第100回全国高校野球選手権大会の出場校が決まった。
日本の野球界は今、MLBに吹き荒れている「フライボール革命」の余波を受けて「打撃優位」の気運が盛り上がっている。高校野球もその例にもれず、昨年は中村奨成(広陵→広島)が清原和博(PL学園→西武)の持っていた1大会5本塁打を32年ぶりに破る6本塁打を放ち、大会通算本塁打数も史上最多の68本を樹立した。
「ボールが飛びすぎるからだ」「ウエートトレーニングの成果が出ているだけでで技術的には見るべきものがない」などネガティブな意見も飛び交ったが、体づくりまで俯瞰してみれば、高校野球史上類を見ない打撃優位の風が吹き荒れていると言っていいと思う。
そして、今大会は昨年以上にその風が吹く可能性がある。
野手のドラ1候補が勢揃いする今夏。
清宮幸太郎(早稲田実)と安田尚憲(履正社)が出場できなかった昨年に対して、今年は藤原恭大(大阪桐蔭・外野手)、根尾昂(大阪桐蔭・投手&遊撃手)、小園海斗(報徳学園・遊撃手)が顔を揃える。
この3人には「ドラフト上位候補」という共通点があり、もし彼らが1位指名されたら直前の夏の甲子園大会に限定すれば、過去5年間では野手としての1位指名選手の最多出場になる。
藤原は北大阪大会決勝、大阪学院大高戦で7打数6安打6打点という圧巻の成績を残し、話題になったが、私が最も驚かされたのは2カ月前の5月27日に行われた練習試合、日本体育大(以下日体大)戦でのプレーだった。
強豪・日体大相手に藤原の豪打爆発。
日体大は昨年の明治神宮大会・大学の部で優勝した強豪校で、春のリーグ戦は3位に終わったが投手全員が防御率0~1点台という安定感を誇っていた。
その強力投手陣に対して藤原はダブルヘッダーの第1試合で1番・中堅手でスタメン出場し、1死三塁で迎えた第2打席、スリークォーターの右腕、森博人(2年)の外角球を左中間に運んで1点を返している。
森は6日後の明石商との練習試合でも登板し、このときのストレートの最速は146キロ。横変化のスライダーのキレもよく、私は2年後のドラフト候補と評価しているが、この森を藤原はまったく苦にせず、キャッチャー寄りのミートポイントで逆方向に長打(二塁打)しているところに成熟した大人の部分を感じている。
第4打席は技巧派左腕、春田優成(3年)の甘いスライダーをフルスイングで捉え、ライト方向へ打った瞬間にわかるホームラン。
相手が大学生で、昨年秋の全国優勝校であることを考えれば、藤原の実力はライバルたちより頭1つ抜けていると言っていい。
徹底的に警戒されている根尾昂。
ちなみにこの日体大戦では、根尾も4番・遊撃手でスタメン出場していた。
5打席中、四球1、死球2でわかるように徹底的に警戒されているが、無死一塁で迎えた第5打席では最速151キロの速球派、北山比呂(3年)と対戦して、ストライクゾーンに入ってくる球はすべてフルスイングで応えるという迫力で目を引いた。6球目を打ってレフトライナーに倒れ、一塁走者が帰塁できず併殺に終わるが、打球の速さは藤原に負けていなかった。
小園は2年前の兵庫大会2回戦、須磨翔風戦のバッティングが忘れられない。
今季、阪神の先発投手陣の一角に収まっている才木浩人と対戦、第2打席は1ストライク後のスライダーをセンター前に弾き返して一塁到達は4.18秒、第3打席は初球ストレートをやはりセンター前に弾き返して一塁到達は4.20秒という俊足ぶり。
私は「俊足」を打者走者の一塁到達は4.3秒未満を目安にしているが、クリーンヒットを放って4.3秒未満というのはそう多く見られない。高校卒2年目で阪神先発陣の一角を占める才木の現在の姿と、1年生だった2年前の小園の姿を重ね合わせれば、その野球センスの高さが自然と浮き上がってくる。
“未完の大器”万波中正はついに覚醒!
3人以外でも今年の大会には逸材が多い。
関東勢ではいずれも長打に定評のある野村佑希(花咲徳栄・外野手)、蛭間拓哉(浦和学院・外野手)、万波中正(横浜・外野手)、関西勢では松田憲之朗(龍谷大平安・遊撃)、林晃汰(智弁和歌山・三塁手)、九州からは松井義弥(折尾愛真・三塁手)が出場する。
野村はプロの打者でも苦労する内角胸元へのストレートをフェンス越えさせる技術とパワーがある。側頭部近くにあったグリップ位置を耳辺りまで下げることにより、現在はフォロースルーを大きく取れる形になり、安定感が出てきた。
“未完の大器”万波は、これまで「当たれば飛ぶが当たる可能性が極めて低い」と言われ続けてきた。
それが打席内での上下動を抑えることによってミートの確率が高くなり、今夏の南神奈川大会準々決勝、立花学園戦ではあと単打が出ればサイクルヒットという猛打を記録。この中でも第2打席で放った一発は特大で、横浜スタジアムのバックスクリーンを飾るコカ・コーラの看板まで到達。推定飛距離は135メートルという特大の一発だった。
68本塁打を今大会は超えるか?
その年の夏の甲子園大会に出場した高校生野手がドラフトで指名されたのは過去5年間、'13~'16年まで7人、'17年は6人となっている。
ドラフトは基本的に投手優先だから、野手はこのくらいの人数で推移しているが、今大会の野手は逸材揃いで、ここまで名前を出したのは総勢9人。
彼らが揃ってドラフトで指名され、甲子園で昨年の68本以上のホームランが出れば、攻撃力がひときわ記憶に残る大会になるだろう。
“桑田真澄二世”の声もある吉田輝星。
投手で注目されるのは、吉田輝星(金足農3年)、根本太一(木更津総合2年)、井上広輝(日大三2年)、及川雅貴(横浜2年)、奥川恭伸(星稜2年)、柿木蓮(大阪桐蔭3年)、西純矢(創志学園2年)たちで、一目瞭然ではあるがとにかく下級生が多い。
この中で私が最も期待しているのは3年生の吉田だ。
ストレートに速さと伸びを備えている上に、カーブ、スライダー、スプリットなど変化球の精度も高く、今夏の秋田大会2回戦ではストレートが150キロを計測している。176センチの上背と無駄のない投球フォームから“桑田真澄二世”の声が上がっているが、近年の投手でその投球スタイルが近いのは山本由伸(オリックス)の方だろう。
2年生左腕の及川もストレートがすでに150キロを超えている。前肩が開かず、下半身→上半身の順に動く投球フォームにも目立つ欠点がなく、来年のドラフト1位指名が確実視されている。
全体的に俯瞰して見れば打者優位の大会と言ってよく、投手は下級生中心にレベルが高い選手が顔を揃えている。
テーマを絞ればタレント揃いで春夏連覇を狙う大阪桐蔭をどこが破るかだが、先に挙げた中の関東勢が最もその可能性を秘めていると思う。