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ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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見たいアニメが無いので、これまで食わず嫌いしていた「ウマ娘」のアニメを見てみたが、これがかなり優れたアニメで、「競走馬を人間の少女の姿で描く」という、モラル的問題があるにしても、アニメ作品としてはB+くらいある。Aにしないのは、古い競馬ファンには、作中のレース結果は分かっているだろうからだ。もっとも、現実そのままかどうかは分からないが、今回の「シンデレラグレイ」の主人公であるオグリキャップについては、「笠松競馬場」出身である、という、「地方出身の根性娘」という路線は現実に沿っている。もちろん、現実のオグリキャップは牡馬だが、そこは作品の基本コンセプトとして、全部「ウマ娘」になるわけだ。
私は、アニメ制作者の手腕を、キャラのギャグ顔やギャグのレベル(新しいか古いかではなく、ちゃんとギャグとして機能するかどうか)で測るのだが、それもなかなかいい。脇役の「人間たち」のキャラ絵もいい。老人はちゃんと老人の顔である。(これが描けない漫画家やアニメーターは多いのである。)つまり、アニメ制作陣に「手腕」がある。
なお、「学園もの」としてもかなり楽しい内容である。学園ものの「お約束」の出来事・事件が大半だが、見せ方が上手いから面白い。

なお、「シンデレラグレイ」とは、オグリキャップが葦毛馬で、葦毛馬は若いころは灰色だからである。もっとも、引退後のオグリキャップが白馬になったかどうかは知らない。

(追記)第二話の中のコメントのひとつ。オグリの新馬戦の話。


    • 154. アニメ好き名無しさん
    •  
    • 2025年04月14日 23:06
    •  
    • ID:vygLMWut0 >>返信コメ

    • >>151
      だぶんこのレース史実の新馬戦を元にしていますよ
      10頭立てでしたし1番にマーチ、5番にオグリ
      道中6番の馬(リードウォーク)にぶつけられて不利を受けるのも史実通り
      何でゲートに入るのが後になったのかはわかりませんけど
 
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第一章 仔馬を連れた少女 2016/04/21 (Thu)

毎年、三月の終わりには、ガラの首都クリアでは大きな市が開かれた。東の国々の、彼女以外の数千もの人々と同様に、オヌア・チャムトンもそこに仕事のために行った。仕事とは、彼女の場合は仔馬たちを買うことである。この年は彼女はほかの交渉ごとがあり、それはうまく行かなかった。市に滞在した50日めの日の暮れるころには、彼女に必要な助けはもはや得られないように思えた。力になる人もなしに、彼女の家畜たちを南まで連れていくことになるのは、面白くない展望であった。
「あのう、馬買い人のオヌアさんですか?」そう話しかけたのは、内気で田舎育ちに見える一人の少女だった。「あなたが人を雇うつもりだと聞いて。私は―」少し間を置いて、彼女は続けた「動物を扱うのがうまいんです。どんな動物でも」彼女はオヌアが彼女を観察する間、待った。緑に染めた羊毛の服を着て、スカートは長靴とレギンスが見えるくらいの短さだ。巻き毛の髪は頭巾で巻かれて、その余りが細い肩にかかっている。柔らかでふっくらとした唇が、彼女の繊細さを示している。顎はしっかりとしている。背中には矢の入った箙を負い、手には弦を外した弓を持っている。



(追記)別の場所でも書いたが、「仔馬」は「小型馬」の誤り。つまり「ポニー」である。固有名詞以外はなるべくカタカナ語を使いたくない(そうするとファンタジー性が薄れる)ので、つい「仔馬」と書いてしまった。いずれ全体を見直すまでは、そうしておく。今は、訳しながら考える、というその過程そのものを重視して、そのままにしておく。



Wild Magic第一章その2 2016/04/21 (Thu)

「それはあんたのかい」馬買い人は弓を指差して言った。
灰青色の目が閃いた。「これ以外に持ち歩くやり方、知らないんです」
「ふん、弦をかけなよ」少女は言われてためらった。「そう思っただけさ」オヌアはからかうような口調で言った。「で、本当はいったい誰のだい」
少女は巻かれた弦糸を帯の間から取り出した。楽々と弦を弓の一方にかけ、足の前でもう一方をかける。弓の弦の一方を上げ、もう一方まで下げ渡して弦をきれいに張る。弦のかかった弓を彼女は握って体の横に持つ。二つの指で弦を耳のあたりまですらりと引き、射る姿勢を見せた。オヌアは、この少女が射手の篭手をはめているのに今気づいた。
「今は矢は箙の中だけど」少女はゆっくりと弦を射放しながら言った。「的が何だろうが、確実に射るよ」
オヌアはにかりと笑った。「感心したよ。私じゃあ、弓をそんなに大きく引けないね」



