ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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村上龍の「JMM」という電子雑誌から冷泉彰彦のコラムを転載。
大谷の大リーグ入りを勧める内容で、私の考えとは正反対だが、筆者は大リーグには詳しいらしく、なかなか有益な知識をあれこれ披歴しているので、備忘的に転載しておく。
私が大谷投手を顔で判断した限りでは、彼は大リーグ、あるいは外国で一人で生活できるほどの強靭な精神力は持っていないと思う。まして、160キロ投げる投手はごろごろいるというマイナーリーグの中では、自尊心や自信を保っていくのも難しいだろう。
下記記事は、そういう部分は考慮せず、高校生の甘い夢を無責任にけしかけているという感じがあるが、まあ、私だって大谷本人を知らないままであれこれ言っているだけだ。だが、はっきりしているのは、「目の前に1億円があり、その1億円は2度と手に入らないかもしれない」ということだ。
大リーグに入って、彼が1億円稼げる投手になれる確率は、まあ5%程度だろう、と私は見ている。もちろん、年間10億円稼ぐ投手になれる可能性も0.001%くらいはあるだろう。だが、その前に潰れる確率の方は、まあ9割くらいある、と、べつに根拠はないが、過去の大リーグ挑戦をした「日本で実績のあった選手たち」の失敗例を見て、そう思うのである。
野茂レベルの投手、イチローレベルの野手は、日本のプロ野球史の中でも特筆される天才である。それであって初めて大リーグに行くべきなのである。日本の甲子園にさえ行けなかった投手が、何を白昼夢を見ているのだ、ということだ。
まあ、大谷はすでに日ハム入りをするという賢明な選択をしたのだから、今更言う必要はないのだが、とにかく、下記記事の趣旨自体には私は正反対の考えなのである。
ついでに言えば、黒田は成功例の一つだが、野茂ほどの成功ではまったくない。1年あるいは2年程度、10勝から15勝した程度で騒ぎ過ぎである。大リーグは「旬の選手」には膨大な金を出す。たまたま今年は黒田の当たり年だったからもてはやされているだけだ。
(以下引用)
from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦
冷泉 彰彦(れいぜい あきひこ) 作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空気」「場の空気」』
『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』『「上から目線」の時代』。
訳書に『チャター』。
最新作は『「チェンジはどこへ消えたか~オーラをなくしたオバマの試練』(ニューズウィーク日本版ぺーパーバックス)。
またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
第560回 拝啓 大谷翔平投手殿 配信日:2012-12-01
今年、2012年のメジャーリーグ、ポストシーズンでは恐らく二人の投手について、色々と考えさせられたのではないでしょうか? まずは、何と言っても黒田博樹投手の活躍でしょう。日本で基礎を作った投手でも、メジャーの頂点と言えるレベルの投球ができる、そのことを圧倒的なパフォーマンスで見せてくれたのが今年の黒田投手です。しかもファンにも、球団にも、そしてチームメイトからも熱い支持を受けつつの一年間であり、その総決算としてのアメリカンリーグ優勝決定戦での5回までパーフェクトという熱投があったわけです。
同じ日本人の投手として、正にこの黒田投手の活躍は励みになり、同時に目標にもなったのではないでしょうか? 同時に、ここまで日本人の投手がメジャーで活躍できるのなら、もっと若いうちに行って自分の最盛期をメジャーで勝ち続けることができれば、投手としてもっと分厚いキャリアになるのではないか、そんな思いも改めて強くしたのではと拝察します。
もう一人は、そのアメリカンリーグの頂点での対決を制したデトロイト・タイガースのジャスティン・バーランダー投手でしょう。何と言っても大谷投手と同様に最速は160キロの速球を駆使するパワフルな投球スタイル、そして現在のメジャーでは珍しい「先発完投型」として、7回ぐらいまでは最速のストレートを封印してせいぜい154キロ程度でガマンしつつ相手打線を抑え、8回から9回にかけては、自分がセットアッパーでありクローザーでもあるというように、160キロの速球で圧倒する、正に投手として理想の存在です。
それだけではありません。このバーランダーという投手は、まだ29歳ですが、既にメジャーで124勝もしているのです。しかも負けは65だけという凄い勝率、そして昨年、2011年のシーズンには24勝5敗という圧倒的な成績で、サイ・ヤング賞は当然としてリーグのMVPもダブル受賞し、正に球界の頂点を極めているのです。このまま大きな故障がなければ、270から300勝以上を記録して、やがては殿堂入りも夢ではないでしょう。
恐らく、黒田投手とバーランダー投手を比較してみたときに、大谷投手は複雑な思いに駆られたのだと思います。日本での海外FA資格を待っていては、どんなに努力しても黒田投手のレベルにしか行けない、自分がバーランダー投手のような存在になるためには、今、海を渡るしかないのだと。
