ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です
管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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第十八章 マチルダの災難
一行はとりあえず宿屋を探し、そこで昼食を取った。
「アルカードのビールはうまいが、ワインはたいしたことありませんな」
ジョンが口一杯にパンと肉を詰め込んで言った。
「この鰊と鱈はうまい。さすがに北の海に近いだけある」
オズモンドが答える。
他の客たちは、見慣れない服装のこの一行を珍しげに眺めている。その中から、ひどく派手な赤白模様の服を着た若い男が彼らに近寄ってきて話し掛けた。
「あんたがた、この国の人じゃないね。どこから来なすった」
「アスカルファンだ」
オズモンドが言った。
「そいつは珍しい。アスカルファンの人間がこの国に来たのは十何年ぶりだ。俺が子供のころ、一人来たが、それ以来だな」
「あんた、その人を見たのか」
マルスは勢い込んで言った。
「ああ、まだ若い男だったが、女を捜してわざわざアルカードまでやってきたと評判だった」
父のジルベールだ、とマルスは思った。やはり、ここに来ていたのだ。
「その人はどうなった」
「忘れたな。来た時のことは覚えているが、なんせ俺も子供だったから、その後のことはよく覚えていない。多分、別の町に行ったんじゃないかな」
マルスは少しがっかりしたが、それでもジルベールの足跡が少しでも分かったのは大きな収穫である。
マルスはその若い男を食卓に招いて、食事をおごった。
男は旅芸人のアキレスと言って、アルカードはくまなく歩き回ったが、アスカルファンはまだ行ったことがなく、アスカルファンの話を聞きたがったので、マルスたちはアスカルファンの話をしてやった。
だが、アキレスの関心は実はトリスターナとマチルダにあることが、その視線から感じられ、マルスはだんだん不快になってきた。
一行にまとわりつこうとするアキレスをなんとか追っ払って、マルスたちは寝室に下がった。しかし、マルスたちが眠り込んですぐ、事件は起こった。
深夜、隣室からの悲鳴に目を覚まし、跳ね起きたマルスはマチルダのいる隣室へ向かったが、ドアは錠がかかっている。
「僕だ、マルスだ。ドアを開けるんだ」
中から応答はない。しかし、争う物音がする。
マルスは足でドアを蹴破った。
中では床に倒れてもがいているマチルダの上に屈みこむ黒い影があった。
マルスは怒りに我を忘れて、その影に体当たりした。
男はアキレスだった。
マルスは尻餅をついたアキレスに飛び掛って殴りつけた。アキレスは下からマルスの喉を掴んだが、マルスがあと一発殴ると気を失った。
マチルダは立ち上がって二人の格闘を見ていたが、マルスが勝ったのをみて、ほっと安堵の息をついた。
「大丈夫か」
マルスはマチルダに声を掛けた。
「ええ。寝ている時に、窓から入ってきたの。目を覚まして大声をあげたんだけど、マルスが来てくれなかったらどうなっていたか」
オズモンド、ジョン、トリスターナもマチルダの部屋に入ってきて、事情を見て取った。
「こいつ、どうしてやろうか」
オズモンドは顔を真っ赤にして叫んだ。
ちょうどそこに宿の主人も来たので、マルスとマチルダは事情を説明した。
「うちで迷惑は困りますな」
主人はまるでマルスたちが迷惑を掛けたかのような言い方をした。
「とにかく、こいつを放り出してくれ」
「放り出せと言われても、うちのお客さんだからな」
「なら、我々が出て行こう」
オズモンドは腹を立てて言った。
マルスたちは宿屋を出たが、まだ深夜である。
良く晴れた夜空には月が中天にかかっており、明るいが、ひどく寒い。
五人は馬車を引き出して、乗り込んだが、夜が明けないと町の城門は開かない。
「しょうがない。今日はこの荷台で寝よう」
「せっかく町に入ったのに荷台で寝るとは……」
マルスの言葉に、ジョンが情けなさそうに言った。
「お月様がきれいだから、ちょうどいいですわ。月でも見ながら眠りましょうよ」
トリスターナが一同の気を引き立てるように言った。
やがて一同は荷台の上でなんとか眠りについたが、マルスはなかなか寝付かれなかった。
先ほどの出来事で気が高ぶっていたのである。
マチルダの上に男がのしかかったあの情景を思い返すと、胸がナイフで切り裂かれたような気分になる。一体、この気持ちは何なのだろう。もちろん、マチルダは無事だったのだが、それでも今でも胸に残るこの動悸と不快感が、マルスを苦しめた。
マルスは自分の心の中の声に耳を傾けてみた。
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