異世界(転生)アニメをたくさん見ているうちに、ひとつの「法則」に気づいたので書いておく。
そのきっかけは「外科医エリーゼ」というアニメだが、見るのが無いので仕方なく見ていたアニメで、出来は中の下か下の上くらいの作品である。
そもそも基本コンセプトが最低というか、馬鹿そのもので、ヒロインが前世で王妃になって悪政の一因となったのを後悔して、次の生では外科医になって多くの生命を助ける仕事をしていた、まではいいが、また前々生に戻り、貴族令嬢として再び王妃になれるはずだのに、「外科医」になる、というアホらしさである。外科医として救える命が数十名としたら、王妃として王を善政に向けることで救える命が何十万何百万であることは言うまでもない。
で、「外科医」として数名の生命を救うことで、人々の尊敬を得て、なぜか複数名の高位の男性の好意を向けられるのだが、作者の描きたかった部分がそこ、つまり「多くの男性から愛される」というハーレクインロマンスであるのは明白だろう。外科医など、その手段、話を作る手段でしかない。
男の夢想がハーレムであるのに対し、女性の夢想は「多くの男性に愛されながら、その中でベストの男性と結ばれる」というハーレクイン思想であるのは間違いないと思う。これは男性が「放出するセックス」であるのに対し、女性が「受けるセックス」である生物的原理によると考えられる。つまり、「最良の種」を受けるのが女性の生物的願望(理想)であるわけだ。極論すれば、女性がレイプを嫌がる本質もそこ、つまり「劣等な男性の精子を注ぎ込まれる」ことにあるのではないか? 女性が「ハーレムの一員」であることをさほど嫌がらないように見えるも同じ理由だろう。

一般論で言えば、つまり、劣等男性の愛妻であるより、優良男性の相手のひとりであるほうがマシ、というわけだ。
女性に相手にされるには、自分の優秀性を証明する(多くの女にモテることもその証明である。)しかないわけで、男は必死に社会的地位上昇に努力するか、女に相手にされることを最初からあきらめるしかなさそうだwww
これも私の別ブログから転載。全19回だったと思う。まあ、暇つぶしにどうぞ。


「ワイルド・マジック」 前置き 2016/04/21 (Thu)


Tamora Pierceという作家のWild Magic (The Immortals Book 1)というのを、いい加減に、辞書もろくろく引かないで訳してみる。つまり、分からない単語や文は、適当に自分で創作するわけである。それなら、著作権にも抵触しないだろう。
タモラ・ピアースは、おそらく英国の児童文学者かと思うが、日本ではあまり知られていないのではないか。さきほどネットで少し調べたが、「女騎士アランナ」というのが知られているようだ。
実は、少し前に英国旅行をしたとき、そこのホステルの本棚に、破れて後半の無いこの本があったので、それを勝手に貰って帰ったのである。私は英語は喋れず、読めないのだが、少しだけ理解できる部分だけを読む限りでは、何だか面白そうだし、後半部分が破れていて読めない、というのも気に入った。
最初に地図があり、「トータール」という国が舞台らしい。海に面した国で、首都あるいは話の中心らしい町はコルス、海岸の町だ。その西にエメラルド・オーシャンという海が広がり、トータールから少し離れた西南にコパー諸島というのがある。
まあ、舞台説明は、小説自身の中でも行われるだろう。それでは、次回から始める。


(4.22追記)ウィキペディアから、この作品の表紙の解説を転載しておく。私が持っている断片には表紙は無かった。なかなか面白そうな表紙である。弓を引いているのは少年ではなく、少女。主人公である。作中ではズボンではなく、レギンスの上からスカートをはいている。レギンスとは何かは私は知らない。馬も、この絵だと普通の馬だが、作中では小型馬、ポニーである。作者は英国ではなく米国の人らしい。まだ最初の3ページしか訳していないが、これから城や竜がでてくるようなら楽しみだ。後ろの海がエメラルド・オーシャンだろうか。


The Immortals - Wild Magic.jpg
Original Simon & Schuster/Atheneum U.S. hardcover of the book featuring the title character






私の別ブログから転載。

(以下自己引用)


「症例A」という,ダメダメタイトルの傑作 2023/08/04 (Fri)


多島斗志之の「症例A」を読了したが、凄い傑作である。ただ、さほど話題にもならなかったのは、題名のせいと、作者の知名度の低さのためだろう。これが若手の作家なら、その年の話題ナンバーワンになっていたと思う。
それよりも、題名が問題だ。まず、書店で買いたくなるタイトルではない。まるで魅力の無い題名である。もちろん、作者は報道記事における「少年A」「少女A」と同じく、病名を伏せながら、その病名が問題だ、ということを暗示したのだとは思う。しかし、一般人にとって魅力のある題名かというと、まったく魅力がない。もっと安直に「七つの顔の少女」とでもしたら良かったのではないか。ただし、真のヒロインは少女ではなく三十代の女性だが、それだと「売れない」ので、そこは誤魔化すわけだ。

なお、全体の話より、作中に出て来るエピソードで、敗戦時の日本で、美術館職員たちが進駐軍による美術品没収を怖れて、美術品の贋作を大量に作る話があるが、これなど、2時間くらいの娯楽映画に最適の話である。いわゆる「コンゲーム」(ゲーム的詐欺)物だ。有名どころでは「スティング」などがそれである。話の最後は、贋作作成集団の頭が、秘密の場所に保存した美術品を過誤による火災で焼失した、と言いながら、実はそれを独り占めして海外に売り、巨額のカネを得るという、これもまさにコンゲーム的オチである。
庵野自身は「集金アニメ」だとは言っていない。むしろ、そうなるのを自ら否定したのだが、スレタイは詐欺的誘導をしている。一種の不法行為だろう。この種の行為がネットには多い。
と言っても、私はエヴァは過大評価だったとは思っている。だが、演出の斬新さなど、高い評価をされて当然で、問題はむしろファンの側にある。


(以下引用)


【悲報】庵野秀明「エヴァは謎があるようで何もない。賢そうに見せかけてるだけの集金アニメ」
2025.04.08 |カテゴリ:アニメ ネタ | コメント (199)

