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ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
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その一 魔法使いハンス

 ハンスは魔法の練習(れんしゅう)をしていましたが、うまくつかえません。お師匠(ししょう)、つまり先生のザラストは何も教えてくれないのです。
 落ちてくる木の葉に念力をかけて右に行け、と命令すると左に行くし、左に行け、と命令すると右に行きます。下に行け、というと下に行きますが、これはあたりまえ。
 ハンスは十歳です。
 生まれた国はアスカルファンという長い名前の国です。地理にくわしい人は、今のヨーロッパぜんたいだと思ってください。そこの真ん中のトエルペンという町に生まれたのですが、両親の顔は知りません。生まれてすぐに教会の前にすてられ、それを見つけたお坊さんに十歳までそだてられました。
 十歳になると、鍛冶屋(かじや)さん、いろんな鉄の道具を作る人ですが、その鍛冶屋さんのところではたらかされることになりましたが、ハンスははたらくのが嫌いなので、そこを逃げ出しました。
 逃げ出してもお金がないので、何も買うことはできません。
 道端(みちばた)でおなかをすかせてすわりこんでいると、通りかかった一人の老人がハンスに声をかけました。
「ハンスよ、どうしたのだ」
 ハンスは、この老人がなぜ自分の名前を知っているのだろう、とふしぎに思いましたが、答えました。
「おなかがすいて動けません」
「先のことも考えず、鍛冶屋を飛び出したりするからじゃよ。お前は、その無考えのためにこれからも苦労するぞ」
 どうやら老人は自分にお説教か忠告をしているようですが、今のハンスにはちっともありがたくありません。それより、お金でも食べ物でもめぐんでほしいところです。
「金がほしいか。ならあげよう。ほら」
 老人は、ハンスの考えていることがわかるようです。老人の手から受け取ったお金は一リム、日本のお金なら千円くらいです。
 ハンスは大喜びしました。これまでハンスは五十エキュ、つまり五百円くらいしか手にしたことはないのです。一リムもあれば、三日くらいは生きのびられそうです。でも、その先は?
「ありがとう。でも、おじいさん、なんでぼくの考えていることがわかるの?」
ハンスの言葉に、老人はちょっと間をおいて答えました。
「わしは魔法使いなのじゃよ」
「魔法使い! ならば、ぜひぼくを弟子(でし)にしてください」
 弟子とは生徒のことです。


その二 魔法使いの弟子

ハンスが道端にすわりこんでいる間考えていたのは、こんなことです。
「ああ、この目の前の木の葉がお金に変わったら、それでパンが買えるのになあ。いや、石ころがそのままパンやチーズに変わったらもっといいや。もし、自分が魔法使いだったらこんなところでおなかをすかせてなくてすむのに」
そんなところに本物の魔法使いがあらわれたのですから、これは絶好のチャンスというものでしょう。
ハンスの頼みに、その魔法使いだという老人は考えこみましたが、やがて答えました。
「弟子にしてもいいが、魔法をおぼえるのはかんたんではないぞ。お前のようななまけ者はりっぱな魔法使いにはなれないだろう。今でも、お前は楽をするために魔法を使いたいと思っているだろう」
 それはその通りですが、でも楽をするためでなければ、魔法に何の意味があるのでしょう。そう考えたハンスの心を読み取って、老人は大声で笑いました。
「それもその通りじゃ。お前はなかなか賢い子だ。よし、弟子にしてやろう。ついて来い」
魔法使いは歩きながら、自分の名はドクトル・ザラスト、この国で一番えらい魔法使いだ、と言いました。でも、本人がそう言っているだけかもしれません。
ザラストの住みかは、ふつうの町中にありました。家の中には犬と猿と猫とオウムがいます。
「お前はこれからここで修行(しゅぎょう)をするのだ。はじめに、あそこの木の落ち葉を動かすれんしゅうをしなさい。それから、この動物に心で話しかけるれんしゅうをしなさい。それができたら一番下の魔法使いになったということだ。できるまで毎日それだけやるのだぞ」
 それから毎日、ハンスはその課題(かだい)をれんしゅうしましたが、一月たってもまだできません。でも、ザラストの家にいれば、飢(う)え死にすることはありませんから気楽なものです。
 動物に話しかけるのも、心でよりも、つい言葉に出してしまいます。言葉で言わないと反応(はんのう)がないのだから、つい退屈(たいくつ)して口に出すのです。
「あーあ、退屈だなあ。もっとかんたんに魔法がおぼえられないのかなあ」
すると、猿のジルバが人間の声で言いました。
「ザラストの魔法の本を見ればいい」
ハンスはぎょっとおどろきました。猿が人間の言葉を話すなんて。
「ザラストの魔法の本はどこにあるんだい?」
ハンスが聞いた時、家のドアがあいて、ザラストが帰ってきました。ハンスがジルバと話しているのを聞いていたのか、ザラストは大声で怒りました。
「こら、ジルバ、お前はハンスに何をさせようとした」


