「格闘家」だけを雇用する会社『(株)逸鉄』が「建設業×格闘技」で日本人職人の育成を目指す
東京都世田谷区に居を構える、格闘家を従業員として雇用する工務店『(株)逸鉄』。2013年に創業した同社は、建物の金属パネルを貼る外装工事など、金属工事業・板金業・サッシ業を専門としている。また、格闘技関係のスポンサー業を行っていることも特徴のひとつだ。
同社で働く従業員は、代表取締役の齋藤 穂高氏を合わせると計5名。もちろん、全員男性だ。その全員が「ブラジリアン柔術」と呼ばれる、寝技を主とした、組み技系の格闘技に取り組んでいる。同社はなぜ、格闘家ばかりを雇い入れたのか? 逸鉄にかける想いについて、齋藤氏と従業員に伺った。
齋藤 穂高(さいとう ほたか)
1974年1月生まれ、神奈川県出身。父親が経営する建築会社から独立して(株)逸鉄を創業。昔から格闘技が好きで、学生時代は剣道に打ち込んだ経験を持つ。36歳のとき、ブラジリアン柔術の道場に入門。以降、ブラジリアン柔術一筋で心身ともに鍛え上げている。東京・世田谷にブラジリアン柔術ジム『IGLOO』を設立中(7月中旬ごろ完成予定)。愛犬のフレンチブルドッグが可愛くてしょうがない。
―― 逸鉄は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか?
齋藤(以下、齋):もともとは金属工事業・板金業・サッシ業を行う父の会社で20年ほど働いていたんです。そこから独立し、2013年1月に弊社を創業しました。
逸鉄では現役の格闘家を積極的に採用しています。というのも、私自身が昔から格闘技に親しんできたこと、そして「建設業で格闘家を雇用する」ことが、建設業界と格闘技界それぞれの課題の解消につながると感じたからです。
―― と言いますと?
齋:まず建設業界ですが、80年代のバブル景気時に全盛期を迎えたものの、バブル崩壊によってその根幹は破綻してしまい、高い技術を持つ職人に対しても給与面や待遇面が妥当とは言い難い状況に陥っています。これによって、職人を目指す人が減ってしまい、職人不足問題が深刻化しているんです。
―― 逸鉄では「日本人の職人育成」にこだわっておられるそうですね。
齋:外国人を軽んじるわけではないのですが、日本人ならではのきめ細やかさなど、配慮が行き届いた日本の伝統文化をきちんと継承していきたいと思っています。
特にその想いを強くしたのは、外国での建造物のスーパーバイザーを務めたときでした。このときは現地人に仕事をレクチャーしつつ、彼ら自身に建物をつくってもらうというプロジェクトだったのですが、文化的背景の違いからか同じ仕事でもクオリティに差が出てしまうことがしばしばありました。
―― どんな違いがあったのでしょう?
齋:同じ「取り付ける」作業でも、日本人はただ取り付けるのではなく、機能性を損ねることなく美しく取り付けることにこだわります。こういったところが、後々クオリティという点で差になってくるのです。これは日本人のより良いところであり、日本が世界に誇っていい感覚です。だからこそ、日本人の職人育成が必須だと考えているのです。
―― そして、格闘技界のセカンドキャリア問題とは?
齋:いわゆる「引退後の人生」についてです。例えばプロ野球やJリーグでは、一部のスター選手が指導者や解説者の道を歩んでいたりしますが、それ以外の大半の選手が、引退後にスポーツとは関係のない世界や業種に挑んでいるんです。
格闘技界はその傾向がより顕著で、第2の人生探しに困っている格闘家がたくさんいます。そんな彼らがもっとも得意とするのが肉体労働なのですが、そこに職人としての技術が備われば、その可能性をさらに広げられるんです。今、弊社の従業員もそうして門を叩いてきたヤツらばかり。スポーツに携わっていた人というのは根性があるので、こうした仕事との親和性も高いですからね。
―― まったく新たな切り口で、格闘技の世界にも貢献されているんですね。
齋:まだまだ効果は小さいですが、こうした取り組みを続けていくことで環境って良くなっていくものだと思っています。
―― 逸鉄は実績も多く積んでこられていますよね。
齋:『東京スカイツリー』(東京都墨田区)の展望台や、『フジテレビ』本社ビル(東京・お台場)の球体展望室などの外装は弊社が手がけたものです。中国・上海の「在上海日本国総領事館」建造でもスーパーバイザーを務めました。
―― 格闘技界に対しても積極的に支援されているそうで。
齋:格闘家のセカンドキャリアサポートは今までどおりで、このほかに総合格闘家山本“KID”徳郁選手が運営するジム『Yamamoto Sports Academy』や、格闘技番組をスポンサードしています。
―― そんな逸鉄では、残業をほとんどしないのだとか。
齋:従業員がみんな現役の格闘家なので、彼らが仕事の後、トレーニングに励めるよう時間を確保するためです。年間で見ても、月に2〜3時間程度ですね。
―― それだけしっかりと集中して取り組んでいらっしゃるわけですね。
齋:建設業界には「長時間働かないと仕事は覚えられない」なんて古い慣習が未だ強く根付いていますが、私自身はそうは思わないのです。どれだけ短い時間であっても、しっかり集中して取り組めば身についていくもの。弊社で扱っている金属工事業は難易度の高いテクニックを要する職種なので、時間の長短に関係なく、間違いのない技術をしっかり教えることに注力しています。
同社で働く従業員は、代表取締役の齋藤 穂高氏を合わせると計5名。もちろん、全員男性だ。その全員が「ブラジリアン柔術」と呼ばれる、寝技を主とした、組み技系の格闘技に取り組んでいる。同社はなぜ、格闘家ばかりを雇い入れたのか? 逸鉄にかける想いについて、齋藤氏と従業員に伺った。
建設業界と格闘技界の課題を解消する取り組み
齋藤 穂高(さいとう ほたか)
1974年1月生まれ、神奈川県出身。父親が経営する建築会社から独立して(株)逸鉄を創業。昔から格闘技が好きで、学生時代は剣道に打ち込んだ経験を持つ。36歳のとき、ブラジリアン柔術の道場に入門。以降、ブラジリアン柔術一筋で心身ともに鍛え上げている。東京・世田谷にブラジリアン柔術ジム『IGLOO』を設立中(7月中旬ごろ完成予定)。愛犬のフレンチブルドッグが可愛くてしょうがない。
―― 逸鉄は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか?
