江本孟紀氏がお立ち台で泣く選手に苦言

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 どん底のチーム状況にも関わらず、読売巨人軍の選手が代わる代わる嬉しくて泣いている。6月14日にFA移籍後初勝利をあげた山口俊(29)、6月18日に逆転サヨナラ3ランを放った亀井善行(34)、6月25日はサヨナラタイムリーの石川慎吾(24)と、お立ち台に立つ選手が嬉し涙を流している。本当にこれでいいのか。辛口評論で知られる江本孟紀氏には「インタビューで泣いた選手は消える」という持論があるそうだ。


「王(貞治)さん、長嶋(茂雄)さん、金田(正一)さんが現役時代に人前で泣いたなんて聞いたことがないですからね。大選手、名選手は泣かない。


 お涙頂戴は本人が自分に酔っているだけ。山口にしても、ノーヒットノーランなら9回までいけばいい。4回くらいから肩で息をしているから代えられるんです。マスコミも評価のハードルが低くて、美談仕立てで取り上げるから選手がそれに気がつけない」


 確かに、6月23日付の日刊スポーツは〈泣き虫ジャイアンツの反攻〉の見出しで、山口や亀井の男泣きを紹介しながら、〈1勝に懸ける本気の涙を数多く流した先には、最高の笑顔が待っている〉と涙もろい選手たちをことさらに持ち上げていた。


 現役時代は巨人で名遊撃手として活躍し、指揮官となってからはヤクルト、西武を3度日本一に導いた広岡達朗氏も苦言を呈す。


「批判すべきはきちんと批判し、どうすれば球団や選手が良くなるかを報じるのが本来のメディアの役割じゃないですか。選手のほうだって昔は、アナウンサーからつまらない質問をされたら、答えなかった。巨人の選手は取材者から“生意気だ”と思われるくらいでないといけなかった。昔はそれくらいの緊張感が常にありました」


 どう報じられるかわからないという緊張感があれば、簡単に涙など流せないはずだという指摘でもある。


 一昨年は大不振に陥った村田修一(36)が同年7月10日の阪神戦で71日ぶりにホームランを放ち、お立ち台で球場へ息子が観戦に来ていたことに聞き手に振られて涙ぐむなど、歓喜にむせぶ“ハードル”が年々低くなっているように見える。


「今の野球を見ていると、バントに成功しただけでベンチでハイタッチしとる。高い給料もらっておいて、イチイチ喜ぶようなことじゃないだろ!」


 そう憤るのは400勝投手・金田正一氏である。


「男はそんなに簡単に涙をこぼすものじゃない。勝負師たる男の涙というものもあるが、それは安っぽいものではいいはずがない。打てない打者がたまに打ったり、勝てない投手がたまに勝つから感情が表に出てしまう。勝つたびに泣くというんだったら、ワシは400回も涙を流さなきゃいけなかったことになるじゃないか!


 まぁ、涙もろくなるというのはそれだけ歳を取ってしまったということ。そんなに泣いてばかりの連中は、もう引退が近いんじゃないか」


 黄金時代を知るOBの言葉は重い。“涙の安売り”をなくして初めて、チーム再建への道筋が見えてくる。


※週刊ポスト2017年7月14日号