さねばならんからな……」
エイハブの言葉に、スターバックが青ざめた顔で進み出た。
「船長、もうこんな事はやめましょう。これは神意に背いているのです。二日追って、二度とも舟を粉々に打ち砕かれた。あなたは、これ以上何を望むのです? この船の全員を破滅させるまで、この復讐劇をやめないのですか?」
「スターバックよ、他の事なら何でも君の言うことを聞こう。だが、白鯨に関する限り、わしに何を言っても無駄だ。このわしの心はな、あいつに痛めつけられれば痛めつけられるほど、憎しみで燃え上がるのだ。もしも、わしをやめさせようと思うなら、わしを殺すしかない。……だが、あと一日、あと一日わしに貸してくれ。あいつも決して無傷ではない。もう一太刀くれれば、あいつを倒せる、わしにはそう思えるのだ」
スターバックは口をつぐんだ。
その夜、水夫たちはほとんで徹夜で予備短艇の艤装をし、道具を整えた。
そして、エイハブは白鯨の姿を見つけんものと、昇降口に立って、夜明けの光が射すのを待っていた。


第29章(前半) 最後の戦い

フェデラーを失ったエイハブの短艇に、最後尾の漕ぎ手として指名されたのは、私だった。他の四人のマレー人漕ぎ手の黄色い顔は、私には何とも薄気味悪く感じられたが、それにもまして恐ろしいのは、エイハブ船長だった。彼は、白鯨が死ぬか、自分が死ぬまで追跡をやめないだろう。そして、前の二日の追跡の結果は、死ぬ運命にあるのはエイハブの方である事を明らかに知らせている。エイハブの死とは、その乗組員全員の死、すなわち私自身の死である。私が、本船に残った人々をいかに羨ましく思ったか、想像できるだろう。
だが、運命の奇妙さは、この話の結末をそれほど単純なものにはしなかった。
翌日、ピークォド号が再び白鯨を見つけたのは、日が高く昇るころだった。エイハブの怒鳴り声で三つの使用可能な短艇が下ろされ、私たちは白鯨に最後の決戦を挑んだ。
ああ、あの青い空を私は永遠に忘れないだろう。波を切って走るボートの前方に待ち構えているのは、白鯨ではなく、死そのものである。そもそも、我々の生とは、死に向かって後ろ向きでひたすらボートを漕いでいくようなものではないか? 誰が死の顔を真正面から見ただろうか。それができるのは、エイハブのような異常な人間だけである。
彼には、ナンタケットに残した若い妻があり、子供たちがいた。それらの優しい腕を振り切って彼を恐ろしい死に立ち向かわせるものは何か。ピークォド号の乗組員全員を死の危険に曝させる事を敢えてさせるのは何のためか。私には、分からない。
私は、ボートの後方に飛んでいく波の飛沫を見ながら、必死でオールを動かした。
モゥビィ・ディックは、このしつこい追跡者の姿を認めて、こちらに向かってきた。一度海面下に体を沈めた彼が再び姿を現した時、他の二隻の舟が彼の前にあった。
私は、体から滝のように海水を振りこぼしながらせりあがるモゥビィ・ディックの偉容に、恐怖と同時に美しさを感じていた。それは、雪に包まれた白い山脈であり、古代の王の作った白い巨石の壁であった。
彼は、スタッブとフラスクの舟のちょうど中間に現れ、その恐ろしい尾を二つの小舟に叩きつけた。二隻のボートは、その一部を壊されたが、幸いに転覆は免れた。
モゥビィ・ディックが向きを変えた時、私の舟の乗組員たちから恐怖の声が上がった。
彼の横腹には無数の槍や銛が刺さっていたが、その中でも一際新しいそれは、昨日の死闘の際にエイハブが投げたものである。その銛には、ロープが付いていたが、そのロープによって白鯨の体に幾重にも縛り付けられていたのは、フェデラーの半ば千切れかかった体であった。
彼は、膨れ上がった目でエイハブを見ていた。そして、波で上下するその腕は、まるでエイハブを招いているかのようであった。
エイハブは手にした銛を落とした。
「そうか、貴様、また現れおったな。あくまでわしとの約束を守って地獄への供をしようというのか。よしよし、待っておれ、わしももうすぐお前の所へ行こう」
彼は、落ちた銛を拾い上げ、漕ぎ手たちに怒鳴った。
「白鯨めはどこへ行った?」
他の二隻の舟は、破損したためそれ以上鯨を追うことができず、本船に戻っていた。今や白鯨に立ち向かうのは、このエイハブの舟だけであった。