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次回から、小学校高学年あたりを一応の対象とした「哲学小説」を掲載する。
つまり、この世界とはどういうものか、という「世界認識」、俗に言えば「世間知」をRPG的に世界を廻ることで考えさせようという話だ。舞台は「軍神マルス」と同じ世界である。同作品の人物も出てくる。つまり、「少年マルス」「軍神マルス」「天国の鍵」で三部作である。
哲学が好きな人なら、大人が読んでもある程度面白いかと思う。

先に言っておけば、世界は善人と悪人で構成されているわけではない、という話だ。
「騙す人」「騙される人」「騙しも騙されもしない人」の3種類である。
「騙される人」がいて、悪事は機能するのだから、騙される人もまた世界を悪化させる要素、害悪の元なのである。「騙しも騙されもしない人」になることやその思考作業を「哲学」という。

世界が善人と悪人の2種類だという認識が、世界の恒常的不幸の根本原因である。
現実世界では善人も時々悪行をするし、悪人も善行をするのであるから、善人・悪人という認識はかえって世界を混乱させるわけだ。悪一方の人間も善一方の人間もいない。すると、世界の秩序を作るには或る種のルールを合意するしかない。それが法律であり、道徳である。前者は拘束力があるが、後者には無い。しかし、世界の秩序を作るのは、むしろ道徳、つまり「自制心」なのである。ある種の人間には法律すら歯止めにはならない。人が自分で自分を制するのが道徳の機能だ。

というような話だが、ここまで面倒なことは小説の中には書いていない。小学生でもわかる話として書いてある。
「薬屋のひとりごと」を「なろう」だとか「なんちゃって中華だ」とか言って批判する向きがあるが、ほとんどすべての異世界ファンタジーは「なろう」的主人公が当たり前であるし、また「なんちゃって異世界」である。つまり、これはたとえば「アニメがアニメ的であるのはけしからん」と言っているのと同じで、「自分が気に食わない作品」はすべてに揚げ足を取るという、汚い根性だ。
もっとも、私はこの作品をさほど高く評価はしていない。話の筋自体、どこかで聞いたような話(たとえば粉塵爆発の話とか)や先が簡単に想像できる話(壬氏はたぶん去勢されていない)が大半だ。ただ、これが特に女性人気が高いのも理解できる。それはひとえに主人公猫猫と壬氏の、くっつきそうでくっつかないラブコメにある。女性は、女性が主役のラブコメが大好きなのは、男が男主役のラブコメが好きなのと同じだ。
なお、私がこの作品の中で一番のファンタジー、つまり、現実性が無いと思うのは、猫猫がそばかすを顔に細工するだけでブスになり、そばかすを取ると美少女になる、というネタである。ソバカスだけでそれほど劇的に変わる顔など見たことがない。それに、東洋人にはソバカスはほとんど無いのである。
ところで、そばかすは、なぜそばかすと言うのだろうか。蕎麦のカスか?

