米国体操協会に所属する医師が何十年も選手たちに「性的虐待」(詳しい内容は書かれていないのでどういうことをされたのかは不明だが)を続けてきた、という記事の一部で、あらゆるスポーツ組織で類似の事件はあるのではないか。日本だと、女子柔道のコーチが部員女子を数人強姦した事件などが割と記憶に新しい。
もともとスポーツは「肉体」を用いた技芸であり、性的な接触が選手と指導者の間に起こりやすい。選手間だと「虐待」にはならないから、オリンピックではコンドームが無料提供され大量消費されたりする。
で、まあ、「虐待」と「合意の上の性交」との間にどの程度の差があるのか、事件の部外者には判断できないから、当事者(被害者)の証言だけが事件の証拠となるのではないか。とすれば、被害者が不快感を持てば虐待に当たる、という非常にあやふやな根拠で事件が判断されることになりそうな気がする。もちろん、下の事件では大量の「被害者」の証言があり、事件性は明白なようなので、ここに書いたのは一般論である。
(以下引用)
ナサールは医師の立場を利用し、診察や治療と偽り、性的虐待を繰り返した。アメリカンフットボールのコーチは、慈善事業の活動で集めた少年たちと練習後にシャワーを浴び、性的虐待をした。ニューヨーク・タイムズ紙のコラム記事は「虐待者は自らを指導者や味方だと名乗り、あなたのスコアを上げることができる、成績を上げることができる、あなたに欠けているものを与えることができると言う。そして、少しずつプライベートな交渉を増やしていく」と彼らの卑劣な手口を表現している。
米国体操協会の元チームドクター、ラリー・ナサール/(C)Getty Images
虐待防止プログラム「SafeSport」があっても見過ごされた事件
米オリピック委員会は2012年から「SafeSport」というプログラムによって、不正行為の防止に努めている。体罰、暴力、性的虐待、いじめなどを防止する目的でつくられたプログラムだ。
(※ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティングコンサルタントの鈴木友也氏が、2013年に「SafeSport」プログラムについて紹介されている)
鈴木友也氏の記事はこちら
このプログラムでは、①告発者を保護すること、②「SafeSport」に報告すること、③法執行機関に通報すること、などが規定されている。しかし、先に述べたように米国体操協会は通報を受けた疑いのうち、いくつかのケースを何年も放置していた。また、医師が診察、治療するにあたっては、私的なスペースで行わないなどの規則があったが、ナサールがこの規則に従っていないのを米国体操協会は黙認していたようだ。
同協会は2015年に選手からナサールの性的虐待をされたと報告を受けて、数週間後にFBIに通報。しかし、その時に初めて虐待を知ったという主張は信じ難いたい。ナサールは2015年夏に同協会からひっそりと解雇されているが、本人は「引退」と主張しており、犯罪を隠し通そうとしていた。
優れた医師であり、人格者という社会的な評価。オリンピックで多くの金メダリストを輩出してきた米国体操協会のブランドとスポンサーからの収入。虐待防止システムに則って選手たちを守るよりも、これらを守り、組織を守ることを優先させた。ペンシルバニア州立大学の性的虐待事件も同じことだ。人気ある競技スポーツは英雄を生み出し、お金を生み出す。スポーツ組織は選手の存在あってこそだが、ブランドやお金の方が大切だったのだろう。