ドイツに勝った日本がコスタリカに負けた。試合後に選手が残した言葉から敗因を紐解くと…(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
FIFAワールドカップ・カタール大会のグループE第2戦が27日、ドーハ郊外のアフメド・ビン=アリー・スタジアムで行われ、日本代表が0-1でコスタリカ代表に痛恨の黒星を喫した。強豪ドイツ代表を相手に大番狂わせを起こした初戦から先発を5人変えた日本だったが、実質的な5バックで守備を固めるコスタリカを崩せないまま、前半途中から3バックへスイッチ。後半は攻勢に出るもゴールは遠く、逆にミスから36分に決勝点を奪われた。1勝1敗となった日本は、12月1日(日本時間同2日未明)の最終戦でドイツ代表と1-1で引き分け、勝ち点4で首位に立つスペイン代表と対戦する。
「あれだけコンパクト、アグレッシブに守られるとどの国だって苦戦する」
失点したシーンの映像をロッカールームで何度も確認してから、キャプテンのDF吉田麻也(34、シャルケ04)は試合後の取材エリアに姿を現した。 「映像を見ました。(ボールを)つなげると思いましたし、実際にスペースもありましたけど(パスが)高すぎた。時間的にも前(へのクリア)でもよかったのかなと思っています」 吉田が痛恨の判断ミスを犯したのは、ともに無得点で迎えた後半36分だった。 コスタリカのロングボールをDF伊藤洋輝(23、シュツットガルト)がヘディングでカット。目の前に転がってきたこぼれ球を、吉田が前方へ右足で軽く蹴り上げた。 浮き球のパスのターゲットは、5mほど前にいたボランチの守田英正(27、スポルティング)。吉田はパスをつなげると判断したが、落下地点がややずれてしまう。体勢を崩しながらボールを追う守田を見て、コスタリカの選手が猛然とポジションを上げてきた。 迫ってくる相手の姿が視界に入った守田は、プレーの優先順位を変えた。 「僕がセカンドボールを拾えなかったときに、相手よりも早くボールに触ってクリアするような意図だったんですけど。結局、僕が死に体のような形になって入れ替わられてしまったので、あそこは落ち着いて正対するような選択ができたんじゃないかと個人的には思っています」 ボールの落下点へ向かって、守田はスライディングを繰り出しながら前方へのクリアを試みた。実際に相手よりも先にボールへ触った。しかし、直後に相手へ当たったボールは無情にも日本のゴール前方向へ弾んだ。しかも、スライディングした後の守田は反応できない。 ロングボールの標的だったDFケイセル・フレール(28、エレディアーノ)へ、すかさずスルーパスを通される。しかも、ラインを押し上げていなかった伊藤が反応できない。右足のトラップから、間髪入れずにフレールが左足でコントロールショットを一閃。GK権田修一(33、清水エスパルス)が必死に両手で触ったものの、ボールは日本ゴールに吸い込まれてしまった。 結局、コスタリカが放った枠内シュートは唯一の得点となったこの1本だけだった。トータルでも4本だったのに対して、日本は3倍以上の14本を放つもゴールはあまりにも遠かった。フル出場して攻撃をけん引したMF鎌田大地(26、アイントラハト・フランクフルト)が言う。 「僕個人を含めて、チームとしてイージーなミスがすごく多かった。特に僕自身は、あのようなイージーなミスをしてはいけない選手だと思っているので。ただ、あれだけコンパクトに、かつアグレッシブに守られると、僕たちだけじゃなくてどの代表チームも苦戦する。これが国を背負って戦うことだと思いましたし、W杯はどの試合も難しいものだとあらためて感じています」 ドイツとの初戦で世界を驚かせる大金星をあげた日本に対して、コスタリカはスペインに0-7と屈辱的な大敗を喫した。迎えた第2戦。コスタリカはスペイン戦スタート時の[4-4-2]を[3-4-2-1]に、特に日本がボールを持っているときには5バックにして臨んできた。 日本は[4-2-3-1]で変わらず、森保一監督(54)はさらに先発5人を入れ替えた。 左太もも裏を痛めた右サイドバック酒井宏樹(32、浦和レッズ)に代わってDF山根視来(28、川崎フロンターレ)が初出場。守田とMF相馬勇紀(25、名古屋グランパス)、FW上田綺世(24、セルクル・ブルージュ)も初めてW杯のピッチに立ち、途中出場だったドイツ戦で殊勲の同点ゴールを決めたMF堂安律(24、フライブルク)も先発に名を連ねた。