ちなみに、顔の何かが少し変わるだけでいきなり美女や美少女になる、というのは女性が大好きなネタである。自分も、たとえばメガネを外すだけで美少女になれたら、という願望の発露だろう。残念ながら、美女や美少女はメガネをかけていても美女・美少女なのである。むしろ、アイドルなどはメガネをかけたほうが愛嬌が出て魅力的になったりする。

(以下引用)
そばかすができやすい人種は?
日本人をはじめ東洋人にはユーメラニンの方が多く、一方欧米人などの白人にはフェオメラニンの方が多い傾向にあります。 そのため欧米人にはそばかすができやすい人が多いのです。 なお日本人の中にも両親や祖父母からの遺伝によってフェオメラニンが優位である人は存在します。2022/04/28
よく、世間の男性が「女は優しい男が好きだと言うくせに、俺のように優しい男には目もくれないじゃないか。逆に、ヤンキーや不良ややくざを女は好きだろう」と文句を言うが、後者はべつに暴力性を女性が好むのではなく、女性は「強い男」を好むだけである。これは女性の本能と言っていい。女性は男より暴力能力が低いから、「自分を守ってくれる存在」を好むわけだ。
で、世間の男が「自分の優しさ」と考えているのは、実は「自分の弱さ」の言い訳でしかない場合が多いから、女性にそれを見抜かれているのである。
「優しさ」とは「暴力本能が低い」ことであり、当然、暴力能力も低いのが自然である。もちろん、理想は、暴力能力は高いが自制心があり、他者に優しい男だが、そういう男はなかなか外面からは判別できない。そこで、暴力性や威嚇を表に出している「見てわかる強そうな男」を女性は好むことになるのが自然の道理、となる。
さらに言えば、「優しい男が好き」というのは「自分に対して優しい男が好き」ということで、どんな女にも優しい男が好きなわけではない。もっとも、バルザックのある小説の貴族女性が言うように、「女はね、誰も興味を持たない男は好きにならないのよ」というのが真理であり、「一見、誰にでも優しい男」はわりともてることはもてるわけだ。その「優しい感じ」を外面に出せない「気の弱い男」などがもてるのは、まあ、無理だろう。

昔のハリウッド映画の(特に西部劇映画の)ヒーローは、必ず「優しくて強い男」だったのである。その強さは、しかし、映画の中ででもないとふつうは表には出せないのだ。
映画だと、ヒーローの引き立て役として、「優しくて弱い男」や、「粗暴だが、実はさほど強くない男」などのキャラもよく出たものである。
現実世界では、「真の強さ」を表に出す機会はめったに無い。そこで「演技としての強さ」を表に出す下種男の天下になる。


第五十章 時の流れの中で

「マルスと私にとって、この二年間の記憶ほど、楽しく大事なものは無いのよ。それをマルスが自分から忘れたいなんて、そんな、ひどいわ」
マチルダは泣き崩れた。
 トリスターナは青ざめていた。もう、マルスの秘密を自分だけの胸に置いてはおけない。
 トリスターナは、ロレンゾを片隅に引っ張って行き、マルスが知らずに父ジルベールを殺していた事を告げた。
 ロレンゾは大きくうなずいた。
「それじゃな。おそらく、悪魔にその点を突かれて、心を吸い取られてしまったんじゃ。最後の、アロンゾの鍵を知らせる言葉が、記憶のかすかな痕跡だったのじゃろうな。可哀想に」
ロレンゾは涙を拭った。
「国民全体の幸福の代償に、マルスは自分の最も楽しく生き生きとした二年間の記憶を失ったんじゃ。立派な国王じゃ。だが、もはや国王としての仕事はできまい。今のあれは、まったくの子供じゃからの」

