ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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風の中の鳥 (1)(2) 2016/07/18 (Mon)
第一章 脱出
今のポーランドに近いあたりに、ローラン国という小国があった。長いローマ帝国の支配の時代には国ですらなかったが、いつの頃からか、ルドルフという男がこの国の王となり、人々を支配し始めた。彼は西ローマの傭兵だった男であるが、十人ほどの仲間と語らってこの国で山賊を始め、やがてそれが数百人の武士団になったのである。そうなると、もはや彼らの支配に反抗できる人間は、百姓の中にはいない。もっとも、王と言っても、その暮らしぶりは、小さな荘園領主程度ではあったが、百姓以外の生き方を想像することもできない哀れな連中の中で王になろうというのは、良い思いつきだったと言えよう。
彼は国民に農耕や牧畜の収入や収穫の半分を上納することを命じた。その代わりに、自分たちが他の山賊や他国の侵略からお前達を護ってやるのだというわけだ。まるでどこかの国に居座っている占領国の軍隊みたいな言いぐさだが、それを信じている住民も多かった。国王様のお陰で安心して生活ができる。有り難いことだ、と拝む者さえ出てくる始末である。それがこの純朴な時代の人心だったのである。人々は神話や伝説を半分以上信じていたが、それと同様に宗教家や為政者の作り上げる大嘘も信じていた。
ルドルフは、大酒のみの乱暴者だったが、仲間には頭目としての能力を認められていた。第一に喧嘩が強いこと、第二に気前が良いことがその理由だが、もう一つ、彼の凶暴で執念深い性格が恐れられていたのが、彼が頭目になれた理由であった。人々を支配するには、愛情よりも恐怖が有効である、というのは、数百年後にマキアヴェリも書いている。
喧嘩は強いが、計算能力は無い連中のことだから、王国の経営は放漫そのものであった。徴収した膨大な年貢の穀物はろくな保管もされず王宮の穀物蔵に詰め込まれ、その大半が腐っていった。
この頃はすでにかなりな程度、貨幣は流通していたが、よその大きな国ならいざしらず、このような田舎国では年貢は当然物納である。しかし、王国の宮廷には、その物納された年貢を金に換えることのできる商才のある人間がいなかった。そこに目を付けたのが、この国の首都アルギアの商人ケスタであった。
彼は王に申し出て、自分がこの穀物を金に換えようと言った。王にしてみれば願ってもないことである。
ケスタが穀物を他国に売り払って、王に巨額の金を渡した時には、王は彼の手を握って感謝感激の体であった。その実、ケスタが穀物の販売代金の半分しか王に渡さなかったことなど、王は知らなかった。いずれにせよ、どうせ穀物蔵で腐っていたはずの穀物である。
やがてケスタはその財政能力を見込まれて、王の宰相となった。ケスタは年貢の穀物を外国に売り払い、王室と自分の懐を富ませたが、その年貢を払うために国民の大半が食うや食わずの有様であることなど歯牙にもかけなかった。このにわか貴族は、平民が年貢のために餓死したところで、自分たち貴族には関係ないことだ、と思っていたのである。成り上がりの人間の大方は、そういうものだ。成り上がりの代表、豊臣秀吉が、刀狩と検地で身分制度を固定し、自分のような成り上がりが二度と出てこられなくしたのは、いい例であろう。百姓上がりの人間だから、百姓に対して恵み深い政治をするだろうなどというのは、甘い期待というものである。自分と同じ人間が出てくる事を恐れた秀吉の為に、彼以降の百姓は、二度と百姓の身分から浮かび上がれなくなったわけである。
このローラン国の人口はわずか三十万人ほどである。国の大半は森林と野原と荒地と湖沼で、人間が住める耕作地は点在していたため、今なら、田舎の町程度の人口が、一つの国全体に散らばっていたわけだ。国には大きな町が三つ、中位の町が八つほど、小さな村が二十ほどあり、あとは村とも言えないような集落があちこちにあった。
そうした集落の中に、狩人の村があった。山奥の盆地にある、わずか五十軒ほどの集落だが、王室の収税人も、この集落の存在は知らなかった。だから、王室による収奪も無く、比較的平和に暮らしていたが、豊かだったわけではない。冬など、一月も山を探して一匹も獲物の無い時期もある。そうした時は、木の根や草の根を囓って生き延びるのである。
村には、村長がいた。村長というよりは、山の長である。狩りの名人で、百歩離れた所から木の上の栗鼠を矢で射ることができる。おそらく、常人の目には、百歩先の栗鼠など、姿も見えないだろう。
その村長には息子が二人いたが、その長男がこの話の主人公、フリードである。
フリードは、今年十七歳になる少年、いや、この時代ではもはや立派な青年である。背が高く、逞しい骨格をしていて、怪我をした大人一人を担いで半日以上山歩きができるくらい力が強く、持久力があった。山の民の常として、口数は少なく、穏和な性格だったが、決断が早く、思いこんだら梃子でも動かない頑固なところもある。顔だちは整っているが、滅多に笑わないため、愛嬌はあまりない。もともと田舎の人間、特に山の人間はあまり笑わないものだ。笑いは、文明の技術であり、自然に近い存在は笑わない。敵に対する軽蔑を表すために、誇張した笑いを笑うというのは、未開の人種でもあるが、日常的に笑うことなどはないのであり、田舎者は概して愛嬌には欠けるものである。
この集落に、ある日、王の収税人がやってきたことから、フリードの運命は大きく変わった。
二人の兵士を連れた王の収税人は、ムルドというこの狩人の村に対して、女たちが作る野菜の収穫、男たちの狩りの獲物の半分を王に差し出すように命令した。
村長のアギルはそれを穏やかに拒絶した。今でさえ生存に十分とは言えない収穫や獲物の半分も取られては、村人が生きていけるはずはないからだ。それに、獲物である動物の死体を、どのようにして納めるのか。
「獲物の皮をなめして、それを納めるのだ。肉は干し肉にすればよいではないか」
収税人の言葉に、アギルは首を横に振った。
「獲物は、我々が食っていくのにも足りないくらいだ。我々に飢えて死ねというのか」
「王の命令に背くというのか。ならば、兵士たちを差し向けて、お前たちを皆殺しにするぞ」
「それが王のすることか。王とはいったい何者なのだ。我々から獲物を取り上げる権利をなぜその男が持っているというのだ」
もちろん、この当時の人間が、権利などという抽象的な言葉を持っていたわけではないが、これは小説である。作者が、昔にふさわしい表現を思いつかない場合もあるのだから、これから先、会話の中に現代的な言葉がうっかり出てきても気にしないでいただきたい。
王の収税人は、背後に控えていた二人の兵士に合図をした。
「王の命令を聞かぬ者を、村長にしておくわけにはいかん。この者を捕らえよ」
二人の兵士は、剣を抜いて前に進み出た。
それを見て、アギルの後ろにいたフリードが前に飛び出した。
「やめろ、父に手を出すな!」
「邪魔をするなら、お前も殺す」
「やってみろ!」
フリードは、素早い動きで兵士の剣をかわし、その腕を小脇に挟むと、逆に取ってへし折った。
兵士は悲鳴を上げて腰を抜かした。
もう一人の兵士が斬りかかる前に、フリードは、腕を折った兵士から取り上げた剣を構えていた。剣を使うのは初めてだが、山刀で熊や猪と戦ったことは何度もある。
兵士の動きは、野生の獣の動きに比べれば、のろい。
斬りかかる剣を余裕をもってかわし、フリードは剣を横に薙ぎ払った。
兵士の首は宙に飛んで、収税人の足元に落ちた。
収税人は悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、その前に屈強な村人達が立ちふさがる。
「フリード、短慮だぞ。王の兵士は千人以上もいるという話だ。彼らを差し向けられては、我々はひとたまりもあるまい。ここはわしが何とかするから、お前はすぐここから逃げるのだ。いいか、この国の外に出て、身が安全だと分かるまでは絶対に帰ってくるなよ」
アギルは厳しい顔でフリードに言った。
「しかし、父上の身が危ないのでは」
「心配するな。わしは、お前の三倍も生きている。ここをどう処置すればいいかぐらい分かっている。さあ、わしを抱きしめてくれ。もしかしたら、これが永遠の別れになるかもしれん」
フリードは、涙を流しながら父を抱きしめた。
「お前の弟のヴァジルは、あと半月は猟から帰ってこない。別れを告げている暇はあるまい。あいつにはわしからよく言っておこう。では、行くがよい」
フリードは、父の言葉に頷いて、家に戻り、母に事情を告げて旅支度を整えるとすぐに村を出た。
背中には、山歩きに用いる皮袋を背負い、腰に山刀を下げて、肩に弓矢を掛け、手には肩ぐらいまでの長さの樫の木の杖を持っている。これが放浪の旅に出た時のフリードの姿だった。
(お母さんはきっと、僕がほんのわずかの間だけ身を隠すのだと思っているだろうな。しかし、もしかしたら、お母さんの顔を見るのも、これが最後かもしれない。お母さん、御免なさい)
フリードは、村を振り返りながら、心の中で母に謝った。
第二章 山の隠者
急ぎ足で山を下りていったフリードだが、国王の追っ手が来るとしても、まだだいぶ先の事である。この辺の山の地理に不案内な追っ手がフリードを捕まえるのは不可能に近い。人相書きなどで指名手配することもない時代であるから、現場さえ離れれば、一安心だ。
だが、これからは定住者であることをやめ、放浪の生活を送らねばならないことは、さすがにフリードに心細い感じを与えた。
フリードは、ローラン国の東にある首都アルギアとは反対の方向に向かって歩いていった。そのまま西に歩き続ければ、隣国フランシアに出る。だが、隣国との間は、深い森や山があちこちにあって、楽な道ではない。道そのものがほとんど無く、山や林、森の間を歩いている時間の方が長い。そして、その山や森には狼や熊がいた。旅人が多く通る街道には宿もあったが、フリードには宿に泊まる金は無かったので、もっぱら野宿をすることになる。森や山で木の実や草の実を取り、兎や鳥を矢で射て食べるのが、彼の唯一の食事である。もしも獲物がずっと無い場合は、そのままそこで飢え死にすることになる。
だが、三日ほど経つと、フリードの心には心細さはほとんど無くなり、自由で気楽な旅の生活を楽しむ余裕が生まれてきた。毎日違った風景と出会いながら暮らすのも面白い、という気持ちになってきたのである。こういった考えは、追い剥ぎや強盗など危険の多い旅を恐れ、必要以外にはほとんど旅をしなかった当時の人間としては、ジプシーを除いてはかなり珍しい部類に属しただろう。毎日が似たような作業の繰り返しである山の生活から、自由な空間の中に出た喜びを、今のフリードは味わっていたのであった。
季節は夏になったばかりで、まだまだ涼しく、吹き渡る風は心地よい。フリードは、歩いて汗をかくと、近くの小川や湖に、素っ裸で飛び込み、日を受けてきらきら光る冷たい水の中で泳いだ。そして魚を追い、野山で兎や野鼠を弓で射て食事にする。今の人間から見れば、毎日が遊びのような羨ましい生活だが、獲物がなければ明日にでも死ぬという厳しさが、その反面にはあるのである。
幾日かの旅の後、やがてフリードは、ローラン国と隣国を隔てる国境となっている、森に覆われた低い山脈に来た。ここを越えれば隣国のフランシア国である。フランシアはローラン国の二十倍ほどの大きさの国だ。森林国のローラン国とは違って平野が多く、農業も商業も発達しているという話である。そこで何とか生きていく手段を見つけることが出来るかもしれない。
山の麓で兎を三匹射たフリードは、それに岩塩をまぶしながらからからに火で炙って即席の薫製にした。山で獲物が見つからなければ、これが山を越える間の食料のすべてである。
フリードの皮袋の中には、火打ち石と干し肉、岩塩のほかに、革の細紐となめし革が入っている。なめし革は、民家で金か食料に換えるために家から持ってきたのである。そのほかに縫い物針が一本。これは、当時としては貴重な物である。皮や布があっても、針がなければそれを衣服や靴に仕立てることができない。針に限らず、金属製品は、すべて非常に高価であった。たとえば、フリードが腰に下げている山刀一本が、貂や狐の毛皮十枚にも相当した。もっとも、その毛皮一枚が、頭のいい商人の手を経て貴族に売られると、山刀数本分に化けたのだが、フリードたち田舎者には、そんなからくりは分からない。
この時代、平民には、職人と商人、百姓、山人、ジプシーなどがいたが、一般に商人、職人、百姓の順にいい暮らしをしていた。百姓の一部は山人よりはいい暮らしをし、他の一部は山人よりも惨めな暮らしをしていた。職人は百姓や狩人よりはましだから、職人になりたがる百姓は多かったが、自分で望んでもなれるとは限らない。当時すでにギルドが出来上がっており、既得権を守り、同業者数を増やさないように、そのギルドが職人世界を支配していた。まったく、人間というものは、自らの目先の欲のために、好んで、この世を狭く息苦しくしたがるものなのである。世の中が進むにつれて、すべてが法や規制で雁字搦めになっていくのは、大抵の場合、その規制によって利益を得る商人や、それと結託した官僚など一部の人間のためなのであって、けっして世の中全員のためではない。