1: 名無しのアニゲーさん 2025/04/07(月) 18:01:32.34 ID:uamr7Tdl0 BE:159091185-2BP(1000)
no title



庵野秀明の発言(NHK「トップランナー」より)

エヴァンゲリオンは哲学的と言われるが、実際はそうではなく衒学的(げんがくてき)である。
衒学とは知識がある事を自慢する事であり、知ったかぶりという言葉が一番近い。
エヴァの一見謎に満ちたストーリーも、何か裏がありそうな雰囲気を出すための演出であり、実際に裏は存在しない。

また一見哲学的に思える内容も、パッと見た感じをかっこよく見せるための演出であり、実際はただ賢そうに見せているだけ(衒学的)で哲学的なわけではない。

自分にとってフィルム作りとはサービス業であり、客に何かしらの満足感を感じてもらえるものを作りたいと思っていて、 エヴァの衒学的なストーリーもそのためであるが、エヴァの場合はそのサービスが効き過ぎた。

エヴァが客にとって居心地の良い所にされ、現実逃避のよりしろ、現実からそこに逃げ込む装置のようなものにされているのが嫌で 、もうこれ以上やっちゃいけない、何か目を覚まして欲しいと思い、そのため映画では客に水を被せて目を覚まさせるような内容のものを作った。

そのまま居心地の良い所にずっと居させるというのも一つのサービスだが、エヴァの場合はもうやっちゃいけないと思った。

その方が客にとって良い事だと思った。自分にとってはそれもサービス業の一つである
さて、今回でこの話は終わりである。私は元ネタ「グイン・サーガ」の中のグインのふりをするグインの話が大好きなので、それをアレンジしたまでだ。つまり、私の「創作娯楽」としてはこれで十分なのである。まあ、今読み返しても自分ではかなり面白かったので、満足だ。

(以下引用)

タイガー! タイガー! 17章 2017/10/19 (Thu)

第十七章 アンセルムの村



フロス・フェリたちに別れを告げてから三日後にグエンたちは森を抜けた。なだらかな草地が上がったり下がったりして、時々は林もあるが、もはや密生した森林地帯ではない。周りの明るくなった景色に、一行は何となく心が軽くなる気分だった。実際には、森の中よりも人里のほうが危険は多いのだが、グエン以外の人間は、やはり人間の世界でこれまで生きてきたのだから。

「まず、道を探しましょう。その道を通っていくか、わざと道を避けるかは別にしても、どこをどう行けばどこに向うかという大体の見当くらいはつけておかないと」

フォックスの言葉にグエンはうなずいた。

「ならば、遠くまで見晴らせる高いところを探してみよう」

そう言って、グエンはゆるい斜面を先に立って登っていった。

その後からフォックスが早足でついていく。

「あなたたちはその辺で休んでいてもいいわ。近くに人はいないようだから」

後からついてこようとする子供たちにはそう声をかけたが、二人の子供は首を振ってグエンたちを追う。

やがて小高い丘の頂上に出た。

西の遠方には、彼らが来た森があり、その北には大山脈が続いている。この大山脈がサントネージュとユラリアの国境だったのである。そして、丘の東にはなだらかな平地が広がっていた。ここからタイラスの中心地に続いていくのである。

ずっと向こうに細く野原を横切っている薔薇色の線がランザロートに続く道だろう。その大都会は、もちろんまだ視界には入らない。だが、その道の途中途中に灰色の集落が見える。村が幾つかあるのである。

「まず、あの村に行きましょう。旅芸人としての初舞台ですよ」

「ああ、そうだな。後で、少しまた打ち合わせをしよう。俺たちの素性についての作り話もまだきちんとできていないからな」

「そうですね。名前はこのまま、ソフィ、ダン、グエンでいいと思いますが、私は変えましょう。フォックスという名前はサントネージュ宮廷では少し知られてますから。そうですね、ええと、前はフローラだったかな。似合わない名前だこと。いいわ、フォッグにしよう」

「フォックスに似すぎていないか?」

「そうかしら。じゃあ、フォギー」

「フォギーだな」

「いい、ソフィ、ダン、私はあなたたちのお母さんで、グエンの奥さんのフォギーよ。忘れないで、人から聞かれたら、そう答えるのよ。ただし、あなたたちはグエンの連れ子ということにします。いくらなんでも、こんな大きいこどもたちのお母さんでは、私が可愛そうよ」

