つまり、アイデアや粗筋を思いついただけでは「金の取れる作品」あるいは「視聴者や読み手を感動させる作品」にはならない、ということで、そこ(平面的な設計図)からスタートして、「その骨子をどう立体化していくか」という辛苦の作業が必要になる、ということだろう。すなわち、「見せ方」「演出」の問題である。この「演出」が、小説では「プロット」に当たるのではないか。プロットの訳語は粗筋とか筋とされているが、むしろ「演出」が適切かと思う。
●期待賞『僕らの時間 ∫17-25(僕x-君x二乗)dx』相澤亮
▼投稿歴
2011年度 講談社月刊アフタヌーン四季賞 秋 落選
▼あらすじ
不死の生物と謳われるクマムシ。もしその生態を人体に応用できるとしたら―?
父親の実験によって、体の時間の狂ってしまった少女と、その少女に恋をした少年の物語。会えない時間と共に、二人の距離も段々と離れていき……。
▼選評
うめ これは、彼女が仮死状態になってるから、何年かに1回しか会えなくなっていくんですね。
三河 それで、何年かに1回会うと、彼女は年をとってないから彼ばかりが成長していくという話です。
うめ 新海誠さんの『ほしのこえ』(注1)のような。
三河 これは最終選考作の中では一番いいなと思いましたよ。
竹熊 話とかテーマがちゃんとできてますね。
三河 淡々と描いてるところがまたいいじゃないですか。
竹熊 絵も悪くない。この人、キャラクターから嫌な感じを受けないんです。
三河 ただ、すごくいい話なんですけど、実験シーンから入るじゃないですか。ここに引っ張られるんですよ。クマムシの生態を女の子に当てはめることで人類にどういう影響があるのかなって。SFなのかと思って読んでいると、真ん中あたりで「あ、これは切ないラブストーリーなんだ」とようやくわかるんです。だったら別にこの設定じゃなくてもいいんですよ。
うめ 未知の病気にしてしまう、通称クマムシ病と呼ばれている、でいいんですよね。
三河 それで、お父さんも治しようがないと言って苦悩してる、とか。
うめ これだと、なんで父親が自分の娘を危険な実験に巻き込んだのかっていう説明も何もないんですよ。
竹熊 作者はまずクマムシの生態を知って、この知識が面白いと思って、作品にしようと考えたんじゃないでしょうか。
三河 テーマ的に、この実験は重要じゃないんですよ。数年に1回しか会えないという事の方が重要なんですから。
うめ 最初はもう彼女が寝ていて、お父さんみたいな人が涙ながらに、名前を呼んでるぐらいのところから入っていけばいいんですよね。
竹熊 これけっこうページ数もありますよね。56ページあります。
うめ 16ページとかで描けるはずです。
三河 長いスパンの話ですが、そのくらい短くした方が面白いです。これは長いスパンの話だから、長いページ数がかかるんだという思い込みから入ってるような気がします。
うめ 漫画は1ページで100万年の時間を描けますからね。
三河 筋はいいんですけど、そこに演出がないんですよね。こういう構想があって、じゃあこれを何ページの漫画にしましょうって言った時に、その長いスパンの話を短いページで、どう描けば効果的なのかという事を考えられていないです。青春のやりとりとか、細かいところは結構面白いんですけど…。
竹熊 はじめに全体の構成を考えてないで、1ページ毎に「次は何を描こうかな」って考えながら描いている節すらありますね。
うめ 全体的に演出が単純じゃないですか。コマ割がつまらないのと、カメラワークがなってないんですね。寄りとロングの使い分けが全然なってないので、そこをもっと変化をつけるというのが王道の“直し”です。ただ、「いや、こういう淡々としたのが描きたいんです」って言うんだったら、『7と嘘吐きオンライン』(注2)ってあったじゃないですか。あれみたいに5段切りとか4段切りとかで全部同じコマの構成にしてしまって、その代わりページ数を16にしてって言うと、できるかもしれない。
三河 あと、どうして彼女のことがそんなに好きなのかという理由がイマイチ伝わらないんです。彼女のここが好きとか、どうして彼女じゃないとダメなのかとか、本当にちょっとしたことでもいいんですけど、1つわかっていれば、その筋を通して短くできるんじゃないかと思います。彼女が若いままで、彼がどんどん大人になっていって、たまに会うとスーツが似合う青年になっていて…という、そのへんは結構ツボがあって、いいんです。
うめ 恋愛物の絶対必須条件って二人の間にどう障害をつくるかであって、そういう意味でそこの障害として時間があるという、時空恋愛ものみたいなジャンルがあるんです。それのちょうどいい変化球としてアイディアがすごく良いんですよ。
三河 でも、それが埋もれてるのが、もったいないです。時空恋愛を軸にして、自分はどんどん大人になっていくのに彼女は19のままという、その悲しみと共に、もう次会えるのはいつなのかな、というような感じで終わらせてほしいですね。
うめ 最後、主人公が107歳とかになっていてもいいですよね。次に彼女が目覚める時、もう君は生きてないはずだって言われてたんだけどもそこまで長生きして、そこで初めて告白、でもいいですよね。
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