 マルスは病気を理由に国王の座を下り、それまで宰相として政治を見ていたオズモンドが国王となった。
 トリスターナはアンドレと結婚してアルカードに行き、ピエールはヤクシーと共にパーリに向かい、パーリをボワロンから独立させる運動に手を貸して成功させた。
 ヴァルミラは、ピエールたちに協力した後、やがてグリセリードに起こった内乱に身を投じ、反乱軍の首領となってグリセリードからロドリーゴの一党を追い出して、シルヴィアナを退位させた。そして、グリセリードの女王の座に就いたが、誰とも結婚せず、一生を処女王として過ごしたのであった。
 こうしてアスカルファン、レント、グリセリードの友好関係は数百年続くことになったのであるが、その立役者であるマルスは、自分がそんな重大な役割を果たした事も知らず、故郷の山でマチルダと共に農牧業を営んで、のんびりと過ごしていた。
 いきなり十八歳になっていた事への戸惑いも、いきなりマチルダのような美しい奥さんが出来ていた事もマルスには夢のような事であったが、中でも、たまに町に出た時に、時々見も知らぬ他人が自分の顔を見て、土下座して拝むことには途方に暮れた。
 マルスには、なぜ人々が自分を「軍神マルス様」と呼ぶのか、さっぱり分からなかったからである。
 マチルダに聞いても、さあ、と笑うばかりである。
 だが、そんな奇妙な出来事はどうであれ、マチルダと四人の子供に恵まれて、平凡だが平和な暮らしをする事にマルスはまったく不満はなかった。
 マルスとの間に出来た子供にマチルダはオズモンド、ヴァルミラ、ピエール、ヤクシーとそれぞれ名づけた。
 何でそんな変な名前にするんだと聞いても、マチルダは笑って答えない。オズモンドやピエールはともかく、ヴァルミラやヤクシーなんて妙な名前ではないか。
 マルスがもう一つ疑問に思った事は、ロレンゾと名乗る爺さんが勝手に自分の家に居候している事である。
「わしはお前らの祖父みたいなもんじゃからな」
とロレンゾは言うし、マチルダもそれを快く受け入れているので、マルスもそれでいいんだろうと思っていたが、一つ気に入らない事があった。
「あの、お前のお祖父さんだがね」
「ロレンゾの事? ロレンゾがどうかして」
「子守りをしてくれるのはいいんだが、子供に妙な話をするんだ。まあ、罪の無いほら話か御伽噺だろうから、気にしなきゃあいいんだろうが、子供の頭に悪い影響を与えるんじゃないかと思ってね」
「どんな話?」
「戦の話や旅の話さ。それに出てくる主人公ときたら、一人で千人もの敵を弓矢で倒すなんて言ってるんだぜ」
「嘘みたいな話ね」
「嘘に決まってるさ。それに、僕は戦の話は嫌いだ。あんなのを聞いて育った子供がどうなるか知りたいもんだよ」
「大丈夫よ。子供だって、御伽噺と思って聞いているわ。ねえ、ヴァルミラちゃん」
「あら、私本当の話だって思ってたわ」

ピエールとオズモンドがオモチャの剣でちゃんばらをしている。
「あっ、お父さんだ。叱られるぞ」
マルスが外に出てきたのを見てオズモンドが言った。マルスは二人に笑顔で手を振って農作業に出かける。
「お父さんはなんでちゃんばらや戦の話が嫌いなのかな」 
オズモンドがロレンゾに聞いた。すっかり年老いてぼけてきたロレンゾは、「うん?」と聞き返す。そして笑って言った。
「お前のお父さんは平和主義者なのじゃよ」
「へいわしゅぎしゃって、弱虫って事?」
ピエールが聞き返す。
「誰よりも強くて優しい人間のことさ」



「軍神マルス」 完



まあ、無学者の与太話だが、みなさんは「I'm sorry」を「ごめんなさい、すみません」の意味だと思っている人が大半なのではないか。
実はこれは謝罪でも何でもないのである。英米人は基本的に謝罪しない。いわゆる「謝ったら負け」というのがその本性である。だからディベート(議論術)が発達する。相手に言論で勝つのがディベートであり、当然、謝ることは自分の間違いを認める行為で、謝ったら負けである。

では、「アイムソーリー」の適切な訳語は何かというと、「遺憾に思う、残念だ」であり、そこには謝罪も無く、自分の非を認めることもない。単に「状況的に、あなたがそういう状況になったのは気の毒だが、私の責任ではない」というだけのことだ。

sorryはおそらくsorrow(悲しむ、嘆く、気の毒に思う)からの派生語であり、そこには「責任問題」は存在しないのである。むしろ、「気の毒だ」という、劣勢にある者を高みから見下ろす姿勢なのである。

まあ、これが英米人の心性であり、だからこそ世界を支配したわけだ。そして英語が世界言語になることで、世界中が英米的思考形態になっていく。つまり、支配と被支配の世界になるわけだ。

