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ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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町の名は (3)-1 2016/07/14 (Thu)
(3)

刑士郎はカウンターで飲みながら、奥のボックス席にいる連中に時々ちらりと目を走らせていた。そこにいるのは旭組の中堅幹部二人と、店の女二人である。その手前の席に、幹部の使い走りらしいチンピラが、男二人だけ、手酌でビールを飲んでいる。
カウンターの中にいた女が前に来たので刑士郎は女に注意を向けた。わりときれいな女だ。刑士郎の手から氷だけになったグラスを取って、水割りを作る。
「お客さん、お酒強いのね」
「強いよ。あっちも強いよ。試してみるかい」
「いやあねえ、ホホ。ねえ、仕事、何してるの? ここの人じゃないよね」
「公務員」
「公務員、いいわねえ。不況知らずの仕事だもんねえ」
「まあね。親方日の丸って奴だ。でも、何をしているかは秘密だよ。国家機密」
「またまたあ。いつまでここにいるの?」
「ひと月くらいかな。ちょっとした調査でね。その間、女がいないから、もう大変。毎晩、ホテルのエロビデオ見てオナニーして寝てるの。可哀そうだろ。今晩どう?」
「また今度ね。お代わり作ろうか」
「水道水のウィスキー割か」
「いやあねえ。うちはちゃんとミネラル使ってるわよ」
「サントリー製のシーバスリーガルってのはなかなか美味いもんだな」
「馬鹿言わないでよ。本物のシーバスよ」
「そうか、飲み過ぎてこっちの舌がおかしくなっているんだ。そろそろお勘定にしようかな」
「あら、まだ宵の口じゃない」
「駄目だ。酔っぱらってあんたが美人に見えてきた。帰って寝たほうが良さそうだ」
その時、入り口のドアが開いて客が二人入ってきた。まだ二十代前にも見える若い客だ。
刑士郎から少し離れたカウンター席のストゥールに二人は腰を下ろした。
「ビール二本ね」
「はい、ビール、ツー」
注文を受けて女がバーテンに声をかける。
奥の席の女が二人、腰を上げた。
刑士郎は胃の中がむかつくような不快感に襲われていた。酒によるものではない。
「ちょっとトイレ。飲み過ぎた」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、おしっこするだけ」
刑士郎が立ち上がったとき、先ほど入ってきた二人の男がちょっと刑士郎の顔を見た。その目の奥の光は刑士郎には馴染みのものだった。
刑士郎がトイレに立って数十秒後、店内に銃声が鳴り響くのがトイレまで聞こえてきた。最初に4,5発。すこし間を置いて、7、8発。後の銃声は、明らかに、留めを刺したのだ。
刑士郎はトイレの窓から出られるか考え、あきらめて店内に戻った。
奥の席にいた旭組の四人はすべて射殺されていた。
カウンターでは女がバーテンに抱きついて震え、カウンターの端では女二人(おそらく、殺した側からあらかじめ言い含められていて、寸前に難を逃れたのだろう)が立ちすくんでいる。後から来た客たちの姿は無い。

警察で刑士郎は取り調べを受けたが、池島の手配で、すぐに釈放された。店の女とバーテンも刑士郎は事件と無関係だと証言していたせいもある。


刑士郎が最初の仕事をしたのは、それから三日後である。
夜、9時頃、街の盛り場を歩いている時、すぐ傍のビルから明治会の幹部の一人が、ボディガードらしい男二人と一緒に出てきたのである。刑士郎はすぐ周りに目を走らせた。他に明治会の組員や旭組の組員らしい者はいない。
刑士郎は三人の横を通り過ぎた後、コートの中からワルサーを引き抜きながら安全装置を外し、3秒で3発撃ち、三人を倒した。致命傷かどうかは気にする必要はないが、10メートル程度の距離で射損じるわけがない。銃声を聞き、三人が転倒するのを見て、何かが起こったことに気付いた通行人の女が悲鳴を上げた。
即座にマフラーで顔の下半分を隠し、その場から逃走する。幸い、このあたりは、裏道に回ればどこへでも逃げることができる。歩道に落ちた薬莢などは、池島署長が何とか誤魔化してくれるだろう。
遠くで鳴る救急車やパトカーのサイレンを聞きながら、刑士郎は歩みをゆるめた。久しぶりの殺人に、体の奥が高ぶっている。

東城の言っていた応援の大石大悟が来たのは十二月の中旬であった。五分刈の坊主頭で、がっしりした体格の三十代後半の男である。身長は刑士郎と等しく、幅は刑士郎よりある。
二人は公園で落ち合った。
「一人ひとり殺していたんでは、埒があかんでしょう。大型火器を使いましょう」
「一人ひとり殺していると言うより、二つの組の不和の種を撒いてお互いを疑心暗鬼にさせているんだがな。まあいい。大型火器と言うと?」
「バズーカですよ。でなければ迫撃砲」
刑士郎には二つの違いは分からない。
「そんなもの、どこにある」
「私が手に入れます。ソ連解体で、闇の武器は全世界に流れています。中国が大量に入手したらしいですがね」
「どれくらいで手に入る」
「まあ、一週間あれば大丈夫でしょう」
「機関銃のほうが簡単じゃないか」
「私は大型火器専門でしてね。まあ、あなたのためにそれも手に入れましょう」

