ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第二十三章 アンドレ
マルスの木剣の打ち込みを受け損ねて、ギーガーは左肩をしたたか殴られ、大げさな悲鳴を上げた。
「痛っ!」
マルスは心配そうにその側に駆け寄ったが、幸い、骨を折ったりしてはいないようだ。
「いやはや、三つの町の傭兵隊長を務めたこのギーガー様を打ち負かすとは、マルス殿は剣を取ってもこの国一の勇者になりそうじゃ」
ここのところ、マルスはギーガーの指導で剣を習っていたのである。マルスだけではなく、オズモンドやジョン、いや、マチルダやトリスターナまで、最後の決戦に備えて剣と槍を習っていた。もちろん、他の町民たちも、武器を手にして戦える年頃の者は皆、戦の訓練をしていた。まだ幼児に近いような子供も、石を投げたり、灰を投げて敵の目つぶしをすることを教えられている。
町民の数はおよそ三百だが、その中で戦える人数は、老人、幼児を除くと二百五十人くらいであり、その中で武器が扱えるのはせいぜい二百人くらいである。純粋な戦闘員に勘定できる者となると、百人くらいだろうか。この前マルスの弓で五十人くらい倒されて、敵の数は減ったとはいえ、まだ百五十人ほどはいる。しかも彼らは専門の殺し屋たちである。町民たちが勝つのは至難の業だろう。
日が真上に昇った頃、参事会堂の扉が開き、五人の参事が中から現れた。
「決定を告げる。我々はあと三日のうちに、野盗どもと最後の決戦をすることになった!」
イザークが大声に言った。広場に集まっていた町民たちは大きくどよめいた。
オズモンドは側のマルスと目を見交わし、喜びの顔で強く握手した。今の今まで、マルスが敵に引き渡されることになるのではないかと気がかりだったのである。マチルダとトリスターナはマルスに飛びついて、祝福のキスをした。
騒ぎがひとしきり収まるのを待って、イザークは続けた。
「戦の総指揮はこのアンドレが行う。ギーガーとマルスには戦闘の采配を取って貰うが、戦略面はアンドレの指示に従うように。アンドレが死んだら、後の指揮はこのわしが行う」
マルスはイザークの後ろに立っている若者を不思議そうに見た。女のようにほっそりとした二十歳くらいの若者で、色白の顔をうっすらと紅潮させている。
「あの人は?」
マルスは側のギーガーに聞いた。
「アンドレかい? イザークの孫だが、妙な男でな。ほとんど人と会わず、本ばかり読んでいるという話だ。なんでそんな男が戦の総指揮をするのかな」
ギーガーは忌々しそうに言ったが、マルスはそのアンドレという若者に興味を持った。ちょっと、普通の人間ではない雰囲気が漂っているのである。ここには場違いな感じで、迷子の天使が少し人間の仲間入りをしてみたとでもいった雰囲気である。
「あの人可愛いわね」
マチルダとトリスターナは女らしく男の品定めをやって互いに喜んでいる。
マルスとギーガーは参事会堂に呼ばれた。戦の相談だろう。
「始めに、僕の構想を言いますから、まずいところがあったら指摘してください」
アンドレは自己紹介もなく、すぐに本題に入った。
「まず、戦の場所ですが、城外ではなく、この城内に敵を引き入れて戦います」
「ふむ、まあ、どうせ負けたらそれで終わりなんだからな.それでもいいさ。俺としては広いところで思い切り戦いたいがな」
ギーガーが言った。
「いえ、これが最良の方法なんです。まず、こちらは城の地理に慣れてますが、敵は初めてです。それに、城内というものはもともと守備側が有利なように作ってあるのです。もちろんこの町は単なる城砦都市であって、本格的な防御設備はありませんが、それでも今から幾つか罠を仕掛けることもできますし、あちこちに人を潜ませて敵を不意打ちすることができます。皆さんの役割ですが、マルスさんには城の高いところを移動しながら、敵を弓で射て貰います。ギーガーさんには他の兵士たちと中心の通路で敵を迎え撃ちながら敵を罠に導く役目をして貰いたいのです」
聞いているマルスは直感的にこの戦略が優れていることが分かった。いや、この方法以外には敵に勝つ方法は無いと言っても良いだろう。
「次に、具体的な作戦ですが、まず城門を開けて外に打って出ます。少し戦ったところで味方は城に逃げ戻ります。すると、敵は中に攻め込んでくるでしょう」
「攻め込まなかったらどうする」と、ギーガーが口をはさむ。
「次の機会を待ちます。しかし、十中八九敵は追ってきますよ。せっかく城門が開いたチャンスを逃すことはしないでしょう」
アンドレは淡々と言った。自分の言ったことに強い自信を持っているのだが、それを力説しようとするところはまったくない。いわば、それが数学の定理ででもあるかのように考えているのである。
「そううまくいけばいいがな。戦ってのは考えどおりにいくことは滅多にないものさ」
ギーガーが実戦派らしい疑いを呈したが、アンドレは気に掛けず、先を続けた。
罠の内容、戦闘員の配備、戦闘の手順に至るまで、すべてがアンドレの頭の中で精密機械のように考え抜かれていることにマルスは驚嘆した。
この男にとっては、戦争というものはチェスのゲームか何かと同じなのではないか。
ギーガーの言うように、それが机上の空論なのではないかという一抹の不安はあったが、マルスはとにかくこのアンドレという男は天才的な頭脳の持ち主だと思ったものである。
仲間たちのところに戻ったマルスはアンドレのことを仲間に話した。
「彼の言うとおりにやれば、この戦は大丈夫、勝つよ」
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