日本ハム、ロッテ、ダイエーで21年間の選手生活を送り、その後はソフトバンク、阪神、中日で2軍バッテリーコーチなどを21年間(うち1年間は編成担当)務めた日刊スポーツ評論家・田村藤夫氏(61)が28日の巨人-楽天戦(ジャイアンツ球場)を取材した。巨人の山瀬慎之助捕手(19=星稜)、楽天の黒川史陽内野手(19=智弁和歌山)のプレーに、高卒ルーキーの現在地を見た。
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最初は黒川の素晴らしいバッティングに目を奪われていたが、じっくり見ていくうちに山瀬の安易なリードと、逃さなかった黒川の確実性との対比が興味深かった。
初回2死での第1打席。先発山川和大投手(25)の初球140キロのストレートをホームラン。山瀬は外角に構えていたが、ボールは中に入り、黒川が仕留めた。
3回1死満塁の第2打席。カウント0-1からの2球目140キロのストレートを中越えに走者一掃の二塁打。初球は変化球でストライク。2球目は山瀬がインコースに構えボール球を要求した意図に見えたが、コースが甘くなり、黒川が逃さなかった。
山瀬は黒川に二塁打を打たれると、ずっとベンチの方を向いていた。スタンドの私には聞こえなかったが、恐らくベンチから叱責(しっせき)の声が飛んでいたのだろう。3回の第1打席で三振。そこで交代となった。
私には山瀬の気持ちはよくわかる。同じ捕手として、第2打席での配球を選択した意図には一定の理解はできる。だからこそ、ここは強く山瀬に言いたい。初回に打たれたストレートを狙われていると感じたから第2打席は変化球から入った。2球目は、おそらく黒川の体を起こすために内角へボールになるストレートを要求したのだろう。しかし、この日の山川は制球が安定していない。そもそも球威もある方ではないし、この日の内容からすれば、甘く入れば黒川に打たれる確率はかなり高かった。
安易にインコースにストレートでボールを要求したのは軽率だった。捕手は常に投手の能力を頭に入れておかなければならない。この日の山川の球威と制球ならば、黒川の足元へスライダーを投げる選択肢もあった。同じ内角を攻めるにも、そこまで頭の中で練ってからストレートを選んだのか。そこがこの日の山瀬にとっての重要なポイントだった。
捕手は相手のバッターよりも先に、味方のピッチャーを理解しないといけない。私もよく言われたことだ。「先にピッチャー、後に相手打者」。そのためにキャンプではブルペンへ足を運ぶ。自分のバッティング時間を削ってでも、1人でも多くのピッチャーのボールを受けないと学べない。
山瀬もどんどん投手と話をして、投手が自分自身のボールをどう評価しているかを聞かなければ。「カウント2-0から自信をもってストライクが取れる変化球は何ですか?」。投手が抱く自信と、実際に受ける捕手の見立てにずれがあるのか、ないのか。受けて、話して、築かなければ、味方のピッチャーを知る作業は完成しない。
一見すると、1軍でも対応力のあるバッティングをする黒川の実力の前に、捕手山瀬は完敗を喫した形に見える。しかし、見方を変えると山瀬がこの試合で得た教訓を今後に生かせば、それは何倍にもなって自分に返ってくる。
私には今も城島が工藤(現ソフトバンク監督)に食らいついて、ピッチングについて、配球について、学ぼうとしている姿が目に浮かぶ。聞いた話ではあるが、城島のサインに対して、当時の工藤は違うなと感じた球種でも首を振らず、その球種を投げたという。ただし、ボール球にしていたそうだ。その意図を城島は知ろうと、工藤に食らいついていた。
投手を知ろうとする。昔も今も、それが捕手の大切な役割であることに変わりはない。同じ高卒ルーキー同士で、黒川に打たれたこの日の配球を、山瀬は脳裏に刻み、味方投手の特長を掌握してサインが出せる捕手に成長してほしい。(日刊スポーツ評論家)