例えばですが、ポスティングに絡むお金の話「丸出し」の取引も、あなたの人生観には合わなかったではないでしょうか? とにかく海外FAの「9年」が待てないのであれば、18歳のこの時点で米球界を目指すという考えは自然なものだと思います。
その一方で、この間、大谷投手の強い意思表示を「まるで社会に対する大人の正式な宣言」ではないかのように、それを無視してドラフト一位指名を行い、ついには大谷投手自身を交渉の席まで引っ張りだしてきた日本ハム球団という存在があるわけです。
もうお分かりの通り、勿論、入団の可能性が50%以下であっても彼等は指名するメリットを感じた、つまり入団した場合のメリットがそれだけ大きいという理由があったわけで、勿論、その背後には合理的な計算があるのは間違いないと思います。
私は、報道を通じて「野球の場合は若くして行っても成功の確率は低い」というようなネガティブなものや、「共に夢を」というような曖昧なメッセージを出してきた、
あるいは日米のマウンドの違いがどうこうといった些細な問題を理由にしようとしたということには違和感を感じます。
それ以前の問題として、18歳の段階で将来を期待される野球選手が渡米することについて「本当の意義は何か」「マイナーからメジャーへのプロセスはどうなっているのか」の二点について、本当に大切な点が議論されていないのではないかと恐れています。
私はアメリカで自分の子供の成長に合わせて、幼児から高校野球まで「草の根の野球」を経験するとともに、日本人とアメリカ人の高校生や大学生を教えてきています。
野球の知識に加えて言葉や文化の点も踏まえながら「意義」と「プロセス」について述べておこうと思うのです。
まず「プロセス」の方からお話ししたいと思います。とにかく行くのなら絶対に成功してもらいたいと思うからです。
成功というのは、22歳までにメジャーのロースターに入って39歳ぐらいまで18シーズンで、150勝もしくは200セーブまで行ければ、野球人として超一流でしょう。ですが、更に高く、目標をバーランダー投手のレベルに置いて、自分が29歳になったときに現在の彼のような存在になるためにはどうしたらいいのでしょうか。
そのためには、この際ですからメジャーの育成方法、調整方法に全てを委ねることが良いのではと思います。具体的に述べます。
(1)まず18歳にしても、大学中退、あるいは大卒の20歳、22歳という年齢であっても、アメリカの場合はメジャーが契約した新人選手は、マイナー・リーグで2年から3年の育成期間を過ごすのが普通です。というのは、メジャーとはレベルが違うというイメージもあるかもしれませんが、マイナーの野球は作戦からコミュニケーションまでの細かな部分はメジャーと同一であり、何よりも各球団の首脳陣が「メジャーで通用する選手を育成する」ということを主眼にして選手を育てているからです。
(2)では、どうして日本のように「高卒で即戦力」ということにならないのかというと、一つにはメジャーのレベルがアマとは比較にならないぐらい高いということがあります。また、メジャーが年間162試合、先発ローテ入りの投手の場合は基本は中四日という過酷な環境であることもあって「本当に大人の体力と精神力」を養ってから行かないと潰れてしまうという考え方を100年の経験から持っているからです。
(3)では、マイナーリーグというのは相当に「しっかりと練習」するシステムであるかというと、これが日本的な感覚からは違うのです。集団での練習というのは最小限であり、キャンプにしてもシーズン中にしても、コンディション作りに関しては相当な部分が個人に任されます。極端なことを言えば「こちらから聞きに行かないと」コーチも監督も教えてくれないという部分もあります。逆を言えば「個人のプライドの領域に踏み込んで」監督やコーチが勝手にフォーム矯正とか、練習方法の強制はしないのです。
(4)更に言えば、マイナーのシーズンはメジャーより短くなっています。オフの
「ポストシーズン」に行かない場合は、8月末にもうシーズンが終わってしまい、翌年の2月にキャンプ(スプリング・トレーニング)招集がかかるまでは、完全に個人に任されるということが多いのです。ですから、自分なりに目的意識を持ってこのオフという期間を有効活用することが必要になってきます。
(5)では、下手をするとメジャーに上がるチャンスのないまま、何年も過ごすことになるのかという心配もされるかもしれませんが、近年はインターネットによるスポーツ情報の流通量は大変に大きいので、本当に才能がある選手であれば、スポーツ記者もスカウトも見逃さないと思います。また高額の契約金で入ってきた選手に関しては、必ずある時点が来れば「上で使ってみよう」というチャンスは来ると思いますから、その辺は心配いらないと思います。
(6)以上は一般論ですが、大谷投手の場合は「足の長い素晴らしい体型をしていること」、「その足を生かした良いフォームを身につけていること」ということで、素晴らしい素質を感じるのですが、この長所を更に生かすために、アメリカ式の走り込みを続けるということを強く勧めたいと思います。日本の野球部の「ランニング」は持久走的なものが多く、陸上競技のテクニカルな観点から考えられたトレーニングを採用しているケースは少ないように思います。アメリカの場合は、多くの高校野球の選手が冬場はフットボールの選手であったりしますし、野球選手もフットボール選手もオフシーズンには陸上部に入ってトレーニングをするということがあります。その場合は、1500メートルを6分弱ぐらいの本格的なスピードを持った走り方で、最低でも毎日5000ぐらいは走り込み、サッカーで言う「運動量」と下半身の「お尻から下の」筋力を徹底的につけることを目的としています。このアプローチを取り入れることを強く勧めます。
