忍者ブログ
ゲーム・スポーツなどについての感想と妄想の作文集です 管理者名(記事筆者名)は「O-ZONE」「老幼児」「都虎」など。
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
3
13
14 19 20
22 23 24 25 26 27
28 29 30
フリーエリア
最新CM
最新TB
プロフィール
HN:
o-zone
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
[2492]  [2491]  [2490]  [2489]  [2488]  [2487]  [2486]  [2485]  [2484]  [2483]  [2482
以前に別記事を引用した「観測所」の中の「一塁へのヘッドスライディングは駆け抜けより本当に遅いか」を考察した記事の一部だが、これも非常に面白い。長い記事だが、ここに書かれている実験の結果と、ヘッドスライディングの最中の心理の考察は、滅多に読めないものだろう。
筆者の精密な分析的頭脳と、文章の上手さが素晴らしい。
なお、「駆け抜けの方が『当然』速い」を実証する科学的データはほとんど見つからないそうである。



(以下引用)赤字部分は私、「アンファニズム」筆者による強調。





もうひとつは「ソフトボール競技の異なるスライディング技術による塁間所要時間の差」。これは萬野修平さんという人が2006年に書いた、早稲田のスポーツ科学部の卒論らしい(いま知ったんですが 2005年8月、ミネソタ州マンケイト市でソフトボールのワールドシリーズというのが開催され、この年早稲田のソフトボール部は見事優勝を遂げた。萬野修平選手 [3年] はこの大会で二塁手としてベストナインに選出されたという、名選手だ)。PDF でわずか1ページなので読んでください。一応抜粋すると、

 被験者は早稲田大学ソフトボール部員11名であった。実験は早稲田大学所沢キャンパス野球場にて行った。被験者は、ソフトボールでの1-2塁間(18.29m)で「駆け抜け」「ベントレッグスライディング」「ヘッドスライディング」「立ち止まり」の4つの条件での走塁を行った。その走塁を側面からビデオカメラ60コマ/秒で撮影した。撮影したビデオより、4つの条件下で1塁ベースの離塁から、2塁ベースに到達するまでのコマ数(タイム)を求めた。
 また、実験後に被験者へ質問を行い、選手の4つの条件に対する主観的な情報も集めた。

スポーツ科学部で学んだ四年間の集大成だったら、11人とかじゃなく 100人くらいはやってちょうだいよ、と言いたいが、仕方ない。部員も100人はいないのかも知れない。ビデオで撮ってコマ数を数えたというんだから、計測精度は信用していいのではないか。結果は


・計測によれば11名中8名が、4種のうちヘッスラ最速だった。
・全試行中の最速記録も、ヘッスラによるものだった。
・全被験者の平均を見ると、速い順に「ヘッスラ」>「足スラ」>「駆け抜け」>「立ち止まり」だった。
・平均で「ヘッスラ」「足スラ」「駆け抜け」の差はそれぞれ百分の3秒、「駆け抜け」と「立ち止まり」の差は百分の7秒だった。

となっている。つまり、ヘッスラは駆け抜けよりも

百分の6秒

早かった、と。サンプルがわずか11名だということを考えると、「ヘッスラの方が早いという明確なデータ」とはとても言えないが、それでも「タイムも計りました。駆け抜けた方が速いんです」だの「前に筑波大かどっかの先生が調べてた」だのいう怪しげな発言よりは百倍信用できる。とりあえず

「ヘッスラなんて絶対遅い、というのを疑い得るデータ」

くらいは言ってもいいと思う。ちなみに2008年7月8日現在、Wikipediaの「スライディング」の項の「ノート」で、萬野修平論文は統計処理が甘いので引用の価値なし、との意見に対して Panpulhaさんという人が、「甘いかも知れんけど、だとしても、少なくとも萬野修平氏は測った。いっさいなんのデータも示さず論拠も挙げず『当然ながら、明らかに、ヘッスラなんて遅いに決まってます』と念仏唱えるよりかは百倍マシ」と主張しておられる(原文はもっと端正で上品)。正論だ。


