「丸が来なかったことが全てかなと思いますね。良かった、本当に良かったです。(巨人に移籍するとの報道を)朝見てめっちゃ喜びました。『よっしゃー』って」

球団が自分と同じポジションに、有力な選手を取ろうと動いていることを知れば、多くの選手は胃が痛くなるような思いにとらわれるだろう。
それは「球団が自分を評価していない」ことの裏返しでもあるし、「自分の仕事が奪われる」ことでもあるからだ。

そういう意味で、清田が腹の底で丸が来なかったことを喜ぶ気持ちはわかる。自分の選手生命の危機だったからだ。

しかし個人事業主というのは、宿命的に「身分を保証されない」ものだ。その代わりに「やったらやっただけ見返りがある」のだし、サラリーマンよりも自由度が高いのだ。
そして、プロ野球選手は建前上は「自分の成績よりも、チームの勝利を優先する」ものだということになっている。そうでなければ、ファンは支持しない。「チームあっての自分」と言ってこそ、ファンは応援してくれる。



プロ意識とは、どんなに大変なライバルが現れても「チームのために喜ばしい」と歓迎して、「彼には負けない」というようなメンタルを言うのだろう。

今年、ヤクルトは青木宣親が復帰した。これによって坂口智隆はポジションを追われ、プロ入り以来一度も守ったことがなかった一塁への転向を余儀なくされた。清田が想像した悪夢が実際に降りかかったようなものだ。
しかし坂口は、その逆境を跳ね返し、一塁手として98試合を無難に守るとともに、2010年以来の打率3割をマークした。34歳、キャリア16年目、しかもチーム新参者の彼が、ここまで活躍したのだ。
コンバートを告げられた坂口は、キャンプでこう語っている。

「一塁は一番球に触れることが多いポジション。難しい。でも僕自身、立場は分かっているつもり。全てチャンスと思っています。どこをするにしても必死にやらないと。全てに気合入れてやります」

これこそがプロであり、ファンが聞きたい言葉だっただろう。




率直に言えば、選手がこういう「情けない本音」を吐露する様なことでは、チームは勝てないだろう。
また清田という選手も、意識を変えなければここまでだろう。世の中には「ままならぬこと」などたくさん転がっている。それを克服するのが人生のだいご味なのだから。