2

 2019年のセ・リーグは原巨人5年ぶりVで一応の幕を閉じたが、CS争いはまだ続いている。逆転CS進出を目指す矢野阪神は22日のDeNA戦(甲子園)に完封勝ちし、首の皮一枚で踏み止まった。奇跡を起こすためには残り4試合全勝が条件。虎のレジェンドOB・小山正明氏は「24日の巨人戦に勝てば面白い。首の皮一枚でも意外に分厚いかも」と期待を寄せる一方、来季に向けては「課題山積。4番とエースをもう一度確立しないと優勝争いは難しい」と指摘した。
 ◇   ◇
 他を圧倒する大型補強した巨人が、苦しみながらも真っ先にゴールのテープを切った。広島時代に2年連続MVPを獲得した丸や、その前にFA補強した山口の大活躍が大きかったが、何より“指揮官の強化”が5年ぶりのリーグ制覇に直結した。3年間の充電を得て戻ってきた原辰徳監督の指揮は、齢六十代に突入してさらに「巧妙」かつ「老獪」になった印象を受けた。2月の宮崎春季キャンプを見た時、原監督の持つ独特のオーラが全体を包み込んでいた感じがしたが、それは間違っていなかったようだ。
 この巨人Vを現役通算320勝のレジェンド・小山正明氏はどう見たのか。専門家の意見を拝聴すべく、携帯を鳴らした。85歳の御年ながら、毎週のようにゴルフを楽しむ氏は電話に出るなり「巨人が強いんじゃなくて、他が弱かったからや」と切り出した。そのココロをじっくりと聞く。
 -と申しますと…。
 「確かに、FAで入った丸やキャプテンの坂本なんかがよくチームをけん引したと思う。15勝を挙げた山口の活躍も大きかったよ。原監督も想像してなかったんと違うか。しかし、それ以上に他球団がひどかった。特に投手陣が近年になく不出来やったように思う。その証拠に、規定投球回数に達した投手で防御率2点台前半の投手が何人おった?それどころか、2点台の投手ですらリーグで4人だけやで」
 -広島のジョンソン、中日の大野、DeNAの今永、そして巨人の山口。阪神とヤクルトの投手はいません。
 「巨人はそんな他球団のピッチングスタッフの不出来に乗じて優勝をさらったと思ってるんやが、僕が高く評価するのはやっぱり原監督の『勝負に対する執着心』やね」
 -確か、阪神戦でゲレーロにバントさせたことがありました。原監督は助っ人でも平気でバントを命じますし、考え方にブレがありません。
 「僕もあのゲレーロのバントが印象的に頭に残っとる。去年、起用法を巡って前の監督と悶着を起こした助っ人選手やが、あのシーンを見て、原監督はちゃんと信頼関係を築いたんやと感じた。そのゲレーロがのちにマジック減しの劇的な逆転2ラン(15日の阪神戦・東京ドーム)を放つんやからね。あれで巨人Vを確信したよ」
 小山氏も唸った『原采配』が広島4連覇を阻止して5年ぶりのV奪回を決めたわけだが、現在5位の阪神はCS進出へまだ首の皮一枚残して残り4試合に挑む。むろん、4戦全勝が前提で、まず24日の巨人最終戦(甲子園)に勝たなければならない。氏は「これに勝てば面白い。意外に首の皮一枚がぶ厚いかもしれん」と一縷(る)の希望を口にする。
 だが、話題が今季の戦い全体になると、口調はガラリと変わった。矢野体制1年目の今年、中継ぎ、抑えの投手陣は健闘したものの、開幕前から危惧されていた“打線の脆弱さ”は最後まで解消されることはなかった。特に、矢野監督がこだわり続けた「4番・大山」構想は8月で瓦解、3番を任された糸井の故障などもあり、来年に向け、またクリーンアップの再構築を余儀なくされた格好だ。レジェンドのボヤキ、いや、嘆きが続く…。
 -来年、4番は誰にすればいいんですかね?
 「これは大変な問題やで。あの段階(8月上旬)で大山を4番から外したということは、プランを白紙に戻したことを意味する。じゃあ誰、と言われると答えに窮するね。今現在4番を打たせているマルテか、と言ったら絶対違うと思うし、まして福留や糸井でもない。おらん、というのが答えやろ」
 -我々が期待をかけた大山が見込み違いとなれば、新たに打てる助っ人を獲る以外に選択肢はないですよね。今年はFA戦線も不作のようですし、ドラフトでもそんな打者はいそうにないですから…。
 「今年途中で獲ってきた助っ人は何ちゅう名前やったかな?すぐに2軍に落ち、ヤル気がないちゅうて帰ったのは…。去年おったロサリオもそうやけど、あまりにも酷すぎる。問題は、球団フロントがこの現実をどう考えているかや。日本人選手の中で4番が育たない、育てることができない以上、フロントがいい助っ人野手を獲ってカバーするしかないんやで」
 -投手陣も不安です。長年先発投手陣を引っ張ってきたメッセンジャーが引退し、復活が待たれた藤浪も今季0勝に終わるのが濃厚。期待の2年目左腕・高橋遙もまだ不安定ですし、小野や才木も伸び悩みました。来年のエースは誰でしょうね?
 「高橋遙はまだ年間を通じて投げられる体力が足りん。前半あんなにいい球を投げていながら、ここ3試合のKO劇を見るとそう思わざるを得ない。この秋から来春に向けて投げ込み、走り込みをして1シーズン戦える強い体を作ることやろう。となれば、西か、と言われるとそれもどうか。4番と同じで、現時点ではおらん。とにかく課題山積やで」
 逆転CS進出に向けて首の皮一枚残っている矢野阪神。24日の巨人最終戦(甲子園)を勝てば、残り3試合全勝も夢ではない。だが、小山氏が危惧するように、来年のことを考えると不安しかない。いずれにしてももうすぐ公式戦は終了、その時点から「矢野虎逆襲の2年目」がスタートする。まずは、今季の検証をきっちりと行い、責任の所在を明確化させることが先決かもしれない。
(デイリースポーツ・中村正直=1997~99年阪神担当キャップ、前編集長、現販売局長)