ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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風の中の鳥 (5)(6) 2016/07/20 (Wed)
第五章 山賊の後宮
二人が砦に入った時は、残る山賊は逃げ去った後だった。しかし、そこに二人は思いがけない物を見た。
砦の奥の部屋を開けると、そこに若い娘が二十人ほどもいたのであった。
山賊達に拐かされてきた娘たちであった。おそらく、この近辺の村の娘たちか、街道を旅する商人の娘だろう。
娘たちは、二人が山賊たちを倒した事を知って、歓声を上げた。
フリードとジグムントは、思いがけない光景に、目を見合わせた。
ジグムントは、さらに奥の部屋を探索し、留守番の山賊が持ち逃げし損なった財宝類を掻き集めてきて、それを娘たちの前にぶちまけた。
「お前達、山賊の慰み者となって傷物になった以上は、普通に結婚するのは難しいだろう。これを皆で分け、家への土産にするなり、商売の元手にするなりしたらよい。金さえあれば、結婚しようという馬鹿、いや、結婚相手も見つかるぞ」
娘たちは再び歓声を上げた。
「これこれ、奪い合いをするでない。公平に、公平にな」
ジグムントが娘たちに言う間に、フリードは物問いたげに自分の方を見ている娘に気が付いた。
「君は? どうして貰わないの」
娘は寂しげに微笑んだ。
「お金なんて。……自由になれただけで十分ですわ」
その娘は、娘たちの中でも特にきれいな顔をしているだけに、フリードは彼女に心引かれるものを感じた。
「あのう……」
その娘がフリードに言った。
「お願いがあります。図々しい願いかもしれませんが」
「どんな事ですか」
「私たちをそれぞれの家まで送って貰えないでしょうか。先ほど、二人逃げていったという話ですが、山賊はここ以外にもいます。家に戻る途中で山賊たちに遭えば私たちはまた連れ戻されてしまいますから」
フリードはジグムントの方を見た。
ジグムントは頷いた。
「よかろう。その娘さんの言う通りだ。このまま山賊に連れ戻されては、仏作って魂入れず、だからな」
古臭い俚諺でジグムントは娘の申し出を承諾した。
山賊達の馬は、全部で十三頭残っていて、その馬が役に立った。娘達を二人ずつ馬に乗せて旅をすることができたからである。
娘たちの数は、正確なところ、二十一人だった。皆、十人並み以上の顔をしているのは、ここに連れてきた娘たちの中で顔のまずい者は、最初に殺されていたからである。それを目の前で見せられた娘たちが山賊たちの意に従わざるを得なかったのは当然だろう。
その二十一人の娘たちをそれぞれの家に送り届けるのは、大変な苦労であったが、その苦労というのは、娘たちのお喋りのためであった。奴隷の身から解放された嬉しさからか、娘達はひばりのように陽気になってはしゃぎ、中にはフリードに大胆にモーションをかける(死語)娘もいる始末であった。そのへんは、娘とはいえ、山賊たちの夜の相手をしてきた娘たちであるから、女を知らないフリードに太刀打ちできるわけがない。しかし、フリードは、あの寂しげな顔の娘を意識して、他の娘とそういう関係になることができなかった。
ジグムントの方は、老人のくせにこの思わぬハーレム状態にすっかり大喜びである。娘達と卑猥な冗談に打ち興じて大笑いをしている。それどころか、夜にはどうも、娘たちの寝所に行って不埒な事をしているようである。
ともあれ、最後から二人目の娘を家に送り届けた時は、フリードはほっと一息つき、ジグムントは残念がった。
最後に残ったのがあの寂しげな顔の娘であったのは、フリードにとっては嬉しいことだった。
娘の名はマリアと言った。抜けるように色が白く、うるんだような大きな黒い瞳に長い黒髪。いかにも若い男が惚れそうな、絵に描いたような美少女である。
彼女は、フランシアの首都、パーリャの商人アキムの娘だということである。体が弱く、小さい頃から東の保養地で療養しながら成長し、体も丈夫になったので、都の両親の所へ戻ろうとする途中、山賊達に襲われたのであった。
第六章 憲法第九条?