齋藤(以下、齋):もともとは金属工事業・板金業・サッシ業を行う父の会社で20年ほど働いていたんです。そこから独立し、2013年1月に弊社を創業しました。
逸鉄では現役の格闘家を積極的に採用しています。というのも、私自身が昔から格闘技に親しんできたこと、そして「建設業で格闘家を雇用する」ことが、建設業界と格闘技界それぞれの課題の解消につながると感じたからです。
―― と言いますと?
齋:まず建設業界ですが、80年代のバブル景気時に全盛期を迎えたものの、バブル崩壊によってその根幹は破綻してしまい、高い技術を持つ職人に対しても給与面や待遇面が妥当とは言い難い状況に陥っています。これによって、職人を目指す人が減ってしまい、職人不足問題が深刻化しているんです。
―― 逸鉄では「日本人の職人育成」にこだわっておられるそうですね。
齋:外国人を軽んじるわけではないのですが、日本人ならではのきめ細やかさなど、配慮が行き届いた日本の伝統文化をきちんと継承していきたいと思っています。
特にその想いを強くしたのは、外国での建造物のスーパーバイザーを務めたときでした。このときは現地人に仕事をレクチャーしつつ、彼ら自身に建物をつくってもらうというプロジェクトだったのですが、文化的背景の違いからか同じ仕事でもクオリティに差が出てしまうことがしばしばありました。
―― どんな違いがあったのでしょう?
齋:同じ「取り付ける」作業でも、日本人はただ取り付けるのではなく、機能性を損ねることなく美しく取り付けることにこだわります。こういったところが、後々クオリティという点で差になってくるのです。これは日本人のより良いところであり、日本が世界に誇っていい感覚です。だからこそ、日本人の職人育成が必須だと考えているのです。
―― そして、格闘技界のセカンドキャリア問題とは?
齋:いわゆる「引退後の人生」についてです。例えばプロ野球やJリーグでは、一部のスター選手が指導者や解説者の道を歩んでいたりしますが、それ以外の大半の選手が、引退後にスポーツとは関係のない世界や業種に挑んでいるんです。
格闘技界はその傾向がより顕著で、第2の人生探しに困っている格闘家がたくさんいます。そんな彼らがもっとも得意とするのが肉体労働なのですが、そこに職人としての技術が備われば、その可能性をさらに広げられるんです。今、弊社の従業員もそうして門を叩いてきたヤツらばかり。スポーツに携わっていた人というのは根性があるので、こうした仕事との親和性も高いですからね。
―― まったく新たな切り口で、格闘技の世界にも貢献されているんですね。
齋:まだまだ効果は小さいですが、こうした取り組みを続けていくことで環境って良くなっていくものだと思っています。
従業員を心身ともに育むため、残業ゼロに
―― 逸鉄は実績も多く積んでこられていますよね。
齋:『東京スカイツリー』(東京都墨田区)の展望台や、『フジテレビ』本社ビル(東京・お台場)の球体展望室などの外装は弊社が手がけたものです。中国・上海の「在上海日本国総領事館」建造でもスーパーバイザーを務めました。
―― 格闘技界に対しても積極的に支援されているそうで。
齋:格闘家のセカンドキャリアサポートは今までどおりで、このほかに総合格闘家山本“KID”徳郁選手が運営するジム『Yamamoto Sports Academy』や、格闘技番組をスポンサードしています。
―― そんな逸鉄では、残業をほとんどしないのだとか。
齋:従業員がみんな現役の格闘家なので、彼らが仕事の後、トレーニングに励めるよう時間を確保するためです。年間で見ても、月に2〜3時間程度ですね。
―― それだけしっかりと集中して取り組んでいらっしゃるわけですね。
齋:建設業界には「長時間働かないと仕事は覚えられない」なんて古い慣習が未だ強く根付いていますが、私自身はそうは思わないのです。どれだけ短い時間であっても、しっかり集中して取り組めば身についていくもの。弊社で扱っている金属工事業は難易度の高いテクニックを要する職種なので、時間の長短に関係なく、間違いのない技術をしっかり教えることに注力しています。