山に入っていったフリードは、日が暮れてきたので、野宿できそうな場所を探した。
適当な場所を探しながら歩いていると、山の谷間に小屋が見えた。しかも、人がいるらしく、宵闇の中で、窓から明かりが漏れているのが見える。
あそこで一夜の宿を借りよう、とフリードは考えた。フリードの村では、村に迷い込んだ旅人に宿を貸すのは当たり前のことだったから、この家もきっと泊めてくれるだろうと無邪気に思ったのである。
丸太を組んで作った小さな小屋の扉をフリードは叩いた。
「どなたじゃな」
中からしわがれた声がした。中に住んでいるのは老人らしい。
「旅の者です。一晩、宿をお借りしたいのですが」
「……入りなされ。宿を貸すかどうかは、顔を見てからのことだ」
奇妙な事を言う男だな、と思いながらフリードは扉を開けた。
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私の別ブログ(私はブログを4つ持っている)に載せてあった、「風の中の鳥」という冒険小説を転載する。作品内容は下の「前書き」で書いている。いわば、最近はやりの「異世界転生もの」の舞台となりがちな中世西洋を舞台とした「魔法抜きの『剣と魔法の物語』」である。駄弁の多い御伽噺、あるいはアホな西洋講談と言ってもいい。ある意味では「アンチ騎士物語」である。
2024年9月9日追記(1回2章で全21回の予定。ちょうど9月いっぱいで終わるか。まあ、新聞小説を読むような感じで読めばいいかと思う。その気になれば前の部分を読み直せるから新聞小説よりマシだろう。)
(以下自己引用)
「風の中の鳥」 前書き 2016/07/18 (Mon)
まだ、新しく何かを書く意欲が起こらないので、別ブログに収納してある古い作品を転載しておく。
「風の中の鳥」という、騎士物語の体裁を取った駄弁小説で、フィールディングの骨法で小説と随筆の混合物を目指したものだ。そのぶん、物語としてはいい加減だが、書いている間はけっこう楽しかった。その楽しさが読む人に少しでも伝わればいいのだが、この話の中では女性たちはたいてい非道な目に遭うので、それはあらかじめ注意しておく。何しろ、昔は女性が非道な目に遭っていた、というのは間違いの無い事実だから、それを西洋の「見かけだけの女性尊重」で誤魔化すほうがおかしいのである。
毎日1章ペースで書いた作品だが、転載はプロローグは別として毎日2章ずつやっていく。
プロローグ
世界の大半がまだ森林に覆われ、人々がまだ神と悪魔、天国と地獄を信じていた時代。人間の世界は小さかった。
海を渡る手段として大型帆船はまだ存在せず、羅針盤も無い状態では、海を隔てた大陸と大陸との交通はほとんど無く、地続きのヨーロッパとアジアの間の交通さえも、アレクサンダーの東征以来ほとんど無かった。まだ、ヨーロッパの王族貴族が、坊主どもの口車に乗って、十字軍遠征などという狂気の侵略行為を行う以前のことである。
森や山は静寂に包まれ、湖は水晶のように透き通り、谷川のせせらぎは清く美しかったが、自然は人間にとって後世のような賛美の対象ではなく、畏怖の対象であった。地表を覆う膨大な森林の木の根や岩石は農耕を拒絶し、人々は無限に広がる土地の中のほんの僅かな開墾地で耕作し、集落を作って生活していた。自然の災害は巨大であり、土地からの収穫は少なく、人々は絶えず飢えに直面しながら、自らのその状態を運命として大人しく受け入れて暮らしていたのであった。
そして、自然の中でも、人間の世界でも弱肉強食の暴力がすべてを支配していた。
人間の歴史が始まった頃、彼らの中で狡知と暴力の才能に恵まれた者たちは、徒党を組んで他の人々から物を奪い、人々を屈従させ、支配していったが、やがてこうした山賊野盗の末裔たちは、自分たちを王侯貴族と称し始めた。彼らは王侯貴族と庶民を区別し、生まれによる階級を作って、武器を持たない庶民からあらゆる物を取り上げ、税金や年貢を要求した。彼らはまた、自らの出自について様々な伝説を作り、自分たちは神に選ばれ、あるいはその優れた能力や人格のために人々の信託を受けて国を治めている階級なのだと人々に信じ込ませた。
長い時間のうちには、嘘も歴史になる。
こうして、世界には王侯貴族を主人公とした勇士や王者の物語が生まれた。名もない庶民たちも、自分たちとは一生縁のないそれらのロマンスに憧れ、長い冬の間、暖炉の炎の傍で古老や物知りの語る「高潔な」勇者たちの冒険談に聞き入った。
しかし、庶民の中でも明晰な頭脳を持った者は、この世の身分制度の成り立ちについて、真実を見抜いていた。要するに、暴力によってこれらの階級は作られ、維持されているに過ぎないのだと。とは言っても、一度定まった身分制度の枠を越えてのし上がるのは、容易な事ではない。この世の理不尽さに立ち向かう気概の無い、多くの平凡な庶民は、自らの生まれた身分を運命として受け入れ、それに従うだけであった。だが、まだ法の無かったこの時代には、いや、いつの時代でも実はそうではあるが、自らを何者と定義づけるかで、自分が何者であるかは決まったのであった。
これは、そうした時代に生まれ、天与の勇気と幸運に恵まれた一人の若者と、それを取り巻く人々の物語である。
2024年9月9日追記(1回2章で全21回の予定。ちょうど9月いっぱいで終わるか。まあ、新聞小説を読むような感じで読めばいいかと思う。その気になれば前の部分を読み直せるから新聞小説よりマシだろう。)
(以下自己引用)
「風の中の鳥」 前書き 2016/07/18 (Mon)
まだ、新しく何かを書く意欲が起こらないので、別ブログに収納してある古い作品を転載しておく。
「風の中の鳥」という、騎士物語の体裁を取った駄弁小説で、フィールディングの骨法で小説と随筆の混合物を目指したものだ。そのぶん、物語としてはいい加減だが、書いている間はけっこう楽しかった。その楽しさが読む人に少しでも伝わればいいのだが、この話の中では女性たちはたいてい非道な目に遭うので、それはあらかじめ注意しておく。何しろ、昔は女性が非道な目に遭っていた、というのは間違いの無い事実だから、それを西洋の「見かけだけの女性尊重」で誤魔化すほうがおかしいのである。
毎日1章ペースで書いた作品だが、転載はプロローグは別として毎日2章ずつやっていく。
プロローグ
世界の大半がまだ森林に覆われ、人々がまだ神と悪魔、天国と地獄を信じていた時代。人間の世界は小さかった。
海を渡る手段として大型帆船はまだ存在せず、羅針盤も無い状態では、海を隔てた大陸と大陸との交通はほとんど無く、地続きのヨーロッパとアジアの間の交通さえも、アレクサンダーの東征以来ほとんど無かった。まだ、ヨーロッパの王族貴族が、坊主どもの口車に乗って、十字軍遠征などという狂気の侵略行為を行う以前のことである。
森や山は静寂に包まれ、湖は水晶のように透き通り、谷川のせせらぎは清く美しかったが、自然は人間にとって後世のような賛美の対象ではなく、畏怖の対象であった。地表を覆う膨大な森林の木の根や岩石は農耕を拒絶し、人々は無限に広がる土地の中のほんの僅かな開墾地で耕作し、集落を作って生活していた。自然の災害は巨大であり、土地からの収穫は少なく、人々は絶えず飢えに直面しながら、自らのその状態を運命として大人しく受け入れて暮らしていたのであった。
そして、自然の中でも、人間の世界でも弱肉強食の暴力がすべてを支配していた。
人間の歴史が始まった頃、彼らの中で狡知と暴力の才能に恵まれた者たちは、徒党を組んで他の人々から物を奪い、人々を屈従させ、支配していったが、やがてこうした山賊野盗の末裔たちは、自分たちを王侯貴族と称し始めた。彼らは王侯貴族と庶民を区別し、生まれによる階級を作って、武器を持たない庶民からあらゆる物を取り上げ、税金や年貢を要求した。彼らはまた、自らの出自について様々な伝説を作り、自分たちは神に選ばれ、あるいはその優れた能力や人格のために人々の信託を受けて国を治めている階級なのだと人々に信じ込ませた。
長い時間のうちには、嘘も歴史になる。
こうして、世界には王侯貴族を主人公とした勇士や王者の物語が生まれた。名もない庶民たちも、自分たちとは一生縁のないそれらのロマンスに憧れ、長い冬の間、暖炉の炎の傍で古老や物知りの語る「高潔な」勇者たちの冒険談に聞き入った。
しかし、庶民の中でも明晰な頭脳を持った者は、この世の身分制度の成り立ちについて、真実を見抜いていた。要するに、暴力によってこれらの階級は作られ、維持されているに過ぎないのだと。とは言っても、一度定まった身分制度の枠を越えてのし上がるのは、容易な事ではない。この世の理不尽さに立ち向かう気概の無い、多くの平凡な庶民は、自らの生まれた身分を運命として受け入れ、それに従うだけであった。だが、まだ法の無かったこの時代には、いや、いつの時代でも実はそうではあるが、自らを何者と定義づけるかで、自分が何者であるかは決まったのであった。
これは、そうした時代に生まれ、天与の勇気と幸運に恵まれた一人の若者と、それを取り巻く人々の物語である。
コメント5ではないが、幻想水滸伝2は「隠れもない名作」である。
私は、さほどゲーム数は経験がないが、やった中では
東横綱 ドラクエ3 西横綱 幻水2
東大関 FFタクティクス 西大関 ヴァンダルハーツ
である。ヴァンダルハーツは絵柄がひどいが、それを我慢すれば、ゲーム性は最高に良くできている。
幻想水滸伝3は、2が良すぎたために叩かれているだけで、非常に優れたゲームである。3Dキャラだが、キャラがすべて可愛い。これはキャラ絵を描いた絵師の腕である。幻水2と同じ絵師。
東横綱のドラクエ3は、これまで100周くらいして、今でもやっている。100周しても、時々新しい発見(たとえば雷神の剣を敵が落としたりする。)があるし、いろいろ試すのが楽しい。たとえば、キャラ名をリナとガウリーにして、ふたりだけで旅したり、いろいろ転職して最強パターンを探したり。だいたいLV50くらいでラスボスを倒すことは可能なので、あまり急がないで、旅を楽しむことだ。カネも無く、レベルも低いころが一番楽しいとも言えるのだから。
東大関のFFTも、10周か20周したと思う。ただし、完走したのは2回くらいしかない。最後の戦闘のあたりでは敵が異常に強いので、ゲームバランスがあまり良くない気がする。それに、アグリアスが、敵としては魅力的だのに、仲間にするとさほど強くないので、途中から別メンバーにするしかないのが残念だ。まあ、これは多くのゲームに良く見られる傾向だ。ちなみに、アグリアスは「くっ殺」の元祖だという噂があるが、まあ、そういう妄想はRPGプレイヤーのよくある話だ。
(以下引用)
『幻想水滸伝2』とかいう隠れた名作ゲーム
2024/09/09/ 00:35
『幻想水滸伝2』とかいう隠れた名作ゲーム
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Feedly
1: 名無しさん ID:NDLY0qS30
マジで面白いからおすすめ
2: 名無しさん ID:pwDDw4X60
テンガアールすき
4: 名無しさん ID:GUxQvk890
ほーん、どんなゲームなん
8: 名無しさん ID:NDLY0qS30
>>4
RPGでストーリーが良い
5: 名無しさん ID:n3kkCX3i0
隠れてはないだろ
続編がコケ続けただけで
7: 名無しさん ID:NlVYMBD70
通してくれない門番を大人の話で通れるようにした所で興奮した
9: 名無しさん ID:LDu6ix+K0
ナナミ最高のお姉ちゃんだよな
11: 名無しさん ID:XuOmg4aJ0
1の主人公がクソ強いが隠居生活してるのがなんか淋しい
13: 名無しさん ID:n3kkCX3i0
>>11
でも108エンドの主人公ってわかるから悪くないだろ
14: 名無しさん ID:XuOmg4aJ0
>>13
確かに側近の人が生きてるもんな
それは良いと思った
12: 名無しさん ID:MHv+9CMi0
主人公とジョウイのおさななじみ攻撃好き
15: 名無しさん ID:LDu6ix+K0
出来ればグレミオもパーティーに入って欲しかった
16: 名無しさん ID:NDLY0qS30
ルカブライト戦もめっちゃ良かった
これぞボスって感じの総力戦もすごかったわ
18: 名無しさん ID:0rWnmKJ40
プレイ前俺「姉萌えとか、ねえわ」
後「うおおおおおナナミいいいいいい(姉燃え)」
19: 名無しさん ID:LDu6ix+K0
俺は!俺が思うまま俺が望むまま邪悪であったぞ!