「どうしてさ」

「つまりね、あんたやソフィを私が生んだとしたら、私は30歳くらいの年だと思われるの」

「そうじゃないの?」

「あのねえ、私はまだ25歳よ」

「たいして違わないじゃん」

「たしか、前には24だと言っていたが」

グエンが口をはさむ。

「えっ? そうでしたっけ。まあ、どっちでもいいでしょうが。案外と細かいことを覚えているわねえ」

「いや、すまない。なるべく打ち合わせは正確にしておきたいのでな」

「はいはい、25ですよ。大年増です」

「フォギーは若いわよ。それに、サントネージュ一番の美人だわ」

「ありがとう。ソフィはやさしいわね。それに比べて、この男たちは」

グエンとダンは肩をすくめた。フォギーの年が20歳だろうが30歳だろうが、彼らにはまったく関心の外である。



半日ほど歩くと、後少しのところに集落が見えてきた。

「さて、旅芸人ならば、本当は馬車の一つもほしいところね」

フォギーが言う。

「エーデル川を渡る時に、馬も馬車も捨てたからな」

「幸い、お金はあるけど、タイラスのお金ではないからねえ」

「あの、少しならタイラスのお金があります」

「えっ?」

フォギーはソフィを見た。

「あの、緑の森の盗賊たちと一緒にいたお姉さんから貰ったんです」

「貰った?」

「はい。その代わりに、サントネージュのお金を少しあげました」

「何だ。交換したわけね。でも、良かった。どれくらいある?」

「はい。これは、いくらくらいなんでしょう」

「ふうん、金貨と銀貨だから、結構あるんじゃないかしら。助かるわ。少なくとも、食事代や宿代くらいにはなりそうね」

「宝石は金にはならんのか?」

「都会なら金に換えることもできるでしょうけどねえ」

「物のほうが金に換え易ければ、俺の剣を売ってもいいぞ」

「まさか。売るなら、私の剣を売りますよ。私が剣を持つより、グエンが持つほうが百倍いいに決まってます」

「まあ、どうせ敵から奪った剣だから、それほど愛着もない。必要なら、そう言ってくれ」

「はい、じゃあ、必要なときは言います」



グエンたち一行が村に近づくのを、畑で農作業をしている農夫や農婦たちは奇異の目で見ていた。グエンの雄大な体格と、その虎の頭が人々を驚かせたのは当然だが、その驚きはグエンの持っている旗に書かれた「グエン一座」という看板の文字でいくぶんか治まった。この旗の文字は、少し前に、ソフィとフォギーが苦労して縫い付けをしたものである。

人々の驚きというものは、どんなインチキな弁明であれ、何かの説明があればそれで納得し、治まるものであるらしい。グエンの虎頭は、彼が旅の芸人であるというだけで作り物として受け入れられてしまったようだ。

「とざい、東西。ここに現れ出ましたるは、天下にまぎれもない驚異の一座、恐怖の虎男グエン・バードンとその一行。御用とお急ぎでない人は、この出し物を見逃すと、一生の後悔のもとだよ」

フォギーが流暢に弁じると、あたりに百姓たちがぞろぞろ集まってくる。



「お客さんたち、出し物が気に入れば、お金があれば結構だが、無ければ芋でも瓜でも結構。ただし、只見をするようなケチなお客は御免だよ。お代は見てのお帰りだ。では、はじめるよ。まずは、地上に降りた天使の歌声とはこのこと、歌姫ソフィ・マルソーの歌を聞けば、どんな悩みも消えて、地上の天国が味わえる。さあ、歌っておくれ」

ソフィが歌い始めると、遠くで働いていた者たちも集まってきた。まさしく、彼らにとっては、生まれて初めての「芸術」との遭遇だったのである。あるいは、生まれて初めて美の奇蹟を味わったのである。

「こりゃあすげえ。あの子は本物の天使じゃねえか」

「まるで頭の中に、きれいな光があふれるみてえだ。こんな気持ちは初めてだ」

「おらあ、何だか悲しくなってきちまったよ。こんなきれえなもんがこの世にあるなんて、うれしいよりも、悲しいみてえだよ」

「ああ、死んだ妹の声がおらに呼び掛けているみてえだ。お兄、うちは今、天国さいるんだ、幸せだから心配するなって」

歌声が終わると、人々は、その感動を失うのが怖いみたいに、しばらく黙っていた。ソフィはそのために居心地の悪い思いをしたが、やがて起った大きな歓声と拍手に、自分の歌が成功したことを知った。

「さて、お次は、この一座の看板の出し物。『悪党グエンと悲しみの姫君』だよ!」

今度はダンが幼い声を張り上げて、演目を叫ぶ。そのあどけない可愛さは、観客たちを喜ばせた。

「世にも奇怪な悪党グエン、頭は虎で体は人、そしてその心は、虎なのか、人なのか。彼は美しい姫君をさらって逃げました。しかし、正義の騎士、フォギーと、その従者にして利口者のダンは彼を追っておいつきます。はたして、フォギーとダンは、囚われの姫君を救えるでしょうか!」

小さな木の茂みを舞台の袖代わりにして、そこからグエンが飛び出してくる。上半身裸のその体は、それだけで見る者の度肝を抜いた。何しろ、2マートルもある身の丈の威圧感だけでなく、その逆三角形の見事な筋肉質の体は、ただの農作業などをしている普通の人間ではまずありえない体格であった。赤銅色の体はまるで油でも塗ったように午後の日差しに輝き、そして彼は観客に向かって棍棒を持った両手を大きく広げ、威嚇するように咆哮した。それはおそるべき虎の咆哮だった。聞いている者たちの中で気の弱いものは腰を宙に浮かせ、逃げ出そうとしたほどである。

「うわあ、虎だ、虎だ! 本物の虎だ!」

「ば、馬鹿言え、あの体は人間じゃねえか。あれはかぶり物だよ」

「だが、あの恐ろしい声は、ふつうの人間じゃあ出せねえぜ。あいつは本物の虎男にちげえねえ」

「本物の虎男って何だよ。虎か人間かどっちかに決まっている」

「しかし、あの体のすげえこと! ありゃあ、10人力くらいあるなあ」

「何、見かけだおしってこともあるぞ。何しろ、相手は役者だからな、すべてお芝居ってこった」

観客たちは興奮してめいめい勝手な感想を述べている。

その間にグエンはあたりをのそのそ歩き、時々恐ろしい咆哮をあげて観客を震え上がらせる。時には、わざと観客の一人に顔を近づけて唸り声を上げると、相手は「ひっ!」と叫んで飛び退る。