(7)バーランダー投手が良い例ですが、アメリカの速球派の投手の体型は非常に引き締まっていますが、その一方で下半身にはどっしりとした筋肉がついています。これはこうした高速持久走から来ているのです。そのように土台がしっかりすれば、肘や肩、特に肘への負荷は軽くなる一方で、球速も制球も安定してくるのです。ただ、余りに下半身が強いと腕の筋肉に負荷はかからない一方で、メカニズムとして肘への負荷は一定程度出てきます。そこからアメリカ式の投球数規制という発想が出てくるわけです。この問題は、それぞれの選手の「肘の柔らかさ」が大きなファクターとして関係してきますが、やはり従った方が良いように思います。少なくとも「投げ込みで肩を作り、自信をつける」といった古風な日本式アプローチより理にかなっています。
(8)高速持久走だけでなく、上半身の筋力トレーニングもアメリカの場合は色々なメソッドがあります。特に高額の契約金を獲得して経済的に余裕がある場合は、専門のトレーニング・パートナーと契約してじっくり取り組むなど、多くの選手がそれぞれに工夫をしているようです。
さて、こうした基礎トレーニングとマイナーでの実戦経験を数年重ねて行って、例えば20歳から22歳ぐらいで一軍ローテに定着することができれば、バーランダー投手のように投手としての最盛期をアメリカのメジャーで過ごすことが可能になってきます。日本経由であれば、どんなに頑張っても黒田投手が最高であり、仮に海外FA9年の前に何らかの方法で渡米できても野茂英雄投手の100勝が一つの「天井」になってくると思います。黒田投手のように素晴らしい投球を、そしてバーランダー投手のようにメジャーで200も300も勝てるような活躍をしたい、その夢は大事にしたら良いと思います。
ここから先は、少し違うアドバイスです。私個人としては、今回の2012年のメジャーのポストシーズンを見ていて、黒田投手やバーランダー投手を目標に夢を描くというのでは、まだ十分ではないと考えます。というのは、結果論になりますが、黒田投手のヤンキースも、そのヤンキースを4連勝で下したバーランダー投手のタイガースも、結局は今年のポストシーズンで無惨な敗退をしているからです。
ヤンキースと、タイガースはどうしてその直前までギリギリのところで素晴らしい戦いができたのに、最後は四連敗という惨めな敗退をしたのでしょうか? それはチームの士気、チームのモチベーションを最高レベルに高めることができなかったからです。その点に関しては、黒田投手もバーランダー投手も立派に戦ったのは事実であり、責める必要は全くありません。ですが、今、18歳のプロ入りしようという逸材が「夢として仰ぎ見る」には、今年の黒田博樹、ジャスティン・バーランダーという二人には「欠けているもの」があると言わざるを得ないのです。
それはリーダーシップと言うことです。威張るとか、引っ張るというような単純なものではなく、明らかにチーム全体が信頼し合い、励まし合い、お互いのパフォーマンスを「マキシマム」に持っていくように、最高レベルのコミュニケーションをする、
そうした意味のリーダーシップということでは、黒田投手も、バーランダー投手も90点か100点であったかもしれませんが、120点ではありませんでした。そして、
ヤンキースもタイガースも、実はこのコミュニケーションという点に大きな弱点があり、誰かが120点の力で引っ張っていく必要があったのです。そしてその120点のリーダーシップが欠けていたために敗退した、それも4連敗という無惨な負け方をしたのです。
では、その点でジャイアンツはどうして強かったのでしょうか? それは勿論、ボウチー監督の素晴らしい指揮ということもありますが、何と言っても精神力の強い、絶対に諦めないという姿勢を身をもって示し続けた二人の選手がいたからでした。
実は、今年のサンフランシスコ・ジャイアンツはシーズンの後半に差し掛かって、チームに大激震が走っていたのです。攻撃の主軸であった、メルキー・カブレラ選手が違法薬物使用のために50試合の出場停止になったばかりか、薬物使用を隠蔽するために誤った情報発信をするためのウェブサイトを開設しようとしていたという疑惑まで出てしまい、球界から大きな批判を浴びたのでした。
この大トラブルに際して、弱冠25歳、入団4年目の選手がチーム・リーダーとして傷ついたチームを引っ張っていったのです。その選手とは、バスター・ポージー捕手。結果的に彼はメルキーの穴を埋めてチームをワールドシリーズ制覇に導いたばかりか、リーグMVPの栄誉も手にすることになりました。
では、どうしてポージー選手はそんなリーダーシップを発揮することができたのでしょうか? それは昨年の「事故」が関係してきます。実はサンフランシスコ・ジャイアンツは一昨年の2010年もワールドシリーズを制覇しています。その時もポージー選手は特に9月の大躍進に貢献して新人王に輝いています。球界では10年に一人という捕手の逸材と言われ、大変な評価を得たのでした。ところが、2011年の5月に本塁上の激突事件に巻き込まれて足の複雑骨折をしてしまったのです。そのケガは大変に深刻なもので、専門家からは「ポージーはもう捕手はムリだろう」と言われていたのです。