17: 名無しさん ID:CLyKLZwj0
紋章の術と術組み合わせて強力な術発動させるの好きだった ソウルイーターくらいしか覚えてないが
20: 名無しさん ID:CLyKLZwj0
あぁ2の話か間違えたわ
22: 名無しさん ID:M5tV3wRY0
>>20
1も2も合成術とソウルイーターあるから間違いじゃないぞ
21: 名無しさん ID:HdrFTzqj0
リマスターまだ?
24: 名無しさん ID:T2d8CNLC0
1→2は凄かったのに、3で一気に死んだ
私は、さほどゲーム数は経験がないが、やった中では
東横綱 ドラクエ3 西横綱 幻水2
東大関 FFタクティクス 西大関 ヴァンダルハーツ
である。ヴァンダルハーツは絵柄がひどいが、それを我慢すれば、ゲーム性は最高に良くできている。
幻想水滸伝3は、2が良すぎたために叩かれているだけで、非常に優れたゲームである。3Dキャラだが、キャラがすべて可愛い。これはキャラ絵を描いた絵師の腕である。幻水2と同じ絵師。
東横綱のドラクエ3は、これまで100周くらいして、今でもやっている。100周しても、時々新しい発見(たとえば雷神の剣を敵が落としたりする。)があるし、いろいろ試すのが楽しい。たとえば、キャラ名をリナとガウリーにして、ふたりだけで旅したり、いろいろ転職して最強パターンを探したり。だいたいLV50くらいでラスボスを倒すことは可能なので、あまり急がないで、旅を楽しむことだ。カネも無く、レベルも低いころが一番楽しいとも言えるのだから。
東大関のFFTも、10周か20周したと思う。ただし、完走したのは2回くらいしかない。最後の戦闘のあたりでは敵が異常に強いので、ゲームバランスがあまり良くない気がする。それに、アグリアスが、敵としては魅力的だのに、仲間にするとさほど強くないので、途中から別メンバーにするしかないのが残念だ。まあ、これは多くのゲームに良く見られる傾向だ。ちなみに、アグリアスは「くっ殺」の元祖だという噂があるが、まあ、そういう妄想はRPGプレイヤーのよくある話だ。
(以下引用)
『幻想水滸伝2』とかいう隠れた名作ゲーム
2024/09/09/ 00:35
『幻想水滸伝2』とかいう隠れた名作ゲーム
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マジで面白いからおすすめ
2: 名無しさん ID:pwDDw4X60
テンガアールすき
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ほーん、どんなゲームなん
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>>4
RPGでストーリーが良い
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隠れてはないだろ
続編がコケ続けただけで
7: 名無しさん ID:NlVYMBD70
通してくれない門番を大人の話で通れるようにした所で興奮した
9: 名無しさん ID:LDu6ix+K0
ナナミ最高のお姉ちゃんだよな
11: 名無しさん ID:XuOmg4aJ0
1の主人公がクソ強いが隠居生活してるのがなんか淋しい
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>>11
でも108エンドの主人公ってわかるから悪くないだろ
14: 名無しさん ID:XuOmg4aJ0
>>13
確かに側近の人が生きてるもんな
それは良いと思った
12: 名無しさん ID:MHv+9CMi0
主人公とジョウイのおさななじみ攻撃好き
15: 名無しさん ID:LDu6ix+K0
出来ればグレミオもパーティーに入って欲しかった
16: 名無しさん ID:NDLY0qS30
ルカブライト戦もめっちゃ良かった
これぞボスって感じの総力戦もすごかったわ
18: 名無しさん ID:0rWnmKJ40
プレイ前俺「姉萌えとか、ねえわ」
後「うおおおおおナナミいいいいいい(姉燃え)」
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俺は!俺が思うまま俺が望むまま邪悪であったぞ!
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20: 名無しさん ID:CLyKLZwj0
あぁ2の話か間違えたわ
22: 名無しさん ID:M5tV3wRY0
>>20
1も2も合成術とソウルイーターあるから間違いじゃないぞ
21: 名無しさん ID:HdrFTzqj0
リマスターまだ?
24: 名無しさん ID:T2d8CNLC0
1→2は凄かったのに、3で一気に死んだ
まあ、里崎の発言は基本的には正論だろう。コントロールがいいと言われていた北別府が、「自分は(ストライクゾーン)4分割で投げている」と言っていたらしいし、投手が140キロ以上の球をストライクゾーンに投げられるだけでもたいしたものではないか。
ただし、「構えたとこに来ないよ」の意味が問題で、「構えたとこ」=「要求したとこ」とするなら、投手が、捕手の構えたミットにズバリと投げ込む「9分割」レベルの異常な制球力を持っていないと不可能な話になる。そんな投手はプロでもひとりもいないのではないか。おそらく、「構えたとこ」とはサイン交換時点で要求したところの意味だろう。つまり、(ど真ん中を除く)「4分割」であり、ミットの位置は、「おおよその目安、投げる補助としての的」だろう。
そして、サイン通りのコースに投手が投げて打たれたら、それは捕手の責任になる。投手が「考えなくて済む」ように、捕手がサインを出すのが捕手の仕事であり、打たれた責任の半分は捕手にあるはずだ。
2024年09月08日
里崎「なんで負けた時だけキャッチャーのせいになるの?構えたとこに来ないよ?投手も首振れるよ?」wwwwwww
スクリーンショット 2024-09-08 21.13.16
584: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:43:31.87 ID:NN9TJLDX0
ー最近は捕手別勝率みたいな数字もありますが
里崎 僕が清水(直)や渡辺(俊)と組んでたら勝てますよ。捕手の勝ち負けってのはそういうこと。そもそも負けた試合はその日投げた投手とその他野手の責任でしょ?なんで負けた時だけキャッチャーのせいになるの?構えたとこに来ないよ?投手も首振れるよ?
大事な試合、優勝決定試合とか日本シリーズにいるキャッチャーが価値のあるキャッチャーです。自分が打てるか、優勝するかです。
613: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:44:35.25 ID:QqhskrUV0
>>584
里崎が言っても説得力薄いやろ
てか捕手が投手のせいにしたら信用関係とか無くなると思う
639: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:45:18.19 ID:6SHPwXlO0
>>613
里崎理論が当てはまるなら益々梅阪なんか要らんねんな
打てへんし刺せへんのやから
720: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:46:45.26 ID:uBhC4zmp0
>>639
里崎は「阪神の梅野坂本論争、どっちもアレやしもうどっちでもいい」ってはっきり言ってたな
751: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:47:18.16 ID:DooMoY5K0
>>720
つまりどちらも論争に値しないと
ただし、「構えたとこに来ないよ」の意味が問題で、「構えたとこ」=「要求したとこ」とするなら、投手が、捕手の構えたミットにズバリと投げ込む「9分割」レベルの異常な制球力を持っていないと不可能な話になる。そんな投手はプロでもひとりもいないのではないか。おそらく、「構えたとこ」とはサイン交換時点で要求したところの意味だろう。つまり、(ど真ん中を除く)「4分割」であり、ミットの位置は、「おおよその目安、投げる補助としての的」だろう。
そして、サイン通りのコースに投手が投げて打たれたら、それは捕手の責任になる。投手が「考えなくて済む」ように、捕手がサインを出すのが捕手の仕事であり、打たれた責任の半分は捕手にあるはずだ。
2024年09月08日
里崎「なんで負けた時だけキャッチャーのせいになるの?構えたとこに来ないよ?投手も首振れるよ?」wwwwwww
スクリーンショット 2024-09-08 21.13.16
584: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:43:31.87 ID:NN9TJLDX0
ー最近は捕手別勝率みたいな数字もありますが
里崎 僕が清水(直)や渡辺(俊)と組んでたら勝てますよ。捕手の勝ち負けってのはそういうこと。そもそも負けた試合はその日投げた投手とその他野手の責任でしょ?なんで負けた時だけキャッチャーのせいになるの?構えたとこに来ないよ?投手も首振れるよ?