単純計算すると百分の6秒というのは、百メートルを10秒で走るランナーがちょうど60センチ走る距離だ。この実験の被験者のみなさんはそこまで速くはないだろうし、それに塁間距離も野球以上に短いので、なおのことスピードは出ない。彼らがベース近辺の最後の百分の6秒で、仮に45センチ走る(駆け抜けで)としよう。ロスのない完璧なヘッスラは60センチぶん有利だ。しかしそれほど完璧でもなかったので、平均15センチぶんロスがあった。その結果、平均45センチ速かった。そう考えるとパズルのピースが不気味なほどぴったりはまるが、都合良すぎな解釈だろうか。都合良すぎかも知れないがこの解釈によると、この実験結果は「ロスのない完璧なダイブ(仮に可能だとして)は駆け抜けよりも

60センチ

ぶんだけ有利」という仮説に整合する。「足スラ」も意外な健闘ぶりだが、私見ではもはや意外ではない。


◆◆


ところで「主観的な情報も集めた」の方はどうなったか。

実験後に行った質問では、『4 つの条件の中で「駆け抜け」が最も速く、次に速いのが「ベントレッグスライディング」』と被験者全員が回答した。

とある。聞いてみると全員が「実感としては駆け抜け最速だった」と答えた、と。


じっさい、ヘッスラは実感として遅い、と語る経験者の声はネット上にも多い。

ヘッドスライディングは本当に遅いの?(教えて! goo)

一塁へは駆け抜けた方が早いことが多いですよ。
どんな人:経験者
自信:自信あり

私は野球をしておりましたがスライディングは遅いと思いました。
どんな人:経験者
自信:参考意見

ところが、そう思った人の、実際にそう思った走りの、ビデオのコマ数を数えてみたら、11名中8名がヘッスラ最速だった、と。


「11名中8名がヘッスラ最速だった」という結果自体は、たまたまの、統計上の偏りかも知れない。現に日本テレビが清水隆行で測ったら駆け抜けの方が早かった、というデータもあるらしいし。しかしその8名を含む全員が「主観的にはヘッスラ遅い」と答えた、の方は衝撃だ。たまたまだとしても、かなり有意な結果のように思える。


ヘッスラ中はヒマなんだと思う。跳んでしまうともう、できることは何もない。腕は振らないし腿は上げない、体は揺れない、足裏は地面を蹴らない。加速は(水平方向には)絶対にできないし、垂直方向にだってもちろん、意識的にはできない。重力任せ。自分の足音も消える。わずかな時間(1メートルの自由落下だと考えると約0.45秒)とは言え、最後の最後の決定的な時間だ。そこで惰性と重力に身を任せ、自分の呼吸音と心拍音と風の音だけを聞きながら空中でじっとしているのが、最後の最後を必死で走るのに比べて如何に悠長な、如何にベストを尽くしてないような感じがするものか、それはひじょーによくわかる。気持ちはもっともだ。ヘッスラは本人の実感としては遅いのだろう。ただしかしそれは、客観的な計測結果とは必ずしも一致しない。少なくとも間違いなく言えるのは、


「一致しないことが、現に、ある」

ということだ。萬野修平論文を「駆け抜けとヘッスラはどっちが早いか」の検証として見ると、完全とはとても呼べない。「統計処理が甘い」というのが具体的にどういうことなのか無知な僕にはわからないが、とにかくサンプルが少なすぎるとは思う。しかし「ランナーの実感は信用できるか」の検証として見れば、ひとつの決定的な結論をもたらす、決定的な研究結果である。「一致しないことが、現に、ある」ことを、完全に証明している。また、「多くのランナーはヘッスラを実際以上に遅く感じがちだ」ということも、あまりにもサンプル数が少ないが、まあその、強く示唆している。ように見える。経験者の主観はアテにならん、たとえイチローの主観であっても、と考えるべきだろう。

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
忍者ブログ [PR]