ですが、ポージー選手は手術の後、壮絶なリハビリをやって正捕手の座を奪い返してきたのです。それどころか、捕球技術、本塁上のブロックとタッチの技術に関してはケガの前とテクニックを更に磨いて堂々としたメジャーの捕手に返り咲いたのでした。今年、エースのマット・ケインが完全試合をやったのも、このポージーが受けながらリーダーシップを発揮したからだと言われていますし、何よりもメルキーのスキャンダルが出た時にチームの結束を呼びかけて、見事に前向きなムードへと変えていったのもポージー選手だったのです。
もう一人の隠れた「リーダー」は、ここ数年のジャイアンツ投手陣の中で「悪者」になっていたバリー・ジト投手でしょう。オークランドにいた若い時代には、サイ・ヤング賞を取ったり栄光の中にいたジト投手ですが、高額契約でジャイアンツに来てからは思うような結果が出せずに「お荷物」扱いをされていたのです。2010年のポストシーズンでは先発のローテからも外される屈辱を味わっています。そのジト投手は、今年、リーグ優勝決定戦では1勝3敗で「後がなくなった」第五戦に先発すると、本当に魂のこもった投球でカージナルス打線を抑え、自分もバントヒットで打点を稼ぐなど「先頭に立って」チームを引っ張ったのです。この試合が一つのターニングポイントになり、以降ワールドシリーズの頂点に立つまでチームは6連勝していったのです。
こうしたリーダーシップの部分、精神力の部分というのは、残念ながら紙一重の部分で黒田投手にも、バーランダー投手にも欠けていました。球界の至宝と言うべき、この二人には失礼かもしれませんが、黒田投手の場合は微妙なコミュニケーションの問題で自分の高いモチベーションをうまく使って攻撃陣に「火をつける」技術がまだ一歩足りないように思いますし、バーランダー投手の場合は「先発完投」にこだわるプライドの高さがどうしてもリリーフ陣のモチベーションになっていないように見受けられます。これに、三冠王のミゲル・カブレラ選手との言語ギャップ、文化ギャップという問題を抱える中で、このスター軍団はどうしても「まとまる」ことができなかったわけです。
大谷投手は、メジャーで「頂点」を極めたいのであれば、そうしたコミュニケーションやリーダーシップの部分まで超一流を目指すべきだし、今の18歳という年齢であれば可能だと思うのです。では、そのために何をすればいいのでしょうか?
(9)マイナーの苦労はアメリカ野球のカルチャーを知る大きなチャンスです。そこでの友情の育み方、リーダーシップの勉強、投手と捕手の関係や選手とコーチや監督との関係の理解、観客やメディアがどんな野球を期待しているのか、審判を味方にする方法、何よりもアメリカの野球という環境で勝ち続けるための基礎理解をするかしないか、そうした点に成功の大きな分かれ目があるのです。何故かというと、こうした点においては「野球とベースボールには大きな違いがある」からです。
(10)そのためには、できるだけ英語漬けになり、できるだけアメリカ社会にどっぷり浸かることが大切です。マイナーのシーズンは8月(プレーオフ進出のない場合)
で終わってしまい、翌年のスプリング・キャンプの招集まで5ヶ月以上「オフ」があります。この期間も、できればアメリカ社会に参加し続け、トレーニングの傍らで、例えばフットボールやホッケー、バスケの観戦をしたり、地域でのボランティアをしたりという活動を通じて、アメリカ社会がどんな価値観で動いているのか、どんな問題を抱えているのか、どんな行動様式なら他人のモチベーションを高めることができるかといったことを学んでいったら良いでしょう。日本への一時帰国はダメとは言いませんが、最小限にするべきです。まして、こうした「勉強期間中」は日本のメディアとの接触などは止めておいた方が良いと思います。
(11)英語は大変に重要ですが、日本の英語の教科書は捨ててきたほうがいいし、文法や英作文などの技術(暗号解読であって語学ではないので)なども忘れたほうがいいでしょう。そうではなくて、相撲部屋の外国人力士がそうであるように、野球を通じて、若者同士の日常生活を通じて「身体で英語を」覚えていくべきです。18歳の頭脳というのは、それを完璧にしかも効率的にできる柔軟性をまだ持っていると思います。更に、現在のメジャーで、チームのリーダーシップを取っていくには、スペイン語もある程度はできた方が良いと思います。中南米出身の選手との友情がどの程度機能しているかという問題は、今年のポストシーズンを見ていて、痛感させられること大であったからです。
(12)それでは、日本人なのに日本人を捨てろということではないか、そう思われるかもしれません。ですが、そうではないのです。他でもない日本人だから、英語でもスペイン語でもない言葉を母国語としているから、今、アメリカ人と中南米出身選手の間で微妙に「遠慮しあったり」「距離を置いたり」ということがあって、強い精神的一体感の持てないメジャーのチームが多い中で、そうしたコミュニケーションの「要」になれるのです。その考え方は、人間関係の「絆」という概念を大切にする日本の文化にも適合します。
黒田投手やバーランダー投手のような素晴らしい能力に加えて、そうしたメジャーにおける精神的なリーダーシップやコミュニケーションでも超一流になる、そうした目標を前提にしたとき、答えは自然と明らかになると思います。そろそろ、最終的な決断を下すタイミングが近づいているようです。その参考になれば幸いです。