大事な試合、優勝決定試合とか日本シリーズにいるキャッチャーが価値のあるキャッチャーです。自分が打てるか、優勝するかです。
613: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:44:35.25 ID:QqhskrUV0
>>584
里崎が言っても説得力薄いやろ
てか捕手が投手のせいにしたら信用関係とか無くなると思う
639: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:45:18.19 ID:6SHPwXlO0
>>613
里崎理論が当てはまるなら益々梅阪なんか要らんねんな
打てへんし刺せへんのやから
720: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:46:45.26 ID:uBhC4zmp0
>>639
里崎は「阪神の梅野坂本論争、どっちもアレやしもうどっちでもいい」ってはっきり言ってたな
751: 風吹けば名無し 2024/09/08(日) 19:47:18.16 ID:DooMoY5K0
>>720
つまりどちらも論争に値しないと
町の名は (4)-1 2016/07/15 (Fri)
(4)
12月25日の朝、刑士郎は早めにチェックアウトしてホテルを出た。
彼が、アジトとしているマンションに着いたのは12時少し過ぎだった。
「おう、大丈夫だったか。旭組に襲われたそうじゃないか。心配してたよ」
大石大悟は本気で心配している顔で彼を迎えた。
「準備はすべていいか」
「ああ、総会が始まったら、ここから迫撃砲のタマをあの屋敷にぶちこむ」
「いや、始まったら、ではダメだ。始まって、少し待て」
「なぜだ?」
「面白いことになるはずだからだ」
「と言うと?」
「旭組が、あの屋敷に殴りこんでくると思う」
「なぜ、それが分かる」
「俺がそう仕組んだからだ。昨日、旭組の親分の高校生の息子を誘拐して、今朝旭組に手紙を放り込んできた。明治会が、自分たちが誘拐をしたから、悔しかったら奪い返しに来い、と挑戦状を叩きつけた、という体裁の手紙だ」
「息子はどこにいる」
「女子高生強姦事件の犯人だ、という名目で井上巡査が留置所に入れている。実際、そうかもしれんがね。だが、まあ、逮捕した時は、私も井上巡査も私服だったから、目撃者には逮捕ではなく誘拐に見えていたはずだ。今頃、旭組の中は右往左往、議論百出だろうが、殴り込み賛成派が反対派を抑えると思うよ。他人に舐められたらヤクザは終わりだからな」
「だが、相手がてぐすねひいて待ち構えているところに殴りこむかねえ」
「あんたのような元自衛官と、ヤクザの思考形態は違うさ。連中は戦略よりも面子で行動する」
「では、我々は具体的にはどういうスケジュールでどう動く」
「何も起こらなければ、1時半、いや、2時までは待とう。実は、井上巡査に頼んで、12時に旭組ビルに銃弾を2発撃ちこんでもらうことになっている。つまり、今頃旭組は大騒ぎのはずだ。それでも連中が動かなければ、明治会だけ先に攻撃するしかない」
「関ヶ原の、小早川秀秋への家康の督戦砲撃か」
「何だ、そりゃあ」
「ドンパチが始まるまでの待ち時間の間に教えるよ。日本史の豆知識だ。まあ、俗説かもしれんがね。で、殴り込みがあったら、その後の手順は」
「旭組のほぼ全員が敷地内に入ったら、10分くらい待って、あんたはここから砲撃してくれ。10発全部打ち終わったら、あんたは即座にここを撤去だ。旭組の殴り込みがあったなら、旭組ビルへの砲撃は不要になったということだから、その傍のT**マンションのアジトも撤去だ。あんたは、両方から回収した武器をトラックに積んで、この県から逃亡してくれ」
「了解した。後は、あんたがカタをつけるということだな?」
「そういうことだ。いろいろと有難う。気をつけて行けよ」
「心配ご無用。またどこかで会おう。こんな仕事ならいつでも手伝うぞ」
町の名は (4)-2 2016/07/15 (Fri)
刑士郎は防弾チョッキを着て、脇の下にチェコ製CZ75(弾数が15発ある軍用拳銃で、大石が調達したものだ。)を専用ホルスターで吊るし、背中には軽機関銃を背負ってその上からコートを着た。頭には鉄板で内貼りされたヘルメットをかぶる。ぱっと見はただのオートバイ用のヘルメットだが、軍用ヘルメットに等しい防御力がある。
ベランダの鉄柵越しに双眼鏡で見ると、明治会前の道路には黒い車が何台か停まっている。門の前には黒服の男たちが並んで、来客に頭を下げたりしている。
1時、見張り2名を門の外に置いて、明治会の鉄の扉が閉まった。
5分後、遠くから列をなして7,8台の車がやってきた。明らかに旭組の殴り込みである。
刑士郎は、大石大悟に顔を向けた。大悟の顔に、さすがに心配そうな色が浮かんでいる。
「お別れだな、大悟、生きていたらまた会おう」
「ああ、死なないでくれよ、冬木さん」
大悟と握手をして刑士郎はマンションを出た。背中で軽機関銃が重い。
あらかじめ大悟が準備してあった中古オートバイで、旭組の事務所に向けて出発する。
道の半分ほど来たところで、遠くで轟音が聞こえた。
大悟が明治会の屋敷に迫撃砲を打ち込んだのだ。
続いて、2発、3発、4発……。
その前の旭組の殴り込みと、この砲撃で、はたして何人が生き残るだろうか。
旭組のビルの入り口には、見張り役のチンピラが二人立っていた。
遠方からそれを見てとった刑士郎は、オートバイをビルから離れたところで止め、歩いて近づいて行った。
ビルの角で曲がって、銃にサイレンサーを着ける。都合よく、チンピラの一人が、ビルの角で曲がった刑士郎の行動に不審を抱いて、近づいてきた。その胸に、籠ったような音をたてて銃弾がめり込む。その死骸の傍を通って、旭組の入り口前に刑士郎は進んで行った。銃はコートの下に隠れている。
「おい、お前……」
誰何の声がしたかどうかの間に、刑士郎の放った銃弾が相手の体のど真ん中を射抜く。
コートを脱ぎ捨て、銃はホルスターに戻して、軽機関銃を背中から抜き出して構えながらビルの中に入る。
雑居ビル風の見かけとは異なり、入ったすぐそこが広い事務所になっている。そこに、留守番役の組員が数人いた。
「何だ? お前……」
と言いかけた男が、刑士郎の構えている機関銃に気づいて絶句した。
刑士郎は引き金を引いた。
立ち上がりかかっていた男たちの数人に弾が当たってのけぞる。
数人が、ソファの陰に身を隠してピストルを撃ってきた。
だが、機関銃の猛烈な弾数に圧倒されている。ソファを射抜いて当たる弾もある。
一階にいた数人はわずか1分ほどの間でほぼ全滅した。
だが、その瞬間、刑士郎は車に跳ね飛ばされたような衝撃を受けた。
町の名は (4)-3 2016/07/15 (Fri)
二階から階段で下りてきていた者が彼を背後から撃ったのである。
一瞬気が遠くなりかかったが、弾は防弾チョッキで防がれている。
振り返って、機関銃を浴びせかける。その男は蜂の巣になって倒れた。
注意深い足取りで、二階に上る。
二階は、廊下で二部屋に分かれている。
手前の部屋のドアを開けると同時に、中から銃弾がドアに向かって降り注ぐ。
そちらは放っておいて、奥の部屋のドアを開けると、そこには一人、初老の男が椅子にかけているだけである。
「何だ、お前は」
(さっきから同じセリフばかりだなあ)と思いながら、刑士郎は構えていたCZ75の引き金を引いた。機関銃よりは、近距離での正確性はこちらが上だ。ヤクザなどと問答するのは無意味である。相手は人間からただの肉塊になった。
部屋から出ようとしたのと、先ほどの部屋から中にいた男が顔を出したのと同時であった。
奥の部屋の様子を見に行こうと出てきたのだろう。
相手が撃つのと刑士郎が撃つのと、ほぼ同時だった。相手の弾は外れ、刑士郎の弾は相手のど真ん中を射た。
列車の窓から見える景色が後ろに流れていく。
イヤホーンを通して聞こえてくるのは、男の好きな曲だ。オスカー・ピーターソンの「you look good to me」。目を閉じていれば、生きるのもたやすい。過去に目を閉じていれば。
男はコート下の背広のポケットから取り出したラッキー・ストライクの箱から1本を抜きだしかけて、少し思案した。箱に戻す。
(吸い過ぎだな。少し健康に気をつけよう)
列車の車輪の音が単調なリズムを作り、男を眠りに誘う。男の傍に置かれた新聞には「北**市の暴力団抗争で旭組明治会とも壊滅。死者128人、重傷24人。両組の組長死亡」と書いている。男はやがて安らかな眠りに落ちる。
1998年1月3日作 2016年7月15日第二稿(笑)
(4)
12月25日の朝、刑士郎は早めにチェックアウトしてホテルを出た。
彼が、アジトとしているマンションに着いたのは12時少し過ぎだった。
「おう、大丈夫だったか。旭組に襲われたそうじゃないか。心配してたよ」
大石大悟は本気で心配している顔で彼を迎えた。
「準備はすべていいか」
「ああ、総会が始まったら、ここから迫撃砲のタマをあの屋敷にぶちこむ」
「いや、始まったら、ではダメだ。始まって、少し待て」
「なぜだ?」
「面白いことになるはずだからだ」
「と言うと?」
「旭組が、あの屋敷に殴りこんでくると思う」
「なぜ、それが分かる」
「俺がそう仕組んだからだ。昨日、旭組の親分の高校生の息子を誘拐して、今朝旭組に手紙を放り込んできた。明治会が、自分たちが誘拐をしたから、悔しかったら奪い返しに来い、と挑戦状を叩きつけた、という体裁の手紙だ」
「息子はどこにいる」
「女子高生強姦事件の犯人だ、という名目で井上巡査が留置所に入れている。実際、そうかもしれんがね。だが、まあ、逮捕した時は、私も井上巡査も私服だったから、目撃者には逮捕ではなく誘拐に見えていたはずだ。今頃、旭組の中は右往左往、議論百出だろうが、殴り込み賛成派が反対派を抑えると思うよ。他人に舐められたらヤクザは終わりだからな」
「だが、相手がてぐすねひいて待ち構えているところに殴りこむかねえ」
「あんたのような元自衛官と、ヤクザの思考形態は違うさ。連中は戦略よりも面子で行動する」
「では、我々は具体的にはどういうスケジュールでどう動く」
「何も起こらなければ、1時半、いや、2時までは待とう。実は、井上巡査に頼んで、12時に旭組ビルに銃弾を2発撃ちこんでもらうことになっている。つまり、今頃旭組は大騒ぎのはずだ。それでも連中が動かなければ、明治会だけ先に攻撃するしかない」
「関ヶ原の、小早川秀秋への家康の督戦砲撃か」
「何だ、そりゃあ」
「ドンパチが始まるまでの待ち時間の間に教えるよ。日本史の豆知識だ。まあ、俗説かもしれんがね。で、殴り込みがあったら、その後の手順は」
「旭組のほぼ全員が敷地内に入ったら、10分くらい待って、あんたはここから砲撃してくれ。10発全部打ち終わったら、あんたは即座にここを撤去だ。旭組の殴り込みがあったなら、旭組ビルへの砲撃は不要になったということだから、その傍のT**マンションのアジトも撤去だ。あんたは、両方から回収した武器をトラックに積んで、この県から逃亡してくれ」
「了解した。後は、あんたがカタをつけるということだな?」
「そういうことだ。いろいろと有難う。気をつけて行けよ」
「心配ご無用。またどこかで会おう。こんな仕事ならいつでも手伝うぞ」
町の名は (4)-2 2016/07/15 (Fri)
刑士郎は防弾チョッキを着て、脇の下にチェコ製CZ75(弾数が15発ある軍用拳銃で、大石が調達したものだ。)を専用ホルスターで吊るし、背中には軽機関銃を背負ってその上からコートを着た。頭には鉄板で内貼りされたヘルメットをかぶる。ぱっと見はただのオートバイ用のヘルメットだが、軍用ヘルメットに等しい防御力がある。
ベランダの鉄柵越しに双眼鏡で見ると、明治会前の道路には黒い車が何台か停まっている。門の前には黒服の男たちが並んで、来客に頭を下げたりしている。
1時、見張り2名を門の外に置いて、明治会の鉄の扉が閉まった。
5分後、遠くから列をなして7,8台の車がやってきた。明らかに旭組の殴り込みである。
刑士郎は、大石大悟に顔を向けた。大悟の顔に、さすがに心配そうな色が浮かんでいる。
「お別れだな、大悟、生きていたらまた会おう」
「ああ、死なないでくれよ、冬木さん」
大悟と握手をして刑士郎はマンションを出た。背中で軽機関銃が重い。