上半身裸のグエンの体は午後の日差しを浴びて、油を塗ったように赤銅色に輝いている。その見事な体だけでも、たしかに見物料を払う価値はある。

一回り回ると、グエンは茂みからソフィを引きずり出した。ドレスと呼べるほどの服は持っていないが、布地をつづり合せてそれらしく作ったドレスは、遠目にはお姫様のドレスに見える。

「あーれー」と芝居がかった悲鳴を上げてグエンに引っ張られるソフィの演技は、確かに芝居の中のお姫様そのものである。田舎芝居の役者にしては顔立ちが上品すぎるのだが。

「待て! 悪党グエンめ、姫を返せ!」

茂みから、今度は騎士風の格好をしたフォギーことフォックスが飛び出す。なかなか美青年風である。

「この正義の騎士フォギーが来たからには、姫は返してもらうぞ」

「ウウ、グルルルル!」

グエンは唸り声で不同意を示す。そして、両手に持った大きな棍棒を振り上げる。

ただでさえ雄大な体格のグエンが両手に持った棍棒を振り上げると、まさに神話の怪物である。

その棍棒が激しく振り下ろされる。フォギーの体は木端微塵か、と思われた次の瞬間、彼女はひらりと身をかわしてそれを避けている。もちろん、グエンが、当たらないように振り下ろしたのだが、観客にはフォギーの神速の動きに見える。

今度はフォギーが剣を構え、次々に技を繰り出すと、グエンはそれに煽られるように、必死に剣を避ける。そして、最後に両手の棍棒を打ち落とされ、剣で刺された格好で地面にどうと倒れる。

「姫、どうぞ私とともに参りましょう」

「はい、有難うございます。あなた様は命の恩人です」

「なあに、危難にあった人を救うのは騎士のつとめです。今頃宮廷ではあなたのお父上である王が、あなたの御無事を祈って待っているでしょう」

二人がしずしずと木の茂みに退場すると、ダンがつけひげをつけて、代わって出てくる。

「フォギー様、どこに行ったのですか? おや、ここに虎男が倒れているぞ。そうだ、私がこの虎男を倒したことにして、姫を私が貰うことにしよう。まだ生きていないだろうな?」

ダンは腰の木剣を抜いて、地面に倒れたグエンに打ちかかる。

すると、グエンがむっくりと体を起こし、猛烈に吠える。

ダンは悲鳴を上げて逃げていく。その後からグエンが追って木の茂みに走り込み、これで芝居の終わりである。この程度の内容でも、芝居を知らない観客たちは手に汗を握り、最後のダンの逃げっぷりに大笑いであった。



その夜は、村の大百姓である男の家に泊めてもらえることになった。



夕食の席で、その大百姓のゲオルグが聞いてきた。

「失礼な質問だが、その頭は、仮面なのかな?」

「まあ、そうなんだが、商売の都合で、本物の虎の頭ということにしている。この牙も本当は細工物だ」

「そうか、素晴らしい出来の細工だ。どう見ても、本物の虎の頭にしか見えない。と言っても、本物の虎など見たことはないが。それはともかく、あんた方は、この仕事を初めて長くはないだろう」

「なぜ分かる?」

「衣装だよ。どんなに下手な一座でも、長い間旅興行をしていれば、衣装はそれなりに充実してくるものだ。しかしあんた方の衣装は、うまく作ってはいるが、正直言って、今出来のものだ」

フォックスとソフィは顔を見合せた。

「まあ、そう言うな。確かにこの衣装はそこの女たちが素人細工で作ったものだが、田舎の見物衆には、これで十分だろう」

「まあ、そうだが、あんた方なら町で興行しても大喝采を受けることができる。その時には、さすがにこの衣装では貧弱だ。私のところに、昔、宿代代わりに旅芸人が置いていった衣装があるから、それをあんた方にやろう」

「ほう、それは嬉しいが、なぜそこまでしてくれる?」

「あんた方の芝居が気に入ったのと、あんた方の人物が気に入ったんだ。あんた方は将来名を上げるだろう。その時には、私の名を思い出してくれ」

「分かった。ゲオルグ殿、いずれ、このお礼はしよう」

「荷物が増えれば、荷馬車も要るだろう。古い荷馬車も一台やろう。ロバも一頭つけてな」

「そこまでしてくれると心苦しいが、何か今、お礼にできることはないか?」

「そうだな、あんた方の剣の腕は本物だと私には見える。もしも、次の町に向かう途中で盗賊に出会ったら、そいつを退治してくれたら助かる。まあ、無理な願いかもしれんが」

「ほう、盗賊が出るのか」

「ああ、シルヴェストルという、騎士崩れの山賊だ。手下が3人ほどいるから、あんたたちだけでは無理かもしれんな。しかし、我々百姓は、相手がたった4人でもかなわないのだ」

「そのシルヴェストルとはどんな様子だ?」

「やせて、背が高く、口鬚を顎まで垂らしている。頭は禿げている。年は30くらいで、目が非常に鋭い」

「手下たちの様子は?」

「最近シルヴェストルの仲間になったので、あまりはっきりしない」

「武器は?」

「剣と槍と棒だな。弓は使わないと思う」

「そいつらを我々が殺して、問題にならないか?」

「シルヴェストルを退治してくれたら感謝こそすれ、問題にはならない。これまでシルヴェストルのために5人が殺され、7人が不具にされている」

「まあ、うまく出会えたら、やってみよう。ただし、こちらも命は惜しいから、山賊に出会って逃げても我々を恨まないでくれ」

「それは当然だ。無理な願いなのは知っている」



ゲオルグに礼を言って退出した後、グエンはフォックスと相談をした。

「シルヴェストルという山賊は、次の村との間にあるモルドーという山に住んでいるらしい。山というほどの高さは無いようだが、街道がその山の中を通っており、その途中で山賊に襲われるということだ」

