下に書いてあることは、言葉は婉曲で、人を傷つけないように注意しているが、よく読むと、あまり買っていない選手が多いようだ。特に天理の神野はまったく買っていないと読める。中村以外の選手も、将来性については言葉を濁している。しかし、それぞれの欠点の指摘は明確で、いい指導者になると思う。
だいたいにおいて、将来性については
中村◎
植田〇
西浦〇
増田△
西川?
永井?
神野×
といった感じか。西川と永井については、長距離打者にはならないと見ているようだ。実際、(永井は見ていないが)西川についての私の印象もそんなものだ。つまり、手打ちであり、遠くに飛ばすタイプではない、ということである。増田もそれに近い。植田については、チームバッティングとは程遠い、打撃における「俺様思考」がプロ向きなのか、それとも単なる夜郎自大で終わるのか、判断しがたい。
中村を捕手ではなく他のポジションで使ったほうが打撃が生かせるというのは私もまったく同意見である。捕手のままで使うと、彼の良さである打撃が死んでしまうわけで、「打てない捕手」になる可能性が高い。では、捕手としての能力はどうかと言えば、こちらもかなり「俺様主義」で、本質的に捕手向きではない、というのは以前に書いたとおりである。
2017.09.15
山﨑武司が打撃理論でみる
「夏の甲子園、ドラフト候補7人」の将来性
- 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
- 大友良行、岡沢克郎●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki、Okazawa Katsuro
プロ通算403本塁打を放ったスラッガー・山﨑武司氏(元中日ほか)が、夏の甲子園を沸かせた強打者を徹底アナライズ。まずは第1弾としてドラフト候補に挙がる3年生7人について、優れた点や今後の改善ポイントについて解説してもらった。
中村奨成(広陵高/右投右打/捕手)
そんなに力があるバッターには見えないんだけど、体重移動がめちゃくちゃうまい。プロでいえば坂本勇人(巨人)のような間(ま)の取り方で、山田哲人(ヤクルト)のように回転するバッティングですよね。軸足である右足にしっかり体重を乗せて、ストレートでも変化球でもどんな球にもタメを作って打てるところが一番素晴らしい。一本足で立っても上下のあおりが少ないフォームなので、コンタクトしやすいという要因もあるでしょう。プロでも早くから出番を得られる打者だと思うのですが、懸念点は捕手ということ。覚えることは多いし、リードで頭がいっぱいになる可能性がありますから。今後は体を大きくしつつ、よりしなやかに打てるようになれば、ホームランバッターになれる素質はあります。
西川愛也(花咲徳栄高/右投左打/外野手)
アクションが大きく、特徴的なバッティングをする打者ですね。スイングを見ていると、とくに下半身の強さを感じます。上半身は手を大きく動かすこと自体は問題ないのですが、バットのヘッドを捕手側に寝かせてからトップに引き上げるのは気になります。この使い方だとヘッドが効かないので、ボールに力が伝わらない。このまま木製バットになると、短距離ヒッターになるかもしれません。また、今後は球の速い投手との対戦が増えますから、早めにトップにグリップを引き上げられるように、タイミングの取り方を改善していきたいですね。
増田珠(横浜高/右投右打/外野手)
体に力がある打者ですね。とくに現時点では腕の力でかち上げて打つタイプに見えます。ウエイトトレーニングで体を鍛え、バットを強く振るタイプなのでしょう。ただ、上体の強さが際立つ反面、下半身の粘りがまだ感じられません。今は後ろ足(右足)に体重を乗せて、前足(左足)がドスンと着く大味な体重移動ですが、ここで右半身でグーッとタメを作りながらボールを待ちたいですね。そうすれば変化球で泳がされても、下半身に粘りが出てボールをつかまえられるようになる。上・下半身のバランスが良くなれば、もっと対応できる幅が広がるはずです。
植田拓(盛岡大付高/右投右打/外野手)
春のセンバツを見た際も言いましたが、個人的に好きなバットの使い方をする打者です。体は小さいけれど、ボールを遠くに飛ばそうという意識を強く感じます。タイミングを取る際にバットのヘッドが投手側に入ってからステップするのですが、この動きでバットの運動量が増えて長打につながります。ただ、この夏に気になったのは、右手の使い方が硬いということ。もっと柔らかく使えるようになると、バットの走りが良くなるはずです。聞くところによると、今夏は右手首を痛めていたようですね。手首でタイミングを取るタイプだけに大変だったと思いますが、それでも甲子園で2本も本塁打を打ったのは立派でした。
神野太樹(天理高/右投右打/外野手)
「天理のバレンティン」の異名があるそうですが、本当に顔がよく似ていますね(笑)。甲子園では2本の本塁打を放ち、体に力があることを感じました。ただ、いずれも軽打のように見えてスタンドまで届いたので「ボールが飛び過ぎでは?」と思ってしまいました。気になったのは、ステップまではいいものの、体重移動でやや開き気味に打ちにいくこと。球に力のない投手相手なら腕の力だけでさばけてしまいますが、このままでは外の球に苦労するはずです。左腰の開きを我慢できれば、センターからライト方向に飛ばせるだけの能力はあると思います。
永井敦士(二松学舎大付高/右投右打/外野手)
厚みのある見た目通り、振る力を感じる右打者です。グリップに左手の小指を掛けて、ヘッドをクイッと入れて強く捉えるタイプ。上・下半身のアクションはロスが少なく、手も器用な打者なので率を残せる下地はあります。ただ、このバットの使い方でさらに踏み込んで打つので、インコースの速い球に詰まりがち。あと、投球に対して出遅れ気味なのも気になります。テークバックでバットを引いた際、足を上げているのですが、ただ上げて下ろすだけに見えます。前へ打ちにいきつつ、軸足でグーッと我慢する待ち方を覚えたいですね。
西浦颯大(明徳義塾高/右投左打/外野手)
すべての面でマイナス点の少ない、完成度の高い打撃をする好打者ですね。すでに形ができていてバランスもいいので、大きくいじるところがない。あとは体を大きくして、精度を高めていくことですね。あえて欠点を挙げるなら、バットは振れるものの上体の力で打ちにいく傾向があるところ。振りたい思いが裏目に出て、甘い球に対して「しめた!」と上体に余計な力が入って体がバラけて打ち損じてしまう。とはいえ、現時点でもファームレベルなら、ある程度結果を残せる打ち方をしています。
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3年生のなかでは、やはり中村くんの打力が抜けているなと感じました。繰り返しになりますが、捕手は育成に時間がかかるポジションです。中村くんを獲得する球団は捕手として育成するか、打者としての才能を先に生かすか悩まされるでしょうね。
そして今大会を見ていて率直に感じたのは、やはり「打球が飛び過ぎる」ということです。パワーのある打者が増えたこと、バットの性能が進化していること、好投手が少なかったことなど要因は多々あるでしょう。それにしても、「この打ち方、このインパクトでここまで飛ぶの?」という打球があまりにも多かった。この流れが続いてしまうと、打撃技術もクソもなく、ただ体に力をつけて金属バットで飛ばす野球になってしまいます。高校野球のレベルアップのためにも、対策を練ってほしいところですね。