あらかじめ大悟が準備してあった中古オートバイで、旭組の事務所に向けて出発する。
道の半分ほど来たところで、遠くで轟音が聞こえた。
大悟が明治会の屋敷に迫撃砲を打ち込んだのだ。
続いて、2発、3発、4発……。
その前の旭組の殴り込みと、この砲撃で、はたして何人が生き残るだろうか。
旭組のビルの入り口には、見張り役のチンピラが二人立っていた。
遠方からそれを見てとった刑士郎は、オートバイをビルから離れたところで止め、歩いて近づいて行った。
ビルの角で曲がって、銃にサイレンサーを着ける。都合よく、チンピラの一人が、ビルの角で曲がった刑士郎の行動に不審を抱いて、近づいてきた。その胸に、籠ったような音をたてて銃弾がめり込む。その死骸の傍を通って、旭組の入り口前に刑士郎は進んで行った。銃はコートの下に隠れている。
「おい、お前……」
誰何の声がしたかどうかの間に、刑士郎の放った銃弾が相手の体のど真ん中を射抜く。
コートを脱ぎ捨て、銃はホルスターに戻して、軽機関銃を背中から抜き出して構えながらビルの中に入る。
雑居ビル風の見かけとは異なり、入ったすぐそこが広い事務所になっている。そこに、留守番役の組員が数人いた。
「何だ? お前……」
と言いかけた男が、刑士郎の構えている機関銃に気づいて絶句した。
刑士郎は引き金を引いた。
立ち上がりかかっていた男たちの数人に弾が当たってのけぞる。
数人が、ソファの陰に身を隠してピストルを撃ってきた。
だが、機関銃の猛烈な弾数に圧倒されている。ソファを射抜いて当たる弾もある。
一階にいた数人はわずか1分ほどの間でほぼ全滅した。
だが、その瞬間、刑士郎は車に跳ね飛ばされたような衝撃を受けた。
町の名は (4)-3 2016/07/15 (Fri)
二階から階段で下りてきていた者が彼を背後から撃ったのである。
一瞬気が遠くなりかかったが、弾は防弾チョッキで防がれている。
振り返って、機関銃を浴びせかける。その男は蜂の巣になって倒れた。
注意深い足取りで、二階に上る。
二階は、廊下で二部屋に分かれている。
手前の部屋のドアを開けると同時に、中から銃弾がドアに向かって降り注ぐ。
そちらは放っておいて、奥の部屋のドアを開けると、そこには一人、初老の男が椅子にかけているだけである。
「何だ、お前は」
(さっきから同じセリフばかりだなあ)と思いながら、刑士郎は構えていたCZ75の引き金を引いた。機関銃よりは、近距離での正確性はこちらが上だ。ヤクザなどと問答するのは無意味である。相手は人間からただの肉塊になった。
部屋から出ようとしたのと、先ほどの部屋から中にいた男が顔を出したのと同時であった。
奥の部屋の様子を見に行こうと出てきたのだろう。
相手が撃つのと刑士郎が撃つのと、ほぼ同時だった。相手の弾は外れ、刑士郎の弾は相手のど真ん中を射た。
列車の窓から見える景色が後ろに流れていく。
イヤホーンを通して聞こえてくるのは、男の好きな曲だ。オスカー・ピーターソンの「you look good to me」。目を閉じていれば、生きるのもたやすい。過去に目を閉じていれば。
男はコート下の背広のポケットから取り出したラッキー・ストライクの箱から1本を抜きだしかけて、少し思案した。箱に戻す。
(吸い過ぎだな。少し健康に気をつけよう)
列車の車輪の音が単調なリズムを作り、男を眠りに誘う。男の傍に置かれた新聞には「北**市の暴力団抗争で旭組明治会とも壊滅。死者128人、重傷24人。両組の組長死亡」と書いている。男はやがて安らかな眠りに落ちる。
1998年1月3日作 2016年7月15日第二稿(笑)
町の名は (3)-1 2016/07/14 (Thu)
(3)
刑士郎はカウンターで飲みながら、奥のボックス席にいる連中に時々ちらりと目を走らせていた。そこにいるのは旭組の中堅幹部二人と、店の女二人である。その手前の席に、幹部の使い走りらしいチンピラが、男二人だけ、手酌でビールを飲んでいる。
カウンターの中にいた女が前に来たので刑士郎は女に注意を向けた。わりときれいな女だ。刑士郎の手から氷だけになったグラスを取って、水割りを作る。
「お客さん、お酒強いのね」
「強いよ。あっちも強いよ。試してみるかい」
「いやあねえ、ホホ。ねえ、仕事、何してるの? ここの人じゃないよね」
「公務員」
「公務員、いいわねえ。不況知らずの仕事だもんねえ」
「まあね。親方日の丸って奴だ。でも、何をしているかは秘密だよ。国家機密」
「またまたあ。いつまでここにいるの?」
「ひと月くらいかな。ちょっとした調査でね。その間、女がいないから、もう大変。毎晩、ホテルのエロビデオ見てオナニーして寝てるの。可哀そうだろ。今晩どう?」
「また今度ね。お代わり作ろうか」
「水道水のウィスキー割か」
「いやあねえ。うちはちゃんとミネラル使ってるわよ」
「サントリー製のシーバスリーガルってのはなかなか美味いもんだな」
「馬鹿言わないでよ。本物のシーバスよ」
「そうか、飲み過ぎてこっちの舌がおかしくなっているんだ。そろそろお勘定にしようかな」
「あら、まだ宵の口じゃない」
「駄目だ。酔っぱらってあんたが美人に見えてきた。帰って寝たほうが良さそうだ」
その時、入り口のドアが開いて客が二人入ってきた。まだ二十代前にも見える若い客だ。
刑士郎から少し離れたカウンター席のストゥールに二人は腰を下ろした。
「ビール二本ね」
「はい、ビール、ツー」
注文を受けて女がバーテンに声をかける。
奥の席の女が二人、腰を上げた。
刑士郎は胃の中がむかつくような不快感に襲われていた。酒によるものではない。
「ちょっとトイレ。飲み過ぎた」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、おしっこするだけ」
刑士郎が立ち上がったとき、先ほど入ってきた二人の男がちょっと刑士郎の顔を見た。その目の奥の光は刑士郎には馴染みのものだった。
刑士郎がトイレに立って数十秒後、店内に銃声が鳴り響くのがトイレまで聞こえてきた。最初に4,5発。すこし間を置いて、7、8発。後の銃声は、明らかに、留めを刺したのだ。
刑士郎はトイレの窓から出られるか考え、あきらめて店内に戻った。
奥の席にいた旭組の四人はすべて射殺されていた。
カウンターでは女がバーテンに抱きついて震え、カウンターの端では女二人(おそらく、殺した側からあらかじめ言い含められていて、寸前に難を逃れたのだろう)が立ちすくんでいる。後から来た客たちの姿は無い。
警察で刑士郎は取り調べを受けたが、池島の手配で、すぐに釈放された。店の女とバーテンも刑士郎は事件と無関係だと証言していたせいもある。
刑士郎が最初の仕事をしたのは、それから三日後である。
夜、9時頃、街の盛り場を歩いている時、すぐ傍のビルから明治会の幹部の一人が、ボディガードらしい男二人と一緒に出てきたのである。刑士郎はすぐ周りに目を走らせた。他に明治会の組員や旭組の組員らしい者はいない。
刑士郎は三人の横を通り過ぎた後、コートの中からワルサーを引き抜きながら安全装置を外し、3秒で3発撃ち、三人を倒した。致命傷かどうかは気にする必要はないが、10メートル程度の距離で射損じるわけがない。銃声を聞き、三人が転倒するのを見て、何かが起こったことに気付いた通行人の女が悲鳴を上げた。
即座にマフラーで顔の下半分を隠し、その場から逃走する。幸い、このあたりは、裏道に回ればどこへでも逃げることができる。歩道に落ちた薬莢などは、池島署長が何とか誤魔化してくれるだろう。
遠くで鳴る救急車やパトカーのサイレンを聞きながら、刑士郎は歩みをゆるめた。久しぶりの殺人に、体の奥が高ぶっている。
東城の言っていた応援の大石大悟が来たのは十二月の中旬であった。五分刈の坊主頭で、がっしりした体格の三十代後半の男である。身長は刑士郎と等しく、幅は刑士郎よりある。
二人は公園で落ち合った。
「一人ひとり殺していたんでは、埒があかんでしょう。大型火器を使いましょう」
「一人ひとり殺していると言うより、二つの組の不和の種を撒いてお互いを疑心暗鬼にさせているんだがな。まあいい。大型火器と言うと?」
「バズーカですよ。でなければ迫撃砲」
刑士郎には二つの違いは分からない。
「そんなもの、どこにある」
「私が手に入れます。ソ連解体で、闇の武器は全世界に流れています。中国が大量に入手したらしいですがね」
「どれくらいで手に入る」
「まあ、一週間あれば大丈夫でしょう」
「機関銃のほうが簡単じゃないか」
「私は大型火器専門でしてね。まあ、あなたのためにそれも手に入れましょう」
二人は攻撃拠点として、マンションを二室借りることにした。
一つは旭組の近く、もう一つは明治会の近くで、五階と六階の高層マンションの最上階だ。どちらもベランダからは、100メートルほど先の下の方に目標の建物や敷地が見える。
「どちらからやっつけましょうか」
「できれば同時がいいが、まあ、一番、人が集まっている時だったら、どちらでもいいな」
「それなら、明後日に明治会本部で総会があります」
と言ったのは、情報の報告に来ていた井上明史である。
三人が今いるのは借りたマンションの一方の部屋(明治会の傍のマンション)である。
小春日和の暖かな日差しが、レースのカーテン越しに部屋に射し込んでいる。家具は一つも無い部屋だが、カーテンだけは最初の日にセットしてある。もちろん、外部からの目隠しだ。
テーブルも何も無い部屋の床に敷いた新聞紙がテーブル代わりである。その上に、ビールとつまみが並んでいる。
「私は旭組に明治会の総会の件をリークしておきますから、うまく行けば、連中、総会の真っ最中に殴り込みに行きますよ。そうすれば一石二鳥です。まあ、私がリークしなくても、旭組もその情報は知っていると思いますがね」
「総会は何時からだ」
「午後一時からです」
「池島署長に言っておいてくれ。総会の間、何が起こっても、現場に踏み込まないように、と。その後なら、全員しょっぴいていいが」
三人はそれぞれ、別々にマンションを出た。
もうすぐだ、という思いと、小春日和の暖かな日差しと、昼間から飲んだビールが刑士郎の頭のネジを緩ませていたのは確かである。
住宅街ですれ違う人や子供たちの平和そうな姿が、彼を、自分もその世界の住人だと錯覚させたのかもしれない。
刑士郎がホテルの部屋の鍵を開けて中に入ると、中にいた何者かが彼の後頭部を鈍器で殴った。
気がつくと、床に倒れている彼の前には4人の男が立っていた。
「おめえ、何をたくらんでやがるんだ。こんなモノを持っているようじゃあ、堅気じゃあるめえ」
正面に立っている、五十がらみの、猪首で五分刈の巨漢が言った。白いスーツの下が黒いダボシャツというのがいかにも田舎ヤクザ風である。
(旭組若頭、金山義光。性格、凶暴そのもの。知能は不明)
男の顔の情報が刑士郎の頭に入力され、答えを出した。
金山の手にしているのは刑士郎のワルサーPPKである。気絶している間に探り取られたのだ。おそらく、(ロシア製ではなく)中国製の安物のトカレフくらいしか手にしたことのない田舎ヤクザにはヨダレの出る代物だろう。
「実は、私、明治会に恨みがあるんです。親父が明治会の大東不動産に騙されて破産した上に、妹も明治会のチンピラに回されて殺された仇を討とうとしているんです」
そういう人間が10年前にいたという事を井上から聞いていて、いざとなればその話を使おうと考えていたのである。
「本当の名前は竹田ではなく、島田です。調べてもらえば分かります。家は隣町のS**町でした」
「S**町なら俺は住んでいたことがあるぜ。でも、こんな奴は知らねえな」
下っ端組員らしい男が言った。刑士郎はギョッとして観念しそうになった。
「いつ頃だ」
金山がドスの利いた声を出す。
「三年前かなあ」
「馬鹿野郎! 大東不動産が島田工務店から3000万円を騙り取ったのは10年くらい前の話だ。俺もその話は当時聞いていた」
刑士郎は心の中でほっと溜息をついた。
「もしかして、明治会の池永を殺(や)ったのはてめえか」
池永とは、繁華街の路上で刑士郎が殺した3人のうちの一人だ。
「は、はい、あの男が、妹を回した一人で」
「そうか。まあ、素人にしちゃあよくやった。だが、これ以上手を出すんじゃねえ。話が面倒になる。まあ、怪我しねえうちにここから逃げるんだな。こいつは俺が貰っとく」
言いながら、金山はワルサーを背広の内ポケットに入れた。
「は、はい、有難うございます」