大谷の大リーグ入りを勧める内容で、私の考えとは正反対だが、筆者は大リーグには詳しいらしく、なかなか有益な知識をあれこれ披歴しているので、備忘的に転載しておく。
私が大谷投手を顔で判断した限りでは、彼は大リーグ、あるいは外国で一人で生活できるほどの強靭な精神力は持っていないと思う。まして、160キロ投げる投手はごろごろいるというマイナーリーグの中では、自尊心や自信を保っていくのも難しいだろう。
下記記事は、そういう部分は考慮せず、高校生の甘い夢を無責任にけしかけているという感じがあるが、まあ、私だって大谷本人を知らないままであれこれ言っているだけだ。だが、はっきりしているのは、「目の前に1億円があり、その1億円は2度と手に入らないかもしれない」ということだ。
大リーグに入って、彼が1億円稼げる投手になれる確率は、まあ5%程度だろう、と私は見ている。もちろん、年間10億円稼ぐ投手になれる可能性も0.001%くらいはあるだろう。だが、その前に潰れる確率の方は、まあ9割くらいある、と、べつに根拠はないが、過去の大リーグ挑戦をした「日本で実績のあった選手たち」の失敗例を見て、そう思うのである。
野茂レベルの投手、イチローレベルの野手は、日本のプロ野球史の中でも特筆される天才である。それであって初めて大リーグに行くべきなのである。日本の甲子園にさえ行けなかった投手が、何を白昼夢を見ているのだ、ということだ。
まあ、大谷はすでに日ハム入りをするという賢明な選択をしたのだから、今更言う必要はないのだが、とにかく、下記記事の趣旨自体には私は正反対の考えなのである。
ついでに言えば、黒田は成功例の一つだが、野茂ほどの成功ではまったくない。1年あるいは2年程度、10勝から15勝した程度で騒ぎ過ぎである。大リーグは「旬の選手」には膨大な金を出す。たまたま今年は黒田の当たり年だったからもてはやされているだけだ。
(以下引用)
from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦
冷泉 彰彦(れいぜい あきひこ) 作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空気」「場の空気」』
『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』『「上から目線」の時代』。
訳書に『チャター』。
最新作は『「チェンジはどこへ消えたか~オーラをなくしたオバマの試練』(ニューズウィーク日本版ぺーパーバックス)。
またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
第560回 拝啓 大谷翔平投手殿 配信日:2012-12-01
今年、2012年のメジャーリーグ、ポストシーズンでは恐らく二人の投手について、色々と考えさせられたのではないでしょうか? まずは、何と言っても黒田博樹投手の活躍でしょう。日本で基礎を作った投手でも、メジャーの頂点と言えるレベルの投球ができる、そのことを圧倒的なパフォーマンスで見せてくれたのが今年の黒田投手です。しかもファンにも、球団にも、そしてチームメイトからも熱い支持を受けつつの一年間であり、その総決算としてのアメリカンリーグ優勝決定戦での5回までパーフェクトという熱投があったわけです。
同じ日本人の投手として、正にこの黒田投手の活躍は励みになり、同時に目標にもなったのではないでしょうか? 同時に、ここまで日本人の投手がメジャーで活躍できるのなら、もっと若いうちに行って自分の最盛期をメジャーで勝ち続けることができれば、投手としてもっと分厚いキャリアになるのではないか、そんな思いも改めて強くしたのではと拝察します。
もう一人は、そのアメリカンリーグの頂点での対決を制したデトロイト・タイガースのジャスティン・バーランダー投手でしょう。何と言っても大谷投手と同様に最速は160キロの速球を駆使するパワフルな投球スタイル、そして現在のメジャーでは珍しい「先発完投型」として、7回ぐらいまでは最速のストレートを封印してせいぜい154キロ程度でガマンしつつ相手打線を抑え、8回から9回にかけては、自分がセットアッパーでありクローザーでもあるというように、160キロの速球で圧倒する、正に投手として理想の存在です。
それだけではありません。このバーランダーという投手は、まだ29歳ですが、既にメジャーで124勝もしているのです。しかも負けは65だけという凄い勝率、そして昨年、2011年のシーズンには24勝5敗という圧倒的な成績で、サイ・ヤング賞は当然としてリーグのMVPもダブル受賞し、正に球界の頂点を極めているのです。このまま大きな故障がなければ、270から300勝以上を記録して、やがては殿堂入りも夢ではないでしょう。
恐らく、黒田投手とバーランダー投手を比較してみたときに、大谷投手は複雑な思いに駆られたのだと思います。日本での海外FA資格を待っていては、どんなに努力しても黒田投手のレベルにしか行けない、自分がバーランダー投手のような存在になるためには、今、海を渡るしかないのだと。
例えばですが、ポスティングに絡むお金の話「丸出し」の取引も、あなたの人生観には合わなかったではないでしょうか? とにかく海外FAの「9年」が待てないのであれば、18歳のこの時点で米球界を目指すという考えは自然なものだと思います。
