ついにこの日がきた。一生見られないだろうと覚悟していたファンもいたかもしれない、その日が。
10月27日のロッテ対楽天戦で、2位ロッテが楽天に敗れた瞬間、オリックスの、悲願のパ・リーグ優勝が決定した。
「がんばろうKOBE」を合言葉にリーグ連覇を果たした1996年以来、実に25年ぶりの優勝である。
25年前の優勝メンバーだった田口壮外野守備・走塁コーチに、当時のチームと今年のチームの共通点を尋ねると、こう答えた。
「似てはいないけど、中嶋監督がいるというのは同じですね。あの時はキャッチャーでしたけど」
当時は仰木彬監督というカリスマ的な存在がチームを率いていたが、捕手だった中嶋聡はグラウンド上の指揮官のような存在だったと田口コーチは言う。
「当時から中嶋監督は、本当にいろんなことを考えて、よく見ていました」
とにかく我慢強く、ぶれない
1996年を最後に、オリックスは優勝から遠ざかった。優勝どころか、2000年以降はAクラス入りが2回だけ。2014年の2位を最後にBクラスが続き、過去2年は最下位だった。
負け慣れたチームを、中嶋監督が変えた。
とにかく我慢強く、ぶれない。
これと見込んだ選手を、打てなくても、ミスをしても使い続け、未完の大砲だった30歳の杉本裕太郎やサードの守備が光る25歳・宗佑磨、高卒2年目の大型ショート・紅林弘太郎といった選手たちを開花させた。首位打者の吉田正尚が怪我により離脱したシーズン終盤の優勝争いの中で、成長を遂げた彼らが幾度もチームを救った。
とはいえ彼らは最初から唯一無二だったわけではない。紅林は、ショートの安達了一が出遅れて開幕に間に合わなかったため、白羽の矢が立った。中嶋監督はこう明かす。
「最初、若い選手で行くしかない状況だったんですよね。あの時は太田(椋)がセカンドでしたし、佐野(如一)もいた。そういう(若手の)中で、たぶん一番にへばるのは紅林だろうと思っていたんです。たぶんすぐへばるだろうから、安達が来た時に、安達との併用になるだろう、というのが最初の想定でした。
だけど、やっているうちに、『こいつはへばることがないのかな』と思い始めて、『どこまでやれるだろう?』と思いながらやっていると、『あれ? こいつは行けるのかな』と。そうなった時に安達と話し合い、安達をセカンドにコンバートして、紅林で行こうと思いました」
そう覚悟を決めてからは、「しんどくても、何が何でも試合に出すからな」と荒削りだった19歳の紅林をショートで起用し続けた。
その紅林は10月25日のレギュラーシーズン最終戦で、好守備で先発の山本由伸を助け、楽天・田中将大の球に食らいついて値千金の2打点を挙げる活躍を見せ、優勝を引き寄せた。
ラオウ「心の余裕が全然違います」
中嶋監督は、どの選手に対しても、一度の失敗では外さない。必ず再度チャンスを与える。
「なんとか取り返そうとする姿を見せてくれたら、僕は、我慢はできますね」
後半戦、リリーフで安定した投球を見せたK-鈴木は、「選手からしたら『やってやろう!』となりますね」と言う。
杉本も、以前は「打てなかったら落とされる」という焦りから、ボール球にまで手を出してしまっていたが、今年はどっしりと構えて球を見極められるようになった。
「今は心の余裕が全然違います」
頼れる4番となり、本塁打は現時点でトップの32本、打率も3割に達した。
以前は勝負どころで縮こまっているように見えた選手たちが、今年はミスを恐れず伸び伸びと、アグレッシブにプレーするようになった。
田口コーチは言う。
田口コーチは言う。
「監督はすごく寛大です。我慢強い。やらせてみて、失敗したら次考える、という感じ。だから選手はやりやすいと思います。基本的には失敗するものだから、ということを前提に考えていて、じゃあそこからどうするんだ、というところを大事にされている。
それに、めちゃめちゃ細かいところまで見ているので、そこは本当にすごいなと思っています。あっちも見えてる、こっちも見えてる、ああそんなところまで、と思うぐらい(笑)。僕らは基本的に担当のところを見ていますが、監督は、内野の細かいところも、キャッチャーの細かいところも、ピッチャーに関しても、全部見ています。仕草一つ、言葉一つでもそう。『あの子はあそこであんなこと言ってるな、こんなこと考えてるのかな』と察しているようです」
ベンチでは中嶋監督の近くにいて、耳をそばだてているという辻竜太郎打撃コーチは、
「話を聞いていて、目玉が飛び出そうになることもあります」と笑う。
「ひらめきというか、采配が当たることが非常に多いです。その日の選手のバッティング練習の様子やコンディションをものすごくよく見ていますし、何日前どうだったとか、前々回の対戦ではどうだったかとか、記憶力がものすごくてびっくりします。やっぱりキャッチャーをやっていたからかなと思いますし、そこまで考えているんだな、自分はまだまだ勉強しないといけないなと思わされます」
選手ファーストの練習や采配
中嶋監督は選手たちの様子を観察し、疲労がたまっていると感じれば、試合前の練習を短くしたり、自由参加にすることもあった。
福田周平は、「中嶋さんはコンディショニングをすごく大事にされているな、ということが選手にも伝わるので、自分でもコンディションはしっかり整えないといけないなと、自ずと考えますね」と言う。
投手陣には3連投をさせないということも貫いた。抑えの平野佳寿は、2連投した翌日の試合ではベンチからも外すという徹底ぶりだった。
また、コーチ陣の発案で試合前のシートノックも基本的にやらなくなった。シーズン序盤は負けが込み、下位に沈んでいたため、「どうすれば選手が最高の状態で試合に入っていきやすいか」を重視し、試してみたという。
シートノックがあると試合前の準備が慌ただしく、余裕がなくなっていたため、選手たちは歓迎した。
「その日の相手投手との過去の対戦映像をじっくり見たり、リラックスしたり、頭を整理する時間が増えたことはめちゃくちゃ大きいです」と宗は言う。
安達も「考える時間ができるし、個人で思うように体を動かせるので、試合に入っていきやすい」と効果を語る。
選手ファーストで考えて、やれることをすべてやったら、選手たちが持てる力を発揮した。そういうシンプルなことだったのかもしれない。
本拠地でのレギュラーシーズン最終戦だった10月21日の西武戦に勝利した後、ライトスタンドへ挨拶に向かった選手、スタッフに、「優勝してやー!」という、悲痛にも聞こえる叫びが届いた。
27日の優勝決定後の記者会見で、中嶋監督は、四半世紀ぶりの優勝についてこう語った。
「25年間優勝できていないと、そのことをクローズアップされていたので、なんとかしてやりたいと思っていたし、今いる選手たちに、なんとか優勝という経験を積んでほしいと思っていました。新たにみんながこれから歴史を作ってくれたらなと思います」
ファンへの報告を求められると、少し照れくさそうに言った。
「本当にお待たせしました、おめでとうございます」
今のオリックスは、18勝5敗で投手5冠を確実にしているエース山本由伸(23)、13勝を挙げた新人王候補の左腕・宮城大弥(20)や紅林(19)といった、前回優勝時にはまだ生まれていなかった選手も多い、若く伸びしろの大きいチームだ。
シーズンを通して進化し続けてきたオリックスの戦いは、CS、そして25年ぶりの日本一へ、まだまだ続いていく。