「人数はたった4人なの? じゃあ、多分大丈夫でしょう」

「しかし、こちらは子供連れだから、子供が危険な目に遭わないかどうか」

「意味の無い冒険なら、子供たちを危険にさらしたくはないけど、その山賊を退治することはゲオルグさんへのお礼にもなるんでしょう?」

「まあな。俺は、やる気は十分にあるんだが、相手は、卑劣な手段はお手の物の連中だ。だから、フォギーにはくれぐれも子供たちに注意していてもらいたい」

「分かった。私にとっては、子供たちを守るのが一番の使命なんだから、言われるまでもないけど、油断はしないようにするわ」

グエンはフォックスの言葉に頷いた。

いや、このスレ主自体が「弱者男性叩き」をしているのだが、問題は、世間的に「弱者男性であること自体」が叩いてよい対象だとされているのかどうかということだ。
もちろん、ここに書かれているのは最初の「女性叩き」への意趣返しなのだろうが、そこから「オタク叩き」につながり、そしてオタクは「弱者」であり、「叩いてよい対象だ」となっているのが気持ち悪い。
私の想像する弱者(男性)とは「カネも地位も無い男性」となるが、それが女性なら叩けるだろうか。それが男性の場合は叩いてよいのだろうか。
つまり、仔猫は弱いから踏みつぶして殺してよい、という思想は妥当なのか、あるいは人間の赤ん坊は無力だから育てる価値はない、捨てろ、殺せ、という思想はOKなのか、ということだ。老人は汚く無力だから殺してよいが、どんな嫌な、社会に有害な老人でもカネや地位があれば崇めたてまつるべき、となるのか。

(以下引用)文章ママ。「読書」が「読者」になっている。(案外、これを書いたのは男かもしれない。オタク男の生態に詳しすぎる。)

弱者男性の趣味チェックリスト(1つでも当てはまったらアウト)

女叩き(日課でXや増田に女叩きポストを投稿)
アダルトビデオ(セクシー女優だけは叩かない)
エロ同人誌(本人たちはZINEと呼ぶ)
Vtuber(Vtuberだけは味方だと根拠なく信じている)
撮り鉄(集団で固まって撮影失敗したら暴言、暴行)
カメラ(高い機材で撮るのはクソみたいな風景写真)
ガンダム(知識マウント取れるものがこれしかない)
ミニ四駆(発達障害は意味のない細部にこだわる)
カードゲーム(保管状態に気を遣うが風呂は入らない)
任天堂、プレステ(虐められた鬱憤をゲームで発散)
読者(ラノベだけ、古典は難しくて読めない)
映画鑑賞(アニメ映画観て語るのは作画だけ)
自作PC(パーツを合わせるだけの大人のブロック遊び)
オーディオ(耳掃除もせず電源で音が変わるとか言う)
旅行(旅館の人から自殺志願者と自ら疑われに行く)
ソロキャン(家でも一人だから普段と変わらない)
ラーメン(舌が馬鹿なので塩分しか感じ取れない)
他候補募集中

これまでまったく見る気がなく、評判も聞かない「魔王2099」だが、見てみると案外な拾い物で、冬アニメの中では「悪役令嬢転生おじさん」の次くらいにランクされる好アニメ、上出来のアニメなのではないか、と思う。
キャラ絵が「どこかで見たような絵柄」であるのがやや弱点だが、見ているうちにキャラの個性とキャラの顔がぴったりしている感じになってくる。ギャグの質もいい。
一番いいのは「キャラが生きている」ことだろう。主人公の魔王も悪くないが、その周辺の女性キャラがいい。性格が可愛い。なお、私が好きなのは悪役の秘書的存在の「冷酷女史」キャラ(声は伊藤静だったか。オーバーな英語イントネーションが面白い。)である。もっとも、魔王が主人公だから、「悪役とは誰だ」という問題もあるが、まあ、この魔王は昔の「働く魔王さま」みたいな、「いい奴」でもありながら魔王という職務に忠実なだけなのである。
なお、舞台は近未来の日本の新宿である。で、魔王が生活のためにユーチューバーになったりする。知名度があがり、魔王への愛憎の感情が増大すると魔王の魔力が上がるらしい。
第8話くらいまで見たが、このあたりから「学校生活」が舞台になるので、ますます好みである。教師のマグ・ロサンタとやらいう女(声は日笠陽子)がなぜか中国イントネーションで面白い。そういう細部に監督や演出のこだわりが出ていて、丁寧な仕事だなあと思う。

(追記)

11回まで見てかなりがっかりした。7回までで終わるべきアニメである。あるいは、お気楽アニメにすべきであった。学園ものどころか、話がどんどん陰惨になり、視聴する楽しさゼロになる。まあ、原作がそうなのだろうが、書いている当人はそういうのが「面白い」とか「凄い話だ」とか思っているのだろう。一種の中二病か。こういう残酷な話を考えられる俺ってスゲー、というつもりなのだろうか。当初のキャラ(特に女性キャラや主人公の魔王)と話の内容があまりに合わない。

タイガー! タイガー! 仮15章(改変予定の仮の章) 2017/10/16 (Mon)

