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ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第五章 妖魔の谷

 一同はダンガルに向かって歩き始めた。
だが、行けども行けども町は近づいて来ない。
ロレンゾは足を止めて考え込んだ。
「しまった! わしともあろうものが、妖魔の目くらましにかかるとは」
ロレンゾは小声で叫んだ。
「皆の者、あれは本物の町ではない。町の影にすぎん」
「蜃気楼、なの?」
ロレンゾ以外では唯一教養のあるマチルダが聞いた。
「いや、普通の蜃気楼とも違う。あの影には揺らぎがない。妖魔の目くらましにかかっておるのじゃ」
ロレンゾは何やら大声で呪文を唱えた。
すると、彼方に見えていた町は急に姿を消したのであった。
「わしらは砂漠で迷ったようだ。この魔物の力は、大きい」
「すると、あんたでもこれからどこに行けばいいか分からんのかい?」
ピエールが聞いた。
ダンガルへ行った事のある唯一の人間が道が分からないのでは、砂漠の中で日干しになって死ぬしかない。
「夜になれば、分かるよ」
アンジーが言った。
「どうしてだ?」
「星を見ればいいね」
なるほど、とマルス、ロレンゾはうなずくが、他の者は分からない。
「どうして星で分かるんだ」
とジャンが聞くと、
「星は並び方が決まっているね。それを見れば、ダンガルがどこかは分かるよ」
 一同はアンジーに救われた思いだった。
 思いがけず、ダンガルから遠く離れてしまった一行は、夜の間に方向を見定めて、ダンガルのあると思われる方向へと進んでいった。
 やがて一行の前方に、巨大な深い谷間が現れた。上から見下ろすと、底の方には小川が流れている。
 一同は歓声を上げた。もう二日前から、僅かの水しか口にしていなかったからだ。
 気をつけながら急な崖を下り、底に下りる。川の水量は少ないが、これで命は助かる。
 しかし、その時、マルスの首に掛けていた瑪瑙のペンダントが、赤く輝き出しているのをマチルダは見た。
「マルス、そのペンダント……」
言われてマルスは自分の胸元を見た。確か、このペンダントをくれたカルーソーは、これは妖魔の接近を知らせるものだと言っていた。
「待て、その水を飲むな!」
マルスは先に小川の前まで来ていたジャンに向かって叫んだ。
「馬鹿言え! 喉が渇いて死にそうなのに、これが飲まずにいられるか」
ジャンはそう言い返して、川に飛び込んだ。
「見ろ、何ともねえぜ」
川の中で水を跳ね返してはしゃぎながら、水を手ですくって飲む。
目を閉じて精神を集中させていたロレンゾの顔色が変わった。
「まずい、そ、その水は……!」
その瞬間、あっという間に川の水は血の色に変わり、気体を発して沸騰し始めた。硫黄と酸の匂いがあたりに立ち込め、ジャンは悲鳴を上げたが、その顔も体もすでに無残に溶けただれていた。
「ジャン!」
マルスとピエールは叫んだが、もはやどうする事もできない。彼らの見ている前で、ジャンの顔は頭蓋骨を露わにし、沸騰する赤い川の中にゆっくりと沈んでいった。
「済まない。わしがついていながらこんな事になるとは……」
ロレンゾはがっくりと地面に座り込んだ。
ピエールは涙のにじんだ目をきっと見開いて言った。
「爺さん、そんな事を言ってる暇はねえぜ。ほら、化け物のお出ましだ」
ピエールの見ている方角には宵闇の中に漂う無数の不気味な影があった。
その影は、ぼんやりとした人の顔をしているが、眼窩は黒い穴でしかなく、死人の顔である。そして、体は無く、顔だけが無数に浮遊しているのであった。
 浮遊する顔の一つが先頭のマルスに飛びかかってきた。マルスは剣を抜いて、それを切り払う。すぐに次の顔が飛びかかる。
 ピエールも剣を抜いて、辺りを飛び回りながら隙を見て飛びかかる顔に切りかかった。
 ロレンゾは呪文を唱えて結界を作り、女たちを守る。
 影との戦いは永遠に続くかのように思われたが、やっとマルスが最後の一つを切り落として終わった。
 妖魔の谷を出て再び砂漠を歩き出した時には、ピエールとマルスは疲労困憊し、駱駝に乗せてもらうしかなかった。
 しかも、女たちが自分の分を譲ってピエールとマルスに最後の水を飲ませた後には、もはや水は一滴も残されていなかったのである。
 夕日に照らされながら一行はとぼとぼと歩み続けた。もはや、歩ける限り歩いて、水のある所へ出ない限り、死ぬしかない。夜も歩き続けるしかないのである。


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