ちなみに、下の引用は今見たばかりのtogetterのひとつである。つまり、英米人にはすべては「交渉術」。

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ワイは仕事柄「怒ってる」米国人の相手をたくさんして来た。その経験から言うと、米国人はビジネスの場でも非常によく怒るのだけど無闇に怒っているのではなく、良くも悪くも計算して怒っている。大学に怒り方の講座でもあるんじゃないかと思うくらい、相手をコントロールするために怒る米国人は多い


第四十九章 過去への逃避

ロレンゾはマルスの手の指を見た。ダイモンの指輪はまだその薬指に嵌っていた。
ヤクシーとヴァルミラは、今、巨大な竜と戦っていた。悪魔のもう一つの姿である。だが、二人とも、竜の爪や尾に打たれ、切り裂かれてあちこち血を流している。二人の体力は、もはや限界だろう。
ロレンゾはマルスの指から指輪を抜いて、自分の指に嵌めた。
「ロレンゾ……ピラミッド……」
マルスの口から切れ切れな言葉が洩れた。
「……杖……」
はっとロレンゾは自分の持っていた杖を見た。ピラミッドでマルスの見つけた杖である。
その黄金の握りをロレンゾは強く回した。握りが取れて、杖の上の部分に空洞が現れた。その中に、一枚の羊皮紙が入っている。
 古代パーリ語で書かれたそれを、今はロレンゾも読むことができた。
「アロンゾの鍵、それは神々よりも強き者、その名はクロキアス」
ロレンゾは指輪を悪魔に向けて声高らかに呪文を唱えた。あの欠けていた一語の所にクロキアスの名を入れて。
 悪魔はぎゃあっと叫び声を上げ、姿を消した。

気が付くと、四人は日照りで水の無くなっている川の川底に気を失って倒れていた。
空から落ちてきた水滴が、四人の顔に当たり、マルスを除く三人は目を覚ました。
空は真っ暗に曇り、今雨が降りだそうとしていた。
「雨だ。悪魔の呪いは解けたぞ。アスカルファンは救われた!」
ロレンゾは飛び起きて、神に感謝の祈りを捧げた。
ヤクシーとヴァルミラも抱き合って喜んだ。
 やがて降りだした雨は、これまでの日照りを補うかのように、豪雨となってあらゆる物を洗い流した。川底にはあっという間に濁流が流れ出す。
 
 ロレンゾに担がれて宮廷に帰ったマルスは、なおも意識を取り戻さなかった。
 マチルダはマルスに取りすがって泣き崩れた。もちろん、マルスが悪魔に見せられた映像は悪魔の作った幻覚であり、マチルダが浮気などするわけはないのである。
 日照りは終わり、作物は命を甦らせた。
 秋の収穫は、例年よりは少なかったものの、秋以降に作られた野菜類は豊作で、今年の冬はなんとか越せそうであった。
 国民の心配をよそに、マルスは眠り続けた。
 眠りながら、マルスは夢を見ていた。それは、故郷の山の夢である。
 母親のマーサがマルスを呼ぶ。食事が出来た知らせである。父親のギルが猟から帰ってくる姿を見つけてマルスは駆け寄る。ギルは髭面のいかつい顔にやさしい笑みを浮かべてマルスを抱き上げる。その二人を見ているマーサも微笑んでいる。

