ストライクゾーンは打者の身長に合わせることになっているというのが野球の奇妙なところである。だからこそ面白いわけだが、下のような作戦も可能になる。昔の野球小説には小人を野球選手に雇うという話が時々出てくる。
(以下引用)
(31日、選抜高校野球 花巻東1―0彦根東)
延長十回、花巻東に待望の初安打が出ると、佐々木監督は三塁コーチの八幡を代打に送った。身長159センチの背番号「14」は、「最後の最後にベンチ入りを決めた選手」と監督はいう。
「タイブレークの対策として考えたんです」
今大会から導入された延長タイブレーク制は、無死一、二塁で試合が始まる。「八幡はバントがうまい。バスターもできる。足も速い。何でもできる選手が必要だと思った」。タイブレークとなるのは十三回から。出番は少し早くなったが、とっておきの切り札を勝負どころで送り出した。
しかし、簡単にはバントさせない。「待て」のサインを出したと監督は言う。
彦根東の左腕増居はしたたかだった。2回戦の映像を見て「直球主体の投球だから狙っていけ」と指示をしたら、「ウラをかかれて変化球が多かった。選手はイチニのサンで振りにいって、低めのボール球を振ってしまった」と苦笑する。
「完全な私の指示ミス。途中で変えたけど、遅かった」。九回まで無安打に抑えられてしまった。
「一つだけ当たったとしたら」と監督が明かしたのは、増居のちょっとした傾向だ。相手の送りバントに備えて前に走り出すとき、体勢が崩れて制球が乱れる。
「だから、待てのサインを出した」。狙い通り、ボールが3個続いた。3ボール、1ストライクになっても「待て」のサインを送った。「フルカウントになっても八幡は大丈夫。何でもできる選手ですから」。結果的に四球を選んで好機を広げ、サヨナラ勝ちにつなげた。「あの四球が勝因だったと思う」と佐々木監督は振り返った。
監督から全幅の信頼を寄せられる八幡も、心得たものだ。「(一塁ベンチの)監督と目が合って、代打だと分かりました。ここ一番に強い選手になりたいと練習してきた。緊張はありませんでした」
初安打から一気に決めたサヨナラ勝利の裏に、監督の確かな読みと、いぶし銀の存在があった。(編集委員・安藤嘉浩)
朝日新聞社