この章は、話の中心から逸れるので、後で削除する可能性があるが、書いたものを消すのももったいないから載せておく。アベンチュラは、副主人公格で登場する予定の人物だが、彼に関する話はまったく考えていないのである。





(第十五章 アベンチュラ)



トゥーランの東から南にかけては海に面しているが、その東南部にある港町のシノーラは商業船と漁船の両方が集まるにぎやかな街で、どちらかというと商業船の出入りが多かった。商業船とは、いうまでもなく貿易船で、各地の物産を交易するための船だが、旅客なども乗せたりする。今も、停泊している帆船が十隻ほどある。

その船の一つから下りてきたのは、かなり背の高いたくましい男で、赤銅色に日焼けし、顔じゅう鬚だらけなので年齢は分からない。赤毛の長い髪もぼさぼさで、赤毛のライオンといった風貌である。上半身は素肌にチョッキだけで裸に近く、ズボンも水夫風だが、水夫ではない証拠が、その腰に帯びた剣である。鞘に入っていても、水夫などが持つ剣でないことはわかる。まあ、もともと水夫は剣ではなくナイフを腰帯に挿すのが普通だが。

眩しい日差しに目を細めて、彼は船のタラップを降りてきた。タラップと言っても粗末な梯子だ。それを軽々とした足取りで、下を一度も見ずに降りてきたところは、やはり水夫のようにも見える。肩に、長い棒に結んだ信玄袋のような袋をかついでいるが、腰の剣は別としておそらく彼の全財産がその中に入っているのだろう。

「ウオゥ、半月ぶりの陸地だ。気持ちがいいなあ!」

地面に降り立つと、彼は無邪気な歓声をあげた。

港に集まる人足や商人の群れを掻き分けて、彼は居酒屋へ直行する。

「酒だ、酒だ、酒をくれえ!」

大声で怒鳴ると、店員が慌てて持ってきた酒杯を一息であける。

「うまいっ! どんどん持って来い!」

陽気な大声に酒場の客たちはもの珍しげに彼を見るが、男の無邪気な喜び方に、誰もが微笑を浮かべている。

「お兄さん、どこから来た?」

彼の前に腰を下ろしたのは、近くの席で飲んでいた男で、年齢は30歳くらいだろうか、黒髪で口髭を生やした洒落た感じの男である。身なりは騎士階級の人間のようだ。

「俺か? ファルカタからだ。知っているか?」

「ああ、インドラの西の港町だな。俺も行ったことはある。暑くて弱ったな。象牙やダイヤや翡翠をそこで仕入れて、高く売ったものだ」

「あんたは商人か?」

「まあ、そんなものだ」

「そうだ、と言わないところを見ると、本物の商人じゃないな」

「いろんな事をしているからな。あんたはシノーラに滞在するつもりか?」

「いや、生まれ故郷に帰るつもりだ。タイラスへな」

「タイラスか。タイラスのどこだ?」

「ランザロートだ」

「ほほう、首都か。あんた、貴族だな?」

「こんな汚い格好の貴族かい?」

「話し方で分かるさ。それに、その腰の剣でな」

「これか。これは俺の命から2番目に大事な剣だ。先祖代々の遺産でな。まあ、俺にはこれしか財産は無いんだが」

「あんた、腕が立ちそうだな」

「まあ、弱くはないと思う」

「どうだい、俺もこれから旅に出ようと思っていたんだが、一緒に旅をしないか? 俺の名はキャリバンだ。」

「いいだろう。俺はアベンチュラだ。よろしく」

「よし、そうと決まれば、ここの勘定は俺のおごりだ」

「すまんな。俺は飲むぜ?」

「大丈夫だ。今のところは、俺の懐は温かい」

「最初に言っておくが、おごられたからと言って、遠慮はしないぜ。まあ確かに、今の俺は懐が寂しいから、あんたがおごってくれるのは嬉しいがな」

「もちろんだ。遠慮は無しだ」

「よし、おい、給仕、酒をどんどん持って来い。それと食い物もだ」

二人の前にはあっと言う間に、酒壺と食い物が並んだ。鉄串に刺して焼いた羊の焼肉や、鍋で炒めた野菜、それに魚の燻製などだ。酒はヤシの果汁を発酵させて作ったヤシ酒のほか、果実酒が何種類かある。

二人は酒と食い物を交互に口に運び、すっかりいい機嫌になった。



タイガー! タイガー! 16章 2017/10/17 (Tue)

第十六章 グエン一座



盗賊たちの歓待を受けた翌朝、グエンたちはフロス・フェリたちに別れを告げて彼らの野営地を離れた。

「もしも、あんたたちが一騒動起こしたくなったら、この森に来るがよい。力を貸すぜ」

フロス・フェリはニヤリと笑いながらグエンに片目をつぶってみせた。

「ああ、世話になった。このお礼はそのうちさせてもらう。では、さらばだ」

「ああ、また会おう。多分、また会えるさ。俺の予感は当たるんだ」

フロス・フェリは片手を上げて別れを告げた。



「さて、国境は越えたが、これからが難しいかもしれん。ランザロートまでは200ピロほどだと言ったな?」

「ええ、国境からそのくらいのはずです」

「ふむ。その間に関所が幾つかあると考えたほうがいいだろう。問題は、タイラス国王が俺たちを歓迎するかどうかだ」

「と言うと?」

「俺たちを捕まえて縛り上げ、ユラリアかサントネージュに送るということもありうるということだ」

「まさか。タイラス王妃のエメラルド様は、サントネージュ王妃の妹君ですよ?」

「だが、国王はべつにサントネージュの縁者ではないだろう。俺がタイラス国王なら、ユラリアから強く言われたら、そうするかもしれん。ユラリアを敵に回したくないならな」

フォックスは考え込んだ。

「では、どうすればいいと?」

「分からんな。一番いいのは、しばらくランザロート近辺に潜んで、タイラス宮廷の状況を調べることだ。幸いに、俺たちの素性はまだ知られてはいない。まあ、俺のこの目立つ頭が少々邪魔になるが……」