刑士郎はぺこぺこと頭を下げた。
武器の類いを例のマンションの一つに移しておいたのは刑士郎にとってこの上ない幸運であった。井上から貰ったあのジュラルミンのトランクには、拳銃二丁と銃弾が多数入っていたのである。それを見つけられていれば、どう言い逃れをすることも不可能だっただろう。
刑士郎、井上、大石の三人のアジトであるマンションには、そのほかに、大石がどこからか持って来た軽機関銃と迫撃砲がある。
刑士郎は、用心のために、自分はアジトに近づかないことにした。大石はアジトの一つに寝泊まりし、井上は二人の中継役となった。
明治会の総会までに、刑士郎にはまだやることがある。できれば、の話だが。
「小市民」は第一回しか見ていないので、記憶に自信がないが、背景描写だけ新海誠(やっと名前を思い出した)風で、無駄に美麗だった気がする。
だが、主人公のキャラ、その他人物キャラが最悪で、事件は無意味そのもの、謎解きも、ジグソーパズルみたいに、あらかじめ決まっていたものをはめ込んだだけ、というインチキ臭さが漂っていて、まあ、それは推理物すべての宿命だが、「謎でもないもの」に無理に謎を見出して、解決するというアホ臭さが耐えがたい。これは北村薫の「日常の謎」には感じないもので、つまりは書き方(筆力)の問題だろう。北村薫が最近、「日常の謎」にうんざりしているというのは、この亜流連中のためだと思う。
下のコメントにある、「アニメ制作会社の実力の差」も、あるにはあるが、根本は、「アニメ向きでない作品をいかにアニメ化するか」を、作る側が理解しているかいないかだろう。文章でなら「読者の想像」で補える部分が、アニメだと完全に視覚化されるから、馬鹿馬鹿しさが際立つのである。
逆に、アニメ化は、小説ではイメージできない部分を明示化することで大きな効果を生むのも確かであり、「氷菓」の場合は、ヒロインをコミカルな美少女キャラにしたのが圧倒的な意味を持っていたと思う。私自身はえるたそは好きなキャラではない(実にウザいと思う)が、絶大な大衆人気を得たのはよく分かる。これは、原作とさほど改変されていない「データ君」やデータ君の彼女キャラが、アニメでも原作同様に不快な印象だったのと比較すると理解しやすいと思う。
(以下引用)
62: 名無しさん ID:otakumix
原作はどっちも陰気臭い作品
京アニの味付けが美味かっただけ
66: 名無しさん ID:otakumix
内容の似た作品にこれだけの差が生まれるとアニメ制作会社の実力がいかに重要かが分かるね
68: 名無しさん ID:otakumix
まあ氷菓もアイスクリームの時はくだらねーと思ったけどね
でもその後が面白かった
小市民は1話から今までずっとつまんねえ
69: 名無しさん ID:otakumix
ココア野郎がガサツなうえに感じ悪いのはなんなんだ
だが、主人公のキャラ、その他人物キャラが最悪で、事件は無意味そのもの、謎解きも、ジグソーパズルみたいに、あらかじめ決まっていたものをはめ込んだだけ、というインチキ臭さが漂っていて、まあ、それは推理物すべての宿命だが、「謎でもないもの」に無理に謎を見出して、解決するというアホ臭さが耐えがたい。これは北村薫の「日常の謎」には感じないもので、つまりは書き方(筆力)の問題だろう。北村薫が最近、「日常の謎」にうんざりしているというのは、この亜流連中のためだと思う。
下のコメントにある、「アニメ制作会社の実力の差」も、あるにはあるが、根本は、「アニメ向きでない作品をいかにアニメ化するか」を、作る側が理解しているかいないかだろう。文章でなら「読者の想像」で補える部分が、アニメだと完全に視覚化されるから、馬鹿馬鹿しさが際立つのである。
逆に、アニメ化は、小説ではイメージできない部分を明示化することで大きな効果を生むのも確かであり、「氷菓」の場合は、ヒロインをコミカルな美少女キャラにしたのが圧倒的な意味を持っていたと思う。私自身はえるたそは好きなキャラではない(実にウザいと思う)が、絶大な大衆人気を得たのはよく分かる。これは、原作とさほど改変されていない「データ君」やデータ君の彼女キャラが、アニメでも原作同様に不快な印象だったのと比較すると理解しやすいと思う。
(以下引用)
62: 名無しさん ID:otakumix
原作はどっちも陰気臭い作品
京アニの味付けが美味かっただけ
66: 名無しさん ID:otakumix
内容の似た作品にこれだけの差が生まれるとアニメ制作会社の実力がいかに重要かが分かるね
68: 名無しさん ID:otakumix
まあ氷菓もアイスクリームの時はくだらねーと思ったけどね
でもその後が面白かった
小市民は1話から今までずっとつまんねえ
69: 名無しさん ID:otakumix
ココア野郎がガサツなうえに感じ悪いのはなんなんだ
町の名は (2)-1 2016/07/13 (Wed)
(2)
目を覚ました時はまだ夜明け少し前だった。口の中が昨夜の煙草と酒で不快だ。トイレで糞をして体の中の残留アルコールを外に出した後、熱い湯を溜めた風呂に体を浸け、体に血が回るのを待つ。
すっかり生き返った気分になったところで一服目の煙草をつける。肺の中に浸み込む煙を味わいながら窓のカーテンを開けると朝日が部屋の中に差し込んだ。「朝日のように爽やかに」というジャズソングのフレーズが心に浮かぶ。
softly as is the morning sunrise
「朝日がそうであるように柔らかく」とでも訳すのだろうか。何が柔らかくなのだろう。
ホテルの食堂で貧弱な朝食を食べながら新聞を読む。全国紙ではなく地方紙を選ぶ。一面の政治記事よりも第三面(というのも古い言い方で、本当は裏から二面目だが。)の犯罪記事に先に目が行くのは習性だろう。市職員の汚職疑惑、公共工事に関する土建屋の談合、チンピラの強姦事件、高校生のオートバイ事故、どこの地方都市にもつきものの事件ばかりだ。
近くの公園までの散歩から帰ってきた刑士郎は、ホテルの入り口を入ったところで足を止めた。
カウンターで二人の男がフロントマンに何かを尋ねている。明らかにヤクザ者だ。フロントの男が二人にキーを渡したのを見て刑士郎は、まずいな、と考えた。そのキーはおそらく彼の部屋のものだろう。
二人の男が二階に上がっていった後、ホールの椅子にさりげなく腰を下ろしていた刑士郎は立ち上がってカウンターに近づいて行った。
「203号室の鍵を貰えるかな」
「あ、今ちょっと清掃中なんで、少しその辺で待っててもらえますか」
「こんな朝早くに清掃かい。もしかして、その掃除のオバさんはさっきの二人かな」
刑士郎はこわばった顔のカウンター係に笑顔を見せて大股に階段へ向かった。
階段を上って203号室の前に来てノブを静かに回してみると、部屋のドアの錠は閉まっていないようだ。自動で錠のかかるドアではないのが幸いした。
そっと覗き込むと、二人の男は刑士郎のトランクをこじ開けようとしているところだった。
「泥棒っ、泥棒だーっ」
刑士郎は大声を上げた。
二人は慌ててトランクを放り出し、戸口にいる刑士郎を突き飛ばすようにして部屋を飛び出した。そのまま階段の方へ逃げ去って行く。
刑士郎はニヤニヤしながら部屋に入って行った。
トランクは幸い、まだ開けられてはいなかったが、いずれにしてもこのトランクの中には見られてヤバイものは入っていない。まあ、金がけっこう入っているのがヤバイと言えばヤバイのだが、本当に見られてヤバイものと言えば、刑士郎の背広の下のホルスターに吊った拳銃、ワルサーPPKと、背広の内ポケットの中の大型ナイフくらいのものである。刑士郎にとってはヤクザよりも警察官の不審尋問がよっぽど怖い。
それにしても、あの二人はどういう素性のヤクザなのか。ホテルのフロントマンと顔見知りのようだから、地元のヤクザだと思うが、地元のヤクザが何を嗅ぎまわっているのか。まさか、一心会の手がここまで回っているとはとても思えないのだが。
(2)
目を覚ました時はまだ夜明け少し前だった。口の中が昨夜の煙草と酒で不快だ。トイレで糞をして体の中の残留アルコールを外に出した後、熱い湯を溜めた風呂に体を浸け、体に血が回るのを待つ。
すっかり生き返った気分になったところで一服目の煙草をつける。肺の中に浸み込む煙を味わいながら窓のカーテンを開けると朝日が部屋の中に差し込んだ。「朝日のように爽やかに」というジャズソングのフレーズが心に浮かぶ。
softly as is the morning sunrise
「朝日がそうであるように柔らかく」とでも訳すのだろうか。何が柔らかくなのだろう。
ホテルの食堂で貧弱な朝食を食べながら新聞を読む。全国紙ではなく地方紙を選ぶ。一面の政治記事よりも第三面(というのも古い言い方で、本当は裏から二面目だが。)の犯罪記事に先に目が行くのは習性だろう。市職員の汚職疑惑、公共工事に関する土建屋の談合、チンピラの強姦事件、高校生のオートバイ事故、どこの地方都市にもつきものの事件ばかりだ。
近くの公園までの散歩から帰ってきた刑士郎は、ホテルの入り口を入ったところで足を止めた。
カウンターで二人の男がフロントマンに何かを尋ねている。明らかにヤクザ者だ。フロントの男が二人にキーを渡したのを見て刑士郎は、まずいな、と考えた。そのキーはおそらく彼の部屋のものだろう。
二人の男が二階に上がっていった後、ホールの椅子にさりげなく腰を下ろしていた刑士郎は立ち上がってカウンターに近づいて行った。
「203号室の鍵を貰えるかな」
「あ、今ちょっと清掃中なんで、少しその辺で待っててもらえますか」
「こんな朝早くに清掃かい。もしかして、その掃除のオバさんはさっきの二人かな」
刑士郎はこわばった顔のカウンター係に笑顔を見せて大股に階段へ向かった。
階段を上って203号室の前に来てノブを静かに回してみると、部屋のドアの錠は閉まっていないようだ。自動で錠のかかるドアではないのが幸いした。
そっと覗き込むと、二人の男は刑士郎のトランクをこじ開けようとしているところだった。
「泥棒っ、泥棒だーっ」
刑士郎は大声を上げた。
二人は慌ててトランクを放り出し、戸口にいる刑士郎を突き飛ばすようにして部屋を飛び出した。そのまま階段の方へ逃げ去って行く。
刑士郎はニヤニヤしながら部屋に入って行った。
トランクは幸い、まだ開けられてはいなかったが、いずれにしてもこのトランクの中には見られてヤバイものは入っていない。まあ、金がけっこう入っているのがヤバイと言えばヤバイのだが、本当に見られてヤバイものと言えば、刑士郎の背広の下のホルスターに吊った拳銃、ワルサーPPKと、背広の内ポケットの中の大型ナイフくらいのものである。刑士郎にとってはヤクザよりも警察官の不審尋問がよっぽど怖い。
それにしても、あの二人はどういう素性のヤクザなのか。ホテルのフロントマンと顔見知りのようだから、地元のヤクザだと思うが、地元のヤクザが何を嗅ぎまわっているのか。まさか、一心会の手がここまで回っているとはとても思えないのだが。
刑士郎は東城長官の私設オフィスに電話をした。用心のためにホテルから離れたところの電話ボックスの電話を使う。
「北**市の旭組はたしかに一心会の傘下の組だが、あんたの足がついたという話は無いな。別件だろう。旭組は今、叶組傘下の明治会と抗争中だから、その応援の者とでも間違われたのではないかな。警官とヤクザは兄弟みたいに似ているからな、ハハハ。そうだ、ついでと言っては何だが、あんたに仕事を頼もう。旭組と明治会が今、潰し合っているところだから、うまくその中に入って、双方の被害をできるだけ大きくしてくれないか。理想は、双方全員死亡だが、まあ、できるかぎりでいい。あんたの好きそうな仕事だから、楽しいだろう。支払いは、組員一人につき10万円、若頭クラスなら50万円でどうだ」
「それぞれの組の構成員の人数は」
「旭組が80人くらい、明治会が60人くらいかな。使い走りの高校生やチンピラなどは除いてだ」
「一人で140人を相手ですか。命が幾つあっても足りませんな」
「バックアップはする。北**署の池島署長は私の息のかかった人間だ。旭組と明治会には長年手を焼いている。そいつらを一掃するのは彼の悲願だ。北**市の大掃除のためならたいていのことには目をつぶるし、武器も融通してくれるだろう」
「あのねえ、黒澤の映画じゃないんだから、一人の人間がヤクザ組織をぶっ潰せるわけがないでしょう」
