古田のすごさを物語る1つの数字がある。1993年(平5)に記録したシーズン盗塁阻止率6割4分4厘。45度走って来た相手を29度刺した。


4割を超えれば一流と言われる中で、古田は6割超えをただ1人、2度もマークしている。極意は「時間短縮です」と言う。「0・1秒をどう縮めるかを考えていました」。投手陣には「この人だったら1・3秒までいいよ。この人はクイックじゃないと無理」など、走者ごとに細かくクイックモーションのタイムまで指示していた。


走者の二塁までの到達時間は、速い選手で3秒2。投手は1・2秒のクイックで投げ、捕手は1・8秒で二塁に届けることを目指す。投げやすいところに来たら、プロの捕手なら二塁まで1・8秒で投げられる。だが、投げにくいところに来た時に1・9秒かかってしまっては、セーフになってしまう可能性がグッと高くなる。「そこがボリュームゾーンだから、どれだけ抑えられるかって考えてました。一番は正確に投げること」。


捕手の送球が高ければ、野手が捕ってタッチするまでの動作で0・1秒かかる。その時間を短縮するため、ベースの上20センチを的にして投げていた。「大げさに言えば、山なりでもワンバウンドでも、そこにいけばいい。ボールを早く離せればっていう条件付きですけど」と明かした。


日刊スポーツにあるデータによると、古田が捕球後、送球までにかかる時間は0秒62だった。同じデータで西武伊東勤が0秒66。南海野村克也は0秒69だった。残っているデータの中では、古田の機敏さは頭1つ抜けている。0・1秒の時間短縮にこだわってきた成果だ。


91年には12人連続盗塁阻止の記録もつくっている。13人目は阪神岡田彰布になるはずだった。古田の強肩を警戒し、走ってくる選手も少なくなってきていた中、その年1つも盗塁を決めていなかった岡田がディレードスチールを仕掛けてきた。「まさか走ると思ってなくて、でも見えたのでアウト取れると思って軽く投げたら上にいっちゃって。あ~って。『この人に止められたか』と思いました」。笑い話になるほど視野の広さ、動作の速さ、正確な送球はずばぬけていた。「記録は抜いてくれたら、みなさん思い出してくれるのでいい」と言うが、そんな捕手が出てくる気配は今のところない。(敬称略=つづく)【竹内智信】