その一方で、この間、大谷投手の強い意思表示を「まるで社会に対する大人の正式な宣言」ではないかのように、それを無視してドラフト一位指名を行い、ついには大谷投手自身を交渉の席まで引っ張りだしてきた日本ハム球団という存在があるわけです。
もうお分かりの通り、勿論、入団の可能性が50%以下であっても彼等は指名するメリットを感じた、つまり入団した場合のメリットがそれだけ大きいという理由があったわけで、勿論、その背後には合理的な計算があるのは間違いないと思います。
私は、報道を通じて「野球の場合は若くして行っても成功の確率は低い」というようなネガティブなものや、「共に夢を」というような曖昧なメッセージを出してきた、
あるいは日米のマウンドの違いがどうこうといった些細な問題を理由にしようとしたということには違和感を感じます。
それ以前の問題として、18歳の段階で将来を期待される野球選手が渡米することについて「本当の意義は何か」「マイナーからメジャーへのプロセスはどうなっているのか」の二点について、本当に大切な点が議論されていないのではないかと恐れています。
私はアメリカで自分の子供の成長に合わせて、幼児から高校野球まで「草の根の野球」を経験するとともに、日本人とアメリカ人の高校生や大学生を教えてきています。
野球の知識に加えて言葉や文化の点も踏まえながら「意義」と「プロセス」について述べておこうと思うのです。
まず「プロセス」の方からお話ししたいと思います。とにかく行くのなら絶対に成功してもらいたいと思うからです。
成功というのは、22歳までにメジャーのロースターに入って39歳ぐらいまで18シーズンで、150勝もしくは200セーブまで行ければ、野球人として超一流でしょう。ですが、更に高く、目標をバーランダー投手のレベルに置いて、自分が29歳になったときに現在の彼のような存在になるためにはどうしたらいいのでしょうか。
そのためには、この際ですからメジャーの育成方法、調整方法に全てを委ねることが良いのではと思います。具体的に述べます。
(1)まず18歳にしても、大学中退、あるいは大卒の20歳、22歳という年齢であっても、アメリカの場合はメジャーが契約した新人選手は、マイナー・リーグで2年から3年の育成期間を過ごすのが普通です。というのは、メジャーとはレベルが違うというイメージもあるかもしれませんが、マイナーの野球は作戦からコミュニケーションまでの細かな部分はメジャーと同一であり、何よりも各球団の首脳陣が「メジャーで通用する選手を育成する」ということを主眼にして選手を育てているからです。
(2)では、どうして日本のように「高卒で即戦力」ということにならないのかというと、一つにはメジャーのレベルがアマとは比較にならないぐらい高いということがあります。また、メジャーが年間162試合、先発ローテ入りの投手の場合は基本は中四日という過酷な環境であることもあって「本当に大人の体力と精神力」を養ってから行かないと潰れてしまうという考え方を100年の経験から持っているからです。
(3)では、マイナーリーグというのは相当に「しっかりと練習」するシステムであるかというと、これが日本的な感覚からは違うのです。集団での練習というのは最小限であり、キャンプにしてもシーズン中にしても、コンディション作りに関しては相当な部分が個人に任されます。極端なことを言えば「こちらから聞きに行かないと」コーチも監督も教えてくれないという部分もあります。逆を言えば「個人のプライドの領域に踏み込んで」監督やコーチが勝手にフォーム矯正とか、練習方法の強制はしないのです。
(4)更に言えば、マイナーのシーズンはメジャーより短くなっています。オフの
「ポストシーズン」に行かない場合は、8月末にもうシーズンが終わってしまい、翌年の2月にキャンプ(スプリング・トレーニング)招集がかかるまでは、完全に個人に任されるということが多いのです。ですから、自分なりに目的意識を持ってこのオフという期間を有効活用することが必要になってきます。
(5)では、下手をするとメジャーに上がるチャンスのないまま、何年も過ごすことになるのかという心配もされるかもしれませんが、近年はインターネットによるスポーツ情報の流通量は大変に大きいので、本当に才能がある選手であれば、スポーツ記者もスカウトも見逃さないと思います。また高額の契約金で入ってきた選手に関しては、必ずある時点が来れば「上で使ってみよう」というチャンスは来ると思いますから、その辺は心配いらないと思います。
(6)以上は一般論ですが、大谷投手の場合は「足の長い素晴らしい体型をしていること」、「その足を生かした良いフォームを身につけていること」ということで、素晴らしい素質を感じるのですが、この長所を更に生かすために、アメリカ式の走り込みを続けるということを強く勧めたいと思います。日本の野球部の「ランニング」は持久走的なものが多く、陸上競技のテクニカルな観点から考えられたトレーニングを採用しているケースは少ないように思います。アメリカの場合は、多くの高校野球の選手が冬場はフットボールの選手であったりしますし、野球選手もフットボール選手もオフシーズンには陸上部に入ってトレーニングをするということがあります。その場合は、1500メートルを6分弱ぐらいの本格的なスピードを持った走り方で、最低でも毎日5000ぐらいは走り込み、サッカーで言う「運動量」と下半身の「お尻から下の」筋力を徹底的につけることを目的としています。このアプローチを取り入れることを強く勧めます。