「そうでもないさ。現代の戦争に人数は関係ない。原爆一つで100万人が殺せるんだからな。相手が兵士でも同じさ。連中が争い合っているのがこっちにとってはもっけの幸いだ。相手以外のものに注意を向ける余裕が無いからな。それから、役に立つ人間を一人見つけた。そのうち応援に行かせる。二人でなら、仕事もしやすいだろう。名前は大石大悟。若いが使える男だ。ではな」
「ちょっと、ちょっと、こっちはまだ引き受けるとは言ってませんよ」
しかし、電話は既に切れていた。
刑士郎は北**市の市街地図を眺めながら部屋で酒を飲んでいた。ホテルは元のままだ。他のホテルに移っても同じことである。一度調べて懲りただろうから、かえって妙な連中は来なくなるかもしれない。
カウンター係は刑士郎と顔を合わせるときまり悪そうにするが、刑士郎からは、あれから特に何も言っていない。
旭組と明治会の本部所在地は昼の間に調べてある。北**市を流れるS河をはさんで2キロほど間が離れている。北**駅近くにあるのが旭組で、中心街から離れた閑静な住宅街にあるのが明治会だ。いつからそこにいるのかは知らないが、さぞ、その住宅街の地価は下落しただろう。
旭組の本部は、表向きは普通の雑居ビルだが、入り口周辺にはいつも目つきの悪い男たちが数人いる。侵入は難しそうだ。
明治会のほうは、まるで要塞である。コンクリート打ちっ放しの二階建ての無愛想な住宅ビルに、鉄格子のはまった窓が四方にある。その建物を囲んで2メートル少しの高さのコンクリート塀があり、ご丁寧にその上には鉄条網がある。まさか、電気まで流してはいないだろうが、刑務所並みのものものしさだ。門は鉄の扉で閉ざされている。
刑務所に送られる前から自分で自分を刑務所に閉じ込めていやがる、と考えて刑士郎はニヤリとした。
だが、思わずため息も出る。
「こりゃあ、戦車かミサイルでも無いと無理だな」
刑士郎は呟いた。
「北**市の旭組はたしかに一心会の傘下の組だが、あんたの足がついたという話は無いな。別件だろう。旭組は今、叶組傘下の明治会と抗争中だから、その応援の者とでも間違われたのではないかな。警官とヤクザは兄弟みたいに似ているからな、ハハハ。そうだ、ついでと言っては何だが、あんたに仕事を頼もう。旭組と明治会が今、潰し合っているところだから、うまくその中に入って、双方の被害をできるだけ大きくしてくれないか。理想は、双方全員死亡だが、まあ、できるかぎりでいい。あんたの好きそうな仕事だから、楽しいだろう。支払いは、組員一人につき10万円、若頭クラスなら50万円でどうだ」
「それぞれの組の構成員の人数は」
「旭組が80人くらい、明治会が60人くらいかな。使い走りの高校生やチンピラなどは除いてだ」
「一人で140人を相手ですか。命が幾つあっても足りませんな」
「バックアップはする。北**署の池島署長は私の息のかかった人間だ。旭組と明治会には長年手を焼いている。そいつらを一掃するのは彼の悲願だ。北**市の大掃除のためならたいていのことには目をつぶるし、武器も融通してくれるだろう」
「あのねえ、黒澤の映画じゃないんだから、一人の人間がヤクザ組織をぶっ潰せるわけがないでしょう」
「そうでもないさ。現代の戦争に人数は関係ない。原爆一つで100万人が殺せるんだからな。相手が兵士でも同じさ。連中が争い合っているのがこっちにとってはもっけの幸いだ。相手以外のものに注意を向ける余裕が無いからな。それから、役に立つ人間を一人見つけた。そのうち応援に行かせる。二人でなら、仕事もしやすいだろう。名前は大石大悟。若いが使える男だ。ではな」
「ちょっと、ちょっと、こっちはまだ引き受けるとは言ってませんよ」
しかし、電話は既に切れていた。
刑士郎は北**市の市街地図を眺めながら部屋で酒を飲んでいた。ホテルは元のままだ。他のホテルに移っても同じことである。一度調べて懲りただろうから、かえって妙な連中は来なくなるかもしれない。
カウンター係は刑士郎と顔を合わせるときまり悪そうにするが、刑士郎からは、あれから特に何も言っていない。
旭組と明治会の本部所在地は昼の間に調べてある。北**市を流れるS河をはさんで2キロほど間が離れている。北**駅近くにあるのが旭組で、中心街から離れた閑静な住宅街にあるのが明治会だ。いつからそこにいるのかは知らないが、さぞ、その住宅街の地価は下落しただろう。
旭組の本部は、表向きは普通の雑居ビルだが、入り口周辺にはいつも目つきの悪い男たちが数人いる。侵入は難しそうだ。
明治会のほうは、まるで要塞である。コンクリート打ちっ放しの二階建ての無愛想な住宅ビルに、鉄格子のはまった窓が四方にある。その建物を囲んで2メートル少しの高さのコンクリート塀があり、ご丁寧にその上には鉄条網がある。まさか、電気まで流してはいないだろうが、刑務所並みのものものしさだ。門は鉄の扉で閉ざされている。
刑務所に送られる前から自分で自分を刑務所に閉じ込めていやがる、と考えて刑士郎はニヤリとした。
だが、思わずため息も出る。
「こりゃあ、戦車かミサイルでも無いと無理だな」
刑士郎は呟いた。
電話の音で刑士郎は目を覚ました。いつの間にかソファでうたた寝をしていたのである。
「はい、竹田です」
自分の偽名を思い出しながら電話に出る。
「井上さんという方からお電話です」
フロントの声の後、電話がつながる。
「竹田さんですか。私、池島のところの者ですが、今、お会いできるでしょうか。……はい、ロビーにいます」
池島とは誰だったか、急には思い出せなかったが、それが北**署の署長の名であることを思い出し、すぐに下りて行く、と返事をした。
ロビーのソファにかけていた井上という男は、三十前後のハンサムな男だった。私服を着ていて、ぱっと見には警察官らしい雰囲気は少ないが、目つきや姿勢にやはりそれらしいところはある。
「井上です。池島さんからこれを預かってきました。それから、何かあったら竹田さんに便宜を図るようにと言われています」
そう言いながら彼が手渡したのはジュラルミン製の中型トランクである。持つとずっしりと重い。
武器だな、と刑士郎は察した。
「井上さんへの連絡は?」
「はい、こちらへお願いします」
井上は名刺を渡した。内線電話番号と、「北**署交通課 井上明史」とある。
「交通課ねえ。駐車違反をしたときはお願いします」
井上は顔を赧らめた。
「交通課勤務は私の本意ではないのですが、署長がどうしても捜査二課への配属を許さないのです」
「井上さんはご結婚は?」
「まだです」
「母一人子一人でしょう」
井上はびっくりした顔をした。
「は、その通りです。どうして分かりましたか」
「もしかしたら、あんたのお母さんと署長さんとは昔の同級生か何かでは?」
「その通りです。どうしてそんなことが分かるんですか」
「勘ですよ。母一人子一人の人間を組織暴力団相手の部署にやりたくないということです。察するに、あんたのお母さんは、今はどうかしらないが、昔はかなり美人だったに違いない。あんたを見れば、それは一目瞭然だ。池島署長の憧れの人だったんじゃないかな」
「そうだったのか。ちっとも知らなかった。あの池島署長が……」
「あくまで推測ですよ。それより、私がこれから何をするのか聞いていますか」
「この町のヤクザどもの抗争と何か関係があると聞いてますが」
井上は声を潜めて言った。
「そう。旭組と明治会と、二つともぶっ潰すんです」
井上はギョッと驚いた。
「で、池島署長や井上さんにして貰いたいことは、私に何かあった時に、私を法的に守ってくれることです。特に、警察官に邪魔をして貰いたくない。ヤクザに捕まるのは仕方がないが、警察に捕まるのは御免だ」
「それは……たぶん大丈夫です」
「どうだか。私はこれまで警察が一般市民ではなくヤクザを守る場面もずい分見てきましたからね。ここではそんな目に遭いたくない。もっとも、私も一般市民とは言えないが」
「全力で竹田さんを守ります。ご安心ください」
刑士郎はそれから井上を部屋に招いて、二時間ほど彼からこの町の状況を聞いた。それぞれの組の幹部の名、組員のたむろする場所、行きつけの酒場や麻雀屋、覚醒剤取引によく使われる場所、幹部の家、それぞれの情婦の名や勤め場所。
ジュラルミンのカバンとは別に彼が持っていた書類鞄には、顔写真の貼られた組員リストがあった。
それから一週間、刑士郎は飲み屋を歩き回り、時々出遭う組員の名と顔を一致させることに努めた。もともと人物の特徴を即座に覚えることは警察官の必須技能の一つである。一週間のうちに、両組織の構成員のおよそ八割くらいは認識できるようになった。ただ、最高幹部とは、滅多に顔を合わせることは無かった。
「はい、竹田です」
自分の偽名を思い出しながら電話に出る。
「井上さんという方からお電話です」
フロントの声の後、電話がつながる。
「竹田さんですか。私、池島のところの者ですが、今、お会いできるでしょうか。……はい、ロビーにいます」
池島とは誰だったか、急には思い出せなかったが、それが北**署の署長の名であることを思い出し、すぐに下りて行く、と返事をした。
ロビーのソファにかけていた井上という男は、三十前後のハンサムな男だった。私服を着ていて、ぱっと見には警察官らしい雰囲気は少ないが、目つきや姿勢にやはりそれらしいところはある。
「井上です。池島さんからこれを預かってきました。それから、何かあったら竹田さんに便宜を図るようにと言われています」
そう言いながら彼が手渡したのはジュラルミン製の中型トランクである。持つとずっしりと重い。
武器だな、と刑士郎は察した。
「井上さんへの連絡は?」
「はい、こちらへお願いします」
井上は名刺を渡した。内線電話番号と、「北**署交通課 井上明史」とある。
「交通課ねえ。駐車違反をしたときはお願いします」
井上は顔を赧らめた。
「交通課勤務は私の本意ではないのですが、署長がどうしても捜査二課への配属を許さないのです」
「井上さんはご結婚は?」
「まだです」
「母一人子一人でしょう」
井上はびっくりした顔をした。
「は、その通りです。どうして分かりましたか」
「もしかしたら、あんたのお母さんと署長さんとは昔の同級生か何かでは?」
「その通りです。どうしてそんなことが分かるんですか」
「勘ですよ。母一人子一人の人間を組織暴力団相手の部署にやりたくないということです。察するに、あんたのお母さんは、今はどうかしらないが、昔はかなり美人だったに違いない。あんたを見れば、それは一目瞭然だ。池島署長の憧れの人だったんじゃないかな」
「そうだったのか。ちっとも知らなかった。あの池島署長が……」
「あくまで推測ですよ。それより、私がこれから何をするのか聞いていますか」
「この町のヤクザどもの抗争と何か関係があると聞いてますが」
井上は声を潜めて言った。
「そう。旭組と明治会と、二つともぶっ潰すんです」
井上はギョッと驚いた。
「で、池島署長や井上さんにして貰いたいことは、私に何かあった時に、私を法的に守ってくれることです。特に、警察官に邪魔をして貰いたくない。ヤクザに捕まるのは仕方がないが、警察に捕まるのは御免だ」
「それは……たぶん大丈夫です」
「どうだか。私はこれまで警察が一般市民ではなくヤクザを守る場面もずい分見てきましたからね。ここではそんな目に遭いたくない。もっとも、私も一般市民とは言えないが」
「全力で竹田さんを守ります。ご安心ください」
刑士郎はそれから井上を部屋に招いて、二時間ほど彼からこの町の状況を聞いた。それぞれの組の幹部の名、組員のたむろする場所、行きつけの酒場や麻雀屋、覚醒剤取引によく使われる場所、幹部の家、それぞれの情婦の名や勤め場所。
ジュラルミンのカバンとは別に彼が持っていた書類鞄には、顔写真の貼られた組員リストがあった。
それから一週間、刑士郎は飲み屋を歩き回り、時々出遭う組員の名と顔を一致させることに努めた。もともと人物の特徴を即座に覚えることは警察官の必須技能の一つである。一週間のうちに、両組織の構成員のおよそ八割くらいは認識できるようになった。ただ、最高幹部とは、滅多に顔を合わせることは無かった。
「体臭アナ」という呼び名が面白いので転載したww
これから一生、彼女は「あっ、体臭アナね」と呼ばれるだろう。気の毒だが、自業自得でもある。
人を呪わば穴ふたつ。アナだけに。
(以下引用)
【速報】体臭アナの川口ゆりさん、ネットに書かれた全ての誹謗中傷に法的措置を完了www