「いっその事、旅芸人のふりでもしますか」

「旅芸人?」

「そうです。旅芸人なら、そのような頭もわざとやっていると思われますから」

「なるほど。それは気づかなかった。俺はこの頭を隠すことばかり考えていたが、逆にこの頭を隠れ蓑にするわけか。面白い」

「でも、芸人が一人では、寂しいですね。私には何も芸がないので」

「あのう」

とおそるおそる声をかけたのはソフィであった。

「私、歌が歌えます。ダンも」

「へえ、そうなんだ。お足が貰えるくらい上手ならいいけど」

「お母さまはよく僕たちを、世界で一番歌が上手だとほめてくれたよ」

フォックスはグエンの方を見て苦笑いをした。母親のひいき目の言葉を、この子供たちは信じて疑わないのである。

「じゃあ、何か歌ってみてくれる? 幸い、人里や関所は遠いようだから」

ソフィはダンと目くばせをした。

「じゃあ、『バラとナイチンゲール』を」

ソフィのきれいな高音が、まるで銀の鈴を鳴らすように流れ出した。天使の声が空の高みに昇っていく。それにダンの子供らしいあどけない高音が唱和する。

グエンとフォックスはあっけにとられながら聴きほれた。これほど美しく、胸を打たれる歌を聞いたのはフォックスにとっては生まれて初めてであった。なつかしく、悲しく、そして嬉しいような寂しいような、明るく透明な歌声であった。

「まあ、何て素敵な歌なの! こんなにきれいな歌声を聞いたのは初めてよ」

歌が終わるとフォックスは思わず手を叩いて言った。

「これなら、十分に出し物になる。で、俺とお前は、剣劇でもやろう」

「剣劇ですか?」

「そうだ。ソフィとダンがお姫様と王子さまで、お前はそれを助ける剣士だ。俺が悪役をやって、お前と剣劇をするのだ」

「面白そうですね。ちょっとやってみますか」

「ああ、まずは、その辺の木の枝で木剣を作ろう。真剣でやってもいいが、わざと芝居くさくしたほうがいいだろう」

グエンは軽く剣を振って、頭上の木の枝を斬り落とした。それが地上に落ちる前にもう一度剣が動いて、枝の先も切られ、棒きれになる。

同じ要領で棒きれをもう一本作る。細かい木の枝も切りはらう。長さ1マートルほどの棒きれが2本できた。

「やってみよう。最初はお前が斬りかかってこい。俺がそれを受けたり、よけたりしよう」

「いきますよ」

どうせ自分が本気で打ちかかっても、相手がそれをよけるのは造作もないと分かっているので、フォックスには気が楽である。

何度か打ち込んでみて、改めてグエンの剣の技量が自分とは桁違いであることを実感する。「だめです、グエンがあまりにうますぎて、私の下手さが見物人にばれます」

「そうか。じゃあ、もう少しおおげさにやろう。本気で殴ってもいいぞ。棒で殴られたぐらいなら俺は平気だ」

今度は、先ほどのようにわずか一寸ほどで体をかわすのではなく、おおげさに飛び下がったり、飛び上がったりして木剣をよけると、逆に迫力とユーモラスさが出る。それを見てソフィとダンは歓声を上げて大喜びである。なるほど、芝居とはこういうものか、とグエンもフォックスも悟るところがあった。

時にはグエンが反撃に出るが、もちろんフォックスの体に当たる寸前で剣は止める。しかし、見ている方には、フォックスが相手の剣を軽くさばいたように見える。

「真剣でやったら、すごい出し物になるでしょうけどねえ」

「いや、それはまずいだろう。俺たちの正体を隠すのが目的なのだから、べつにそれほど客受けを考えなくてよい」

「グエンの頭はそのままでやるの?」

ダンが聞いた。

「お面をかぶればいいじゃない」

「まあな。それもいいが、お面を作る材料がない」

「人里に出たら、芝居衣装や小道具を作る材料を探してみましょう」

「私はグエンの頭はそのままでもいいと思うわ。どうせお芝居だとみんな思っているのだから、かえってその頭は好都合よ」

ソフィの言葉にフォックスも「そうね」と同意した。

「俺は、怪物の役でもいいぞ」

「あら、そんなつもりじゃないの。お芝居なんだから、奇抜なほうがいいと思うのよ。その頭は、それだけで観客をびっくりさせるわ」

「ふむ、そうだろうな。客を喜ばせるにこしたことはない。では、俺は剣ではなく、棍棒か何かを持とう」

「それもいいわね。で、お願いなんだけど、上半身は裸でやるのはいやかしら?」

フォックスの言葉にグエンは少し考えた。

「できるだけ人間離れしていたほうがいいということだな。まあ、かまわんさ」

「そうじゃなくて、グエンのその素晴らしい体は、それだけで立派な出し物になるのよ。それを服で隠すのはもったいないと思うの」

「まあ、どんな案でも試してみるさ。では、そろそろ行こうか。腹もへってきたし、昼食をするのにいい場所でも探そう」

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