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ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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夏休み特別付録として、ハーマン・メルヴィルの「白鯨」のダイジェスト版を、私の別ブログから転載する。この作品はサマセット・モームが選んだ「世界の十大小説」にも入っている名作だが、あまりにも長く、脇道が多いので、まともに最後まで読んだ人は少ないと思う。しかし、実に素晴らしい小説なので、これを読まずに一生を終えるのはもったいない話である。そのダイジェスト版(私が、自分の記憶からダイジェストした。)でも、読まないよりはマシだろう。別ブログでは25回くらいに分けてあるが、それを5回くらいにまとめる。ちょうど8月が終わるまでには全部載せられるだろう。

(以下自己引用)


第1章 海へ

長い人生の中には、どうしようもない憂鬱に捉えられる時期がある。たいていの人はそういう時、そんな憂鬱を黙って飲み込んだり、あるいはいっそ自分の頭をピストルで撃ち抜いたりするものだが、私はそんな時、海に行く。
私の名前はイシュマエル。仕事は、今のところは自由人、つまり浮浪者だ。学校を出てから、小学校の教師をはじめ、さまざまな仕事を転々としてきたが、中でも大西洋を航海する汽船の乗組員を何回かやり、その仕事は気に入っていた。私は海が好きなのだ。
定期的に訪れる憂鬱症の発作から逃れるため、私はまたしても海に向かった。しかし、今度は商船ではなく、捕鯨船に乗り込もうと思ってのことだった。この気軽な思いつきが、後に私を死ぬほどの目に遭わせることになるなどとは、その時は思いもしなかったのだが。



第2章 漁村の宿

私がナンタケットに着いたのは夜だった。捕鯨船の集まる一大基地であるナンタケットは、見たところ、只のうら寂しい漁村で、潮の匂いのする大通りには、数軒の宿屋以外には明かりの漏れている家はほとんどなかった。
私は一軒の宿屋に入って、夕食と一晩の宿泊を乞うた。主人はずるそうな顔で、「同宿で良ければ部屋はある」と言った。暖かいベッドに寝られさえすれば、私に文句はない。
ハマグリと、得体の知れぬ魚の切り身の入ったスープで腹をふくらまし、私は満足した気持ちで先にベッドに入った。同宿者が帰ってくるのを待って、寝ずにいるわけにもいかないからだ。
私がベッドに入ってしばらくして、階段を上る足音がし、部屋のドアが開いて、暗い室内に外の明かりが入ってきた。


第3章 クィークェグ

入ってきた男は、ベッドの中の私に気づかない様子で、何やらゴソゴソしている。私は、布団からそっと首を出して、男の様子を窺った。
神様! 助けてください!
私は心の中で叫んだ。
男は明らかに蛮人だった。剃り上げた頭の後方に、紐で結んだ長い辮髪が下がり、顔中まるでつぎはぎ細工のような入れ墨をしているではないか。
その野蛮人は、得体の知れない小さな木彫りの神像を暖炉の上に置いて、それに祈りを捧げている。その醜いちっぽけな神像の側に置いてあるのは、何と、人間の干し首である。
私はベッドの中でがたがた震えながら、この窮地からどのようにして抜け出したものかと必死に考えていた。だが、時遅く、その蛮人は、私のベッドに飛び込んできた。


第4章 救出

「助けてくれえ!」
私の悲鳴に驚いたのは、蛮人の方である。そいつは、ベッドの側に立てかけてあった捕鯨用の銛を掴むと、それを私に突きつけ、怒鳴った。
「お前、何者だ。うぬ、ここで何してる。言わぬと殺す!」
相手の凄い形相に、私は真っ青になって震えているばかりだったが、幸い、私の悲鳴を聞いて部屋に飛び込んできた主人が彼をなだめてくれた。
「これ、クィークェグ、やめなされ。こいつはお前のルームメイトじゃよ。お前、この人と同じベッドに寝る。分かったか?」
蛮人は事情を理解したのか、案外素直に頷いて、手真似でベッドの半分を私に明け渡し、自分はベッドの隅に身を寄せて目を閉じた。
私は、野蛮人と同じベッドで寝るのはいやだ、と主人に猛然と抗議をしたが、主人は笑って取り合わない。私は諦めて、クィークェグと呼ばれた褐色の男になるべく近づかないように、ベッドの隅に寄って寝ようと努めたのである。