2024.09.05 |カテゴリ:ニュース | コメント (256)
1: 名無しのアニゲーさん 2024/09/04(水) 22:36:12.530 ID:g8gEwbERw
no title
男性の体臭投稿で炎上した川口ゆり氏が「何百」件もの誹謗中傷に「法的に全て処理」と説明
https://news.yahoo.co.jp/articles/e1b83702523a45a6f9628e93bde7c810dc967549
男性の体臭に関する投稿で炎上し、芸能事務所から契約解除された元フリーアナウンサーの川口ゆり氏が4日、インスタグラムのストーリーズで、殺到した誹謗中傷に法的に対応したと明かした。
川口氏はストーリーズで「8月は毎日 何百という誹謗中傷や記者さんが生活圏に張り込みに来たりメディアマスコミの止まらない出演オファー 少し都内を歩いてるとすぐ知らない方からDM来たり 外に出ることはほぼ無理 食事もままならずで 恐怖でしかありませんでした」と告白。「温かいコメントは全て目を通しそうでないものは法的に全て処理をしています」とした。
すでに法的に対応しているとしたことから、弁護士に相談の上、誹謗中傷のDMを証拠保全した可能性がある。
川口氏は8月8日、X(旧ツイッター)に夏の男性の体臭が苦手などと投稿。所属事務所はこれを問題視し、契約違反があったなどとして川口との契約を解消(10日付)したと11日、発表した。SNS上では、この対応は過剰ではなどと物議をかもした。
これから一生、彼女は「あっ、体臭アナね」と呼ばれるだろう。気の毒だが、自業自得でもある。
人を呪わば穴ふたつ。アナだけに。
(以下引用)
【速報】体臭アナの川口ゆりさん、ネットに書かれた全ての誹謗中傷に法的措置を完了www
2024.09.05 |カテゴリ:ニュース | コメント (256)
1: 名無しのアニゲーさん 2024/09/04(水) 22:36:12.530 ID:g8gEwbERw
no title
男性の体臭投稿で炎上した川口ゆり氏が「何百」件もの誹謗中傷に「法的に全て処理」と説明
https://news.yahoo.co.jp/articles/e1b83702523a45a6f9628e93bde7c810dc967549
男性の体臭に関する投稿で炎上し、芸能事務所から契約解除された元フリーアナウンサーの川口ゆり氏が4日、インスタグラムのストーリーズで、殺到した誹謗中傷に法的に対応したと明かした。
川口氏はストーリーズで「8月は毎日 何百という誹謗中傷や記者さんが生活圏に張り込みに来たりメディアマスコミの止まらない出演オファー 少し都内を歩いてるとすぐ知らない方からDM来たり 外に出ることはほぼ無理 食事もままならずで 恐怖でしかありませんでした」と告白。「温かいコメントは全て目を通しそうでないものは法的に全て処理をしています」とした。
すでに法的に対応しているとしたことから、弁護士に相談の上、誹謗中傷のDMを証拠保全した可能性がある。
川口氏は8月8日、X(旧ツイッター)に夏の男性の体臭が苦手などと投稿。所属事務所はこれを問題視し、契約違反があったなどとして川口との契約を解消(10日付)したと11日、発表した。SNS上では、この対応は過剰ではなどと物議をかもした。
町の名は (1)-1 2016/07/12 (Tue)
何か書きたい気持ちはあるが、アイデアを掘り下げる気力が無いので、昔書いた作品を「清書」しておく。書いたのは1998年なので、(ノートによると1月3日の1日で書いたもので、推敲も何もしていない。)18年も前の作品である。中学生か高校生の書いたような下手なハードボイルド小説だが、ゴミにするのもつまらないから、ここに上げておく。
題名の「町の名は」は、ダシール・ハメットの「町の名はコークスクリュー」から取ったもので、内容も同作品から、というより、同作品を下敷きにした黒澤明の映画『用心棒』をモデルにしている。ハメットの作品は読む機会が無かったが、題名の「町の名はコークスクリュー」というのはいい題名だなあ、とかねがね思っていたのである。
手元に何の資料も無しで書いたので、警察組織や武器などについての記述はひどくいい加減である。それ以外にも妙な記述はたくさんあるだろうが、下手なりに面白いところが少しでもあればそれでいいと思っている。
「町の名は」
(1)
男はラッキー・ストライクを箱から1本取り出し、口にくわえて火をつけた。一息深く吸い込んで煙を吐き出した後、煙草をくわえたままソファに身を沈める。いつも通りの安ホテル、いつも通りの煙草の味だ。
部屋のベッドサイドの小テーブルに置いたポータブルの薄いCDプレイヤーから、コルトレーンの「say it」が流れている。旅のお友としていつも持ち歩いているプレイヤーと、数枚のCDの一つだ。
窓の外にはけばけばしい赤いネオンがまたたくのが見える。
男は目を閉じて物思いに耽った。年の頃は四十前後の中年男である。疲れた表情だが、日に焼けた顔の作りは青銅を彫ったように端正だ。髪は長めで、黒々としている。ソファから投げ出した足は長い。筋肉質の体で、身長は180くらいだろう。
「小島の件で一心会がどう動くかは、こちらでも調査中だ。あんたの事だから足は着いていないと思うが、しばらくここを離れて身を隠しておくのがいいな」
警察庁長官東城一矢は、まだ四十代前半でありながら警察庁のトップに上りつめた切れ者らしい鋭い顔を男に向けながら言った。
「残念ながら、小島に渡った金は回収不能だ。しかし、これ以上せびり取られないだけでもマシだろう。まったく、日本の大企業という奴は、どこもかしこも脛に傷を持っているから、あんな総会屋ごときにつけ入れられるんだ。問題はあいつのバックの一心会だな。小島の金の大部分は一心会に上納されていたという話だから、小島を殺(や)られた一心会は必死で下手人を探しているはずだ」
東城はデスクの引き出しを開け、紙包みを取り出して、それをデスクの上に置いた。
「200万ある。これで特に不満は無いと思うが……」
男は、不満は無い、というように軽く肩をすくめた。
「リスクを負うのはそっちも同じでしょう。むしろそっちは社会的な地位も高いだけに、やっていることがバレた時に失うものも多い。私は、せいぜい自分の命だけだ。幸い、家族もいないのでね。その自分の命もたいして惜しくもない」
「君のような人間があと二、三人いるとこっちも助かるんだがな」
「世直し団ですか。時代劇か漫画の見過ぎですよ。私は自分で使うカネが欲しいだけだ。正義感のために人殺しをする奴はいない」
「動機はどうでもいい。私は、自分がしたいことをするのに手足になってくれる人間が欲しいんだ。私の本当に知りたいことを教えてくれる人間、私に代わって人を殺してくれる人間がね」
「確かに警察庁のトップ自ら人を殺したんではまずいでしょうな。私はカネを貰い、あんたは自分の欲求不満を解消する、というわけだ」
「欲求不満か。確かにその通りだ。私は今の立場にいるかぎり、本当の欲求を満たそうとすれば、手足を縛られているようなものだ。正義の執行者が悪を為すことは表向きには不可能だからな。しかも、その『悪』が自分が本当に望む正義なのだから。信じて貰えるかどうか分からんが、私がこの世界に入ったのは『悪い奴』をやっつけたいという、それだけだったんだよ」
「少年の夢ですな。ところが、いざ警察のトップになってみると、悪い奴に対して何一つ手出しができない。それでこういう行動に出たわけだ。でも、いずれバレますよ。これでも日本は一応法治国家らしいですからね」
「そうならないように気をつけるよ。もし助けが必要な時は、この番号に電話してくれ。私の私設オフィスだ。オフィス名と番号は覚えて、この名刺は処分してくれ。秘書が電話に出るはずだから、名前と連絡先を言っておいてくれればいい。そうすれば、後でこちらから連絡する」
男は3本目の煙草に火をつけ、曲の終わったCDを再びプレイにした。東城との会談が昨日で、そのまま夜行列車に乗って、今朝この町に着いたのだった。
町の名前は北**市。東北地方の大都市の一つだ。冬の初めの肌寒い気候の中を一日歩き回り、町の様子を見た後、このホテルに投宿した。特に警戒を要するような気配も無かったので、近くのレストランで夕飯を食った後、ホテルに戻ってきたのである。
町の名は (1)-2 2016/07/12 (Tue)
男の名は冬木刑士郎。仕事は二年前までは警察官だったが、ある事件で免職になった後、しばらくして東城の下で働くようになった。
東城の命じる仕事は、簡単に言えば殺し屋である。だいたいは企業の依頼を受けて、企業に不利な活動をしている人間(中には組合活動をしている人間などもいる。産業スパイもいる。単なる企業内部の権力闘争もある。基本的にその理非は問わない。)を殺す仕事である。野党政治家を殺したこともある。行政府の役人を殺したこともある。すべて、時の政権中枢部に不利益な活動をした、あるいはすることが判明した人間だ。彼が殺した人間の中には小島のような、ヤクザの舎弟である総会屋などもいる。こういうのが、殺しても一番後腐れが無い。警察もマスコミも本気では調べないからだ。
これまで冬木が殺した人間は5人。貰った金は2000万円くらいだろう。野党政治家を殺した時が一番高く、1000万円の報酬があり、その時は1年間ハワイに逃げてほとぼりをさました。
その時の金は内閣調査費という、「領収書不要」の金から出た。これは年間数億の予算がある。
誰を殺そうが、冬木の心が痛むことはない。無邪気な子供でも殺すなら別だが、汚れきった大人の寿命を数年か数十年縮めることに彼は何の痛痒も感じなかった。
刑士郎の脳裏に妻の面影が浮かんだ。「汚れきった大人」という言葉に心が反応したのだ。汚れたのは誰なのか。
刑士郎はテーブルの上のワイルドターキーをグラスに注ぎ、それを一息で飲んだ。焼けるように熱い液体が喉を通って胃の中に落ちていく。
刑士郎の妻は二年前、刑士郎の留守中に、自宅アパートで、ある男に犯された。
相手は、刑士郎が以前に検挙したチンピラだった。刑士郎はその若者のマンションに乗り込み、両腕をへし折った後、恐怖で縮こまっているその陰茎を台所の包丁で切り落とした。
その事件のために刑士郎は警察を免職になったのである。
妻とは、妻の方からの申し出で、半年後に離婚した。まだ二十代の若いきれいな妻だった。今はアメリカに行き、そこで暮らしているという話を、妻の実家の者から刑士郎は後で聞いた。
刑士郎が今の仕事をしているのは、妻の事件が理由というわけではない。その事件の前から彼の犯罪者への憎悪は異常なものだった。だが、二年の間に、彼の憎悪は犯罪者から人間全体へと対象が広がったのかもしれない。それは、自分がしていることを正当化する心的機制だったのだろう。
もちろん、今でも彼が一番憎んでいるのは犯罪者である。当の彼自身が犯罪者であることを考えれば、これは少々滑稽ではあったが、警察官であった時代の名残で、彼はヤクザや犯罪者を心の底から憎悪していたのである。それは妻の事件で永遠に心に刻印されたのだ。
(連中は人間じゃない。連中を人間扱いすること自体が間違いなんだ。)
警察官であったころ、様々な事件に出遭うたびに彼の胸の中にはそういう思いが高まっていった。特に、犯罪被害者やその家族の再起不能の状態を後目(しりめ)に、加害者が証拠不十分で釈放されたり、あるいは刑期を終えて世の中に復帰し、大手を振って歩いている姿を目にする度に、彼の憎悪と怒りは高まっていった。そして妻へのレイプ事件で彼の怒りは爆発したのであった。
妻を犯したチンピラの陰茎を切断した時の快感を刑士郎は思い出していた。チンピラの恐怖にゆがんだ顔。哀願する声。左手で握った情けないほど縮んだ陰茎を右手の包丁で切った時の感覚を彼は一生忘れないだろう。その汚らしい一物を彼が足で踏みつぶした時の、相手のあの絶望した顔。これこそ復讐の快感であった。彼は、妻のためにではなく、その快感のためにこの行為をやったのかもしれない。心の奥底を見れば、その時の彼の心には妻を思う気持ちは無かったのだから。
その後の裁判の間も、刑士郎は一瞬も自分のやった行為を後悔しなかった。むしろ、それをやらなければ、どんなに後悔しただろう。
バーボンの酔いが次第に回ってきて、刑士郎はやがてベッドに倒れ込み、そのまま眠りの中に落ちて行った。