 やがてマルスは目を覚ました。およそ半年間、マルスは眠り続けていたのである。目を覚ましたマルスは、ベッドの上の自分にもたれかかるように眠っている美しい少女を見てびっくりした。まったく知らない少女だが、なぜか無性に懐かしい顔である。
 マチルダは、自分が枕にしていた物がかすかに身動きしたので目を覚ました。
「マルス! 目を覚ましたの?」
マチルダは驚きの声を上げてマルスの首にかじりついた。
マルスの方はこの見知らぬ少女からいきなりこんな親愛の表現を受けてびっくりしてしまっていた。
「あのう、済みません。あなたはどなたなんでしょう。それに、ここはどこなんですか」
「マルス、いきなり妙な冗談を言ったら承知しないわよ。皆あんたの事を心配していたんですからね」
そう言われても、マルスはどぎまぎするばかりである。どうもこの人は僕を誰かと勘違いしているようだ。でも、僕の事をマルスって呼んでいる。
マルスの様子がどうもおかしいと思ったマチルダは、他の部屋にいたロレンゾやカルーソー、トリスターナを呼んで来た。カルーソーがマルスに問い掛けた。
「マルス、君は自分の事をどう思っている。君は幾つになったんだ」
マルスは、この人たちは自分をからかっているのかと思ったが、本気で心配しているらしく思えたので、こっちも正直に言った。
「幾つって……十六になったばかりです」
周りのみんなは、互いに顔を見合わせた。記憶が退行してしまっている。
「では、君の父親と母親はどうしている」
「母は僕が八歳の時に亡くなりました。父親は、この前死んだばかりです。僕は山で猟師をしているんです。ここは町中ですか? こんな広い家はカザフでは見たことがない。ここは何というところです?」
 ロレンゾは、自分に見覚えは無いか、と聞いたが、マルスは首を横に振った。
 カルーソーは人々を隣の部屋に連れて行って説明した。
「十六歳のある時点からの記憶をすっかり失っとる。きっと、何か、耐え難いものが、この二年間の記憶の中にあるんじゃろう」
「そんなはずはないわ!」とマチルダは叫んだ。




第四十八章 悪魔の囁き

意を決してマルスは壁の先に進んで行った。マルスの体は壁の中に消えた。その後からヴァルミラたちも続こうとしたが、壁に阻まれて、先に進めなくなった。
「マルス!」
ヴァルミラの声は洞窟の内部に空しく響いた。

マルスは一人になった事にしばらく気付かなかった。気が付くと、洞窟から普通の部屋に出ていたのが奇妙である。
「よく来たな。マルス、その指輪をこちらに渡して貰おう」
いつからそこにいたのか、一人の男の姿がそこにあった。褐色の肌に漆黒の口髭、痩せて背の高いその男は、かつて牢獄のヴァルミラの前に現れた男であり、また、シャルル国王をそそのかしてマルスと戦わせた男、マーラーである。
「お前が悪魔か」
マルスは言った。
「そう言ってもよい。この世での名はオマーと言い、またマーラーとも言ったが、もはやこの男の体は俺が乗っ取った」
「指輪は渡さぬ。俺はお前を倒しにここに来たのだ」
悪魔はおかしげにくつくつ笑った。
「馬鹿なことを。人間に悪魔が倒せると思うのか。まあ、聞くがよい、マルス。お前にいいものを見せてやろう。賢くなるぞ」
マルスの前に鏡が現れた。
「その鏡の中を見てみるがいい。何が映っている」
思わず、マルスは鏡を見た。
そこに映っているのはマチルダだった。