山を下りてフランシアに入ってからすでに半月ほどが過ぎていた。あたりの風景は、ローラン国とはだいぶ違って平野が多く、田畑も多い。作物は小麦かライ麦が多いが、ブドウ畑も多く、またフリードが見たこともない作物も見られる。
季節は初夏で、爽やかな気候は旅には最適であり、しかも隣にマリアという美しい娘がいるので、若いフリードは幸福そのものだった。なにしろ、生まれてから十七になるまで育った村には、女は百人くらいしかいず、その中で適齢期の娘は十人くらい、となると、その中に美人のいる確率がゼロに近いことは言うまでもない。その中ではまあまあの顔をした娘が、自分こそがフリードの未来の嫁だと勝手に決め込んでフリードにまとわりついていたが、フリードはこの娘にもまったく興味は持てなかった。美人が一人もいない自分の村の女たちから推測して、彼が世の中の女全体に期待を持たなくなったのも当然だろう。マリアという娘の美しさは、彼の女性観そのものを変えるものであったのだ。
マリアは無口な娘で、自分から話をする事はほとんど無く、問われた事に答えるだけであったが、やはり山賊の女にされていた事が心の傷になっているのだろうと、フリードは彼女の心を推察していた。
娘たちをそれぞれの家に送り届ける度に馬が余っていったので、その余った馬は悪い馬から順に売り払っていき、ジグムントとフリードの懐には金がたっぷり出来ていた。この当時、馬は人間以上に価値があったのである。従って、九頭分の馬の代金というと、まず普通の町人なら一生遊んで暮らせるくらいの金額であった。
馬に乗っているお陰で、重い鎧を運ぶ苦労も無く、しかも山賊の根城にあった武器類には槍、剣、盾などもたっぷりあったので、フリードとジグムントの武器も今は充実していた。と言っても、それらの武器は、今の所、馬の背に乗せているだけだが。山賊の残した武器類は、もちろん二人が身につけるのに十分な以上にあったが、その大半は通りがかりの町で売り払い、金に換えてある。
「パーリャまでは、まだだいぶ遠いのですか」
フリードはジグムントに聞いた。
「そうだな。あと五日くらいかかるかな」
「やはり、広い国ですね。それに、平和そうだ」
「さあな。わしには、庶民が生活に満足しているようには見えんがな」
「そうですか?」
フリードは驚いて、小麦畑で畑仕事をしている人々を見直した。彼と目が合った百姓は、慌てて目を逸らした。フリードを騎士だと思って、恐れている様子である。
「そうですね。何か、びくびくしているみたいです」
「どこの国でもそうじゃよ。武器を持たぬ者たちは、武器を持った階級を恐れ、その意に従わざるを得んのだ。人間が人間らしく生きるには、この世の中では、武器を持つしかない」
「いいえ、違います」
珍しく、マリアが憤った口調で言った。
ジグムントは、大人しいマリアのこの反応に驚いて、彼女の顔を見た。
「皆が武器を持って争い合うなんて、間違ってますわ。皆が武器を捨てればいいのです」
ジグムントは、穏やかな微笑を浮かべてマリアを見た。
「お嬢さん、それは理想というものじゃよ。わしは今のこの世の中の話をしているのだ」
「分かってます。でも、人々が心に理想を持たないから、今の世の中があるのではないでしょうか。人々が、自分の欲望よりも良心を重んずるようにならないと、この世の中はいつまでたっても野獣の世界のままですわ」
ジグムントは肩をすくめて議論を打ち切った。この事は、長い隠者暮らしの間に何度も彼自身考えてきた事であり、結局は、人間性自体が変わらない限り、この世から暴力と闘争は無くならない、そして、世界中の人の人間性が変わることは不可能だというのが彼の結論だった。
人間性そのものを善とし、変わり得るものと考えるか、それとも悪とし、変わり得ないものと考えるかは、主観の問題であり、議論しても平行線を辿るだけであろう。
フリードも、大人しいマリアの、この激した態度に驚いたが、言葉を挟めずにいた。こちらは、この種の問題についてまったく考えた事も無かったからである。彼は善人だったが、反射神経の男であり、単純に自分がするべきだと思った事を反射的にするだけの人間であった。こういう人間は、自分の考えや行動について分析する習慣もないから、議論はできない。現代人なら、まったくの阿呆扱いされるタイプの人間、出世のできない人間である。むしろ、フリードたちのような腕力の時代に生まれたほうが良かった人間も、現代の人間の中にもたくさんいるだろう。作者自身、腕力は無いものの、口先で生きるよりは剣で生きたほうがずっといいと思っているのである。
やがてフリードたち一行の前に町が現れた。ローラン国なら首都になれる大きさだが、フランシアの町としては中くらいだろう。
「ビエンテの町じゃな。ここで休んでいくことにしよう」
ジグムントの言葉に、フリードとマリアは頷いた。
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