特に、秋山の打法の変化を書いた部分は面白い。
これは、前田健太が投法の極意を掴んだ話と共通している。つまり、「投げる瞬間だけ力を入れる」というあれだ。秋山は、バットを寝かせて構えることで、力を入れずにインパクトまでバットを運び、インパクトの瞬間だけ力が入るようになったのだろう。
現在、イチローが打撃に苦しんでいるが、この秋山流打撃(トスバッティング流打撃)で、案外復活できるのではないか。まだまだ引退するほど力は落ちていないと思うのだが。
(以下引用)
前人未到の世界へ 過去3割到達なしの秋山翔吾が、200本安打を積み上げられた理由
ベースボールチャンネル 9月14日(月)11時0分配信
ライオンズファンが待ち望んだ一打は、メモリアルを飾るにふさわしいような当たりではなかった。だが、今季200本目の安打は、秋山翔吾の進化をある意味で象徴するような当たりだった。
9月13日に行われたロッテ戦は1対1で5回裏を迎えると、2死1塁で秋山に打席が回ってきた。相手先発の涌井秀章が牽制ミスで走者を2塁に進め、2ボール、2ストライクから投じた5球目。142kmのシュートが外角低めのボールゾーンに逃げていくと、秋山は「追い込まれてしまったので、何とかバットに当たれと思って食らいついた」。
逆方向に飛んだ当たりは三塁手のグラブを弾き、レフト前に転がる。記念すべき今季200本目のヒットは、チームに一時勝ち越し点をもたらせるタイムリーとなった。
フェンスを豪快に越える本塁打、外野の間を切り裂く二塁打、きれいにセンター前に弾き返す安打など、数々のヒットを積み重ねてきた今季だが、内野安打で200本目を飾ったことをどう思うか。試合後の会見で聞かれると、秋山はこう答えている。
「『どんな形でもヒットはヒット』と今年はずっと思っていました。当たりが良かろうが、悪かろうが、それは野球の中にあることなので。そういうヒットがたまたま200本目だっただけ、ということだと思います」
秋山は大卒1年目の開幕戦からスタメンで出場し、首脳陣から大きな期待を寄せられてきた。昨季まで1度も打率3割を記録したことがなかった大器は入団5年目の今季、球界で誰より多いヒットを積み重ねている。
「バットを寝かせただけなのに、なんで急にヒットを打てるようになったのか」
今季序盤、放送局関係者とそんな話になったことがある。秋山の打撃における昨季までと今季の目に見えた変化は、立てて構えていたバットを寝かせるようになったくらいだ。
バットを寝かせて構える理由について、秋山はこう話している。
「力を抜けるようにするためです。それで強い打球を打てるように、ヘッドを走らせるように練習してきました。ヘッドを走らせようと思うと力みます。トスバッティングとまではいかないけど、感覚はそれに近いですね。野球を長くやっていると、嫌でもインパクトに力が入ります。だからポイントまで、軽く運べるか。当たってからの勝負は本能に任せて、ボールをとらえるまでのポイントは軽く、柔らかくです」
今季の秋山はボールに対して最短距離で打ちに行き、オープン戦からヒットを量産してきた。開幕してからも好調は続き、打てば打つほど「200安打ペース」と周囲の注目は高まっていく。とりわけ6月3日の中日戦から7月14日の楽天戦まで31試合連続安打を放った間は、報道陣が目に見えて加熱していった。
入団1年目からマスコミ対応が極めて良い秋山だが、距離を置きたがるような様子を感じた。そこで6月28日の日本ハム戦の前、あえて報道陣について聞いてみた。
「何本ペースとか、成し遂げたものではなく、未来予想図ですよね。自分では、『このまま行くはずがない』と思っています。成績が出ているのはありがたいですけど、まだプレッシャーを感じるまでではありません」
秋山が驚異的なペースで打ち続けていたのは、疑いようのない事実だ。5月から、イチロー(マーリンズ)以来となる2カ月連続での月間40本安打をマークしている。
だが、秋山は謙虚な姿勢を崩さなかった。
「自信になることはあまりないですね。いままで3割打ってきたバッターであれば、今年はすごくいいということになると思います。でも打ち方を変えて、突然変異的なところがあるので。これを今シーズン後半、来年も続けていけるのか。今年このままいけたとしてそれを振り返ったとしても、1年やっただけですから。変な自信を深めないように。ホームランを打っても、たまたまです」
自他ともに認めるほどマジメな性格が、良くも悪くも秋山の持ち味だ。マジメに考えすぎるあまり、ドツボにはまることも少なくなかった。秋山はそう自覚しながら、なかなか直せないのがこれまでの4年間だった。
だからこそ今季、あえて考え方を変えるようにしている。マジメに考え抜いた結果、新たな視点にたどり着いた。
「『いい当たりだけがヒットじゃない』というところが、今年は一番大きいメンタルの持ち方です。去年はシーズン序盤の数字が悪かったので、どんな形でもヒットがいいと思っていました。逆に、たまにきれいに打ててもヒットにならないときがあったので、それが次の打席だったり、次の日であったり、どうしても『もったいないな』という思いがすごく強かった」
どうすれば、打率3割を残すことができるか。そう考え抜いた結果、秋山は気持ちの持ち方を変えることにしたのだ。
「次の日は次の日、次の対戦ピッチャーだし、次の打席は違うピッチャーが出てくるかもしれないし、同じピッチャーになるかもしれないと、前向きな考え方が少し持てるようになりました。トータルで言えば、引きずらないで次の打席、ということで。反省は終わってからしっかりちゃんとしますけど、試合中の準備の段階ではマイナスにならないように、という考えでやっているつもりです、今年は」
そうした気持ちで打席に立ち続けた結果、内野安打という形で200本目のヒットに結実したのだった。
会見中、時折安堵の表情を見せた秋山は、ある質問に表情を硬くしている。日本記録となるシーズン214安打について振られたときだ。
「200まではすごく注目していただいたと思います。日本記録には少しまだ本数があるので、メディアの方々には優しく見守っていただきたい。もう少し実感の湧くような数字になってきたら、笑顔でいろいろできるかなと思いますけど、ちょっとだけ時間をいただきたいと思います」
打てば打つほど周囲が加熱し、それが秋山のプレッシャーになってきた。だが、ことごとく乗り越え、200本のヒットを重ねてきたのが今季の姿だ。
カウントダウンとともにヒットアップする周囲のなかで、最終的に何本のヒットを放つのか。
区切りの一打を達成した直後、7回にはライト前に今季201安打目を運んでいる。
「そっちのほうがホッとしたというか。区切りで終わってしまうのもよくあることなので。次の1本が出たほうが、ホッとしているところがあります」
残り12試合で、残り13本。さらにプラスアルファの1本を放てば、マット・マートン(阪神)を超えることになる。
前人未到の日本記録は、十分に現実的な未来だ。
中島大輔
ベースボールチャンネル編集部