「お前の愛する女房だな。その女房が今ごろ何をしていると思う」
鏡はマチルダの部屋を映し出した。マチルダは、鏡台に向かって髪を梳かしている。身につけているのは薄物の夜着だけである。マチルダは後ろを振り返って微笑んだ。そこには一人の美しい若者がいた。マルスの小姓の一人である。若者はマチルダに近づいて、後ろから肩を抱いた。マチルダはうっとりと目を閉じて、若者の口づけを受けた。
「嘘だ! これはまやかしだ」
マルスは目を閉じて叫んだ。
「これは見たくないか。ならば、これはどうだ」
鏡には、ヴァルミラが映っている。見る間に、彼女は服を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ裸体となった。そして、求めるようにマルスに向かって手を伸ばした。
「どうだ、これなら見たいだろう。これがお前の本当の心だ。なぜ、心のままに従わぬ。せっかく王位まで手に入れながら、なぜ自分の心を偽って生きるのだ。やりたいようにやれ。気に入らぬ者は殺せ。美女はすべて手に入れるがよい。ほら、この女はどうだ」
鏡には美しく微笑むトリスターナが映っていた。
「止せ! これがお前の偽りだと言うのは俺には分かっている。さっきのマチルダもお前が勝手に作った虚像だ」
「ほう、そうかな。ならば、これはどうだ」
鏡にはシャルル国王の恨めしげな顔が映っている。
「お前はこれまで無数の人間を殺してきた男だ。今さら善人面をすることはない。そう言えば、マルス、お前はずっと父親を探していたのではないか。父親が生きていれば会わせてやりたいところだが、残念ながら、お前の父親は、この前殺されてしまった。それも、お前のよく知っている男にだ。ほら、こいつだ、見てみるがいい」
思わず鏡を覗き込んだマルスは、しかしそこに自分の顔を見出しただけだった。
マルスは笑い出した。
「おかしいか、マルス。なるほど、鏡に自分の顔が映るのは当たり前、何の不思議もない。だが、そこが不思議なところさ。お前は自分の手で自分の父を殺したんだ。マルス、前のグリセリードとの戦いでお前が殺した、栗色の髪の武将、あれがお前の父のジルベールだ」
マルスは、悪魔の言葉が真実である事を直感した。マルスの心は空白になった。
 …………
「マルス、マルス!」
壁は消え、中に走りこんだヴァルミラは、床に倒れているマルスを見つけて揺さぶった。
マルスは目を開いて、白痴的な笑顔を見せた。ロレンゾが呟いた。
「いかん、精神をやられとる」
ヤクシーが、闇の中に何者かの姿を見つけて、剣を抜いて斬りかかった。
「ヤクシー、お前は我々の仲間ではないか。なんで人間どもの間にいるのだ。お前は生まれるところを間違えたのだ。今からでも遅くはないぞ、さあ我々の仲間になろう。ここにはお前の父親も母親もいるぞ」
笑うような、誘うような声がヤクシーに呼びかけた。
「ヴァルミラ、お前はマルスが好きなのだろう。マルスをお前の物にさせてやろう。マチルダになど遠慮することはない。思いのままに生きてこそ人間ではないか」
声はヴァルミラにも呼びかける。そして、続けてロレンゾにも言う。
「ロレンゾ、お前のためにマルスは死んでしまうことになるぞ。こんな無益で勝てる見込みの無い戦いは止めて、地上に戻るがよい。俗な人間どもの事など気に病むことはない。エレミエル教などというまやかしが滅びて、皆、本来の人間の姿に戻るだけのことだ」


