名優・仲代達矢が、11月5日(現地時間)ニューヨークの映像博物館で特別上映された岡本喜八監督作『大菩薩峠』について語った。
大菩薩峠で机竜之介(仲代)に斬り捨てられた老人の孫娘・お松(内藤洋子)は、通りかかった盗賊に助けられる。一方、竜之介は奉納試合でかつての同門、宇津木文之丞と立ち合うことになるが文之丞の妻・お浜(新珠三千代)から、試合で負けるよう懇願されたものの、彼女を抱いた後、情け容赦なく文之丞を殺し、お浜を連れて江戸に出奔する。その後、島田虎之介(三船敏郎)の道場で、文之丞の実の弟で、お松が恋心を抱く宇津木兵馬(加山雄三)と出会い、兵馬から果たし状を渡されるが約束を反故にし、竜之介は居場所を求め、新選組の居る京都に向かう。
岡本監督とのタッグについて「わたしの兄貴分のような監督でした。彼は娯楽性のある作品を随分作り、『大菩薩峠』はそれまでの彼のコメディータッチとは全く違う映画で、素晴らしい監督でした」と語った。映画内では特に最後のシークエンスが印象深い。「あのチャンバラシーンは、4日間くらい撮影していました。あのシークエンスだけで、全部で100人くらいの相手を斬っています。当時、僕は33歳でよく頑張ったと思います。今は、あんなチャンバラはできませんね(笑)」と答えた。
そんな刀を使った激しいアクションの訓練や三船敏郎さんについて「今作ばかりじゃなくて、大先輩の三船さんはチャンバラの天才でした。今作では斬られていませんが、『用心棒』や『椿三十郎』などで常に斬られていました。彼は素晴らしい刀の名人でして、わたしはあそこまでなかなか追いつけないと思い、自分の家の庭に小さな小屋を建てて、毎日そこでチャンバラの練習をしました。今作を観て、三船さんに少しは近づけたかなぁと思っております」と懐かしげに語った。
撮影監督、村井博さんについて。「岡本監督は、だいたい村井さんとチームを組んでいました。彼はとても素晴らしいカメラマンで、わたしも7、8本は共に仕事をしました。今作では、御簾(みす=宮殿や寺のすだれ)を本身の刀(真剣)で全部斬っていて、それをカメラマンが実にうまく撮っています。本身で御簾を斬ると、(斬れた)竹が足にくるため、『足の親指は気をつけろ!』と、カメラマンにしょっちゅう言われていました。当時はスタントマンを使っておらず、そのため、それができないと『お前は芸がない』と言われていました」と語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)