第5章 友愛

翌朝、目覚めた時、私は何だか不思議な感覚に襲われた。誰かに保護されている、という感覚である。それが何のためか、一瞬分からなかったが、布団から顔を出して、それが、私を抱きかかえるように寝ているクィークェグの腕のせいだとわかり、私は照れくさい気分になった。
「おい、クィークェグ、よしてくれよ。新婚夫婦じゃあるまいし、男がこんな風に男を抱きかかえて寝るなんて、おかしいよ」
私はぼやいて、クィークェグの腕をどかそうとしたが、彼を起こさずにその作業をするのは難しそうで、やがて私はあきらめて、窓から射す朝日を眺めつつ物思いに耽った。
いったい、昨夜の私の狂態は何だったのか。彼が自分と違う風体をし、奇妙な儀式を行っているというだけで、彼を野蛮人と決めつけて一人で大騒ぎしたことを考えると、私は恥ずかしかった。それに比べて、クィークェグの振る舞いは、紳士的と言っていいくらい立派なものであった。突然、ベッドの中に現れた人間に死ぬほど驚いたのは当然だが、それに文句も言わず、ベッドの半分を明け渡したではないか。人間の気品という奴は、こうした振る舞いに現れるもので、文明人だとか、白人という連中が、違う肌の色をした人間より決して優れているわけではないのである。
そんな事を考えているうちに、クィークエグは目を覚まし、私を不思議そうに見た。「俺のベッドで寝ているこいつは一体何者じゃ」とでも考えていたのだろう。やがて昨夜のことを思い出したらしく、その目に親愛とまではいかないが、こちらを許容するような光が浮かび、同時に軽い羞恥心のような表情を見せた。
彼は、私に、先に身支度するように手真似で言い、私の後で朝の支度をした。
一緒に朝食をする頃には、私とこの「野蛮人」は、すっかり親しく打ち解けていたのであった。



第6章 クィークェグの身の上

朝食の席で私がクィークェグからぽつぽつ聞き出したところでは、彼は太平洋の赤道に近いある島の酋長の息子であったらしい。つまり、蛮人のプリンスだ。彼はある日、海を越えてやってきた捕鯨船を見て、世界を自分の目で見てみたいという冒険心に取り憑かれ、その捕鯨船にこっそりと乗り込んで、以来十何年も鯨取りをしているとのことである。
彼が、その事を後悔しているかどうか、私は聞かなかった。おそらく後悔はしていないだろう。世間的な見方からすれば、王位を捨てて一介の船乗りになり、上級船員に顎でこき使われているなんていうのは、実に愚かな生き方ということになるのだろうが、しかし、この世に奴隷でない人間などいない。王といえど、境遇の奴隷にすぎない。少なくとも、クィークェグは、島の王様でいたら一生目にすることのない様々な不思議を見てきたのである。この世に生まれた目的のひとつが、物見をすることならば、一生を王宮の中で何不自由なく暮らすよりも彼は有意義に生きたのだと言えるのではないか?