第四十七章 誘惑の洞窟

「こうしていてもしょうがないわ。ここまで来て逃げるわけにもいかないんだから、進みましょう」
ヴァルミラが言った。他の三人もうなずく。
やがて、洞窟は広がってきた。獣の匂いがあたりにたちこめている。
「久し振りだね、マルス、あたしに会いに来てくれたのかい」
女の笑い声が響き、洞窟の奥から一人の女が現れた。ペルシャ風のその美女は、魔女アプサラスである。
「こんな獣臭いところで会うなんてつや消しだけど、あんたたちも死んで私たちの仲間になったら、この匂いも気に入るよ」
アプサラスは再び笑い声をたてる。ロレンゾが三人の前に進み出た。
「アプサラスめ、懲りもせずまた現れおったか」
「おっと、呪文は無しだよ。お前達、あいつらをやっつけておしまい!」
洞窟のどこから現れたのか、三匹の魔物がマルスたちの前に飛び出した。羽の生えた猿のような魔物で、それぞれ、体は人間ほどだが、動きが素早い。
マルスたちはロレンゾを囲んで三匹の魔物の攻撃を防ぎ、ロレンゾが思念を凝らす事ができるようにした。
ロレンゾは、光輝の書にあった、魔物を倒す呪文を唱えた。
ロレンゾが魔物に精神を集中して呪文を唱えると、魔物たちは消え去った。
「ちっ」
アプサラスは身を翻して洞窟の奥に逃げた。
四人はその後を追ったが、洞窟の通路はそこから二つに分かれていて、アプサラスの姿を見失った。
「どうしよう。二つとも行ってみるかい」
「二人ずつ、二手に分かれて行こう。その方が早い」
マルスの提案に、他の三人はほとんど考えることなくうなずいた。
 ロレンゾとヤクシー、マルスとヴァルミラが組みになって進む事になった。
 薄暗い洞窟の中を、ヴァルミラと共に進んでいると、マルスは不思議に胸苦しくなった。
 後ろから聞こえるヴァルミラの息遣いが、マルスに官能的な気分を与えるのである。それは、ヴァルミラも同じであるようだ。二人はそれに必死で耐えていたが、やがて、
「マルス……」
ヴァルミラがかすれ声で言った。
「マルス……なんだかおかしい。これは妖魔の罠だ」
マルスは耐え切れず、ヴァルミラの手を握った。二人は闇の中で互いの情欲を感じ、互いに獣となって求め合いたいと願うばかりであった。
 同じ頃、ロレンゾとヤクシーも、マルスとヴァルミラと同じような状態になっていた。
「なぜ、こんな老木のような自分が、このような情欲に捉えられるのじゃ」
ロレンゾはヤクシーの体を今にも抱こうとしながら痺れる頭の中でそう考えた。ヤクシーは相手が老人であることも構わず、もはや情欲で我を忘れている。
「しまった! これはアプサラスの仕業じゃ」
 ロレンゾは痺れる頭を懸命に集中させ、腕の中のヤクシーから体を突き放した。辺りは先ほどまでの獣の匂いから、濃厚な花の香りに変わっている。しかし、その香りの中には、明らかに人を情欲に誘う成分がある。
 ロレンゾは理性を取り戻す呪文を唱えた。ヤクシーもはっと我に返り、なぜ自分がこんな老人にあれほどの情欲を覚えていたのか分からず、きょとんとしている。
「マルス、ヴァルミラを抱いてはいかん! 交わりの絶頂でお前たちの自我は崩壊し、魔物に体を乗っ取られるぞ」
ロレンゾとヤクシーは、マルスとヴァルミラの所に駆けつけた。二人がマルスたちを発見した時、二人は洞窟の地面に横たわり、濃密な口づけをしているところだった。
ロレンゾの呪文で二人は理性を取り戻し、互いに赤くなってそっぽを向いた。
「マルス、何てことをするのよ! マチルダに言いつけるわよ」
ヴァルミラは照れ隠しにマルスに言葉を投げつけた。
「自分だって……」
マルスも反論しようとしたが、言葉にならない。
「さっきマルスが二手に分かれようと言った時には、すでにアプサラスの術にはまりかけていたのじゃな」
四人は少しぎくしゃくした気持ちのままで先に進んだ。
通路はやがて行き止まりになった。その行き止まりの所は奇妙な黒い壁になっており、ドアも何も無い。
「怪しい壁じゃな」
「もしかしたら、この壁は通り抜けられるのじゃないかしら」
ヤクシーが珍しく発言した。マルスが前に進み出た。
「よし、僕が行ってみよう」




写真が無いと分からないだろうが、恐るべき車体のつぶれ方である。想像だが、同乗の連中が「もっとスピードを出せ」と煽ったのではないか。後部座席だろうが、危険なスピードだとは分かるだろう。「スピード出し過ぎだ」と注意すべきであり、つまり、同乗者にも同情できない。


(以下引用)

【悲報】男子高校生(16)、夜中に車を運転し電柱に激突し死亡 助手席の女子高校生(16)も死亡 川崎市
2025年01月12日22:32 Category : 一般ニュース | コメント( 46 )
引用元: https://nova.5ch.net/test/read.cgi/livegalileo/1736684145/

1: それでも動く名無し 2025/01/12(日) 21:15:45.83 ID:5E1h/U5w0
神奈川県警によると、11日午前0時10分ごろ、川崎市の市道で乗用車が電柱に衝突し、運転していた男子高校生(16)と、助手席の女子高校生(16)が死亡した。後部座席の10代2人も重軽傷を負った。

https://news.yahoo.co.jp/articles/baed816d2eaa88a561453dc08667e0c68bd66400

11: それでも動く名無し 2025/01/12(日) 21:20:07.18 ID:5dM9jhPr0
no title


>>1これどんだけスピード出してたんや

52: それでも動く名無し 2025/01/12(日) 21:41:21.42 ID:68UCNjpF0
>>11
これよく後部座席のやつら助かったな
ちゃんとシートベルトしてたんやろうな
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