第29章(後半) 承前


モゥビィ・ディックは、やがて海上に姿を現した。しかも、そのままじっと浮かんでいるだけである。その姿は、何かを待ち受けているかのように、不気味であった。
エイハブは、船の操縦をマレー人の一人に任せ、自ら舳先に立って銛を構えた。この最後の一投に運命のすべてを賭ける決意である。
やがて、モゥビィ・ディックの側面に回り込んだ舟から、渾身の力を籠めて、エイハブは銛を投じた。銛は、見事に白鯨の目の下に刺さり、白鯨は苦悶の様子で体を揺さぶった。そして、自分にこの苦痛を与えた敵にその体をぶつけ、破壊を試みた。
大きな波で舟は大きく傾き、乗組員のうち三人が海に投げ出された。
白鯨は走り出した。幸い転覆を免れた舟の中でエイハブは「ロープを切られるな!」と叫んだがその瞬間に、ロープは白鯨の巨大な推進力でぷつりと切れてしまった。
「漕げ、漕げ、まだ追いつけるぞ!」
エイハブは半分絶望しながら、気が狂ったように叫んだが、白鯨の進む方向にピークォド号があるのを見て、その意図を察知した。「船だ。あいつはピークォド号を壊そうとしておるのだ! 漕げ、漕げ、本船を救うのだ!」
エイハブの叫びは本船には届かなかっただろうが、ずっとこの闘争を見守っていた本船の連中は、白鯨の矛先が自分たちに向けられたのを知って驚愕したに違いない。
私は、マストに上っているクィークェグとタシュテゴの顔が驚きの色を浮かべるのが見えた。そして舷側にいるスターバックとスタッブの口が動いて何かわめいているのも見えた。もはや、私たちは、この悲劇を見守ることしかできなかったのだ。
白鯨、この神の化身かとも思われる生き物は、小賢しい人間の作り上げた建造物に、激しい勢いでぶつかっていった。ピークォド号は、その衝撃で大きく傾き、白鯨の頭部のぶつかった所には、巨大な穴が開いていた。
「おお、わしの命、わしのすべて、わしの船!」
エイハブはうめいた。
白鯨は、ゆっくり沈んでいくピークォド号の側で向きを変え、大きく回り込んでしばらく走った後静止したが、それは私たちのボートからほんの数十フィートの所だった。
彼はそこに静かに待っている。
「そうか、このわしに最後の機会を与えようというのか。獣らしからぬ騎士道精神だ。だが、それがお前の命取りだ。さあ、獣め、人間の力を思い知れ!」
エイハブは銛を投じた。
銛の突き立った白鯨は、一度体を持ち上げ潜水を始めたが、その刹那、いかなる偶然によるものか、ロープは舳先に立つエイハブの首に巻き付き、海底深く彼を連れ去った。
索を入れる容器からロープの最後の端の輪が飛び出て、これも波間に消えていったが、それを押さえようとする者はいなかった。この時には、次の瞬間に我々を待ち受けている運命が明らかだったからである。
ゆっくりと沈んでいくピークォド号は、今や完全に船体が海中に没し、ただマストの先だけが見えていた。そして、そのマストの周りには巨大な渦ができ、我々のボートを飲み込もうとしていた。
やがて、その渦は、渦の原因であるピークォド号も、その周辺の物もすべて飲み込み、深淵の中へと連れ去っていった。
渦が消えた後の海面には、白昼の光の中に、永遠の沈黙が訪れたのである。



第30章 海の孤児


こうしてすべては終わった。
渦の中に飲み込まれた私は、その渦の中心から現れた不思議な物体に必死で取りすがり、その浮力で海面に浮き上がることができた。それは、クィークェグが自分の死体を納めるために作らせた棺桶であった。こうして私は、死の象徴たる物体によって生の世界へと引き戻されたのである。
嘆きと絶望の中で、まる一昼夜、私はかつてのピップのように海を漂った。
そして、二日目に一隻の船が私を拾い上げた。それは近海をさまよっていたレイチェル号である。彼女は失われた自分の子の代わりに他家の孤児を拾ったのであった。





                   (完)



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