(7)バーランダー投手が良い例ですが、アメリカの速球派の投手の体型は非常に引き締まっていますが、その一方で下半身にはどっしりとした筋肉がついています。これはこうした高速持久走から来ているのです。そのように土台がしっかりすれば、肘や肩、特に肘への負荷は軽くなる一方で、球速も制球も安定してくるのです。ただ、余りに下半身が強いと腕の筋肉に負荷はかからない一方で、メカニズムとして肘への負荷は一定程度出てきます。そこからアメリカ式の投球数規制という発想が出てくるわけです。この問題は、それぞれの選手の「肘の柔らかさ」が大きなファクターとして関係してきますが、やはり従った方が良いように思います。少なくとも「投げ込みで肩を作り、自信をつける」といった古風な日本式アプローチより理にかなっています。
(8)高速持久走だけでなく、上半身の筋力トレーニングもアメリカの場合は色々なメソッドがあります。特に高額の契約金を獲得して経済的に余裕がある場合は、専門のトレーニング・パートナーと契約してじっくり取り組むなど、多くの選手がそれぞれに工夫をしているようです。
さて、こうした基礎トレーニングとマイナーでの実戦経験を数年重ねて行って、例えば20歳から22歳ぐらいで一軍ローテに定着することができれば、バーランダー投手のように投手としての最盛期をアメリカのメジャーで過ごすことが可能になってきます。日本経由であれば、どんなに頑張っても黒田投手が最高であり、仮に海外FA9年の前に何らかの方法で渡米できても野茂英雄投手の100勝が一つの「天井」になってくると思います。黒田投手のように素晴らしい投球を、そしてバーランダー投手のようにメジャーで200も300も勝てるような活躍をしたい、その夢は大事にしたら良いと思います。
ここから先は、少し違うアドバイスです。私個人としては、今回の2012年のメジャーのポストシーズンを見ていて、黒田投手やバーランダー投手を目標に夢を描くというのでは、まだ十分ではないと考えます。というのは、結果論になりますが、黒田投手のヤンキースも、そのヤンキースを4連勝で下したバーランダー投手のタイガースも、結局は今年のポストシーズンで無惨な敗退をしているからです。
ヤンキースと、タイガースはどうしてその直前までギリギリのところで素晴らしい戦いができたのに、最後は四連敗という惨めな敗退をしたのでしょうか? それはチームの士気、チームのモチベーションを最高レベルに高めることができなかったからです。その点に関しては、黒田投手もバーランダー投手も立派に戦ったのは事実であり、責める必要は全くありません。ですが、今、18歳のプロ入りしようという逸材が「夢として仰ぎ見る」には、今年の黒田博樹、ジャスティン・バーランダーという二人には「欠けているもの」があると言わざるを得ないのです。
それはリーダーシップと言うことです。威張るとか、引っ張るというような単純なものではなく、明らかにチーム全体が信頼し合い、励まし合い、お互いのパフォーマンスを「マキシマム」に持っていくように、最高レベルのコミュニケーションをする、
そうした意味のリーダーシップということでは、黒田投手も、バーランダー投手も90点か100点であったかもしれませんが、120点ではありませんでした。そして、
ヤンキースもタイガースも、実はこのコミュニケーションという点に大きな弱点があり、誰かが120点の力で引っ張っていく必要があったのです。そしてその120点のリーダーシップが欠けていたために敗退した、それも4連敗という無惨な負け方をしたのです。
では、その点でジャイアンツはどうして強かったのでしょうか? それは勿論、ボウチー監督の素晴らしい指揮ということもありますが、何と言っても精神力の強い、絶対に諦めないという姿勢を身をもって示し続けた二人の選手がいたからでした。
実は、今年のサンフランシスコ・ジャイアンツはシーズンの後半に差し掛かって、チームに大激震が走っていたのです。攻撃の主軸であった、メルキー・カブレラ選手が違法薬物使用のために50試合の出場停止になったばかりか、薬物使用を隠蔽するために誤った情報発信をするためのウェブサイトを開設しようとしていたという疑惑まで出てしまい、球界から大きな批判を浴びたのでした。
この大トラブルに際して、弱冠25歳、入団4年目の選手がチーム・リーダーとして傷ついたチームを引っ張っていったのです。その選手とは、バスター・ポージー捕手。結果的に彼はメルキーの穴を埋めてチームをワールドシリーズ制覇に導いたばかりか、リーグMVPの栄誉も手にすることになりました。
では、どうしてポージー選手はそんなリーダーシップを発揮することができたのでしょうか? それは昨年の「事故」が関係してきます。実はサンフランシスコ・ジャイアンツは一昨年の2010年もワールドシリーズを制覇しています。その時もポージー選手は特に9月の大躍進に貢献して新人王に輝いています。球界では10年に一人という捕手の逸材と言われ、大変な評価を得たのでした。ところが、2011年の5月に本塁上の激突事件に巻き込まれて足の複雑骨折をしてしまったのです。そのケガは大変に深刻なもので、専門家からは「ポージーはもう捕手はムリだろう」と言われていたのです。