二人は攻撃拠点として、マンションを二室借りることにした。
一つは旭組の近く、もう一つは明治会の近くで、五階と六階の高層マンションの最上階だ。どちらもベランダからは、100メートルほど先の下の方に目標の建物や敷地が見える。
「どちらからやっつけましょうか」
「できれば同時がいいが、まあ、一番、人が集まっている時だったら、どちらでもいいな」
「それなら、明後日に明治会本部で総会があります」
と言ったのは、情報の報告に来ていた井上明史である。
三人が今いるのは借りたマンションの一方の部屋(明治会の傍のマンション)である。
小春日和の暖かな日差しが、レースのカーテン越しに部屋に射し込んでいる。家具は一つも無い部屋だが、カーテンだけは最初の日にセットしてある。もちろん、外部からの目隠しだ。
テーブルも何も無い部屋の床に敷いた新聞紙がテーブル代わりである。その上に、ビールとつまみが並んでいる。
「私は旭組に明治会の総会の件をリークしておきますから、うまく行けば、連中、総会の真っ最中に殴り込みに行きますよ。そうすれば一石二鳥です。まあ、私がリークしなくても、旭組もその情報は知っていると思いますがね」
「総会は何時からだ」
「午後一時からです」
「池島署長に言っておいてくれ。総会の間、何が起こっても、現場に踏み込まないように、と。その後なら、全員しょっぴいていいが」
三人はそれぞれ、別々にマンションを出た。
もうすぐだ、という思いと、小春日和の暖かな日差しと、昼間から飲んだビールが刑士郎の頭のネジを緩ませていたのは確かである。
住宅街ですれ違う人や子供たちの平和そうな姿が、彼を、自分もその世界の住人だと錯覚させたのかもしれない。



刑士郎がホテルの部屋の鍵を開けて中に入ると、中にいた何者かが彼の後頭部を鈍器で殴った。
気がつくと、床に倒れている彼の前には4人の男が立っていた。
「おめえ、何をたくらんでやがるんだ。こんなモノを持っているようじゃあ、堅気じゃあるめえ」
正面に立っている、五十がらみの、猪首で五分刈の巨漢が言った。白いスーツの下が黒いダボシャツというのがいかにも田舎ヤクザ風である。
(旭組若頭、金山義光。性格、凶暴そのもの。知能は不明)
男の顔の情報が刑士郎の頭に入力され、答えを出した。
金山の手にしているのは刑士郎のワルサーPPKである。気絶している間に探り取られたのだ。おそらく、(ロシア製ではなく)中国製の安物のトカレフくらいしか手にしたことのない田舎ヤクザにはヨダレの出る代物だろう。
「実は、私、明治会に恨みがあるんです。親父が明治会の大東不動産に騙されて破産した上に、妹も明治会のチンピラに回されて殺された仇を討とうとしているんです」
そういう人間が10年前にいたという事を井上から聞いていて、いざとなればその話を使おうと考えていたのである。
「本当の名前は竹田ではなく、島田です。調べてもらえば分かります。家は隣町のS**町でした」
「S**町なら俺は住んでいたことがあるぜ。でも、こんな奴は知らねえな」
下っ端組員らしい男が言った。刑士郎はギョッとして観念しそうになった。
「いつ頃だ」
金山がドスの利いた声を出す。
「三年前かなあ」
「馬鹿野郎! 大東不動産が島田工務店から3000万円を騙り取ったのは10年くらい前の話だ。俺もその話は当時聞いていた」
刑士郎は心の中でほっと溜息をついた。
「もしかして、明治会の池永を殺(や)ったのはてめえか」
池永とは、繁華街の路上で刑士郎が殺した3人のうちの一人だ。
「は、はい、あの男が、妹を回した一人で」
「そうか。まあ、素人にしちゃあよくやった。だが、これ以上手を出すんじゃねえ。話が面倒になる。まあ、怪我しねえうちにここから逃げるんだな。こいつは俺が貰っとく」
言いながら、金山はワルサーを背広の内ポケットに入れた。
「は、はい、有難うございます」
刑士郎はぺこぺこと頭を下げた。


武器の類いを例のマンションの一つに移しておいたのは刑士郎にとってこの上ない幸運であった。井上から貰ったあのジュラルミンのトランクには、拳銃二丁と銃弾が多数入っていたのである。それを見つけられていれば、どう言い逃れをすることも不可能だっただろう。
刑士郎、井上、大石の三人のアジトであるマンションには、そのほかに、大石がどこからか持って来た軽機関銃と迫撃砲がある。
刑士郎は、用心のために、自分はアジトに近づかないことにした。大石はアジトの一つに寝泊まりし、井上は二人の中継役となった。


明治会の総会までに、刑士郎にはまだやることがある。できれば、の話だが。
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