しかし、まずは自陣にリトリートし、守備を固めながらカウンターの機会をうかがうコスタリカを攻めあぐねる。カウンターを恐れて、有効な縦パスも入れられない。最終ラインを中心に、コスタリカが作るブロックの周囲で横パスを回す時間がひたすら続いた。 前半の日本を、鎌田はこんな言葉とともに振り返っている。 「連携というよりも、いい守備がまずできてなかった。なので、自分たちがいつも狙っている、そこからいい攻撃につなげることができなかった、という感じでした。ただ、前半に関しては0-0で折り返すのは別に悪くない、という話をチームのみんなとはしていました」 それでも森保監督は動いた。前半の残り数分になって、ベンチ前のテクニカルエリアから指で「3」を作ったサインを何度も送った。3バックにスイッチし、コスタリカの3バックに対して日本の前線も1トップ2シャドーにして数を合わせ、守備をはめていく指示だった。 具体的には左から長友佑都(36、FC東京)、吉田、板倉滉(25、ボルシアMG)で最終ラインを形成。山根を前にあげて左の相馬とともにウイングバックを形成し、後半開始からは長友に代えて伊藤を投入。最終ラインに高さと、左利き特有のフィード力を加えた。 先発5人の入れ替えを、吉田は「もともと想定していた」と受け止めた。 「勝ち進んでいくためにターンオーバーが必要だと、監督が大会前から何度も言ってきたし、そのために全員が準備を積み重ね、全員がコンセプトをしっかり共有していた。FWもフレッシュな選手を入れるという狙いがあったと思うし、特に難しさは感じませんでした」 しかし、攻撃陣が抱いた感覚はやや異なっていた。 「前のメンバーがほとんど変わって、コンビネーションの部分が難しかったのかなと思いました」 ベンチスタートだった伊東純也(29、スタッド・ランス)は、鎌田を除いた顔ぶれが一変した前線の4人から違和感を覚えていたと試合後に語った。さらに堂安は、結果として引き分けでもOK、というゲームプランとは真逆の思いがどうしても脳裏をかすめたと明かす。 「みんなのなかで『この相手からは勝ち点3を取らなきゃ』という思いが少しよぎったのか、ボールを持っていてもいい場面で簡単に相手へわたすとか、ロングボールを蹴ってしまうとか。焦ってはいけないとわかっていたのに、結果だけを見ると相手の罠にはまってしまった印象がある」 ジョーカーのMF三笘薫(25、ブライトン)が投入された、後半17分以降も流れを変えられなかった。例えば43分。左サイドをえぐった三笘が、ゴールライン際からマイナス方向へパス。鎌田が放ったシュートは守護神ケイロル・ナバス(35、パリ・サンジェルマン)に防がれ、FW浅野拓磨(28、ボーフム)が狙ったこぼれ球もナバスにキャッチされた。
堂安は「自分はあの時間帯ではピッチに立っていなかったので」と断りを入れながらも、違いを作れる三笘を使った攻め方や、攻める回数そのものも一考すべきだったと訴えた。 「薫君(三笘)がサイドを突破したときに、僕だったらあそこに入っていった、という場面もあったので。最後の10分ぐらいから薫君のところが空きだしたけど、それでもパスを出せなかったのは薫君が警戒されていたからかもしれない。みんなと話さないとわからない部分はありますけど、ベンチからも『薫君にパスを出してほしい』とは伝えていたので」 長く課題とされ、今年に入ってからは担当コーチを入閣させて改善を図ってきたセットプレーからも、まったくといっていいほど得点の匂いが漂ってこなかった。 前後半で5本を蹴ったCKだけではない。後半18分、27分と相手ゴールまで至近距離で直接FKを獲得した。しかし、相馬が蹴った前者はゴールバーの上を通過し、鎌田が担った後者はカベを直撃した。CKのキッカーも3度担った相馬は試合後、自らを責めた。 「CKは味方に合わせられなかった。そこはキッカーとして責任を感じていますし、FKは距離がけっこう近かったこともあって落としきれなかった。これも自分の力量不足です」 日本時間の28日午前4時に始まったスペイン対ドイツは1-1で引き分けた。この結果、勝ち点4で首位のスペインを同3の日本とコスタリカが、同1のドイツが追う形となった。 4チームすべてがグループステージ突破の可能性を残す。しかし、混戦にしてしまったのは日本という事実を受け止めながら、堂安は「口で語るよりも結果で示すしかない」とこう続けた。 「1戦目を見てファンになってくれた人も大勢いると思うし、今日のこの試合を見て少しがっかりした方ももしかしたらいると思う。その人たちを3戦目でもう1回虜にして次へ進みたい」 第3戦のキックオフは、ともに12月1日22時(日本時間同2日午前4時)。日本が勝てば無条件で2大会連続4度目の決勝トーナメント進出が決まるが、負ければグループステージで敗退する可能性もあるスペインも決して手を緩めてこないだろう。 スペインと引き分けた場合には、ドイツ対コスタリカの結果に委ねられる。具体的には引き分けた場合は日本が得失点差でコスタリカを上回ってスペインに次いで2位に入り、ドイツが2点差以上で勝つか、あるいはコスタリカが勝った場合には日本の敗退が決まる。ドイツが1点差で勝った場合は勝ち点と得失点差で並ぶため、総得点、直接対決の結果の順で最終的な順位が決まる。 言うまでもなく、スペインに敗れれば日本の敗退が自動的に決まる。疲れ切った体に新たなエネルギーを与え、何よりもメンタルをいま一度奮い立たせて、日本は運命のスペイン戦へ臨む。 (文責・藤江直人/スポーツライター)