第7章 ピークォド号

ナンタケットの港には、まもなく遠洋漁業に出かける捕鯨船が何隻か停泊していた。捕鯨は、およそ二年から三年もかかる仕事である。その目的は、鯨油を取ることだ。船一杯の空き樽に鯨油が詰め込まれるまでは、帰ることはない。従って、家族のいる者は、家族の顔を見ない期間の方がずっと長いわけである。こんな因果な商売を彼らが好んでやっているとも思われないが、中にはこの仕事が好きでたまらない人間もいるのだろう。
私とクィークェグは、港に停泊している船の一つに上がってみた。その船の名はピークォド号である。この時、他の船を選んでいれば良かったと、つくづく思う。
ピークォド号の甲板には、船主らしい老人がいて、船に乗せる荷物を一々帳簿につけていた。
私は、老人に「船に乗りたいのだが」と言った。
「捕鯨船に乗った経験は?」
「捕鯨船はありませんが、大西洋航路の商船には何度か乗ってます」
「商船か!」
老人は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「あまり役に立つとは思えんが、乗りたいというならいいじゃろう。ただし、給料は七百七十七番配当じゃ」
数が多いからいい配当だとは限らない。これは、船の航海の利益の七百七十七分の一の配当ということである。まさしく、雀の涙というものだろう。もちろん、船の航海のための資金を出している株主全員への配当を考慮すれば、只の船乗りにそう多くの配当は出せないのは知っているが、これではあんまりだ。
交渉の末、三百番配当という数字で話がまとまり、次はクィークェグの番である。こちらは話が早かった。
「お前、鯨を捕ったことはあるか?」
老人の言葉に、クィークェグは手にした銛を見せ、舷側に吊られた小舟に飛び乗って言った。
「あそこの水の上の小さいタールの滴、見えるか? あれ、鯨の目とする」
クィークェグは、一瞬の動作で銛を投げた。銛は光を放って飛んでいき、海上に光る小さなタールの滴を砕いて海面に没した。
「お前、雇った! 九十番配当じゃ! このナンタケットの銛打ちに、そんな配当を出した船はかつてないぞ!」
老人は叫んで、契約書にクィークェグのサインを求めた。クィークェグは、それにサイン代わりの花押(ただの✖印だが)を書いて、めでたく契約は成立したのであった。



第8章 予言者

私とクィークェグがピークォド号から下りてきた時、どこから現れたのか、乞食のような汚らしい風体の男が私たちに声を掛けた。
「お前たち、あの船に乗るのかい?」
「ピークォド号のことかい? ああ、さっき契約したところだ」
私が答えると、男は首を横に振りながら、
「やめた方がいい。お前ら、エイハブ船長は見たのか?」
と言った。
「いや。なんでも、この前の航海で足を一本無くして、療養しているそうだが、もうすっかり良くなったらしいから、間もなくお目にかかれるだろう」
「無くしたのは足だけじゃないよ」
「他に何を?」
「魂さ。片足と一緒に鯨の腹の中に置いてきたんだ」
私はすっかり馬鹿馬鹿しくなって、クィークェグに、こんな気の狂った奴は放って向こうに行こうと促した。
「おうい、お前ら、船に乗ったら皆の者に、おいらは乗るのはやめたと言っていたと伝えてくんな。この航海は、どうせろくなことにはならんとな」
男の言葉に、私は後ろを振り返った。
「あんたの名前は?」
「イライジャ」
その名前に不吉なものを感じて私は男を見守ったが、男は灰色の空の下を、ふらふらとさまようように去っていったのだった。


第9章 影

二日後、私たちはピークォド号に乗り込んだ。いよいよ出航である。
甲板上は、航海のために運び込まれた荷物でごったがえしている。これから、長ければ三年間にもわたる長旅であるから、食料、燃料のほか、あらゆる家財道具が必要になってくるのだ。
私には、少し気になることがあった。
私とクィークェグの二人は、朝早い時間に宿を出て、このピークォド号まで歩いてきたのだが、十二月の霜の下りた道は霧が深く、下手すると、海岸の端にも気づかず海に落ちそうな具合であった。
私たちは、自分らが一番乗りだろうと思っていたのだが、霧に包まれた港の方を見ると、おぼろな人影のような物が霧の中を動いていく。ずいぶん早い奴らがいるものだと思いながら、私たちは足を速めた。しかし、船に乗り込んでみると、甲板で眠り込んでいる当直の水夫以外には、誰もいなかったのである。
私たちは狐につままれたような気分だった。
しかし、日が高く昇って、出航の喧騒が始まると、そんな奇妙な出来事はすっかり忘れてしまったのである。














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