ですが、ポージー選手は手術の後、壮絶なリハビリをやって正捕手の座を奪い返してきたのです。それどころか、捕球技術、本塁上のブロックとタッチの技術に関してはケガの前とテクニックを更に磨いて堂々としたメジャーの捕手に返り咲いたのでした。今年、エースのマット・ケインが完全試合をやったのも、このポージーが受けながらリーダーシップを発揮したからだと言われていますし、何よりもメルキーのスキャンダルが出た時にチームの結束を呼びかけて、見事に前向きなムードへと変えていったのもポージー選手だったのです。
もう一人の隠れた「リーダー」は、ここ数年のジャイアンツ投手陣の中で「悪者」になっていたバリー・ジト投手でしょう。オークランドにいた若い時代には、サイ・ヤング賞を取ったり栄光の中にいたジト投手ですが、高額契約でジャイアンツに来てからは思うような結果が出せずに「お荷物」扱いをされていたのです。2010年のポストシーズンでは先発のローテからも外される屈辱を味わっています。そのジト投手は、今年、リーグ優勝決定戦では1勝3敗で「後がなくなった」第五戦に先発すると、本当に魂のこもった投球でカージナルス打線を抑え、自分もバントヒットで打点を稼ぐなど「先頭に立って」チームを引っ張ったのです。この試合が一つのターニングポイントになり、以降ワールドシリーズの頂点に立つまでチームは6連勝していったのです。
こうしたリーダーシップの部分、精神力の部分というのは、残念ながら紙一重の部分で黒田投手にも、バーランダー投手にも欠けていました。球界の至宝と言うべき、この二人には失礼かもしれませんが、黒田投手の場合は微妙なコミュニケーションの問題で自分の高いモチベーションをうまく使って攻撃陣に「火をつける」技術がまだ一歩足りないように思いますし、バーランダー投手の場合は「先発完投」にこだわるプライドの高さがどうしてもリリーフ陣のモチベーションになっていないように見受けられます。これに、三冠王のミゲル・カブレラ選手との言語ギャップ、文化ギャップという問題を抱える中で、このスター軍団はどうしても「まとまる」ことができなかったわけです。
大谷投手は、メジャーで「頂点」を極めたいのであれば、そうしたコミュニケーションやリーダーシップの部分まで超一流を目指すべきだし、今の18歳という年齢であれば可能だと思うのです。では、そのために何をすればいいのでしょうか?
(9)マイナーの苦労はアメリカ野球のカルチャーを知る大きなチャンスです。そこでの友情の育み方、リーダーシップの勉強、投手と捕手の関係や選手とコーチや監督との関係の理解、観客やメディアがどんな野球を期待しているのか、審判を味方にする方法、何よりもアメリカの野球という環境で勝ち続けるための基礎理解をするかしないか、そうした点に成功の大きな分かれ目があるのです。何故かというと、こうした点においては「野球とベースボールには大きな違いがある」からです。
(10)そのためには、できるだけ英語漬けになり、できるだけアメリカ社会にどっぷり浸かることが大切です。マイナーのシーズンは8月(プレーオフ進出のない場合)
で終わってしまい、翌年のスプリング・キャンプの招集まで5ヶ月以上「オフ」があります。この期間も、できればアメリカ社会に参加し続け、トレーニングの傍らで、例えばフットボールやホッケー、バスケの観戦をしたり、地域でのボランティアをしたりという活動を通じて、アメリカ社会がどんな価値観で動いているのか、どんな問題を抱えているのか、どんな行動様式なら他人のモチベーションを高めることができるかといったことを学んでいったら良いでしょう。日本への一時帰国はダメとは言いませんが、最小限にするべきです。まして、こうした「勉強期間中」は日本のメディアとの接触などは止めておいた方が良いと思います。
(11)英語は大変に重要ですが、日本の英語の教科書は捨ててきたほうがいいし、文法や英作文などの技術(暗号解読であって語学ではないので)なども忘れたほうがいいでしょう。そうではなくて、相撲部屋の外国人力士がそうであるように、野球を通じて、若者同士の日常生活を通じて「身体で英語を」覚えていくべきです。18歳の頭脳というのは、それを完璧にしかも効率的にできる柔軟性をまだ持っていると思います。更に、現在のメジャーで、チームのリーダーシップを取っていくには、スペイン語もある程度はできた方が良いと思います。中南米出身の選手との友情がどの程度機能しているかという問題は、今年のポストシーズンを見ていて、痛感させられること大であったからです。
(12)それでは、日本人なのに日本人を捨てろということではないか、そう思われるかもしれません。ですが、そうではないのです。他でもない日本人だから、英語でもスペイン語でもない言葉を母国語としているから、今、アメリカ人と中南米出身選手の間で微妙に「遠慮しあったり」「距離を置いたり」ということがあって、強い精神的一体感の持てないメジャーのチームが多い中で、そうしたコミュニケーションの「要」になれるのです。その考え方は、人間関係の「絆」という概念を大切にする日本の文化にも適合します。
黒田投手やバーランダー投手のような素晴らしい能力に加えて、そうしたメジャーにおける精神的なリーダーシップやコミュニケーションでも超一流になる、そうした目標を前提にしたとき、答えは自然と明らかになると思います。そろそろ、最終的な決断を下すタイミングが近づいているようです。その参考になれば幸いです。
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